表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/172

仲間たちの逃走 その3

道なき道を進んでいた一行は、変身するブラッドレインの幹部バルカンと戦っていた。 

              その93


ここはヨーデルから5キロメートル程離れた丘陵地帯にある藪の中だ、ヨーデルに残っていたラバァルの部下たちは、夜明けの塔から一緒に脱出した者たちと共に、ラガン王国軍に見つけられないように、通行が困難な藪の中を通り、ルカナンを目指していた、しかし、何故かこんな所にブラッドレインの幹部バルカンが部下を連れて徘徊していたのだ、見つかってしまう事に成ったシュツルム達は、戦う事を決意するが、幹部のバルカンが、岩のゴーレムとなり、セバス等、聖騎士たちを凄まじい力で薙ぎ払っていた。    

 

         

再び、両手にしっかりとグレートクラブを握り直す。しかし、その刹那、地響きのような重い足音が、ドスン、ドスンと、容赦なく迫ってくる。岩ゴーレムは、既にすぐ目の前まで迫っており、再びその巨大で硬質な拳を、ランパートへとスイングさせて来た!先ほどの一撃でラーニングしたのか、岩ゴーレムの動きは明らかに良くなっており、ぼやっとしている暇などなかった。ほんの僅かな時間で、その距離は詰められてしまい、ランパートは、折角神官戦士に命を救われたにも関わらず、今度は為す術もなく、強烈な一撃をその身に受け、後方へと殴り飛ばされてしまった!

衝撃と共に、ランパートの巨体は勢いよく宙を舞い、悲鳴を上げる修道女たちのいる場所まで、まるで巨大な岩が飛んでくるかのように放物線を描いて飛んできた。ドサッ!と鈍い音を立てて地面に叩きつけられる。修道女たちは、またしても空から降ってきた鎧を身につけた人影に、悲鳴を上げた。近づき人影の顔を見ると、それは先ほど、勢いよく応援に向かったばかりの、聖騎士ランパートだと分かり、彼女たちは顔面蒼白になり、慌てて神官のペリフェラに向かって、「ペリフェラさん!ランパート様が!」と、悲痛な叫び声を挙げて知らせる。 近くに居たルンベール子爵も、仲間のランパードの酷い状態を見て。

「ランバード、おい死ぬな、死ぬなよ。」顔面蒼白、先ほど受けたダメージもあるのだろうが、倒れそうになっていた。 

ペリフェラも、その騒ぎにすぐに気づき、駆け寄っていた.しかし地面に倒れ伏したランパードの状態を見て、息を呑んだ。そこに倒れていたランパートの体は、全身を覆うはずの鎧ごと、まるで巨大なプレス機にかけられたかのようにグシャリと潰れてしまっており、特に胴体上部は、原型を留めないほどグズグズに潰れていたのだ。もちろん、心臓も無残に潰れてしまっていて、ランパードは、もはや助かる見込みのない、即死の状態だった。ペリフェラは、震える声で、女神セティアに静かに祈りを捧げ始めた。しかし、それは奇跡的な回復魔法を唱えるためではなく、ランパートの魂が安らかな眠りにつけるよう、慈悲深き女神に祈っていただけだった。

すぐ近くで、ただならぬ異様な事態が起こっていることに、シュツルムも気づいていた。「向こうに、とんでもない怪物がいやがるな……ルー、どうする?俺は今、まともに戦えそうにない。」すると、それまでシュツルムの横に静かに座っていたルーレシアが、ゆっくりと立ち上がった。「分かってる。私がやるわ。任せて。でも、何があっても驚かないでよ。この事は、ラバァルも知ってるんだから。」そんな、まるで何かを覚悟しているかのような意味深な言葉を口にするルーレシアに、シュツルムは、一体何が始まるのだろうかと訝しんだが、出血による目眩と倦怠感で思考がうまく回らず、「……死ぬなよ。」と、ただそれだけを願うことしかできなかった。そして、そのまま意識を手放すように、再び横になった。

