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生贄の迷宮地下1階にて。

ヴァンデッタが作り出した罠で入った一面荒野の世界は、

ヴァンデッタが巨人騎士ゲオリクに倒された事により、崩壊し始めた、

荒野に居た者たちは皆、その世界から追い出されてしまい・・・ 


                その82




 

「女神セティアよ、本当に……本当に、マルティーナを救う手立てはないのですか?」

ゲオリクは、床に座したまま、目の前に立つ神々しい存在…マルティーナの肉体を借りたセティアへと、切実な問いを投げかけた。その声には、普段の彼からは想像もできないほどの、強い想いと真剣な響きが込められていた。

そのゲオリクの魂の波動を感じ取ったセティアは、僅かに不思議そうな表情を(光の顔であるため表情の変化は読み取れないが、雰囲気として)見せた。

「……ゲオリク。あなたは……『マルティーナ』に、特別な感情を抱いているのですね?」

「……そうだ。私は、マルティーナに仕えようと、長年仕えたバルモント宮を出たのだ。彼女を守ること、それが今の私の存在理由になる」

ゲオリクは、迷いなく答えた。

「……あなたほどの、かつて大神に仕えた高位の闘神が……なぜ、まだ未熟な人の子であるマルティーナに、そこまで……?」

セティアは、純粋な好奇心から尋ねた。

「……分からぬ。理屈ではない。ただ……私の魂が、マルティーナを放ってはおけぬと、そう告げておるのだ。理由は……それだけで十分であろう」

ゲオリクの言葉には、揺るぎない覚悟があった。

ゲオリクの真意を知ったセティアは、沈黙の後、一つの可能性…あるいは、唯一の可能性かもしれない道を、彼に示した。

「……ゲオリク。あなたは、『ラバァル』という者を知っていますか?」

「ラバァル……? ……以前、マルティーナとの会話の中で、その名が出たのを耳にした程度だが……。それが、何か?」

「……そのラバァルという人間を探し出し、マルティーナに引き合わせれば良い、と……そういうことか?」

ゲオリクは、セティアの意図を察しようとする。

「……彼を引き合わせることで、マルティーナの自我が確実に目覚めるかどうかは、私にも分かりません。ですが……それは、現状で考えうる、唯一の『可能性』を秘めています。彼女の心の殻を、内側から破る可能性を……」

セティアは、それ以上の説明はしなかった。

ゲオリクとセティアの会話は、人間の時間感覚では一瞬にも満たない、神々の領域での意思疎通であった。周囲のノベル達には、彼らが何を話しているのか、全く聞こえもしなければ、気づくこともなかった。


彼らが気づいたのは、胡坐をかいて座っていた巨人騎士ゲオリクが、不意にこちらを向き、今度は人間にも理解できる言葉(あるいは、直接思考に語りかけるようなイメージ)で、問いかけてきた時だ。

「……お前達。『ラバァル』という者のことを、知っておるな?」

ゲオリクの問いかけは、突然だった。だが、その名を聞いて、ノベル達は一様に反応した。皆、ラバァルという存在に、様々な形で関わってきたからだ。

ノベルが代表して答えた。

「はい、存じております。彼は、私達……王国兵の一団と冒険者達を合わせた、この探索行全体のリーダーを務めておられました」

「ほう……リーダーか。して、その者は今、どこにおる」

「……それが……この区域に来る前の場所で遭遇した、〖ヨトォン〗と呼ばれる巨大な神獣…それを、ラヴァル様は単身で追跡して行かれました。そこまでは分かっているのですが……その後の消息は、我々も全く……」

ノベルは、申し訳なさそうに答える。

「ふむ……。つまり、はぐれてしまった、ということか」

「……はい。巨人殿のおっしゃる通りです」

「……分かった。ならば、その、はぐれたという場所まで、私を案内せよ。……ラバァルという者を見つけ出さねば、マルティーナは……このまま消滅することになるやもしれん」

ゲオリクの衝撃的な言葉に、ノベル達は皆、息を呑んだ。

(マルティーナ様が……消える……!?)

