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少年達と鉱山 その4

鉱山から出て来ない子供たちに気付いた大人たちは、大慌てで

捜索隊を編成する事に!   

          その7



それから3時間近くが経過した頃、鉱山入場者名簿の時間管理を担当する鉱山管理人のジョペリは、入坑者リストにあるタンガ、スペアー、ロスコフの名前が、退坑時間になってもチェックされていないことに気づき、焦り始めていた。


「まずい、あいつらまだ出てきてないぞ!」


三人が連れ立ってやってきたのは、午前のことだ。ジョペリは彼らと会話したのをはっきりと覚えていた。特に、その中の一人がワーレン領主のご子息だったため、余計に記憶に残っていた。あの時も、少しだけ心配したことを覚えている。


ワーレン侯爵家のご子息が退坑時間になっても地下坑道から出てこない。慌てたジョペリは、すぐにワーレン侯爵領を統治しているフォルクスに知らせる者を送ることにした。


そして、自らは捜索隊を募り始めた。


一方、予期せぬ事態に見舞われたフォルクスたちは、自分たちの実験の失敗により、地下にトンネルを作ってしまったと考えていたのだ。


まだ輝き、活性化している【大魔晶石】には手を付けず、その日はワーレン家の屋敷に戻り、酒とつまみで寛いでいた。


川魚の焼き物を食べながら、ワインを飲むエクレアは言った。


「いいのかい?あの大魔晶石を放置しておいて。まだ光ってたよ。」


木の実をかじりながらエールを飲むフォルクスは答えた。


「仕方なかろう。よく分かっていないことに手を出しても、ろくなことにはならん。今は様子を見るだけにしておこう。」


すると、大きな牛肉にかぶりつき、エール用のジョッキでワインを飲み干したロウ爺さんが言う。


「わははは、そのよく分からんことに儂らを巻き込んで、実験していたのはフォルクス様ではないか!」


「ははは、痛いところを突いてくるでないか、ロウ。」


「しかしフォルクス様、あれほどのエネルギーの塊を跳ね返してくるとは。あれではまるで、私が使ったマジックレーザーを、後から何百倍にも増して返してきたようにあたしゃぁ思えたねぇ。」


そんな話をしていると、外が騒がしいことにエクレアが先に気づく。。


「何かあったようだね。」


「あの大魔晶石がまた何かしたのかな?」


その時、鉱山で見回りを手伝っているダンケンから知らせを受け取ったワーレン侯爵家の門番が、慌てて屋敷に駆け込み、執事のマリウスに報告した。


「大変です、マリウス様、ロスコフ卿が……」


「なんだと?それはまことか!」


「はい、今、鉱山管理の者が知らせにまいりました。」


「分かった。フォルクス様には私から知らせよう。それと、使いの者にチップをやってくれ。」


「承知いたしました。」


マリウスは門番にコインを一枚渡し、足早にフォルクスたちが寛いでいる客室へと向かった。


コンコン、コンコン!


「なんじゃ?騒がしいぞ。」


「フォルクス様、大変です!」


「何が大変なんじゃ。さっさと入って話せ。」


部屋の中からフォルクスが入室許可を出す。


「失礼いたします。」


落ち着きを取り戻し、息を整えて部屋に入ると、


「どうしたのじゃ、マリウス。そなたがそんなに慌てるのは見たことがないぞ。」


「大変です。ロスコフ卿が、ご友人と共に坑道から出てこないとの知らせが入りました。」


それを聞いた途端、リラックスしてつまみを食べ、酒を飲んでいたロウとエクレアは、まるで酔いが覚めたかのように素早く立ち上がった。


フォルクスも立ち上がり、


「鉱山へ行く。今すぐ捜索隊を招集するのじゃ!」


「分かりました。すぐに知らせてまいります。」


執事のマリウスも素早く行動を開始し、先ほど知らせを持ってきた門番に言った。


「鉱山に捜索隊を派遣するため、すぐに人を集めるようにとのフォルクス様のご命令です。」


「分かりました、マリウス様。片っ端から声をかけてまいります。」


門番はそう言うと走り出した。マリウスも他の者に声をかけ、それを受けた者たちもまた走り出す。領地内の男たちは次々と捜索隊に志願し、鉱山へと向かう。



捜索隊が到着した。


入口の入場者リストに記載されたタンガ・クロスロード(11)、スペアー・トマージュ(9)、ロスコフ・ワーレン(10)の3名が退坑時間になっても出てこないことが分かり、鉱山管理人たちは大慌てだった。