シュツルムがそんな状態だったので、ルーレシアは一人静かに立ち上がり、一体何が起こっているのか、自分の目で確かめるため、重苦しい空気が漂う西側へと、ゆっくりと歩き始めた。そんなルーレシアの行動に、彼女を心配する修道女たちは、「ルーレシアさん、どうか無理はしないでください!」「ルー、死なないで!」などと、口々に悲痛な叫び声をかけた。傍らに立つルンベール子爵も、怪我の治りかけの身で、若い女性一人を危険な場所に行かせるわけにはいかない、と強く思ったのだが、先ほどボーンマスクから受けた激しい衝撃は、表面の傷は回復していたものの、セプターに仕込まれていた赤い球の影響だろう目に見えない部分に深いダメージが残っており、簡単には動くことができなかった。彼は、ただただ、心配そうに、一人で危険な方へと歩いていくルーレシアの、後ろ姿を見送ることしかできなかったのだ。

         


その頃、トーヤの悲痛な叫び声を聞いた神官のカトレイアと、少し後方に下がって様子を見ていたマリィは、先に岩ゴーレムに叩き飛ばされ、意識を失い倒れていた神官戦士のポテンスの元へ、駆けつけていた。「酷い……!」マリィは、地面に倒れ伏し、全身から血を滲ませているポテンスの姿を見て、顔を歪めた。「でも……まだ、息はあるわ!」微かに聞こえる呼吸を確認し、そう叫ぶと、カトレイアに顔を向けた。「じゃあ、もう一度『クラーティオ ポテンス』を唱えてみるわね!」カトレイアは、決意を込めた声でそう答える。

しかし、カトレイアは、短い時間の間に、既に三度も高位の回復魔法を使ってしまっていたため、体内のマナはほぼ枯渇し、肉体的にも限界に近かったのだ。それでも、目の前の傷ついた仲間を何とかして生かしたいという強い思いが、彼女の背中を後押しして、再び女神セティアに祈り始めた。――慈悲深き女神セティアよ、あなたの信徒であり、傷つき、今まさに失われようとしている女神の戦士に、どうか、もう一度だけ、立ち上がるチャンスをお与えください……!〖クラーティオ ポテンス〗

カトレイアの祈りが天に届いたのか、彼女の言葉に応えるように、優しいブルーの光が、傷つき倒れているポテンスの体にゆっくりと降り注ぎ、全身を温かく包み込んでいく。すると、先ほどと同じように、傷口が再生を始めると同時に、ジュワ~~という音と共に白い水蒸気が立ち上り、確かに回復が始まっているのが見て取れた。

バタッ……しかし、高位の回復魔法を立て続けに、それも限界を超えて連発してしまった神官のカトレイアの方が、その場で力尽きたように、意識を失い倒れてしまったのだ。

マリィは、悲鳴を上げながらカトレイアに駆け寄り、体を揺さぶって助けようと介護するが、回復魔法に関しては全くの素人であるマリィが見ても、カトレイアの顔色は悪く、その生命力が衰弱しているのがはっきりと分かった。

マリィは、カトレアの異変に涙目で「ちょっと待っててすぐ戻るから!」と叫びながら、必死の形相で、治療の知識を持つペリフェラを呼びに走っていく。

     

その頃、トーヤと、もう一人の神官戦士タウンリバーは、必死の形相で岩ゴーレムの攻撃が当たらないよう、まるで獲物を追いかける獣から逃げ惑う小動物のように、左右に飛び跳ねながら逃げ回っていた。動きを止めた岩ゴーレムに、再びその巨体がゆっくりと動き出す前に追いつかれないよう、必死に距離を取り、息を切らしながらも、「こっちだ、馬鹿野郎!」などと、汚い言葉で挑発し、少しでも岩ゴーレムの注意を自分たちに向けさせ、修道女たちがいる場所から遠ざけようとしていた。


