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仲間たちの逃走 その2 

シュツルムたちからの急報を受け、長きにわたり活動拠点としてきた夜明けの塔を後に、ルカナンを目指し、鬱蒼とした道なき藪の中をひたすら進んでいたマリィたち一行。疲労の色が濃いその険しい道のりの中でまさかこんな所で、と誰も想像していなかった――【ブラッドレイン】。血の匂いを纏った悪夢のような存在が、予期せぬ場所で彼らの行く手を阻む。人間とは思えぬ異質な力を持つ者たちからの容赦なき攻撃に晒され、仲間たちは次々と深手を負っていく。そんな状況に修道女たちは不安な状況に包み込まれていた。しかし……。

               その92


聖騎士セバスと、トーヤは岩ゴーレムと化したブラッドレイン幹部の一人、

【バルカン】と戦っていた。 


じりじりと二人は身構えながら後ろへ後退する。 

そうしてると、大男の影に潜んでいた、指にいくつものリングを嵌めた男がヌッと前に現れ、錆び付いたような棘付きの鉈をマリィ目掛けて素早く振り下ろして来た。

鋭い風切り音がマリィの頬を掠める。その瞬間をセバスは捉えたが、巨漢である大男から一瞬でも目を離せば、強烈な一撃で命を落としかねない状況だったため、身動きが取れないでいた。トーヤも同様に、全身から威圧感を放つ大男に意識を集中させて置かなければ、たちまち危険な状態に陥るため、一瞬躊躇してしまった。マリィは、迫りくるリング男の攻撃を紙一重でかわしながら、ギリギリまで引き付け、口にに含んでいた隠し武器を使用した。

フッ!と、ほとんど聞こえないほどの小さな音と共に、マリィの口元から極細の針が複数放たれた。それはまるで目に見えない弾丸のように、リング男の眼球へと向かう。針はリング男の開かれた瞳に、プチ、プチ、プチッと鈍い音を立てながら数本突き刺さった。リング男は堪らず両手で目を覆い、「うがぁぁぁ…。」と喉の奥から絞り出すような悲鳴を上げた。激痛に顔を歪め、苦しみだすリング男。そこへ、マリィの得意技【トリプルスロー】が炸裂した。三本の研ぎ澄まされた投げナイフが同時に放たれ、リング男の額、鼻筋、喉元を一直線にグサッ、グサッ、グサッと深々と貫いた。鮮血が飛び散る。マリィはその光景を捉え、「よっしゃぁ~!」と思わず小さくガッツポーズを決めた。

その一部始終を認識していたセバスとトーヤも、マリィの鮮やかな手際と窮地を脱したことに、わずかな安堵の息を漏らす。それから次の瞬間、二人の渾身の攻撃が大男に叩きつけられると、事態は一気に予想外の方向へと転がり始めた!


トーヤとセバスは、マリィの目覚ましい活躍を見て、負けてられないという思いが沸き立つと。「俺たちも!」とばかりに、すぐさま大男へ飛び掛かった。

セバスは、先ほどの一撃では大男の強靭な肉体を斬り裂けなかった。今度は全身の力を剣に集中させ、愛用のロングソードを大男の太腿目掛けて、渾身の力で真っ直ぐに突き入れる。鈍い金属音と共に、刃が肉に食い込む感触が手に伝わって来た。

続くトーヤも、先日の戦いで穂先が曲がってしまった槍をそのままだったが構わずに、大男の股間を目掛けて両手で力強く突き上げた。鈍い衝撃と共に、大男は堪らず「ブギャアアア!」と叫びながら、ピョン、ピョンと二度三度跳ね上がる。その巨体が跳躍するたびに、周囲の地面にドスン、ドスンと重い地響きが広がった。

その間、トーヤはしてやったりのニヤリとした表情をセバスに向けながら素早く後ろへ下がり、再び槍を構え直す。セバスの方は、今こそ絶好のチャンスだとばかりに、追撃を開始した。トーヤの真似をして大男の股間を狙い、ロングソードを迷わず突き入れる!

