生贄の迷宮 その6
ヨトォンにハメられたラバァルは、ヨトォンの主人と思われる者との闘いを強いられる事に、
一方、追って行ったラバァルとは別の方角へと探索する事となったマルティーナ王女や冒険者たちは、
新たなる転移装置を発見する事と成り・・・
その66
辛くも太陽頭の怪物を打ち破ったラバァルだったが、その代償はあまりにも大きかった。物質界に存在する人間の肉体が許容できる限界を遥かに超えたエネルギーを引き出し、酷使した結果、彼の肉体と精神は崩壊寸前にまで追い込まれていたのだ。力を使い果たし、気を失ったラバァルの体は、太陽頭の怪物が遺した灼熱のマグマ溜まりへと、力なく吸い込まれていく……。
だが、その一部始終を、人知れず観察していた存在がいた。マグマの熱気で揺らめく空間に、まるで蜃気楼のようにぼんやりと、実体を持たない何者かの姿が浮かび上がっていたのだ。それは、この物質界の存在ではないことを示唆していた。
その者は、ラバァルたちの死闘をただ静かに傍観していた。そして、戦いが終わり、ラバァルがマグマに飲み込まれるのを見届けると、誰に言うともなく、静かに呟いた。
「偶然か、あるいは必然か……。〖狂える領域〗と称される、あの忌まわしき存在が消滅する場に、このような形で居合わせることになるとはな。しかも、神に連なる者を屠り、あまつさえその〖力〗を己の内に取り込む存在が、この物質界に現れた……。これは、看過できぬ事態だ。憂慮すべき事実として、速やかに〖根源の座〗で報告せねばなるまい。……人間など、取るに足らぬ微小な存在と認識していたが、どうやらその認識は改める必要がありそうだ」
謎めいた言葉を残すと、その揺らめく姿は、ふっと掻き消えるようにその場から消え去った。
一方、その頃。
ラバァルが死闘を繰り広げていたことなど知る由もないマルティーナたちは、仲間を失った悲しみを乗り越え、先へと進んでいた。
ノベルとリバックは、アスタリオンとロゼッタと共に、ジュリアンの亡骸を迷宮の片隅に丁寧に埋葬。掘り起こした土を静かに戻し、墓標の代わりに、彼女が生前愛用していた黒檀の手斧を深く突き立てる。リバックとノベルは、三人で共に冒険した日々の、特に印象深い思い出を語り、最後の別れの言葉を掛けた。短くも濃密な時間を共にした仲間への弔いを終えた四人は、先に出発していたマルティーナたちの後を追い、やがて合流を果たした。
合流後、一行が探索を続けていると、以前と同じような、床からわずかに浮遊しながら淡い光を放つ転移紋を発見。しかし、彼らはその転移紋の手前で足を止め、議論を交わしていた。リーダーであるラバァルが不在の今、この未知の転移装置の先に進むべきか、それとも彼の帰還を待つべきか――意見が分かれていたからだ。
「ですが、ここに入らなければ、先に進むことはできません」
マルティーナが、進むべきだと主張する。
「しかし、もしこのエリアよりもさらに危険な敵が現れたら? リーダー抜きで、どう対処するおつもりなのですか?」
経験豊富な冒険者の一人が、現実的な懸念を口にする。ヨトゥンやブラックグラントとの戦いを経て、彼らはこの迷宮の危険度を身をもって知っていた。
「それは……正直、私にも分かりません。ですが、皆さんは、ラバァル様に頼ってばかりで本当に良いのですか?」
マルティーナは、やや強い口調で問いかける。彼女の言葉に、従者のオクターブも同調。
「マルティーナ様のおっしゃる通りです。ラバァル殿がいなければ一歩も前に進めないなどと、王国兵士ともあろう者が、そのような腑抜けたことでどうするのですか!」
オクターブの言葉に、王国兵士たちは「うおお」と士気を高める様子を見せた。だが、実戦経験豊富な冒険者たちの反応は異なっていた。冒険者を代表する形で、魔法剣士のロゼッタが冷静に、しかしはっきりとマルティーナに意見を述べる。
「はっきり申し上げます、マルティーナ様。現状、私たちはこのエリアにたどり着くだけでも命からがらでした。そして、仲間を一人失ってしまいました。この先に進めば、先ほど遭遇したヨトゥンやブラックグラントよりも、さらに手強い相手が出現するでしょう、その事を考慮しなければなりません。それは、ほぼ確実と言っていいでしょう。そのような危険な場所へ、リーダーを欠いた、万全とは言えない状態で進むのは、あまりにも無謀です。可能な限り、戦力を整えてから挑むべきです。もし、これまでの敵よりもさらに危険な相手に囲まれでもしたら……間違いなく、私たちは全滅します。それでも、リーダーの帰還を待たずに先へ進むと、おっしゃるのですか?」