汚い言葉でののしられるも、その挑発に乗って追って行くと、素早い動きで常に逃げられてしまい、なかなか不満をぶつけることができずにいた【ブラッド・レイン】幹部の一人、バルカンは、その苛立ちが限界を超え、激しい怒りで頭から湯気が立ち始めていた。逃げながら、まるで子供のように挑発を繰り返すトーヤとタウンリバーは、その湯気が一体何なのかは知る由もなかった。そのため、自分たちにターゲットを向けさせながら、少しでも仲間たちから引き離すという危険な作戦を継続して、挑発行為を繰り返していた。しかし、いつまでもこんな作戦が上手くいくはずもなく、とうとうバルカンを、我慢の限界まで怒らせてしまい、その身を第二形態へと変化させてしまうことになった……。


動きをピタリと止めたバルカンは、まるで蒸気機関車の汽笛のような、けたたましい音を出しながら、これまで見たこともないほどの大量の水蒸気を、頭部から勢いよく噴き出し始めた。その蒸気は、まるで生き物のように蠢きながら、バルカンの巨体を包み込み、その姿は、先ほどよりもさらに巨大化し始めてしまった。そして、硬質な岩でできていたはずの体は、みるみるうちに黒く変色し、今度は冷たい光沢を放つ、鉄の体へと変化し始めたのだ。その異様な光景を見ていたトーヤたちは、目を丸くして「なんだなんだ?」「今度は一体どうした?」と、悠長に状況を見守っていた。

その恐ろしさをまだ理解していなかった二人は、先ほど、挑発によってゴーレムを翻弄するという作戦が成功したため、今回も同じようにやり過ごせるだろうと安易に考え、ただ変化が終わるのを待つという、危機感の薄い状況にいたのだ。そんな場に、二人も見覚えのある、一人の女性が姿を現した。トーヤは、慌ててその女性に危険を知らせようと、「ルーレシアさん!そのゴーレムは危険です!早く下がってください!」と、大声で叫ぶ。しかし、ルーレシアは、その言葉を聞いても足を止めることなく、ふっと薄く不気味な笑みを浮かべると、何の迷いもなく、激しく蒸気を吹き上げながら変身中のバルカンに向かって、ゆっくりと歩いてゆく……。


ばかな!彼女は死ぬ気なのか!?トーヤは、常軌を逸したルーレシアのその行動を見て、彼女が一体何を考えているのか、全く理解ができなかった。タウンリバーも同様で、彼女は完全に気が狂ってしまったとしか思えずに見てた。

しかし、二人が固唾を呑んで見守っていると、何かがおかしいことに気づいた。つい先ほどまで確かにそこにいた彼女の姿が、今、目の前で、全く別の何かに取って代わられているのだ。一体あれは何なのだと、二人は目を擦り付け、もう一度しっかりと見てみた。


まるで幻のようにルーレシアが消え去ったその場所に、突如として現れた異形。

その姿を捉えた、二人の男は全身の血が凍り付くような恐怖に襲われた。


心臓は激しく脈打ち、魂の根源から震え上がるような、逃れられない戦慄が彼らを捕らえて離さなくなってしまったのだ、二人は心底ここから逃れようと、必死で体を動かそうとする。しかしまるで言う事を聞いてくれず、そのまま悪魔の様な女を見続けるしか出来なかった。


するとその女の、背中から黒曜石のような光沢を放つ鱗に覆われた翼が現れたのだ、

女が今現れたその翼を大きく広げはためかせる、 バサッ  バサッ 。

するとそれはまるで邪竜が翼を広げたかの様な、吹き飛ばされる程の強風が、高圧的な威圧感と共に周囲に広がり、周囲を覆う藪は軒並み倒れ、トーヤとタウンリバーも同時に後ろへひっくり返ってしまっていた。