だが、同時に疑問も湧き上がる。では、今、目の前にいる、この神々しい姿のマルティーナは、一体何者なのか、と。


その疑問を察したかのように、ゲオリクは説明を加えた。

「……お前達が見ているこの姿は、マルティーナ本人ではない。光の女神セティアが、一時的にその肉体を借りて顕現しておられるのだ。本来のマルティーナの意識は、先ほどのヴァンデッタの精神攻撃から自らを守るため、心の奥深く…硬い殻の中に閉じこもってしまっている。セティア様がおっしゃるには、これを無理やりこじ開ければ、マルティーナ自身の自我が傷つき、壊れてしまう危険がある、とのことだ。……それゆえ、彼女自身の力で、あるいは何か強いきっかけによって、自ら殻を破って出てくるのを待つしか、道はないとのことだ」

そこまで聞いて、ノベルは、これまでのマルティーナのラバァルに対する特別な態度や、時折見せる複雑な表情を思い出し、腑に落ちた。(……だから、ラバァル殿なのか……。マルティーナ様の心の殻を破る鍵が、彼にあるかもしれない、と……)

「……分かりました、ゲオリク殿。事情は理解いたしました。準備ができ次第、すぐに出発いたしましょう」

ノベルは、決意を固めた。彼は、すぐさま、先ほど女神セティアの力によって奇跡的に回復したテリアルとベラクレスの様子を確認する。二人は、まだ少し虚ろではあるが、自力で立ち上がり、会話も可能な状態まで回復していた。


「巨人殿、出発の準備は整いました。ですが……どうやって、この奇妙な荒野から、元の場所へ戻ればよいのでしょうか?」

ノベルは、現実的な疑問をゲオリクにぶつける。

「案ずるな。元凶であるヴァンデッタは、私が討ち滅ぼした。奴が作り出したこの異空間も、長くは保つまい。そろそろ空間が崩壊し、お前達は元いた場所…あの迷宮の通路へと戻されるはずだ」

「この空間が……消える……」

まだピンとこない説明ではあったが、元の場所へ戻れると知り、ノベル達はひとまず安堵した。



【場面転換:シャナの覚醒と旅立ち】

……だが、彼らは知らなかった。ゲオリクが決死の突撃で原子崩壊させ、消滅させたはずのヴァンデッタ。その本体は滅びたものの、彼女が放っていた強大な『魅惑のオーラ』の一部…自我を持たない純粋なエネルギー体が、本体の消滅という危機的状況を本能的に察知し、辛うじて消滅を逃れていたことを。

それは、まるで赤い炎が揺らめくような、小さな煙のような姿となり、地上へと降り立っていた。そして、本能に導かれるまま、同じ『魅惑』の属性を持つ存在…ヴァンデッタの唾液によって変貌させられたシャナの元へと、吸い寄せられるように進み始めたのだ。

ノベル達がゲオリクと話をしている間に、その赤い煙のようなエネルギー体は、意識を失い倒れているシャナの元へと辿り着くと、僅かに開いた彼女の口の隙間から、スルスルと体内へと入り込んでいった……。

それから、しばらくして。

シャナの体が、ピクリと動いた。入り込んだエネルギー体が、彼女の体内で何かを引き起こしたのか。まず、ベラクレスとの戦いで負ったはずの僅かな傷(足は再生していたが、他の打撲など)が急速に治癒していく。さらに、ヴァンデッタによって魅了され、赤糸を切られた際に受けた精神的なショックも修復され、閉じていた瞼がゆっくりと開かれた。

シャナは、ぼんやりとした意識の中、ゆらゆらと体を起こした。

「……ここは……? わたくしは……? ……そうだ、マルティーナ様……! マルティーナ様はご無事なの!? 探さなければ……!」

シャナは、まだ少しふらつく足取りで立ち上がると、主君であるマルティーナの姿を探し始めた。



【場面転換:ダクソンとシャナの遭遇】

一方、恐怖心から仲間を見捨てて逃亡を続けていたハンターのダクソンは、疲労困憊しながらも、ひたすら荒野を歩き続けていた。だが、彼の周囲の景色もまた、奇妙な変化を見せ始めていた。

(……なんだ? 景色が……溶けている……?)

