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4媚 不幸ばかり sideマリナ

何かと危険の多い人生だった。


小さいころにはそこそこ裕福な家に生まれたけど、両親が部下に裏切られて私も奴隷に落とされそうになって。そこから起死回生を狙って近くにあるナイフを投げたらたまたまその人の頭に突き刺さって殺せて。ただ、殺人犯になったから身ぐるみだけ剥いで逃げて。


しばらくはそれを売って生活をしてたけど、いつの間にか指名手配をされてたから指名手配が届かないくらいに遠くまで逃げて逃げて逃げて逃げて。その途中で死体あさりをしながら過ごしてたら、盗賊に襲われて。そこで捕まったかと思ったらすぐに騎士に助けられて。


ただ護送の途中に魔物に襲われて私を救ってくれた騎士は死に、私は他の摑まっていた人たちを犠牲にしながらなんとか逃げた。

そんなボロボロな状態だったけどまた盗賊のアジトに戻ったら金目のものがあったからそれを拾えて。そのまましばらく生活してたらいつの間にか私が人に気づかれずに過ごせるようになってることに気が付いたから、暗殺者として生きるようになった。


そうして暗殺者になった後は、私に才能があったのか順調に生きていけた。国や貴族から依頼が来ることもあって、いろんなところから一目置かれる存在になってた。

途中で仕事を通して仲良くなった裏組織のボスのと結婚して子供までできて、本当に順調だった。

ただ、子供を産んだ後から、何かがおかしくなり始め、


「双子をが生まれたのは不吉の証です!その子供と女は追放すべきです!!」


ことの発端は、そんなことを夫の組織の幹部が言い始めたこと。

私が生まれた場所なんかでは全く聞いたことがなかったけど、かなり限定された地域で双子というのは不吉の象徴と呼ばれて忌み嫌われているらしい。それを声高に言いふらして私を、というか私たちのことを追い出そうとしてきた。

たぶん組織に元々所属しておらず個人で活動していた私がボスである夫と結婚したのが、というか組織で幅を利かせるようになったのが気に入らなかったみたい。

もちろんその意見を信じているのはごく一部だったけど、


「ボスは組織とそのぽっと出の女と、どちらを優先されるおつもりですか!」


「そ、それは勿論組織だがそんな出まかせのような話に従っていられるようでは組織が安定しないだろ」


「出まかせではありません!何が出まかせだって言うんですか!双子が呪われた存在なのは本当の話ですよ!」


「だからそれは迷信だと言っているだろ!!」


主張しているのがそこそこ影響力のある幹部だったがために、夫は対応に手間取った。強引に粛正するわけにもいかず、ひたすら議論が行われて。


結果として、夫は暗殺された。

その幹部との議論をしている最中に乗り込んできた他の組織の人間だと思われる暗殺者によって。

しかもさらに最悪なことに、その幹部の方は五体満足で生き残っていた。


「………どうせ、これも全部双子が呪われてるからなんでしょ?」


「っ!」


その幹部の首を今すぐにでも斬り落としたいところだったけどそういうわけにもいかず、私はその幹部へ嫌味を言って逃げた。組織の人たちも散り散りに逃げていったけど、私は組織のボスでありなおかつ子供までいたために狙われて、長い間追い回されることになった。

長い戦いの中私の体は疲労や負傷が蓄積してボロボロに。

それでもどうにか追手を振り切るために魔物が多く住む地区に逃げ込んだ時には、腕が1本折られた。


しかも最悪なことにその魔物が住む地区を抜けた先は、組織の一部の人たちの出身地である例の双子が呪われているという迷信が出回る地区。

これのお陰で私たちは暗殺者ではなく今度は市民から追い回されるようになり、スラムへと流れるしかなかった。

それでも娘の1人であるテレサがどこから学んだのかは分からないけどスリを始めて、最低限子供たちは満足できる程度の食料は手に入れるようになり。

私が動けないまま、もうしばらくでやってくる天からのお迎えが来たとしてもどうにか生きてはいけるだろう状態まではなったのか、と少しばかりの悔しさと安心をしたところで、


「お前ら。そこの3人回収するぞ」


「か、回収、ですか?」


「ああ。俺のペットにする」


子供たちの平穏はガラガラと音を立てて崩れていった。

現れたのは数人の兵士と、それに囲まれた1人の身なりが良い嫌な雰囲気のする子供。娘たちが双子であることがすぐにバレ、恐怖や嫌悪と言った感情のこもった視線が兵士たちからは向けられる。

ただそれ以上に、非常に嫌な視線を兵士に囲まれた子供からは向けられていた。まるで何か見透かされるような、そしてそのすべてをゴミのように判断されているかのようなひどい不快感。


嫌ならば放っていてくれればいいのに、なぜかその子供は私たちを確保しようとする。

ペットなんて言ってたけど、人をペットにするときにろくな扱いをするとは思えない。娘たちへおとなしくしていれば私に何をしないとは言ってたけど、嘘だろうし娘たちへは何もしないと言ってない。

全てが終わったかのように思えた。


ただ、


「……………」

「何を、するの?」


子供、話を聞く限り公爵家の子息らしいドグマ―という子が、自身の個室に私たちを入れてジッと目線を向けてくる。

その視線は先ほどのような不快感を抱かさせるようなものではなく、私たちの状況を観察して何かを考えているかのようなもの。


ただすぐにその体が動いたから何かされるのではないかと身構えて、


「……………なぁ。監視してるやつはいるか?」


「……………ぇ」


今までの嫌味で傲慢な口調が消え、突然年相応な邪気のない声でそんな質問が来た。


監視、と言われると確かにここは公爵家なだけあってそういった陰の人間が何人か潜んでいるのは感じられる。

しかし、私たちを監視しているような気配はない。


「な、い……………」


なぜそんなことを尋ねてきたのか真意は分からないけど、一縷の望みをかけて私はかすれる声で素直に感想をこぼす。

するとドグマ―という子供の顔に清らかな笑みが浮かんで、


「そっか。それなら、ほいっ、と」


突然取り出されたのは、小さな液体の入ったガラス瓶。中の液体は毒々しい緑色をしていて、かなりまずい物のような気がしたけど、それを何の躊躇もなく彼は私へと振りかけた。


「なぁ!?」


次の瞬間、私は驚きの声を上げることになる。

毒が体を一瞬で蝕んだから……………ではなく、逆に私の折れていた腕やいくつもの傷が治って行ったのだから。つまり振りかけられたものは、怪我を治すためのポーション。

しかも骨折まで治されたから、かなり品質の良い物。


「「お母さん!!」」


娘たちがそんな私の様子を見て、駆け寄ってくる。喜んでいるのがハッキリと分かった。

いつもならここで抱きしめるとかするところだけど、今の私の頭はすっかり別のことに支配されていて、


「なん、で?」


純粋な疑問。

何故私の傷を治したのか。それが分からなかった。


「なんで、か。簡単に言えば、お願いがあるからかな?」


「おねが、い?」


「そう。よかったら、君たち僕の部下にならない?」


嫌な雰囲気は無い。しかし、年相応でもない知性と野心の感じられる表情で、ドグマ―という子供は私たちに手を差し出してきた。

ここまで不幸の多かった私の人生が、ここから逆転して幸運なことばかり起こるようになるなんてことをこの時の私は思いもしなかった。

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