形勢は、聖騎士たちに有利に見えていた。だが、その時だった。

先ほどマリィの三本の投げナイフを頭部に受け、完全に絶命したと思われていたリング男が、信じられないことに再び立ち上がった。憎悪の籠った眼差しをマリィに向け、手に持った血塗られた棘付き鉈を振り上げ、再び襲い掛かって来たのだ。

マリィは、もう一度投げナイフで応戦しようと、腰のポーチに残る三本のナイフを素早く利き手に移動させ、投擲の準備に入る。その前に、またもギリギリまでリング男の接近を許し、今度は先ほどとは違う左目に向けて、鋭い含み針を放った!しかし、リング男は一度攻撃を受けていたため、今度はそれを警戒していたのだろう。咄嗟に目を閉じ、放たれた針は瞼に数本刺さったものの、眼球への直撃は免れた。マリィは、「チッ」と舌打ちして失敗を確認したが、目を閉じるという行動を取ったリング男には、一瞬だが大きな隙が生じていた。それを逃すことなく、マリィは素早く懐から短剣を取り出し、その短剣を、彼の首筋に深々と突き立てた。そして、素早く首筋全体を斬りながら一周させる。離れ際には、強烈な回し蹴りをリング男の頭部に叩き込む。その瞬間ぐらりと首がもげ、ついにリング男の動きも止まった。ドタッ、と重い音が響き、リング男の体が地面に崩れ落ちるのと同時に、マリィの勝利も確定。マリィは、全身から力が抜け、ホッと安堵の息を吐きながら、後方へと静かに下がる。

    

その間、セバスのロングソードは、的確に2度も大男の股間に突きいれられ、その度に大男は激痛に悶え、何度も激しく飛び跳ねていた。すると、大男の顔は怒りと苦痛で真っ赤に染まり、頭のてっぺんからは、まるで煮えたぎる寸前の釜のように、濛々とした大量の蒸気を勢いよく吹き出し始めていた。その蒸気は、熱気を帯び、周囲の空気をわずかに揺らしている。そして、見ていると、岩のような隆々とした筋肉で覆われていた大男の体が、気のせいか、いや、明らかに巨大化し始めているのが分かった。まるで生きた肉体がゆっくりと岩石へと変化していくような、見たこともない異様な光景だ。

ゴツゴツとした岩の表面が、彼の体全体を覆っていく。変容が終わると、大男は完全に岩のゴーレムと化していたのだ。先ほどよりも体全体が大型化しており、その威圧感はさらに増していた。

その岩ゴーレムに対し、セバスは先ほどと同じく、一縷の望みを託して股間目掛けてロングソードを突き入れる!

ガシンッ!と、まるで鋼と岩が激突したような鈍くも硬質な音が響き渡る。すると、先ほどまでとは明らかに異なり、セバスのロングソードはまるで脆い木材のように、衝撃の瞬間にポッキリと音を立てて折れてしまった。刃先を失ったロングソードを呆然と見つめたセバスは、咄嗟に後ろへ後退を余儀なくされた。

しかし、岩ゴーレムは先ほどまでの鈍重さが嘘のように、動きが格段に良くなっている。セバスが十分に距離を取るよりも早く、岩石でできた巨大な右腕が、唸りを上げるような風切り音と共に聖騎士の鎧の上から強烈な左のフック気味に真横から叩き込んできた!