「いてて。」 「大丈夫ですかトーヤ様。」 二人は慌てて起き上がり、再びその女を見た。 

その女は、もはや美しいなどという言葉では到底形容できない、その存在感の大きさに、二人は言葉を失い、再び逃げようとするも足が地面に縫い付けられたように動かない。


トーヤとタウンリバーは、信じられない光景を目の当たりにし、言葉を失っていた。悪魔のような異形へと変貌したルーレシア。

その時、近くで同じように異質な変化を遂げていた者がいた。ブラッドレイン幹部の一人、【バルカン】だ。彼の体は、最終形態である全身が鋼鉄で覆われた巨大なゴーレムへと変貌していた。以前の岩のゴーレムよりもさらに巨大化し、その体躯はゆうに3メートルを超え、まさに鉄の巨人と呼ぶにふさわしい存在感を放っている。鈍く光る鉄の体表は、強固な防御力を誇示し、その一歩一歩が地面を揺るがすような重々しい足取りだ。

その鉄のゴーレムが、突如として現れた巨大な翼を持つ悪魔のような女ルーレシアを睨みつけた。

「おまえ、なんだ、……」

変身を終えたばかりのバルカンは、いつの間にかすぐ近くに現れた異形の女に対し、低い唸りのような声で問いかけた。しかし、悪魔のような姿の女、ルーは、その問いには答えず、冷たい眼差しをバルカンに向けた。

「悪く思わないで。別にあなたに個人的な恨みがあるわけじゃないの。ただ、私たちの行く手を阻むから……」

そう静かに呟くと、ルーはどこからともなく巨大な漆黒の鎌を取り出し、躊躇うことなく鉄ゴーレムと化したバルカンへと振り下ろした。その鎌は、柄の部分まで含めればルー自身の背丈を優に超えるほど巨大で、常人ならば両手でも扱うのが困難だろう。しかしルーは、それを片手で軽々と持ち上げ、まるで意思を持つかのように正確にバルカンへと叩きつけた。

「フン!」

自分よりも巨大な鎌が迫るのを視認したバルカンは、その鋼鉄の腕で受け止めようと動いた。

バシッ!

巨大な鎌と、鉄ゴーレムの分厚い腕が激しく衝突し、けたたましい金属音と共に、二つの巨体は衝撃で大きく後方へと弾き飛ばされた。地面が揺れ、周囲の空気が震えるほどの衝撃だ。その余波を受け、ルーは小さく息を呑んだ。

「うっそ……あれを弾くなんて!」

自信を持って放った一撃を、まさか受け止められるとは予想外だったのだろう。ルーの瞳には、一瞬、明確な驚きの色が浮かんだ。

一方のバルカンも、第二形態まで進化している鉄ゴーレムの強固な体で攻撃を受け止めたはずだった。しかし、強烈な衝撃で体ごと弾かれてしまった事に、その鈍重な頭脳は混乱をきたしていた。「おで……弾かれた、ナゼ?」と、状況が理解できず、首を傾げている。


「ほんと、真面目にやらないと、余計手間取るわね。」

ルーは小さく呟くと、その全身から黒い気を大量に噴き出した。トーヤたちがみていると、その黒い気はまるで生き物のように蠢き、メラメラと燃え盛る黒い炎となって、彼女が握る巨大な漆黒の鎌へと奔流のように流れ込む。鎌の刃渡りにも、黒い炎が蛇のように絡みつき、うねりながらジュウジュウと音を立てているようだ。 

準備が終わったルーは。

「今度は、そう簡単に受け止めれないわよ。」

低い声でそう告げると同時に、ルーレシアは背中の巨大な翼を大きく羽ばたかせ、風圧を起こして飛び立った。その姿は、まさに夜の闇を切り裂く黒い稲妻のようだ。蛇のように蠢く黒炎を纏った大鎌が、獲物を定めるようにバルカンへと迫る!

対するバルカンも、最終形態である全身鉄のゴーレムへと進化しており、その巨体からは以前のような鈍重さは感じられない。空から急降下してくるルーレシアに対し、鋼鉄の拳を握り締め、唸り声を上げながら渾身のアッパーカットを放ち、迎え撃った。

ガシン! ガシャン! ドガン!