まるで空間そのものが歪み、溶け出していくかのように、赤い荒野の景色が掻き消え、代わりに、薄暗く、湿った石造りの壁と天井が現れ始めたのだ。しばらくすると、荒野の景色は完全に消え失せ、彼は、いつの間にか、迷宮のダンジョンらしき通路の中に一人で立っていた。

「……ここは……? いったい……?」

混乱するダクソンの目に、すぐ近くに立つ、異様な姿の人影が映った。背中には蝙蝠のような黒い翼、額には二本の角、そして燃えるような赤い髪。それは、先ほど彼が遭遇した化け物…変貌したシャナの姿だった!

「……ひっ!」

ダクソンは、恐怖で全身が震え上がるのを感じながら、咄嗟に愛用のハンドボウガンを構えた。そして、近づいてくる赤髪の女に向けて、恐怖のあまり、相手をよく確認することもなく、矢を放つ!

「う、うわぁぁぁっ! 来るな! こっちへ来るな!」

パシュ! パシュ! パシュ!

三本の矢が、続けざまに放たれる。

しかし、矢はシャナの体に届く前に、彼女の周囲に漂う不可視のオーラによって弾かれたのか、あるいは単にかすりもしなかったのか、彼女は何事もなかったかのように、ゆっくりとダクソンの方へ歩み寄ってくる。

ダクソンの手は恐怖で震えが止まらず、焦るあまり、次の矢をボウガンに装填することすらできない。おたおたと狼狽えるばかりだ。

その時、赤い髪の女が、意外にも落ち着いた声で、彼の名を呼んだ。

「……ダクソンさん?」

「……え? な、なぜ……俺の名を……?」

ダクソンは、恐怖よりも困惑が勝り、恐る恐る相手の顔を見た。

その顔立ちは……確かに、どこかで見覚えがある。だが、その異様な姿と、何よりも、彼女が身に着けているものに、ダクソンは再び衝撃を受けた。それは、服と呼ぶにはあまりにも布面積が少ない、極めてきわどい下着のようなものだったのだ。

(……な、なんだ、その格好は……!? 酒場の踊り子だって、こんな破廉恥な格好はしないぞ……!)

ダクソンの脳裏に、場違いな思考が駆け巡る。ゴクリ、と生唾を飲み込み、彼は改めて尋ねた。

「……あ、あなたは……いったい、誰なんだ……?」

「……あなたは、冒険者パーティのハンター、ダクソンさんですよね?」

「……そ、そうだが……」

「わたくしは、マーブル王国王女マルティーナ様にお仕えする護衛の、シャナと申します」

「……はぁぁぁ!?」

ダクソンは、完全に呆気にとられた。シャナ? あの、いつも凛としていて、規律正しい槍使いのシャナが? この、角と翼を生やし、スケスケ下着のみの格好をした女と同一人物だというのか?

(……そうだ、確か、あの婆さん魔術師と戦っていたはず……。もしかして、何か強力な呪術でも掛けられて、こんな姿に……?)

ダクソンは、自分に都合の良い解釈を勝手に始めると、途端に恐怖心が薄れ、代わりに別の感情…好奇心と、わずかな下心が頭をもたげてきた。

「……それで、シャナ……殿? 他の皆さんは、どこにおられるのですか?」

シャナは、少し困ったように首を振った。


「……それが、わたくしにも分からないのです。気がついたら、この場所に一人で……」

「……俺と、一緒だ」

そこで、ダクソンは、改めてシャナの異様な姿について尋ねた。なぜ髪が赤く長くなっているのか、なぜ角や翼が生えているのか、そして、なぜそんな格好をしているのか、と。

シャナは、朧げな記憶を辿りながら答えた。

「……うっすらとですが……まるで、他人事のように、自分が何かされているのを、見ていたような……。確か、赤いドレスを着た、とても美しい……魔女のような方に、何かされたようなのです……。ですが、詳しくは……」

