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生贄の迷宮 その7

転移装置の先を進み始めた一行は真ん中の通路を進み始めていた、

すると横壁の岩盤を掘って描かれた岩石の巨人がある事を見つけ、近寄り

見始めたのだ、すると。     

                その67



満身創痍のタワーシールドを前面に押し立て、リバックは敢然と前へ進み出た。自らを囮とし、迫りくる岩石の巨人たちの注意を引きつけようというのだ。その決死の行動に、後方にいた者たちも即座に反応する。

「岩石の巨人がこちらへ移動してきます! マルティーナ様、どうかお下がりください!」

シャナが鋭く叫ぶ。事態を察知した王国兵士たちも、マルティーナを安全な後方へと誘導しつつ、自身らは前線へと進み出て槍を構え、戦闘態勢を整えた。

前方では、壁から現れた二体の岩石の巨人が、侵入者である一行を排除すべく動き出していた。一体は、先ほど凄まじい衝撃波と共に両手斧を地面に叩きつけた巨人。もう一体は、左手に巨大な岩の盾を、右手には同じく岩で作られた巨大な槍を構えている。

幸い、その動きは、のっそりとしており、比較的緩慢に見えた。そのおかげで、冒険者たちは迎撃の準備をするための、わずかな時間を稼ぐことができていた。

しかし、油断は禁物だ。先ほどの一撃が示したように、その巨体から繰り出される攻撃力は桁外れであり、まともに受ければ一撃で肉塊と化すことは想像に難くない。床に開いた巨大な穴と、衝撃波の威力が、その破壊力を雄弁に物語っていた。


そんな圧倒的な脅威に対し、自ら進んで近づいていく、命知らずな男がいた。名をリバック。この迷宮へ向かう途中の街でラバァルに誘われ、ノベル、そして今は亡きジュリアンと共にパーティーに加わった三人のうちの一人だ。彼のクラスはアーマーナイト。身長196センチメートルという恵まれた体躯を持つ大男であり、その全身を覆うほどの巨大なタワーシールドは、彼のトレードマークとなっていた。誰が見ても、彼がパーティーの『盾』役であることは明らかだ。


だが今、その彼が、自分よりも何倍も巨大な岩石の巨人に向かって、果敢にも歩を進めている。ボロボロの盾を構え、自らに攻撃を引きつけようとするその行為に、彼のことをまだよく知らない者たちは、信じられないものを見るような、驚愕の眼差しを向けていた。

リバックの意図通り、岩石の巨人たちの敵意は、自ら近づいてくるこの命知らずな男へと向けられた。

巨人の前では、まるで小さな子供のように見えるリバック。だが、その小さな子供は、攻撃モーションに入ろうとする巨人の目前まで迫ると、ボロボロのタワーシールドを地面に突き立て、両腕に渾身の力を込めて踏ん張った。「ここから先は、絶対に一歩も通さん!」とでも言うような、不動の体勢を取ったのだ。

すると、リバックの正面にいた両手斧持ちの巨人は、意外にも斧を振るうのではなく、その石の眼窩を神々しく光らせると、大きく口を開き、灼熱の炎を吐き出し始めた! 扇状に広がった紅蓮の炎は、盾を構えて踏ん張るリバックを瞬時に飲み込み、さらにその後方へと拡散していく!

「いかん!」

その光景を見た国家魔術師のラージンは、即座に防御魔法の詠唱を開始した。

「ヴェントゥム・オビチェ・イグネム・ネコ!」(風壁もて、炎を滅す!)

最前線で炎に飲み込まれたリバック。灼熱の奔流に晒されてから、既に3秒が経過。その後ろにいたヒューイも2.5秒、さらに後ろのテリアルも2秒…次々と炎に包まれていく。絶望的な状況。

だが、ラージンの詠唱が完了した瞬間、戦況が変わった!