ロゼッタの理路整然とした意見に、マルティーナは静かに答える。
「……あなたの言うことも、よく分かります。ですが、危険なのは、この迷宮に足を踏み入れた時から同じだったはずです。これまでの戦いで、私たちはその危険を身をもって体験しました。だからこそ、より慎重になり、躊躇なさっているのでしょう。それも理解できます。しかし、ラバァル様に依存しすぎることもまた、危険だと私は考えます。彼が戻ってこなかった場合、私たちはどうするのですか? この任務は、彼がいなくとも、私たちがやり遂げなければならないのですよ」
マルティーナは一度言葉を切り、皆の顔を見渡した。「そして何より……私たちに残された時間は、もうほとんどないのです。マーブル国は、今この瞬間も、凍てつく吹雪に覆われています。道中で見たトラブスタンの惨状を思い出してください。民は飢え、凍え、次々と命を落としています。あと何日、いいえ、あと何時間持つか……もしかしたら、もう数分の命しかない方もいるかもしれない。私達には、いつ戻って来るか分からない方を、ただ待っているだけの時間的余裕は、もう残されていないのです!」
マルティーナの悲痛な叫びにも似た言葉に、ノベルが重々しく口を開く。
「……道中で立ち寄ったトラブスタンの様子を思い返しても、マルティーナ様のお言葉は決して大袈裟ではありません。あの街が、あと何日も持ちこたえられるとは思えなかった。それが、私たちが目の当たりにした現実です。皆さん、どうか思い出してください。私たちがなぜ、この危険な迷宮に足を踏み入れたのか。何のために、ここまで降りてきたのかを」
ノベルの言葉に、アスタリオンも続く。
「……そうだぜ。俺たちは、マーブルの民を救うためにここへ来たんだ。もちろん、あわよくばお宝も欲しいってのは本音だが、一番の目的は、あの忌々しい吹雪を止めることだ。民が皆死んじまった後で吹雪を止めたって、何の意味もねぇ。……危険なのは百も承知だ。だが、俺たちには、もう立ち止まっている時間はないんだよ!」
これらの発言が、場の空気を一変させた。躊躇していた冒険者たちの顔にも、覚悟の色が浮かび始める。
「……そうだな。……分かった。ぐずぐずしていても始まらん。先へ進もう」
誰かが言うと、他の者たちも次々と頷く。
意見がまとまると、一行は再び転移紋へと向き直った。前回と同じ手順で、マルティーナが起動用の紋章に触れ、詠唱を行う。転移紋が眩い光を放ち、最前列にいた者たちから順番に、その光の中へと吸い込まれ、別の空間へと転送されていった。
4、5秒ほどの浮遊感と意識の混濁の後、転移させられた者たちの中から、いち早く意識を取り戻した者が周囲の状況に気づき、声を上げる。
「……ん? ここはどこだ? やけに……暖かいな……?」
最初に状況を把握したのは、やはり屈強なリバックだった。彼の声に、他の者たちも次々と意識を取り戻し、周囲を見回して驚きの声を上げる。
「本当だ、寒くない……! むしろ、生暖かい……? いったいどうなってるんだ? まるで……部屋の中みたいじゃないか?」
彼らが転移してきた場所は、これまでの迷宮とは全く異なる、人工的な建造物の一室だった。石造りの壁に囲まれ、装飾などはほとんどない、だだっ広い空間。まるで、どこかの砦や城塞にある、兵士の詰め所のような部屋だった。そして、部屋の一方には、明らかに人の手で作られた木製のドアが取り付けられていたのだ。
頭の回転が早いリバックは、すぐさまそのドアに近づき、開けようとドアノブに手をかけた。その後ろから、ノベルが慌てて声をかける。
「リバック! 待ってください! まずは全員の準備が整うのを待ってからにしましょう!」
ノベルの制止に、リバックは一旦手を止め、後ろを振り返って仲間たちを見渡した。全員が武器を構え、警戒態勢を取っている。互いに目配せをし、無言のうちに意思疎通を図る。準備は整ったようだ。
「よし、開けるぞ!」
リバックは改めてドアノブに力を込めた。
バァンッ!!