けたたましい金属音と衝撃波が周囲に響き渡る。二体の異形は、まるで嵐のように激しくぶつかり合い、火花を散らした。30秒近い激しい攻防が繰り広げられる中、ルーは一瞬の隙を見逃さなかった。鉄ゴーレムの巨大な懐へと、まるで吸い込まれるように飛び込んだのだ。そして、黒炎大蛇を身に纏う漆黒の大鎌を、素早く鉄巨人の右腕へと振り下ろした!

鈍い金属音と共に、鉄の右腕が根本から叩き落とされる。落ちたはずの鉄の塊は、見守る間に形を崩し、まるで熱された水飴のように、ドロドロとした液体金属へと変化してしまった。それだけではない。ルーがその液状化した鉄に大鎌の刃先を触れさせた瞬間、黒い光が走り、鎌はまるで生きているかのように液体金属を吸い込み、その刃の一部として取り込んでしまったのだ。

右腕を失ったバルカンは、「ぐああああああああ!」と、怒りと苦痛が入り混じった咆哮を上げ、残された巨大な体でルーへと体当たりを仕掛けてきた。しかし、ルーはそれを紙一重でひょいと身を躱すと、冷たい眼差しをバルカンに向け、静かに技名を口にした。

「【黒蛇乱舞こくじゃらんぶ】」

その瞬間、黒炎の大蛇を纏った巨大な大鎌が、信じられない速さで鉄ゴーレムの巨体を切り裂き始めた。まるで無数の黒い閃光が奔るように、一秒間になんと七回もの斬撃が、バルカンの鋼鉄の体を駆け抜けたのだ。斬られた箇所からは、黒い炎が噴き出し、ジュウジュウと焼け焦げる音が聞こえる。

次の瞬間、バルカンの巨体は、縦横斜めに寸断され、バラバラの鉄塊となって地面に崩れ落ちた。そして、先ほどと同じように、その鉄塊はみるみるうちに液体金属へと姿を変えていく。

スタン、と音もなく地面に降り立ったルーレシアは、その液体金属に再び大鎌の鎌先を当てた。黒い光が奔り、残った液体金属も全て鎌へと吸い込まれていく。全てが終わると、彼女は背中の翼を広げ、空へと飛び立っていった。その一部始終を、トーヤとタウンリバーは、まるで時間が止まったかのように呆然と見つめていた。信じられない光景に、二人の口からは言葉一つ出てこない。

数分後、ようやく現実に戻ってきた二人は、未だに理解が追い付いていなかった。突然現れた悪魔のような姿の女に助けられ、あの絶望的な状況から抜け出し、生きている。まるで夢を見ているかのようだ。

「俺たち……助かったんだよな?」

トーヤが呟くと、タウンリバーも虚ろな目で頷いた。互いの顔を見つめ合い、まるで確認し合うように、何度もそう言い合う。



鉄ゴーレムと化したバルカンを圧倒的な力で打ち倒したルーは、その場から素早く飛び立ち、仲間たちの視線が届かない高度まで上昇した。そして、人目につかない場所まで移動すると、音もなく地上へと舞い降り、先ほどの異形とは打って変わって、何事もなかったかのように人間の姿へと戻っていた。


しばらく時間を置いてから、ルーはシュツルムたちのいる場所へと、あたかも散歩でもしてきたかのような自然な様子で戻ってきた。しかし、彼女の思惑とは裏腹に、その変身は完全に露見してしまっていたのだ。


当初、一行の周囲は背の高い藪に覆われており、外の様子は窺い知りにくかった。だが、ルーが巨大な翼を広げ、それを力強く羽ばたかせた際、その強風によって広範囲の藪が薙ぎ倒されてしまっていた。その結果、修道女たちが避難している場所からも、巨大なゴーレムと戦う異形の者の姿がはっきりと見えており、その特徴的なプラチナブロンドの髪、それがルーであることはほぼ間違いなく悟られていたのだ。