リバックたちの前面に、強力な上昇気流によって形成された透明な大気の壁が出現したのだ! 岩石の巨人が吐き出す猛烈な炎は、その気流の壁にぶつかり、激しく掻き乱されながら、上方へと強制的に逸らされていく!

ラージンの防御魔法が炎を防ぎ始めてから、さらに1.5秒後。炎の勢いが弱まり、飲み込まれていた者たちの姿が再び見え始めた。

「皆さん!」

走り出していたマルティーナが、炎に焼かれた者たちの状態を確認しようと前線へと駆け寄る。その後ろから、オクターブが必死に声をかけた。

「危険です、マルティーナ様! これ以上前に出てはなりませぬ!」

しかし、マルティーナは毅然として振り返った。

「何を言いますか、オクターブ! 彼らは私たちのために、最前線で戦っておられるのですよ! 後ろにいる私たちが、ただ見ているだけで良いと、本当にお思いなのですか!」

「ですが、マルティーナ様、あなたの御身に万が一のことがあれば……!」

「このパーティーで強力な回復の祈りを行えるのは、私だけです。彼らを救うためには、私が行かねばなりません。シャナ、行きますよ!」

"勅旨!"

シャナはオクターブに「私が必ずお守りします」と目配せすると、マルティーナの護衛としてすぐ後に続いた。

ジュゥゥゥ……!

炎に焼かれた金属製のタワーシールドやプレートアーマーが、未だ高温を保ち、空気を焦がす音を立てている。岩石の巨人が吐き出した炎の温度は、摂氏1300度にも達していたであろう。もう少し長く炎に晒されていれば、中の人間は文字通り丸焼きになっていたはずだ。ラージンの迅速な対応が、彼らの命を救ったのだ。

「ひゅぅ~……あちちち……! 危うく黒焦げになるところだったぜ……」

ボロボロとはいえ、タワーシールドと分厚いプレートアーマーで守られていたリバックは、比較的軽傷で済んだようだ。

しかし、軽装備だった吟遊詩人兼剣士のヒューイは、そうはいかなかった。彼の身に着けていた革鎧や衣服の薄い部分は熱で溶け落ち、その下の肉体が広範囲にわたって焼け爛れてしまっている。死んではいないようだが、激しい苦痛にうめき声を上げることしかできない、深刻な状態だった。

一方、テリアルの装備は、比較的火に強い素材――特殊な鱗と皮を組み合わせて作られた鎧――だったため、装備が溶けることなく熱に耐えきったようだ。彼も火傷は負ったものの、ヒューイに比べれば軽いやけどで済んでいた。

後方から急ぎ駆けつけたマルティーナは、三人の状態を確認すると、最も重傷であるヒューイにすぐさま駆け寄り、癒やしの祈りを捧げようとした。

だが、その暇はなかった。ラージンの防御魔法は、あくまで炎を遮断するためのものであり、物理的な攻撃を防ぐほどの強度はない。気流の壁を、もう一体の槍持ちの岩石巨人が、いとも簡単に突き破り迫ってきたのだ!

その手に握られた巨大な岩の槍を、大きく振りかぶる!

「うわっ! 今度は槍かよ!」

「来るぞ!」

誰かが叫んだ。

ドバァァァァァン!!

だが、槍が振り下ろされるよりも早く、突如として大きな爆発音が響き渡った! 槍を掲げていた岩石の巨人が、バランスを崩して後方へと大きくのけぞる!