しかし、ドアはびくともしない。かなり長い年月、開閉されていなかったのだろう、固く錆び付いているようだ。リバックは予想以上の抵抗に、「くそっ!」と悪態をつきながら、全身の力を込めてドアを押し始めた。渾身の力を込めて押し続けると、頑なに閉ざされていたドアが、ついに「バキッ!」「ミシミシッ!」という軋み音と共に動き始め、最後は「バァァァン!!」という大きな音を立てて、勢いよく内側へと開いた!
扉が開いた瞬間、力を込めすぎていたリバックは、そのままの勢いで部屋の外へと飛び出してしまい、通路の反対側の壁に激突。「うわっ!」という短い悲鳴と共に、跳ね返って床にズッコケてしまった。
「いっててて……。はぁ、はぁ……ちくしょう、なんて硬ぇドアなんだ! 全く開かないかと思ったぜ……」
リバックは痛む体をさすりながら、悪態をついた。
部屋の中にいた他の者たちの中から、好奇心の強い者が、開かれたドアの先を覗き込み、通路へと足を踏み出し始める。アスタリオンは、壁にぶつかってへたっていたリバックに手を貸し、立ち上がるのを手伝う。
「ご苦労さん、リバック。しかし、驚いたな。ここはマジで、誰かが作った建物の中みたいだぜ。部屋から出たら、石造りの廊下だ。それに……見ろよ、壁に明かり取りのランプまで設置されてる。しかも、火が灯ってるぞ。まさか、誰か住んでるのか?」
アスタリオンの疑問に、ノベルがランプを観察しながら答えた。
「いいえ、それはまだ何とも言えません。ですが、あのランプの灯り……普通の炎の色ではありませんね。少し青みがかって見えます。おそらく、燃料に魔晶石が使われているのでしょう」
ノベルの推測に、テリアルが驚きの声を上げる。
「魔晶石だと!? こんな、誰が来るかも分からないような迷宮の奥深くで、ただの明かり取りに、貴重な魔晶石を使ってるっていうのかよ!?」
「ええ。以前、古い遺跡でこれと同じような原理のランプを見たことがあります。おそらく間違いはないかと」
ノベルは自信を持って答えた。その確信に満ちた口調に、テリアルも納得したようだ。
一行は、転移してきた部屋から出て、魔晶石ランプが照らす石造りの廊下を進み始めた。マルティーナたちも、オクターブとシャナに護衛されながら後に続く。その後ろを、ベラクレス、ラージン、そして王国兵たちが続く。
廊下を進むと、最初に入ってきた部屋のドアと同じようなドアが、一定の間隔で並んでいるのが見えた。いくつか通り過ぎたところで、リバックが他のドアの中も調べるべきか尋ねるような視線を向けたが、彼は先ほどの苦労がよほど堪えたのか、力なく首を横に振る。「もう開けたくない」と言っているかのようだ。
それを見た他の冒険者――テリアルが、自分で開けてみようと試みた。しかし、やはりドアは非常に重く、固く閉ざされており、一人ではびくともしない。
「おい、ヒューイ、手伝ってくれよ!」
テリアルは、近くにいた剣士兼吟遊詩人のヒューイに応援を頼んだ。二人がかりで力を込めてドアを押してみるが、それでもドアは全く動く気配を見せなかった。すると、ヒューイが諦めたように言った。
「テリアル、もうやめよう。この古びたドアを見る限り、おそらくこれらの部屋も、俺たちが出てきた部屋と同じような、空っぽの詰め所か、せいぜい独房だろう。きっと、中には何もないさ」
開ける労力に見合うだけの価値はないだろう、とヒューイはテリアルを諭す。
「……そう、だな。多分、何もないんだろうな。だが、一応確認だけはしておきたかったんだが……。しかし、本当にびくともしないな。諦めるしかないか……」
テリアルも渋々納得し、ドアから手を離すと、「待ってくれよ~」と声を出しながら皆の後を追って再び廊下を進み始めた。
それからしばらく進むと、廊下の突き当りに上へと続く石造りの階段が見えてきた。一行はその階段を登り始める。
石の階段は18段上がると踊り場があり、そこで折り返す構造になっていた。さらに18段上がると、広々としたホールのような空間に出た。天井は高く、荘厳な雰囲気が漂っている。ホールからは、4方向へと道が伸びているようだった。正面には、他よりも一際大きく立派な中央廊下らしき通路が奥へと続き、左右にもそれぞれ別の廊下が伸びている。そして、一行が上がってきた階段とは反対側、ホールの奥にもう一つ、下へと続く階段があるようだった。
