大精霊〖ニフルヘイム〗vsその2
ようやく〖ニフルヘイム〗にたどり着くことが出来た、ラバァルたちは、先にゲートに入ってた者たちと合流を果たす...
その88
すぐ近くに開かれたゲートからは、不気味な光が漏れ出し、周囲に異様な雰囲気を漂わせていた。
ラバァルが立ち上がると、ラーバンナーたちが駆け寄ってきた。
「ラバァル、よく無事に連れ戻せたな。さすがだ。」ラーバンナーがそう言うと、
ニコルは不満げにぶつぶつと文句を言い始めた。
「ラバァル~、僕の出番、少なすぎじゃない? せっかく迷宮に来たのに、全然活躍できてないよ。」
「ははは、そうか? 十分働いただろう、なぁ、エルトン。」ラバァルがそう言うと、エルトンは呆れたように答える。「贅沢言うな、ニコル。俺たちだって、大人しく待ってたんだぞ。」
「だってさぁ、暇なんだよね。怪物もほとんど出ないし。」ニコルがそう言うと、ラバァルは鋭い視線を向け。「おいニコル、お前は怪物と戦いたいのか?だったら普段からちゃんと修行して実力をつけておけ。ラーバンナー、エルトン、帰ったらニコルの特訓に付き合ってやれ。次がいつ来るか分からんが、次からは戦力になりたいらしいからな。」
ラバァルがそう指示を出すと、ラーバンナーとエルトンはニヤリと笑い、ニコルを見た。ニコルは、しまったという表情を浮かべて。「ちぇ、分かったよ。大人しくしてるから。」
ニコルの答えに、ラーバンナーは「それでいい」と頷く。
ラバァルが仲間たちと話していると、シャナが近づいてきた。「ラバァル、マルティーナ様をお救いいただき、本当にありがとうございます。」珍しく、シャナが丁寧に礼を述べた。よほどマルティーナのことを心配していたのだろう。
「シャナ、体は大丈夫か?」ラバァルは、マルティーナの夢の中で、赤黒闘気でできた巨大な針でシャナの腹を貫き、魂力を吸い取ったことを覚えていた。現実のシャナに影響が出ていないか少しばかり気に病んでいた。
何も知らないシャナは、「何かご存じなの?」と尋ねてきた。
「何か、とは?」ラバァルが聞き返すと、シャナは言った。「そうよね、知ってるはずないわよね。私でさえ、さっき気づいたばかりだもの。」
「何に気づいたんだ?」「あのね、こうなってから、体の中から信じられないくらいの力が湧いてくるのを感じてたんだけど、2時間くらい前から急に力が抜けたみたいに感じてて。まるで、半分くらいになっちゃったみたいな感覚なの。だから、さっきまで皆さんと離れて、色々試してたんだけど、セティア様からいただいた神聖な力は問題なく使えるのに、前に得た妖艶な力の方は、もう使えなくなっちゃったみたいなの。」
「なるほどな。」ラバァルは思案したが、とりあえずこちらのシャナが無事なことに安堵した。
結果オーライだ。話を切り上げることにしよう。
「よし、そろそろ中に入るぞ。先に行った奴らが心配だ。」ラバァルが声を張り上げると、マルティーナがオクターブを連れてやってきた。オクターブもシャナと似た装備を身に着けている。ラバァルは一瞥したが、もともとオクターブに興味がないのでマルティーナに視線を移して、
「よし、それじゃあ行こうか。」声を掛け中へと進む。
「はい、ラバァル様。」マルティーナは、信頼に満ちた眼差しでラバァルを見つめ、そう答えた。ラバァルを先頭に、オクターブ、マルティーナ、そして最後尾のシャナという順で、〖ニフルヘイム〗へと続くゲートの中へと足を踏み入れた。
ゲートを抜けた瞬間、目の前に広がったのは、一面の銀世界だった。轟々と吹き荒れるブリザードが視界を奪い、鋭利な氷の粒が容赦なく肌を突き刺す。ラバァルは、マルティーナたちの様子を確認するため、後ろを振り返る。