「ば、爆発!? いったい何が……?」「巨人がよろけてるぞ!」

石像巨人の攻撃を避けようと、地面を転がっていたテリアルは、回転しながら立ち上がると、その予期せぬ光景に何が起こったのかと目を見張った。

すると、後方から凛とした女性の声が響いた。

「ダクソンよ!」

声の主はロゼッタだった。

彼女の声に、他の冒険者たちも、王国兵たちと共に後方に位置していた狩人ダクソンの姿を確認。

彼は、ヨトゥンとの戦いで仲間の無残な死を目の当たりにし、恐怖のあまりパニックを起こして逃亡を図り、結果的にヨトゥンの攻撃を受けて気を失った男だ。その一件以来、パーティー内での彼の立場は微妙なものとなり、どこか影の薄い存在となっていた。彼自身もそれを気にしているのか、あるいは単に臆病になっているのか、常に後方の、特に安全と思われたマルティーナ王女の側に身を寄せるように行動していた。

今回も、マルティーナが負傷者の治療のために前線へ向かった際も、彼は後方に留まって様子を窺っていたのだ。しかし、その彼が、ここぞという場面で動いた。手持ちの数少ない切り札――爆発鏃を使い、仲間たちの窮地を救ったのである。

「おうっ! 助かったぜ、ダクソン!」

テリアルが感謝の声を上げる。影の薄かった男に、皆の注目が集まった。

「いいぞ、ダクソン! どんどん撃ってくれ!」

だが、ダクソンが持っていた爆発鏃の数は、全部で6本しかない。その貴重な一本を今、使ったばかりだ。もっと撃てという要求があったが、彼はこれを切り札として温存しておきたいと考えていた。しかし、今の状況――的が大きく動きも比較的遅い巨人タイプが相手ならば、爆発鏃が最も効果を発揮できる場面かもしれない。ダクソンは、残りの矢を最も効果的なタイミングで使うべく、冷静に戦況を見極めようとしていた。

それから約6分間、一行は文字通り死力を尽くして戦った。

槍を構えた王国兵士たちが、決死の覚悟で一体の石像巨人の足元に群がりつき、その動きを抑え込む。その隙に、アスタリオンやロゼッタら、攻撃力のある冒険者たちが、もう一体の石像巨人へと集中攻撃を仕掛ける。さらに、後方からダクソンが放った2本目の爆発鏃が、巨人の頭部に見事命中!

ドガァン!

大理石で作られた頭部が半壊し、巨人がよろめいた瞬間を見逃さず、アスタリオンが渾身の斬撃を叩き込む! バキィィィン! という音と共に、岩石巨人の頭部は完全に砕け散り、その巨体は力を失ってその場に崩れ落ち、動かなくなった。

しかし、冒険者たちは油断せず、まだ動く可能性を警戒して様子を窺う。やがて、崩れた岩石の中から、砕けた魔晶石の破片を発見した。

「どうやら、眼球として埋め込まれていたこの魔晶石が、ゴーレムの動力源となっていたようですね。これが破壊されたことで、活動を停止したのでしょう」

国家魔術師ラージンの説明に、ノベルも頷き、同意を示す。

「よし、一体片付いた! ってことは、残りの奴も、あの目玉を狙えばいいんだな!」

アスタリオンが叫ぶ。

「ええ、おそらく。あの眼球が活動エネルギーを供給していると考えられる」

ラージンが答える。

弱点が判明したことで、戦いの方針は明確になった。特に指示がなくとも、自然と連携が生まれる。王国兵士たちが槍で巨人の足止めをしつつ注意を引きつけ、その隙に冒険者たちが頭部の眼球を狙って攻撃を加える、という戦術だ。

好機と見たテリアルが、崩れた一体目の岩石巨人の残骸を踏み台にして高く跳躍し、残る一体の槍持ちの巨人の顔面めがけて双剣を突き入れようと突っ込んだ!

だが、巨人もさるもの。テリアルの動きを予測していたのか、突如、お辞儀をするかのように首を下げ、兜のように盛り上がった額の部分を突き出すようにして頭突きを繰り出した!

空中で回避する術を持たないテリアルは、そのモヒカン状に尖った岩石の兜に、まるでサッカーボールのようにヘディングされ、再び後方へと大きく吹き飛ばされてしまう。

だが、その直後、ダクソンが放った3本目の爆発鏃が、頭突きを繰り出した直後で無防備になった巨人の頭部に炸裂した!

