表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/125

ロスコフのお見合い その1

今回は、ロスコフの見合い相手であるハルマッタン伯爵家へ行き、

まだ戻られて無い夫妻を待ってる間の出来事が中心になります。  

         その9



翌朝、ロスコフが顔を洗い、外の空気を吸いに出ると、二台の馬車と護衛の騎士団が玄関前に配置されていた。しかも騎士団は、装飾が施された儀式用の装備を身に着けていて、王が居る宮廷にでも出かける様ないでたちに、ロスコフは、また大袈裟なんだからと思っていた。


その目立つ騎士たちは、一台の馬車を守るのに8名の騎馬に乗る騎士が割り当てられ、計16名もの騎士たちが領主を待っている状況だ。


「ちょっと待ってくださいよ。昨日ここに到着したばかりなんですよ僕は。これでは疲れも取れないじゃないですか!」


ロスコフは、10年ぶりに帰ってきたばかりだったので、そうぼやくが

そんな事はお構いなしに事が運ばれ、ロスコフは慌ただしい流れに飲み込まれていた。


朝食を済ませると、すぐに馬車へと侍女たちに連れていかれ、中へ押し込まれてしまったのだ。


「父上、お待ちください。どうしてこんなにバタバタしなくてはならないんですか!」


馬車に押し込まれたロスコフの目の前に、両親が乗っていた。


それを知り、問いただす。


するとロスコフの疑問に父は。 


「わはははは、ロスコフ、善は急げじゃ♪」


父はまるで祖父のような物言いで、理由になっていない言葉を返して来たのだ。


「返事になってませんよ父上、母上も何か言ってくださいよ。」


母に助けを求めたが、母はくすくすと笑って流してしまった。



ハルマッタン伯爵領への旅は、7日間にも及んだ。安全のため、日が昇っている間だけの移動にしていた。しかし、7日間も馬車に座っていると、さすがに体のあちこちが痛くなり、特にお尻の痛みはひどかった。


伯爵邸の玄関前に到着すると、やっとの思いで恰好をつけ、お尻の痛みを隠して普通に立っているように見せたが、ロスコフにとってはとても苦しい状況だったのだ、母を見たが、我慢してるのか普通に立たれている。


「ふう、お尻が痛い……」


ハルマッタン伯爵邸の片側にある、馬車置き場と思われる場所には、ひときわ目立つ豪華な馬車が一台、他にも四台の馬車が停められていた。ワーレン侯爵家が乗ってきた馬車も、ロスコフたちを降ろすと、先に停められていた馬車と同じように、馬車置き場へと向かい駐車される様だ。


ワーレン侯爵が跡継ぎを連れて伯爵邸を訪れることは、以前から伯爵家との話し合いで大雑把な日程は決まっていた。しかし、細かい日程は決めていなかったため、ハルマッタン伯爵への知らせは、ロスコフが首都に戻った日の晩に、ロスコフの許可を得た父が使いの者を伯爵邸に派遣したばかりだったので、


使いの者が受け取った父宛の手紙には、二日ほど遅れるという返事が書き示されていた、そのため伯爵邸に、ハルマッタン伯爵夫妻は居ないのだ。


お尻の痛みを我慢しながら豪華な馬車を見ていると、父が話しかけてきた。




「ロスコフ、あの馬車が気になるか?あれは、東の山脈を抜けた先にある、神聖モナーク王国の王族用の馬車だよ。」


「モナーク王国の王族用……」


「うむ、どうやらライバルが来ているようだ。」


「えっ、ライバルですか!」


元々ロスコフはこの縁談を良く思っていなかった。それでもここまで来たのは、流れに逆らうのをやめたからだ。しかし、ここで話がなくなるかもしれないと思い、一瞬気が緩んでニヤリと笑みがこぼれてしまった。


「ニマッ('ω')ノ」


それを見た父のワーレン侯爵は。


「ロスコフ!」


ロスコフは睨みつけられてしまった。


「あっ、いえ、父上、これはちょっと気持ちが和らいだだけですよ。」


「まあ、良かろう。本番ではしっかりと魅せるようにな。」


「分かってます、父上。」


そんなやり取りをしていると、ハルマッタン伯爵家の執事や侍女、荷物持ちの男たちが、はるばるやってきたワーレン侯爵家の一行を出迎え、ハルマッタン伯爵邸の中へと案内する。


ロスコフも中に入ると、客室用の一室へと案内された。そこで、今の状況を説明されたのだ。


「ワーレン侯爵家の皆様、遠いところをご苦労様です。五つのお部屋をご用意させていただいております。まずは、旅の疲れを癒してから、今夜のディナーをお楽しみください。」