ダクソンとシャナが、そんな会話を交わしていると、シャナが鋭い気配を感知し、ダクソンを制止した。


「……しっ! 何者かが近づいてきます……! ……数が多い……!」

ダクソンも、ハンターとしての本能で、複数の足音が近づいてくるのを感知する。

「……かなり多いな……! こりゃあ、二人じゃ無理かもしれん……!」

「……ええ。ですが……もう囲まれています。……逃げられません!」

すると、ダクソンは荒野で見つけた赤い槍を、悪魔の様な姿のシャナに、無言で渡そうとした、

シャナもこの槍を使えと言ってるのね、そう受け取ると、その槍を手にして身構える。 

 

二人に急速に接近してきたのは、ロゼッタとリバックだった。そして、反対側からは、回復したベラクレスとテリアルも近づいてきていたのだ。

ロゼッタは、翼と角を生やした異様な姿のシャナを見て、ダクソンが化け物に襲われていると即座に判断し、攻撃を仕掛けて来た!

「待て!」 するとそれを見たリバックが叫ぶ!

カキンッ!

【烈風剣】を纏わせたロゼッタの剣が、シャナへと襲いかかる! だが、シャナは、飛来する剣を、咄嗟にダクソンから受け取ったばかりの赤い槍で弾き返した!

「……私の剣を弾いた……!?」

ロゼッタは、先制攻撃を防がれたことに驚きながらも、着地と同時に再び攻撃態勢を取る。しかし、リバックの制止の声に、一瞬動きを止めた。

(……こんな時に、何を言ってるの!?)

「双方とも、待てと言っている!」

リバックが、再度、強い口調で制止した。

その声を聞いたダクソンは、相手が誰か気づくと。

「……お、お前、リバックか!」

「そうだ。その声はダクソンだな。……よくぞ、無事でいたな」

「ダクソン! そっちの、翼の生えた怪しい女に、襲われていたんじゃないの!?」

ロゼッタは、まだシャナへの警戒を解かずに尋ねる。その疑問に、後ろから追いついたベラクレスが答えた。

「……待て、ロゼッタ。その女性は……姿こそ、サキュバスと見間違えるほど変わり果ててしまってはいるが……王女護衛の、シャナだ」

「やっぱり!? それは、本当なのですか、ベラクレス隊長!?」

ロゼッタは、顔が似ているとは思ってはいたのだが、余りにも違う雰囲気に、半信半疑だったので聞き返した。

「本当だ。俺は、彼女が……あの赤いドレスの魔女……【ヴァンデッタ】と名乗る半神によって、この姿に変えられるのを、この目で見ていた」

「半神の魔女……ヴァンデッタ……」

「それで……ダクソンは、シャナと、どうしてこのような場所に?」

ベラクレスがダクソンに尋ねる。

「い、いや……俺も、あの……シャナ殿の姿を見て、てっきり化け物かと……。それで、ビビって、ハンドボウガンを、何度も……。も、もちろん、シャナ殿だと気づかずに、だ! そしたら、シャナ殿は、撃たれた俺に怒るでもなく、こうして事情を話してくれていたんだ!」

ダクソンは、慌てて弁解した。

「ふむ……。そこに、俺達がやって来たと、そういうわけか」

リバックが状況を整理する。

ドスン……。ドスン……。

その時、ひときわ大きな、地響きのような足音が近づいてくるのが聞こえた。

「……なんだ? この大きな足音は……?」ダクソンが訝しむ。

「……あの音は……! 巨人騎士ゲオリク殿と……そして、マルティーナ様の中にいらっしゃる、女神セティア様だ!」

ベラクレスが、驚きと畏敬の念を込めて言った。

「ゲオリク……? あの、バルモント宮にいた……!? それに、マルティーナ様の体の中に、女神セティア様が……だって!?」


ロゼッタ達は、ベラクレスの言葉に、さらに驚愕した。

「そうだ。ゲオリク殿は、我々を……いや、マルティーナ様を助けるために、駆けつけてくださったのだ」

その会話に、「マルティーナ」の名が出た瞬間。それまで、自らの異様な姿と下着同然の格好を恥じらい、小さくなっていたシャナの表情が一変した。

「……マルティーナ様! マルティーナ様は、ご無事なのですか!?」

彼女にとって、他のどんなことよりも、主君の安否が最優先事項なのだ。

その問いに、一番の仲間であるオクターブが、姿は変わり果てていても、無事であったシャナを見て、安堵の表情を浮かべながら駆け寄り、答えた。

「マルティーナ様のお体は、ご無事だ、シャナ。だが……! ラバァルを見つけなければ、マルティーナ様の自我と、お体そのものが、消えてしまうかもしれないそうだ!」

「オクターブ! あなたも無事だったのですね! ……良かった……!」

「君もだ、シャナ! 心配したぞ!」

二人は、しばし互いの無事を喜び、固く抱き合った。

しかし、すぐにシャナは現実に引き戻された。

(……ラバァルを見つけなければ……マルティーナ様が消える……? いったい、どういうこと……?)