ドガァァァァァン!!

兜状の頭部が爆風で砕け散り、巨人はバランスを崩して横倒しになった!

「ぐあぁぁっ!」「ぎゃゃゃっ!」「ぐふっ!」

だが、その倒れ込んだ先には、巨人の足止めをしていた王国兵士たちがいた! 避けきれなかった数名の兵士が、倒れてきた巨人の下敷きになってしまう!

後方へ吹き飛ばされ、地面を転がっていたテリアルは、幸運にも巨人の下敷きになることは免れた。

「くそっ! 兵士たちが下敷きに!」

誰かが叫ぶ。

「見てる場合じゃねぇ! 今のうちに、あの頭を完全に砕け!」

他の冒険者たちが、悲劇に構うことなく、倒れた巨人の頭部へと殺到し、残った眼球部分を徹底的に破壊する。やがて、二体目の岩石巨人も完全に動きを止めた。

戦闘が終わり、静寂が戻ると、シャナが声を張り上げる。

「何をしているのです! 早く、下敷きになった兵士たちを助けてください!」

その声に、我に返った者たちが、動かなくなった岩石巨人の下へと駆け寄る。巨大な岩石の下敷きになった兵士は3名いることが分かった。

皆で力を合わせ、なんとか岩石を持ち上げ、下敷きになった兵士たちを引きずり出す。しかし、その状態は悲惨なものだった。

一名は、片足が完全に圧し潰され、千切れてしまっているのが分かった。もう一名は、ほぼ全身が潰れており、既に絶命しているのは明らかだ。残る一名も、激しい損傷を受けているが、かろうじて息はあるようだ。

「足を失ったが、まだ生きている者を優先しろ!」

誰かの指示で、生存している兵士の救助が優先された。彼は瓦礫の下から助け出されると、すぐに意識を取り戻したが、失った足の激痛に耐えきれず、凄まじい悲鳴を上げ始めた。

「ぐあああああああっ! 痛えぇぇぇぇぇっ! 痛いぃぃぃぃぃぃよぉぉぉぉぉっ!」

先ほど大火傷を負ったヒューイの治療を終え、テリアルの様子を見ようとしていたマルティーナは、兵士たちが下敷きになったという報告を受け、すぐにそちらへと向かった。

現場の惨状に一瞬言葉を失ったが、すぐに気丈さを取り戻し、片足を失い激痛に泣き叫ぶ兵士に、凛とした態度で告げた。

「〖セティア〗様への祈りを捧げます。どうか、じっとしていてください」

彼女は、兵士を支えている他の者たちに、しっかりと押さえておくように目配せすると、再び聖なる祈りを捧げ始めた。それは、失われた部位の再生をも促す、高位の治癒魔法だった。

「サナーレ・ヴルヌス、レニーレ・ドローレム、メンバー・フォルティフィカーレ!」(傷を癒し、痛みを和らげ、肢体を強固にせよ!)

祈りが捧げられた瞬間、兵士の体はビクンと激しく痙攣し、さらなる激痛に襲われたかのように暴れようとした。だが、両脇にいた仲間たちがしっかりと押さえつけ、動きを封じる。

やがて、マルティーナの祈りが終わり、女神セティアの奇跡がもたらされた。サンサンサン……✨ サンサンサン……✨ 暖かな陽光のような輝きが、兵士の失われた足の付け根へと降り注ぐ。シュパァァァ……! ジュュュュ……! 夥しい量の蒸気が上がり、傷ついた細胞が急速に再生していくのが目に見える。そして、信じられないことに、失われたはずの足が、まるで時間を巻き戻すかのように、みるみるうちに再生し始めたのだ!