執事はそう言い、さらに付け加えるように話し始めた。


「ワーレン侯爵家の皆様も、馬車停泊所に駐車してある馬車をご覧になったかと思いますが、現在、ハルマッタン伯爵邸には、三つの家の方々がお泊りになられております。


その内訳は、


神聖モナーク王国第二王子、パットン様とそのお連れの方々。


リバンティン公国バンクシー公爵家三男、チャールズ様とお連れの方々。


リバンティン公国、チェイサー子爵家長男ミカエル卿とお連れの方々。


そして、リバンティン公国ワーレン侯爵家の皆様とお連れの方々が滞在する事になっております。

いずれの方々も、ハルマッタン伯爵家長女【アンナ】様がお目当てとなっております。」


それを聞いたワーレン侯爵は、執事に鋭い視線を向けた。


「何だと。私は縁談の話しかハルマッタン伯爵から聞いておらんぞ。まさかここまで来させて、我々を競わせるつもりなのか!もしワーレン侯爵家を愚弄するつもりなら、それなりの覚悟をしていただく。ハルマッタン伯爵にもそう伝えてくれたまえ。」


初めて見る父の威圧的な迫力に、ロスコフは少し驚いた。


「まあ待ってください、父上。面白いじゃないですか。ここまでしているんですから、それほどの魅力をお持ちの方なのでしょう、【アンナ】様というお方は。」


そんなやり取りをしていると、執事が実情を話し始めた。


「それなのですが、実は、ハルマッタン伯爵もこの状況をまだ存じあげてないのでございます。

先に届けられた手紙には、ワーレン侯爵様ご一行がお越しになることしか知らされておらず、

ロスコフ・ワーレン卿とアンナ様とのお見合いのため、急遽こちらへ向かっていると書かれており、他の方々が、今いらっしゃるのは、アンナお嬢様のお噂を聞きつけ、偶然にお集まりくださった方々なのです。」


「丁度同じ日に居合わせたと言う事ですね。」


「そうでございます、それとハルマッタン伯爵は明日か明後日には到着されるご予定です。

それまでの間は、この邸宅でごゆるりお寛ぎ下さい、何かありましたらいつでも廊下に待機させている者にお言いつけて下されば対応いたします。」


深々と頭を下げ、執事が部屋を出て行った。次いで部屋に入ってきたのは、ハルマッタン伯爵家侍女長のメアリーだ。メアリーは侍女たちにお茶を運ばせ、用意してきた軽食などをテーブルの上に並べていった。


並べ終わると、


「何かありましたら、外に控えておりますのでお申し付けください。」


そう言い、部屋の外へと出て行った。


「ハルマッタン伯爵はまだ二日はかかる。それまでは、ここで寛がせてもらおう。な、ロスコフ。」


父は、自分のせっかちな性格のせいでここで待つことになったことには触れず、ここで寛げと言う、


ロスコフはいい加減だなぁと思いつつ、かなり疲れていたのでまぁ休めるのならそちらの方が有難いと、その事には触れずに、それらしい話題を話す。



「それでは偶然、他の求婚者と鉢合わせしたということになりますね、父上。」


ロスコフがそう言うと、ワーレン侯爵はもう先程の怒りは消えていた。ロスコフがここで他の候補者を蹴散らし、アンナを娶ることを妄想していたのだ。そうなれば、この見合いは間違いなく成功するだろう、そんな妄想に入っていたのだ、周りの者たちは、そんな侯爵を見て首をかしげていた。