ガキィン! 岩ゴーレムの大きな岩の拳と鎧との間でセバスの左腕が挟まれ圧迫、ジュルと肉汁になり千切れ残ったてた腕は地面に落ちる、さらに鎧が大きく歪む音と共に、左胸側肋骨が砕ける嫌な音が響き胴体左側全体に致命的な力を加えられ破壊されながら、セバスは大きく後方へ吹き飛ばされてしまった。


控えていた修道女たちのいる場所まで飛んできて地面に叩きつけられゴロンと転がりようやく止まった。


ドスン!と地面に叩きつけられ転がったセバスの体は大きく損傷しており、鎧の隙間からは夥しい量の鮮血が流れ出ていた。

飛ばされ大きく破壊されたセバスティアンの体を見た修道女たちは、一斉に悲鳴を上げ、信じられないといった表情で目を大きく見開いてその光景を見つめる。


それを見た、聖騎士ランパートと二人の神官戦士は、セバスティアンが飛ばされてきた方向へ慌てて駆けて行く、残された者の手助けするため向かったのだとそれを見た者たちは理解した。 


一方、片腕を失い、鎧の隙間から絶え間なく血を流し、辛うじて息をしているセバスティアンの姿を捉えた神官のカトレイアは、悲痛な叫びを押し殺し、素早く行動を起こした。彼女は、慈悲深き女神セティアに全身全霊を込めて強力な癒しの祈りを捧げ始める。

「偉大なるセティア様、どうかこの苦しむ御使いをお救いください!」余りの激痛とショックで意識が朦朧とし、今にも魂が肉体から離れようとしていたセバスティアンだったが、幸いにも熟練の神官がすぐ近くにいたことで、まさに死の淵に片足を突っ込んだ数秒前、

カトレイアのセティアへの祈りが完成。神聖な光がカトレイアの手から溢れ出すと、上級回復呪文〖クラーティオ ポテンス〗が発動する。鎧の下でぐしゃっと潰れていたであろうセバスの体は、白い蒸気をあげながら目に見える速さで急速に回復していく。

回復呪文が間に合ったことが確認されると、セバスが吹き飛ばされた方面へ、同じく聖騎士の一人である屈強なランパートが、険しい表情で剣を構えながら駆け出した。その後を追うように、信仰篤い神官戦士2名も、聖なる力を漲らせながら応援に向かう。

彼らの顔には、仲間の危機を救おうとする強い決意が表れていた。


そんな場に、今度は、ルンベール子爵の前に、人骨の頭蓋骨を被り、胴体や手足にも骨を奇妙に取りつけた、異様な姿の男が現れた。その骸骨の頭蓋の眼窩にあたる部分が赤く妖しく光っており、手にした骨製のセプターもまた赤みを帯びて発光し、不気味な雰囲気を漂わせている。ルンベール子爵も即座に反撃態勢を取り、腰に佩いた細身の剣を抜き払い、切っ先を相手に向け、いつでも踏み込める体勢に入った。彼の表情は冷静そのものだったが、瞳の奥には警戒の色が宿っている。


その原始人のような、あるいは死霊のような姿の男は、やはり何も言わずに攻撃を仕掛けて来た。赤く光るセプターを大きく振りかぶり、ルンベール子爵の頭部を狙って叩きつけてくる。ルンベール子爵は、背後にいる修道女たちを守るため、この場から大きく移動することはできない。最小限の体の動きで、迫りくるセプターの攻撃を紙一重で躱し、その刹那、鋭い突きを骨と骨の隙間、相手の急所であろう部分に狙い定める。

剣は、抵抗らしい抵抗もなく、あっけなく深々と突き刺さり、手応えを感じたルンベール子爵は、「よし。」と小さく頷いた。しかし、ボーンマスクとでも呼べるその相手は、剣を心臓付近に突き刺されたにも関わらず、まるで痛みを感じていないかのように、そのままの勢いでセプターをルンベール子爵の体に叩き込んできた。ルンベール子爵は、先ほどの一瞬の油断、勝利を確信した気の緩みが災いし、その強烈な一撃を防御が間に合わず鎧の上からまともに受けてしまった。鈍い衝撃音が響き渡ると同時に、ルンベール子爵の丁寧に磨き上げられた胸当ての鎧に、深々と大きなへこみが入れられ、その下の体にも強烈な打撲ダメージが走り、あばら骨の数本が折れてしまった。「ぐぬぅ…!」と、苦悶のうめき声をあげ、衝撃に顔を歪ませながらも、ルンベール子爵は必死にその場で耐えようとする。