マルティーナによる奇跡的な治癒が行われる一方で、完全に下敷きになってしまった兵士たちの救助も進められていた。リバックが中心となり、他の者たちと協力して巨大な岩石を少しずつ動かし、下から引きずり出そうとしていた。だが、発見された二名の兵士は、残念ながら助けることはできなかった。岩石の圧倒的な重量と圧力によって、文字通り潰されてしまっており、その遺体は、戦い慣れた冒険者たちでさえ直視し続けることが困難なほど、無残な状態となっていた。

その悲しい結末を伝えられたマルティーナは、静かに目を閉じ、しばし黙祷を捧げた。そして、目を開けると、悲しみを湛えながらも、毅然とした声で指示を出す。

「……そうですか……。これまで、王国のために本当によく尽くしてくれた、勇敢な兵士たちです。……火葬にて、丁重に弔って差し上げましょう」

王女の指示に基づき、残された王国兵士たちは、仲間たちの遺体を丁寧に岩石の下から回収し、ラージンの魔法で起こした火で、荼毘に付した。

その間、冒険者たちは、少し離れた場所から、その行為をただ黙って見守っていた。

「……俺たちも、ほんの少しの差で、あちら側だったかもしれん。ただ、運が良かっただけだ……」

誰かが、ぽつりと呟いた。

「……そうだな……」

別の者が、短く応じた。皆、明日は我が身かもしれないという現実を、改めて噛み締めていた。

弔いが終わると、一行は、石像の巨人が守っていたと思われる、廊下の突き当りにある扉へと向かった。

先ほどの戦闘で炎に焼かれたり、負傷したりしたリバック、テリアル、ヒューイは、まだ体力が回復しきっておらず、後方で休憩を取っていた。今回、先頭に立って扉を開ける役目を担ったのは、王国兵たちだった。中でも、先ほどの戦闘では目立った活躍がなかったオクターブと、自信を失い精彩を欠いていたベラクレスが、マルティーナの指示を受け、他の兵士たちと共に、大きな扉へと向かった。

彼らは用心深く扉に近づき、力を合わせてゆっくりと押し開けていく。扉が開くと、中から興味深い声が聞こえてきた。

「おおっ! これは……! 埃まみれだが、武器や防具が大量に飾られているぞ!」

「かなりの数だ……! しかも、見たところ、どれもかなり上等な品物のようだ!」

その声に、後方で待機していた冒険者たちが、即座に反応して動き始めた。先ほどまでの疲労や悲しみはどこへやら、我先に部屋の中へと駆け込んでいく。負傷してぐったりしていたはずのリバックたちまでもが、互いに目を見合わせてニヤリと笑うと、むくりと立ち上がり、他の冒険者たちの後を追って部屋の中へと入っていった。


部屋の中に入ると、壁一面に、様々な種類の武器や鎧、盾などが、まるで博物館のように展示されていた。だが、それらは全て、分厚い埃に覆われている。冒険者たちは、我慢できずに、めいめい興味を引かれた装備品の埃を払い落とし、その状態を確認し始める。


先ほどの装飾品の部屋での失敗(?)にも懲りず、あちこちで埃爆弾が炸裂する。だが、冒険者たちにとって、装備品の吟味は何よりも重要なことなのだろう。多少の埃など気にも留めず、夢中になってお宝を探し始めた。もちろん、息が続かなくなった者は、慌てて部屋の外へ退避しては、また戻ってくるということを繰り返していたが。


ここまで、度重なる戦闘で装備は消耗しきっていた。このタイミングで、これほど大量の、しかも質の高そうな装備を発見できたのは、まさに僥倖と言えた。

そんな中、王国最強と謳われながらも自信を喪失していたベラクレスは、部屋の奥の壁に掛けられていた、一際立派な大剣の前で足を止めていた。彼はしばらくの間、ただ黙ってその大剣を眺めていたが、やがて意を決したように近づき、その柄にそっと手を触れた。

その瞬間、大剣の刀身に刻まれていた複雑なルーン文字が、まばゆい光を放ち始めた! そして、刀身全体が急速に熱を帯び、まるで炉で熱せられたかのように、赤々と輝き出したのだ! しかし、金属が溶けることはなく、その美しい形状は保たれたままだ。