すると、オクターブが慌てた様子でマルティーナを庇い、ブリザードに紛れて飛んでくる氷塊を懸命に防いでいた。パチン、パチンと天使装備に氷塊が当たる音が響く。やがて、天使装備が眩い光を放ち、オクターブの周囲に結界が展開された。結界はマルティーナも包み込み、ブリザードは結界に触れた瞬間に粉々に砕け散る。シャナの周囲にも同様に結界が現れ、ブリザードを遮断しているのが見えた。
マルティーナたちが無事なのを確認すると、ラバァルは歩き始めた。ザク、ザク、ザク、ザク、ザクと雪を踏みしめる音が、ブリザードの轟音に混ざって響く。
しばらく雪山を進むと、赤、緑、青が混ざり合い、淡い光を放つ何かが見えてきた。ザクザク、ザクザク、ザクザクと光に近づいていくと、その周囲に二人の人影がいることに気づいた。相手もこちらに気づいたようで、警戒の視線を向けてくる。
ラバァルは、そのうちの一人が放つ気を感じ、ラージンだと気づく。そのまま近づき、「よぉ、ラージン。生きてたか。」とぶっきらぼうに声をかけた。
そして、警戒しているもう一人を無視して、光の方に意識を向けたのだ。近くで見ると、積もった雪の上に大きな"sigil"が描かれているのが確認できた。
「ふむ、転送紋に似てるな。だが、あれより大分複雑に描かれている。」ラバァルは、これがどれほど凄いものかは分からなかったが、これを書いた者は只者ではないと言う事は理解できた。そして、この周辺だけブリザードが消えている理由を探し始めた。
周囲をじっくり観察すると、ある地点からブリザードが見えない壁に当たり、下へ落ちていることに気づく。「なるほど、結界か。そういえば先ほどあいつらもやってたな。」オクターブとシャナの結界を見たばかりだったので、そう思ったのだ。実際は、天使装備のアビリティで張られたものだったのだが、ラバァルは同一視していた。
実際、これほど広範囲の防御魔術を維持できる魔術師は少なく、
ノース大陸全体でも100名に満たないだろう。
そして、ようやく警戒していたもう一人に意識を向けた。"sigil" の横に立つ、紺碧色のローブを着た精悍な顔つきの男だ。この男がマルティーナが話していた
【炎帝ガーベラン】だと理解した。
全身から滲み出る、深淵を覗き込むような威圧感。ラージンの魔力とは明らかに異なる、極細の鎖状に編み上げられたマナが、ガーベランの体を這うように纏わりついている。それは、常人には視認できないほどに高密度化されたマナであり、紺碧のローブの上から、まるでアストラル体のヴェールのように、微かに輝きながら全身を覆っていた。ラバァルは、その光景から、高度な魔法防御のバフが展開されているのだと推測していた。
その時、ガーベランが声をかけてきた。「私はガーベランと申します。あなたは?」
「俺はラバァル。パーティのリーダーをしている。」
「なるほど、あなたがリーダーですか。しかし、戦闘はすでに始まっていますよ。」
「そうだな、遅れてすまない。色々あってな。」
ラバァルたちが話していると、オクターブたちと共にマルティーナもやってきた。ガーベランを認識すると、前に進み出た。「あなたが、【炎帝ガーベラン】様ですね。私はマーブル王国の王女、マルティーナと申します。」
「ガーベランです。今回は、貴国より〖ニフルヘイム〗封印の依頼を受けました。」
「お引き受けいただき、感謝いたします、ガーベラン様。それで現在の状況は?」
「はい。ご覧の通り、私の準備は整っております。しかし、〖ニフルヘイム〗は強大という言葉では足りない、超越した存在です。現状では、封じ込めることは困難でしょう。」
「〖ニフルヘイム〗の力を大幅に削る必要があります。現在、巨人騎士と3名の冒険者が前線で戦っておられるのですが、私の認識では、まだほとんど効果が出ていないようです。」
マルティーナは「巨人騎士」という言葉に反応し、ラージンを見た。「巨人騎士が?」