その時、修道女たちを囲む反対側で守っていた神官戦士の一人が、ボーンマスクの異様な動きに気づき、助けに入ろうと素早く駆け寄り、聖なる力を込めた軽メイスを振り上げ、ボーンマスクの背後から強烈な一撃を叩き込んでくれた。しかし、ボーンマスクは、その体からは想像もできないほどヒョイと身を翻し、まるで踊るようなアクロバティックな動きでその攻撃を躱すと、振り返りざま、その神官戦士に向かって赤く光るセプターを容赦なく叩きつけたのだ。神官戦士は、防御の体勢を取る間もなく、左こめかみからその凶悪な一撃をまともに喰らってしまい、鈍い破壊音と共に頭蓋骨が砕けそのまま失神。

神官戦士は、そのまま前のめりにぐったりと崩れ落ち、地面に崩れた。

その目を覆うような惨劇を見ていた、若い修道女たちは一斉に悲鳴を上げ、恐怖に顔を歪ませ、泣き叫び始めた。神官のペリファラは、その光景に一瞬動きを止めたが、すぐに倒れた神官戦士の頭部が原型を留めておらず、既に絶命していることを悟ると、回復の祈りを唱えることを諦め、ただ静かに女神セティアに祈りを捧げ、神官戦士の無残な最期を静かに看取る。


共に戦った者が目の前で命を落とした。その事実はルンベール子爵の誇りを深く傷つけ、彼の内なる怒りを激しく燃え上がらせていた。彼は、赤く光るセプターを振るう人骨の男に対し、堰を切ったように連続突きを繰り出し始めた。

シュッ、シュシュッ、シュシュシュッ! 研ぎ澄まされた細身の剣が、空気を切り裂く音を立てながら、信じられない速さで人骨の男の体を捉えようとする。胸の痛みを我慢しながら

フルパワーで剣を突き続ける。人骨の男は、その猛攻をアクロバティックな身のこなしで辛うじて避けているが、ルンベール子爵の先読み攻撃はそれを上回り、執拗に追跡、次の動きを予測して、剣先を突きつけていた。そしてついに、避けきれなくなった人骨の男の胸に、細身の剣が深々と突き刺さり、ほんの一瞬だが、その動きが鈍った。その隙を見逃さず、ルンベール子爵はさらに怒涛のラッシュを掛け、剣を何度も何度も突きまくった。

グサリ、グサリと、まるで雨のように剣が骨と肉を貫く音が響く。五度、六度、いや、十度を超えただろうか。一体何度刺したのかも分からないほどの猛攻を見ていた神官のペリファラが、心配そうな表情で「もう、おやめくださいルンベール様。もう…死んでいます。」と、震える声で知らせた。

その声を聞いたルンベール子爵は、ようやく激昂から我に返り、血濡れた細身の剣をゆっくりと下に下げ、絶命した人骨の男を改めて見下ろした。すると、男の乾いた肌に、【ブラッドレイン】の独特な紋様のタトゥーが刻まれているのが目に飛び込んできた。「こいつ…ブラッドレインの…!」ルンベールは、その名を苦々しく呟いた。ラガン王国には、狂人集団と恐れられる【ブラッドレイン】が存在することを知っていた。戦場では敵国の民を嬲り殺し、その残虐な行為は味方からも恐れられているという。