「こ……この大剣は……!?」

ベラクレスが驚愕の声を上げる。近くで別の装備品を見ていたノベルが、その異変に気づき、ベラクレスの元へと駆け寄ってきた。

「……! その大剣に刻まれたルーン文字が、あなたに反応して発動したようですね」

「う、うむ……。これが魔法の剣であることは、俺にも分かる。だが、この尋常ではない熱量は……いったい何なのだ?」

ベラクレスは、柄を通して伝わってくる強大な力に、畏敬の念を抱いていた。

「それは、このルーンを刻んだ者の技量が、桁外れに高かったということでしょう。そして、この剣は、あなたを選んだ……。あなたがお使いになるのが、この剣の意志なのかもしれません」

ノベルは、その剣が持つであろう特別な力を感じ取り、そう推測した。

「……うむ……。信じられん……。体が……この剣を欲しているのが分かる……! 震えがくるほどに……! 王より賜った、あの大剣でさえ……いや、比べることすら烏滸がましいほどの、この圧倒的な力強さ……!」


ベラクレスは、柄を握る手に力がみなぎり、全身に活力が満ちてくるのを感じていた。それは、単なる剣の熱量だけではない、何か別の力が作用しているようだった。

その力強さとは、ルーンの効果によって大剣がヒート状態になることだけではない。この大剣には、所有者の筋力、体力、そして気力(闘気)をも増強させる魔法が付与されていたのだ。ベラクレスの発言からその可能性を察したノベルは、彼にそのことを説明した。

「すると……この沸き上がってくるような高揚感や力強さは、すべてこの大剣の力だというのか……?」

ベラクレスは驚きを隠せない。

「はい。おそらく、あなたには今、強力なバフ(強化効果)がかかった状態になっているのです。試しに、一度その大剣を置いてみてはいかがでしょう? きっと、その力も消えるはずです」

ノベルの言葉に従い、ベラクレスは名残惜しそうに大剣を元の場所へと置いた。すると、先ほどまで感じていた、あの全身を駆け巡るような力強さと高揚感が、嘘のように消え失せたのだ。

「……なるほど。この大剣を持つと、力が湧いてくるのか。……面白い。実に、面白いぞ! 今の俺に、これほどふさわしい装備はない! ノベル殿、感謝する。この大剣、俺が使わせてもらうぞ!」

自信を取り戻したベラクレスの瞳には、再び力強い光が宿っていた。彼は誇らしげに、赤熱する魔法の大剣を手に取った。

他の者たちも、それぞれが自身の装備を吟味し、より良いものへと換装していた。その中で、先ほどの戦いで最も過酷な役割を果たしたリバックもまた、新たな装備を見つけていた。

ヨトゥンの攻撃で瀕死の重傷を負い、石像巨人の炎に焼かれ、ボロボロになったタワーシールドとプレートアーマー。彼はそれらを脱ぎ捨てると、部屋の隅に置かれていた、一際重厚な全身鎧フルプレートアーマーに目を付けた。分厚い埃を払い落とすと、その下から現れたのは、美しい銀色の輝きを放つ鎧だった。

それは、単なる物理的な防御力だけでなく、魔法や毒、瘴気など、あらゆる種類の攻撃に対して高い耐性を持つ、魔法の鎧であるようだった。見た目にもかなりの重量があり、このパーティーの中で、この鎧をまともに扱えそうな者は、リバック以外にはほとんどいないだろう。

だが、彼は迷うことなくこの鎧を選び、身に着けた。まるで、彼のためにあつらえられたかのように、その巨体にぴったりとフィットする。新たな鎧と、同じく新たに見つけた、一回り大きくさらに頑丈そうな銀色で幾つもの棘が付いた大盾を装備したリバックは、満足そうな笑みを浮かべて、新たな装備の感触を確かめていた。 







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