数時間後、夕食の準備ができたことを知らせに、先程の執事がやってきた。


「失礼いたします。ご夕食の準備ができましたので、いつでも表の召使いにお申し付けください。ご案内いたします。」


そう言うと、すぐに部屋を出て行った。おそらく別の部屋の者にも同じことを伝えるのだろう。


「そういうことらしい。ディナーに行くか、ロスコフ?」


ロスコフは、先程出された軽食を軽く食べてしまっていたので、


「ちょっと先程食べたものがまだお腹に残っています。しばらくしてからでないと食べられませんよ。」


「そうか、分かった。でももう少ししたら行くぞ。」



しばらくして、父、ウォルター・ワーレンが我慢しきれず。


「では、やることがないし、ディナーに出席するか。」


妻である夫人とロスコフに声をかけた。


仕方なく、せっかちな父の性格が分かったロスコフは、これ以上待てない父の様子を見て、

ようやく頷き立ち上がる、そして先に部屋から出た両親に続いて階段を降りていったのだ。


1階の正面玄関から奥へと続く通路を通り、建物中央にある大広間へと侍女に案内された。大広間の大きな扉が開かれると、先に到着していた者たちの視線がこちらに注がれる。



「んっ、あれがワーレン侯爵家の一行か。」


「リバンティン公国侯爵家の長男か。」


彼らは、新たなライバルをじっと見つめていた。


ロスコフは、自分に向けられる視線を感じて、少し恥ずかしいと思いながら、視線を無視して案内されたテーブルの方を見た。


テーブルは料理を中心に、東西南北にそれぞれ配置されていて、ワーレン侯爵家の一行は、南に位置するテーブルへと案内された。


「我々が最後のようだ、さぁ席に着こう。」 父に促され皆も着席する。



食事が始まってしばらくすると、ひときわ目立つ青年がこちらのテーブルにやってきた。背が高く、見事な金髪の長い髪をした男と、後ろに控える黒髪の青年だ、二人とも非常に逞しい体つきをしており、戦士かパラディンだろうかと思われる。学問系のロスコフとは全く異なる容姿を見て、ロスコフは「いい体をしているなあ。あの体に合うパワー系の鎧を作ることができれば、かなりの戦力アップにつながるだろう」などと考え、先ほどの父同様、妄想の世界に入っている、周りの者たちは流石親子だと思ったに違いない。


意識が妄想に移っていたがその間に、声が聞こえてきた。


「君が次のワーレン侯爵ですね。お会いできて光栄です。」


そう声をかけられ、ロスコフはハッとして妄想から我に返った。


「えっと、あなたたちは?」


「申し遅れました。私は東の神聖モナーク王国から来た王位継承権第二位のパットンです。よろしくお願いします。そしてこちらが、私の従者であり兄弟同然のルビビアン・メッシ子爵です。」


「メッシと申します、ワーレン卿。」


「どうも、ロスコフです、パットン様、メッシ子爵。」


まだ食事の椅子に座ったまま立ち上がらないロスコフに、二人は挨拶をした。ようやく席を立ち、二人と握手を交わすロスコフ。その様子を、ワーレン侯爵と母のカトリーヌはニコニコと見守っている。二人は、息子が同年代の者たちと交流を持つことを喜んだのだ。


遠慮のない物言いで、すぐに三人は打ち解け、話を弾ませていた。


そこへ、バンクシー公爵家三男のチャールズもやってきた。


「お初にお目にかかります。私はバンクシー公爵家三男のチャールズと申します。以後お見知りおきを。」


そう声をかけたのは、パットンへの挨拶だった。ロスコフとメッシには一切目を合わせず、パットンのみに意識を向けている様子だ。


その様子に、パットンが気づき、声を掛ける。


「バンクシー公爵家の方ですか。こちらの方がワーレン卿、そしてこっちはわが友メッシ子爵です。」


無視する二人を無理やり紹介したのだ。


隣国の王家に所属するパットンの紹介には、無視することもできず、ライバルであろうロスコフの方を見ざるを得なかったようだ。


変な顔をしてロスコフの方に顔を向け、


「バンクシー家のチャールズと申します。よろしくお願いします。」


そう言葉を絞り出した。


「この人は、俺に挨拶するのがよっぽど嫌だったのか?」


ロスコフは、その様子に何が気に入らないのか全く分からなかった。


そこへ、次の者もやってきた。おそらく、今回の【アンナ】争奪戦に参加する者たちが皆集まっていたので、自分も乗り遅れないようにとやってきたのだろう。


「初めまして皆様。私、リバンティン公国チェイサー子爵家の長男ミカエルと申します。以後お見知りおきを。」


パットン王子に負けず劣らずの容姿と体つきをした好青年だ。この雰囲気は間違いなく騎士だろう。それもただの騎士ではない。ワーレン家にも一人しかいないマスターナイトのメルブレン従士長と同じオーラを身にまとっているのが感じられたのだ。


今回やってきたチェイサー子爵は、偶然真ん中にいるロスコフの方を最初に向き、挨拶をした。それから周りの者へと視線を移し、それぞれに挨拶をしている。


パットンとメッシの二人も、只ならぬオーラを身にまとったミカエルに注目し、彼が只者ではないと感じ、興味を抱いたようだ。ただ、チャールズは相変わらずパットン王子以外には注目してないようだ。


しばらくは皆で話をしていたが、時間が遅くなったので、旅で疲れていたロスコフは先に寝室へ戻ることを告げ、皆と別れて部屋へと戻っていった。他の者たちは、まだまだという感じで酒を酌み交わして話を弾ませていた。


部屋に戻ると、両親は風呂を済ませてリラックスしており、新しいお湯に変えられた風呂が用意されていた。


「今夜はお湯に浸かって体を癒し、ぐっすり休みなさい。」


そう声を掛けられると、ロスコフは素直にその通りにした。






最後まで読まれた方有難うございました、

また続きを見かけたら読んでみて下さい。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