「こんな外道の集団が、マーブルにまで…!糞ッ、何とかしなければ…!」そう憤慨した瞬間、ルンベールは胸に受けた激しいダメージが限界に達したのか、膝から崩れ落ち、地面に手をついて辛うじて体勢を保った。するとそこへ、ペリファラが慌てて駆け寄り、「動かないでください、ルンベール子爵!」と優しい声で制止し、すぐに回復魔法の詠唱を始めた。「清き光よ、傷ついたこの御身を癒し給え。親愛なる女神セティアよ、この者に安寧を与えたまえ。」静かに、しかし確かな祈りの言葉が紡がれ、詠唱が終わると同時に、薄いブルーの柔らかな光がルンベール子爵の胸を優しく包み込んだ。すると、鎧の下で激しく痛んでいた怪我がじんわりと癒され始め、砕けていた肋骨も徐々に修復されていくのが分かった。ルンベール子爵は、ゆっくりと立ち上がることができるまでに回復。ペリファラに感謝の言葉を捧げる。


セバスティアンは、息はあるものの倒れたままで意識は戻らない。辛うじて蘇生したものの、左腕は失われたままだ。

そんな所へ、今度は南側の藪から、ルーレシアに支えられたシュツルムが辛うじて歩いてきた。顔色は悪く呼吸も荒い。左こめかみと左胸には痛々しい傷があり、血が流れ続けている。

その様子に気付いた神官戦士レノが駆け寄り、ルーレシアと共にシュツルムを支え、神官たちの元へ誘導した。シュツルムの苦悶の表情と滲む汗が、傷の深さを物語る。

只事ではないシュツルムの状態を見たペリファラは、険しい表情で彼を見つめ、到着するとすぐに癒しの祈りを始めた。祈りの光がシュツルムを優しく包む。

しかし、傍らにいたカトレイアはシュツルムの出血と呼吸の浅さ、そして傷の深さから、通常の回復魔法では間に合わないと判断し、「ペリファラさん、この酷い怪我には〖クラーティオ ポテンス〗が必要です!」と進言した。


ペリフェラは、ハッとした表情でシュツルムの状態を改めて確認し、その確実な回復の兆候に深く頷くと、静かに「カトレイア、お願いします」と言い、自身が続けていた回復祈祷を中断した。彼女は、疲労の色も見せずにカトレイアの詠唱を助けるため、内なる気力をさらに高め、神への祈りに集中する。カトレイアは、その言葉に覚悟を決め、清らかな眼差しを天に向け、慈悲深き女神セティアへ深々と祈りを捧げる。そして、全身から湧き上がる聖なる力を込めて、高位の回復呪文【クラーティオ ポテンス】を力強く唱えた。その瞬間、優しいブルーの淡い光が溢れ出し、まるで天から降り注ぐ祝福のように、重傷を負ったシュツルムの全身を優しく包み込んだ……。

シュツルムの失われた左耳があった辺り、そして深く抉られた左胸に、温かく、そして神聖な回復の光がゆっくりと注ぎ込まれると、まるで熱した鉄に水がかけられたかのように、ジュワ~~という微かな音と共に、水蒸気のような白い煙がふわりと立ち上りながら、驚くべき速さで傷口が再生、回復していく。その神秘的な光景はしばらく続き、息をのんで見守る者たちの前で、一分も経たないうちに、見る影もなく酷かった傷口は完全に閉じられ、まるで何事もなかったかのように、元の健やかな体へと戻っていった。

シュツルムは、生まれて初めて体験する回復魔法の奇跡に、目を丸くして驚き、そして深い感謝の念を込めて、回復の祈りを捧げてくれた二人の神官に、頭を垂れて感謝の意を示した。「助かったよ……本当に、自分ではもう完全にダメだと思っていたんだが……まさか、あんな酷い傷が、ここまで綺麗に良くなるとは、夢にも思わなかった。」シュツルムは、信じられないといった表情で、消えたはずの傷跡を確かめるようにそっと撫でている。斬り落とされたはずの左耳が、確かにそこにあることに、彼は深い感動と、回復魔法という神秘的な力の凄さを、身をもって体験したのだ。 しかしそんなシュツルムにカトレイヤは。 