ピンとこない状況に戸惑っていると、近づいてきた巨人騎士ゲオリク…その肩の上に、光り輝くマルティーナ(セティア)の姿があるのを、シャナは認識した。

その神々しい姿を見て、シャナは、自分が魅了され、主君の命令に背き、あろうことかヴァンデッタの元へ走ってしまったことを思い出した。慚愧(ざんき)に駆られた彼女は、その場にうずくまり、祈るように、涙ながらに許しを請い始めた。

「マルティーナ様……! わたくしです、シャナです……! ああっ……! 申し訳ございません……! どうか……どうか、この愚かなわたくしを、お許しください……マルティーナ様……! うっ……うっ……」

すると、ゲオリクの肩の上で輝いていたセティア(マルティーナの体)の光る目が、✨と一際強く輝きを増し、シャナを見つめた。その視線を受けた瞬間、シャナの体に、再び変化が起こり始めた!

「うぅぅ……うっ……うう……」

額の角が、スッと引っ込んでいく。背中の蝙蝠のような黒い翼は、色と形を変え、やがて、美しいこげ茶色の、天使の翼のような形へと変容した。まるで、堕天使が、再び光を取り戻したかのように。

変化が終わると、セティアは、シャナに向けて、そっと片手を差し伸べた。その瞬間、先ほどまで下着同然だったシャナの体に、眩い光が集まり、一瞬にして、白銀に輝く、神聖な天使の鎧と戦装束が装着されたのだ。自分で着用する間もなく、奇跡の力によってだ、翼も白くはなかったが天使の翼が与えられていた。

そして、セティアは、シャナにしか聞こえない神の言葉で、語りかけた。

《……マルティーナの守護者、シャナよ》

「ああっ……! 女神、様……! これは、いったい……」

《シャナ。今、マルティーナの魂は、この体の深い場所で、硬い殻に閉じこもり、崩れかけの自我を必死で守っています。……その殻を破り、彼女を呼び覚ますためには、あなたの力が必要なのです。……ラバァルを探し、マルティーナの元へと連れてきなさい》

「マルティーナ様が……殻に……。わたくしの力……そして、ラバァルを……」

《そうです。あなたならば、その理由も……ラバァルという存在が、マルティーナにとって何を意味するのかも、薄々感づいているはずでしょう》

「……ラバァルを……。……はい。……分かります」

シャナは、セティアの言葉の真意を理解し、覚悟を決めた。

《……ならば、行きなさい。マルティーナのために。……いいえ、あなた自身の想いのためにも。……一刻も早く、ラヴァルを探し出し、連れてくるのです》

「……承知いたしました、女神セティア様。必ずや、ラヴァルをお連れいたします!」

それまでうずくまっていたシャナが、すっくと立ち上がった。その姿は、もはや先ほどまでの、恥じらいを見せていた女性ではない。白銀の鎧を纏い、こげ茶色の天使の翼を広げ、その瞳には強い決意と使命の光が宿っている。まるで、戦乙女ヴァルキリーが降臨したかのように、凛として、神々しいまでの輝きを放っていた。

彼女は、集まった仲間達に向かって、力強く宣言した。

「私は、女神セティア様より神託を授かりました! これより、ラバァルを探し出し、マルティーナ様をお救いするために、探して連れてきます!」

そして、その言葉が終わるや否や、シャナは背中の翼を大きくはためかせ、一陣の風と共に、迷宮の暗闇の彼方へと、一直線に飛び去っていったのだった。



最後まで読んでくれありがとうございます、引き続き、続きを見掛けたらまた読んでみて下さい。  

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