ラージンは、マルティーナの瞳に浮かんだ不安と期待を読み取り、「はい、マルティーナ様。駆けつけてくれたのはあのゲオリク殿です。」と、深い敬意を込めて答えた。
ゲオリクの名を聞いた瞬間、マルティーナの胸に熱いものが込み上げて来る。戦場に駆けつけてくれた巨人騎士への感謝、そして無事を願う切実な思いが、静かに、しかし強く彼女の中で高まる。
その時、〖ニフルヘイム〗の胴体を貫き、地面へと落下していくベラクレスを救うため、ブリザードで視界が遮られる中、ゲオリクは迷うことなく跳躍し、落下するベラクレスへと猛スピードで接近。
跳躍中、ゲオリクはマルティーナからの感謝の念を感じ取り、ベラクレスを受け止めると、そのまま地面に着地した。轟音と共に、周囲の雪が舞い上がり、視界を白く染め上げる。その中で、ゲオリクはベラクレスを静かに地面に降ろすと。
「マルティーナが、こちらへ入った。」ゲオリクは、降ろしたベラクレスにそう告げる。
ベラクレスは、落下から救ってくれたゲオリクに感謝し、マルティーナが目覚めたことを知って安堵した。「ゲオリク殿、助かった。それに、マルティーナ様が目覚められたということは、ラバァルも一緒だな」
ゲオリクは、ラバァルのことを名前しか知らず。まだ力を隠しているラバァルを、感知できていなかったので何も答えられない。
「…。」
「ラージン、遅れてごめんなさい。私がいない間も、よくやってくれたわね。感謝します。」マルティーナは、ラージンにも感謝の言葉をかけた。
「当然のことでございます、マルティーナ様。よくお目覚めになられました。ラバァル殿、マルティーナ様をお救いいただき、本当に感謝いたします。」
「PTリーダーとして当然のことをしたまでだ。それに、俺を探し出し、呼びに来たのはシャナだ。彼女にも感謝しておけ。」ラバァルがそう答えると、ラージンはシャナに言う。
「そうか、シャナ。よく見つけてくれたね。」
シャナは、「セティア様のおかげです。」と短く答えた。そして、状況を理解すると、
「では、私も参戦します、マルティーナ様。」と許可を求める。
「分かりました。シャナ、気を付けて。」マルティーナの許可を得て、シャナは天使装備の力と焦げ茶色の天使の翼を広げ、飛び立った。
その様子を見たオクターブは、自分も行こうとしたが、ラバァルに制止された。
「馬鹿か、お前は。お前まで行ってしまえば、誰がマルティーナ様をお守りするんだ?シャナが疲れて戻ってきたら、交代すればいいだろう。」
ラバァルの言葉に、オクターブはマルティーナを一瞥し、冷静さを取り戻した。「確かに、あなたの言う通りです、ラバァル。」内心では不満を抱きつつも、オクターブはそれを表に出さずに我慢。
「マルティーナ様たちは、ラージンたちとここで待機し、時折遠隔から回復魔法をかけていてくれ。
俺は前線に行く。」
ラバァルの指示に、マルティーナは頷いた。「ラバァル様、お気を付けて。」
ラバァルは、自信に満ちた笑みを浮かべ、「問題ない。」と言い残し、前線へと向かう。
ベラクレスを地面に降ろし、マルティーナの到着を告げるや否や、ゲオリクは轟音と共に空へと舞い上がった。彼の目的はただ一つ。〖ニフルヘイム〗の注意を引きつけ、パーティのために時間稼ぎをすることだと割り切っていた。
「フンッ!」咆哮とともに、ゲオリクの剛腕に握られたスカイブレイカーが、
〖ニフルヘイム〗の巨大な胴体を傷つける、ニフルヘイムが暴れた衝撃で周囲に雪煙が広がる中、ゲオリクはまるで重力など存在しないかのように、流れるような跳躍を繰り返す。
〖ニフルヘイム〗から放たれる破壊的な攻撃を紙一重で回避しながら、
その巨体に追撃を叩き込んでいく。