先にシュツルムから事情を聞いていたトーヤとタウンリバーは、ルーの姿を見ても特に驚いた様子はなかった。シュツルム自身も、ある程度の覚悟はしていたため、平静を装っている。しかし、マリィの反応は全く違った。先ほど倒れていた神官戦士を無事に助け起こし、安堵したのも束の間、ルーの姿を捉えると、まるで弾かれたように駆け寄ってきた。


「あんた一体どうなってんのぉおおおお!」


マリィは、その可愛らしい顔を紅潮させ、両手を腰に当てて、雷のような剣幕でルーに詰め寄った。周囲の修道女たちは、何が起こったのかと息を呑み、固唾をのんでそのやり取りを見守っている。中には、先ほどの異形の姿を思い出し、恐怖で身を縮こまらせている者もいた。


ルーレシアは、マリィの勢いに一瞬たじろぎ、どう答えるべきかと思案していた。しかし、その追及の勢いに抗しきれず、諦めたように肩をすくめて言った。


「もぅ、説明するの面倒なのよね。ぶっちゃけ、見た通りよ。」


それは、悪魔のような姿に変身できることを認めただけで、詳しい説明には全くと言っていいほどなっていなかった。マリィは、その曖昧な答えにさらに眉を吊り上げた。


「そんな説明で、納得できるわけないでしょ! あんな隠し玉持ってるなんて、ラバァルに言いつけてやるんだから!」


マリィがそう叫ぶと、ルーは涼しい顔で言い返した。


「何言ってんのよ。ラバァルは最初から知ってたわ。だって、私をこんな風に変えたのは彼なんだから。」


ルーの思いがけない発言に、マリィは目を丸くして驚愕した。「ええっ!? それ、本当なの!?」


またしても衝撃的な事実が明らかになった。ラバァルがこの事実を知っているだけでなく、ルーレシアをあの恐るべき姿に変えた張本人だというのか――。その事実は、先に一部を聞いていたシュツルムでさえも、そして傍らで成り行きを見守っていたデサイヤにとっても、大きな驚きであり、同時に抑えきれない興奮を呼び起こしていた。彼らの瞳には、新たな謎と、それに対する探求心が宿っていた。


「ちょっと~~、いつまでそんな事気にしてんのさ。それより早くここから移動した方が良いと思うんだけど。」


ルーは、周囲の緊迫した空気を感じ取り、まだマリィに問い詰められている状況を遮るように、冷静な声で全員に促した。彼女の言葉には、どこか焦りのようなものが滲んでいる。

それもそのはずだ。先程、彼女たちは【ブラッド・レイン】の幹部を筆頭に、六名もの手練れを打ち倒したばかりなのだ。いつまでもこの場所に留まっていれば、敵の増援が現れる可能性は高い。ここは、一刻も早く立ち去るのが賢明な判断だろう。生き残るためには、感傷に浸っている時間はないのだ。

ルーの言葉にハッとした一同は、重い足取りで倒れた仲間たちの遺体を集め始めた。手際よく土を掘り、丁寧に埋葬していく。その表情は皆、悲しみと疲労の色を深く刻んでいた。短い間だったとはいえ、共に戦った仲間との別れは、彼らの心に深い傷跡を残した。

埋葬を終えると、生き残った者たちは、沈黙の中でゆっくりと歩き始めた。先頭を歩くシュツルムの背中は、どこか決意を新たにしたように見える。その後ろを、それぞれが様々な思いを抱えながらついていく。

ルンベール子爵は、フォビオ殿下の亡命という大儀で同じく集められた時からの仲間のランパート、そしてこの逃亡から仲間になった神官戦士たちのことを思わずにはいられなかった。短い期間ではあったが、共に戦った仲間たちだ。彼は、一人ずつ丁寧に墓標に手を合わせ、静かに別れを告げた。その表情には、深い悲しみと共に、彼らの死を無駄にはしないという強い決意が宿っていた。そして、最後に力強く頷くと、子爵は前を向き、吹っ切れたように歩き出した。彼らの旅は、悲しみを乗り越え、ルカナンへと向かって歩いて行く。




最後までよんでくれありがとう、またつづきを見掛けたら読んでみて下さい。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