「まだ無理は出来ませんよ、表の傷は癒されましたが、流れ出た血までは戻ってはないのですから、暫くは自重して下さい。」 そう言われたのだ、シュツルムは、素直に首を縦にしたのだ。こうして、瀕死の状態だったシュツルムも、奇跡的な回復魔法によって何とか命を取り留める事が出来た。しかし、その一方で、西側の戦場では、人間の力では到底太刀打ちできない、巨大なゴーレムとの激しい戦いが繰り広げられていたのだ。先ほどの一撃で吹き飛ばされてしまったセバスティアンの代わりに、急ぎ応援に駆けつけた、屈強な神官戦二名、そして聖騎士ランパートは、先に一人で孤軍奮闘していたトーヤを助けるため、目の前に立ちはだかる岩ゴーレムに向かい、それぞれの武器を力強く振るって戦う。

「気を付けろ!一発でも喰らったら、セバスみたいに、簡単に吹っ飛ばされるぞ!」

トーヤは、既に無残に折れ曲がった愛用の槍を、それでもなおしっかりと構え、岩ゴーレムの体を睨みつけていた。しかし、どこを狙ってみても、その硬質な体はまるで鉄壁のようで、有効な攻撃手段を見出せず、なかなか手が出せないといった迷いで動けない。

一方、応援に駆けつけた二人の神官戦士と聖騎士ランパートは、まだそのゴーレムの恐るべき力と頑丈さを知らなかったため、果敢にも前に出てしまい、それぞれが携える軽メイスや、手慣れたショートソードなどを、必死に振り上げ攻撃している。


岩がごつごつと隆起した、まさに岩そのものと化した巨大な人物。その圧倒的な質量に対し、神官戦士たちは、まるで小さな虫けらのように、懸命に武器を振り上げていた。ランパートもまた、その一人だった。彼は、屈強な両腕で巨大な棍棒、グレートクラブを握り締め、唸り声を上げながら、その重い一撃を岩ゴーレムの硬質な体へと叩き込んでいた。

ガツン!と鈍い衝撃音が響き渡り、グレートクラブが命中すると、岩ゴーレムの表面の岩が、まるで砕けた瓦のように剥がれ落ち、地面に転がった。しかし、それはほんの僅かな欠損でしかなく、その巨体に傷一つ付けられていないと言っても過言ではなかった。両手で扱うグレートクラブは、かなりの重さがあり、それを全身の力を込めて振り抜いたばかりのランパートは、体勢を崩し、一瞬、完全に無防備な状態に陥ってしまった。そこへ、岩ゴーレムが、鬱陶しい虫を払うかのように、巨大な手を薙ぎ払ってきたのだ。

当然、すぐ近くで軽メイスとショートソードを振るい、岩ゴーレムに果敢に攻撃を仕掛けていた神官戦士の一人が、その危険な動きにいち早く気づいた。彼は、迷うことなく、ランパートを助けようと、自らの身を挺してランパートの背中を強く押し、その場から突き飛ばす。しかし、その勇敢な行動が、逆に悲劇を招いてしまい、身を挺してランパートを救った神官戦士の一人、ポテンスが、避けきれずにその巨大な手に払われてしまったのだ!まるでハリケーンに吹き飛ばされた木の葉のように、ポテンスの体はあらぬ方向へ勢いよく飛ばされてしまった。当然、先ほどのセバスティアンと同様、強烈な衝撃によって全身の骨が砕け、内臓も損傷しただろう。彼は、深い茂みに激しく叩きつけられ、そのまま意識を失ってしまった。「おーい!神官戦士がやられたぞ!誰か、早く助けてやってくれ!」その光景を目撃したトーヤは、後方にいるであろう仲間たちに向かって、必死の形相で大声で叫んだ。

間一髪で助けられたランパートは、あまりの出来事に、何が起こったのか、まだ完全に理解できていなかった。目の前で起こった信じられない光景と、仲間の身を案じるトーヤの叫び声が、ようやく彼の意識を現実へと引き戻していた。


最後までよんでくれありがとう、またつづきを見掛けましたら、読んでみて下さい。

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