一方、ゲオリクに救助され、辛うじて着地したベラクレスは、20m上空を悠然と浮遊する〖ニフルヘイム〗を見上げ、自らの力の限界に苛立ちを募らせていた。先ほどの連携攻撃も、ゲオリクの助けがなければ、地面に叩きつけられ、命を落としていただろう。強大な〖ニフルヘイム〗を前に、ベラクレスは深い無力感に苛まれていたベラクレスは、
悔しいが、ロゼッタたちの元へと退避する事にした。
するとその時、ベラクレスは何か大きな気を持つ者が飛来してそのままニフルヘイムへ突っ込んだ事を逃げながら察知、
〖ニフルヘイム〗が激しく巨体をくねらせて咆哮を上げ、
周囲の雪を巻き上げる、地面にその巨体が何度も叩きつけられると
物質で出来た斜面にも関わらず削られてしまい、広い範囲が平地へ変えられてしまう。
辺りはブリザードに加え、舞い上がる雪で視界が完全に遮られてしまって全く見えない。
ベラクレスは逃げる事を優先していた為、振り返りはしなかったが後ろで大きな咆哮と共に暴れまわっている巨大な存在の事をニフルヘイムへだと思い、やって来た何かが、これを誘発させたと考えていた。
一方ロゼッタたちは、
「うおぉ!ロゼッタ、早く逃げろ!巻き込まれるぞ!」リバックの怒声が聞こえるが、
姿が見えない。どちらへ逃げれば良いのか分からぬ状況で、ロゼッタはリバックの声がした方へ跳躍し、追随する。
落下地点が〖ニフルヘイム〗に近かったベラクレスは、その場を離れる為、気を解放、常人を遥かに凌駕する速度で危険地帯から脱出していた。
そして、再び〖ニフルヘイム〗の方角へと視線を向けたのだ。
「さて、あんな化け物を相手に、どう戦うか…」ベラクレスは自問自答。
ロゼッタも、ようやく雪氷が舞うエリアから抜け出し。リバックを見つけると、
「リバック、無事だったのね!」と安堵の声を掛けた。
「なんとかな。だが、ベラクレスが心配だ。〖ニフルヘイム〗に突撃したまでは見えたんだが…」リバックがそう話していると、ズド~ン!と轟音が響き、ゲオリクが近くに着地した。
「心配いらん。ベラクレスは無事だ。」ゲオリクはそう言い残し、再び跳躍して消え去ってしまった。
「.....」 二人は呆気にとられたけど、取り合えずベラクレスが無事な事を知り、一安心。
一方、〖ニフルヘイム〗の体内へと突入したシャナは、前後左右に高速移動しながら、天使の剣を振るい、魔力を削り取っていた。限界速度で飛び続け、マナエネルギーを削り続けるシャナの姿を捉えたゲオリクは、呟いた。
「セティアに〖力〗を授けられたマルティーナの守護者か…」
神力で魔力エネルギーを削れる者が現れたことを喜びつつも、ゲオリクは〖ニフルヘイム〗が巨大な魔力の湖であることを再認識。シャナが削っている魔力など、微々たるものだと言う事を知っていたのだ。
「まだまだ足りん。この調子では、100年かかるだろう…」
今、自身に神力がないことを、ゲオリクは悔やむ。
丁度その時、ラージンたちのいる方向から、巨大なレーザーが飛来し、〖ニフルヘイム〗の体に風穴を開けたのだ。ゲオリクは驚き、レーザーの発射源を確認するため、
発射方向へと跳躍。
数回の跳躍の後、着地したゲオリクは、空中に浮かび上がっている巨大な"sigil"を発見。
雪上を見ると、近くでガーベランが、次の攻撃を発動させようとしているのが見えた。
空中に浮かぶ巨大な"sigil"が、ひときわ輝きを増すと、そこから次の熱レーザー砲が発射されたのだ。
ズゴーーーーーーーン!
発射されたレーザーも、〖ニフルヘイム〗を直撃してそのまま貫通したのが見える。
その衝撃で、〖ニフルヘイム〗のエネルギー量がこれまでよりも大きく減少した事を感じると、ゲオリクは、呟いた。「人間ごとき者が、あれほどの魔法を… セティアの言う通り、人間には私の知らぬ未知の可能性が…」
この攻撃は、堅物ゲオリクにも、これまでの考えを改めねばならぬと思わせていた。
最後まで読んで下さりありがとう、引き続き次を見掛けたらまた読んでみて下さい。