捜索隊の第一陣が坑道内へと送られていた。


時間と共に、捜索隊に志願した者たちが次々に集まり、その数は増え続け、第二、第三捜索隊は坑道内へと入っていく。


そこにフォルクスたちも駆けつけた。ロウ爺さんとエクレアも一緒だった。三人が坑道へ降りようとすると、鉱山管理人の一人が立ちはだかり、制止。


「お待ちください、フォルクス様。現在、第四捜索隊の者も坑道に入っております。ここは彼らにお任せして、待っていた方が……」


高齢のフォルクスを心配してのことだろう。しかし、フォルクスは激怒した。


「馬鹿者!今、坑道内にいるのは儂の命よりも大事な孫じゃ!ロスコフは次の時代の当主なのじゃぞ!」


フォルクスは凄まじい怒りを見せ、怒鳴った。


周囲の者たちも見たことのないフォルクスの姿にざわめく。


ザワザワザワ……


一番近くで怒鳴られた鉱山管理人は、


「あわわわわわわ……」


肝を冷やし、小さく縮こまってしまった。


その様子を見たロウとエクレアは、


「しっかりしなさい。あなたは立派に管理人の立場でものを言っただけだよ。」


エクレアがそうフォローを入れる。


「よし、降りるぞ、二人とも!」


ロウ爺さんはフォルクスとエクレアに声をかけ下へ降りて行く。



それから2時間後。


衰弱した二人の子供が救出され、一人の子供の遺体が家族の元へ戻される事に。


救出された翌日、すでに起きていたロスコフは、祖父と共にスペアーの家へと向かっていた。スペアーの家は、麓にある小さな家だという情報をフォルクスは得ていた。今はロスコフと共にその家へと向かっていたのだ。


「落ち着きなさい、ロスコフ。坑道内で倒れていたお前たちが救助されたのは昨夜のことじゃ。まだ眠ったばかりの体なのだぞ。無理をするでない。」


焦って走り出そうとするロスコフを、フォルクスは諭しながら向かっている。



スペアー家の生業は農作業だとフォルクスの耳にも入っていた。その状況を考慮し、亡き息子を悼む両親にどう接するべきか、フォルクスは思案しながら歩いていたのだ。


やがてスペアーの家の近くに到着すると、近隣の住民が集まり、昨夜運び込まれたスペアーの遺体の周りには花が飾られ、葬儀が執り行われているのが見えた。


ロスコフとフォルクスも葬儀に参列するためやって来たのだ。


ロスコフは、上半身だけとなったスペアーの顔を見つめ、別れを告げる。フォルクスは参列者に向かって語りかけた。


「スペアー殿の勇気ある行動に、心より感謝申し上げます。ご両親様には、深く哀悼の意を表します。」


ロスコフは、スペアーの両親の前で涙ながらに語った。


「僕が弱かったせいです。僕が逃げる途中で遅れてしまった時、スペアーは僕を助けるために戻ってきてくれたんです。僕の代わりに化け物を引きつけてくれたから、スペアーは死んでしまったんです。すべて僕のせいなんです。もっと体力があれば、もっと剣の稽古をしていれば……うっ、うっ……」


領主の息子であるロスコフの言葉は、参列者の心に深く響き共感。スペアーの勇敢な行動を称え、幼い命が失われたことを皆が悲しんだ。


フォルクスは、ロスコフを助けて命を落としたスペアーの家族に、深い感謝と哀悼の意を表した。そして、見舞金として領主が所有する小麦畑の一部を、100年間無償で貸与することを約束する事にした。これまで他人の畑で働いていたスペアーの両親にとって、それは非常にありがたい申し出だ。



タンガは、葬儀の様子を遠くから見つめていた。周囲の話し声は聞こえてはないが、その様子をぼんやり眺めていたのだ。


タンガは、スペアーの死を受け入れられずにいた。あまりにも大きな喪失感に打ちひしがれていたのだ。


タンガの傍らには、スペアーの霊体が寄り添っていた。スペアーの霊体は、思考能力を失っていたが、無意識で何時もの様にタンガの側にいたのだ、そこが自分の居場所だと感じていたのかもしれない。


タンガには、スペアーの霊体が見えず、気配も感じられてなかったのだが。


スペアーの霊体は、生前と変わらずタンガの側にいようとしていた。しかし、両親の悲しむ姿や、葬儀で悲しむタンガの姿を見て、何かを感じ取ったのだろう。


スペアーの霊体は、徐々に姿を消し始め、天へと昇っていく。それは、もう止めることのできない流れだった。スペアーの霊体は、最後にタンガの姿を目に焼き付け、消えていくことに。


スペアーが天に昇ったことに気づかないタンガは、葬儀に参列しているロスコフの姿を見て、彼が無事だったことに安堵していた。




最後まで読まれた方、ありがとうまた続きを見かけたら宜しくです。

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