「やはり、ここは……まるで宮殿のようですね、マルティーナ様」
オクターブが感嘆の声を漏らすと、マルティーナも頷いた。
「ええ。見た目は、オクターブの言う通り、王宮の造りと非常によく似ていますね……」
マルティーナたちが小声で話していると、リバックやアスタリオンら、先行していた冒険者たちが、彼らを追い越し、ホールの左側に見える大きな廊下へと進んでいった。他の冒険者たちもそれに続く。どうやら、まずは左の廊下から探索を進めることに決めたようだ。
一行は左側の廊下へと足を踏み入れた。しばらく進むと、その先に巨大な両開きの扉が見えてきた。他のドアとは比較にならないほど大きく、装飾も施されている。一行が扉に近づくと、アスタリオン、リバック、テリアルの三人が、扉に手をかけた。
先ほどの固いドアの経験から、三人はかなりの力を込めて扉を動かそうとした。しかし、意外にも、その巨大な見た目とは裏腹に、扉はほとんど抵抗なく、滑らかに動き始めたのだ。
「ありゃ?」
「お、なんだ? 今度は軽いぞ」
ガシャン!
力を込めすぎていたため、両開きの扉は勢いよくズズズッと開き、壁に取り付けられていたドアストッパーに激しくぶつかり、大きな音を立てて止まった。
扉が開いたので、一行は中へと入っていく。そこは非常に広大な部屋だった。壁際には、様々な種類の装飾品――彫刻、絵画、豪華な壺などが、埃をかぶった状態で並べられているのが見えた。しかし、人の気配は全くない。
部屋の中は、だだっ広い空間だった。至る所に置かれた装飾品は、分厚い灰のような埃に覆われている。その蓄積量から判断するに、この部屋は極めて長い期間、誰にも開けられることなく放置されていたのだろう。迷宮の通路とは異なり、魔物の気配もしない。動くものが何もない、完全な静寂が支配していた。
あまりにも長い間、無人だったためだろう、装飾品や調度品に積もった埃は相当なものだった。好奇心から、アスタリオンが近くにあった壺の埃を何気なく手で払いのけると、バサッと大量の埃が舞い上がり、まるで粉塵爆弾が破裂したかのように、一瞬で部屋中に広がってしまった!
「ぐはっ! ゲホッ、ゲホッ!」
「きゃっ! ちょっと、アスタリオン! 何やってるのよ!」
周囲にいた者たちは、慌てて口や鼻を布で覆う。布を持っていなかった者は、咳き込みながら慌てて部屋の外へと退避する羽目になった。
ロゼッタから非難の声が上がり、他の者たちからも厳しい視線がアスタリオンに突き刺さる。
「す、すまん……。つい、な……」
アスタリオンはバツが悪そうに頭を掻いた。
部屋には、一見してかなり高価そうな装飾品が、埃まみれとはいえ無数に置かれていた。これまで迷宮探索でめぼしい戦利品をほとんど発見できていなかった冒険者たちは、目の前に広がるお宝の山を見て、色めき立った。どれを持ち帰るか、我先に品定めをしようと動き出そうとした、その時だった。
「皆さん、少し待ってください」
ノベルが制止の声を皆にかける。
「まだ、この建物の全体像や安全性を把握していません。それに、ここで埃まみれになりながら品定めをするのは、効率も悪く、危険も伴います。すぐに役立ちそうな装備品以外は、今は手を付けず、後で改めて、じっくりと調査し、持ち帰るということにしてはいかがでしょうか?」
ノベルの冷静な提案に、他の冒険者も同意する。
「そうだな。まだ、ここがどれほど危険なエリアなのかも分かっていないんだ。下手に荷物を増やして敵に遭遇すれば、邪魔になるだけだしな。それに、せっかく手に入れた品物が、戦闘で壊れてしまう可能性もある」
その意見に、他の者たちも納得し、今は目の前の『お宝』に手を出さず、探索を優先することにした。
部屋を一通りざっと見渡し、特に危険がないことを確認すると、一行は最初に入ってきたホールまで戻り、今度は中央の廊下を進むことに。
しばらく進むと、先頭を歩いていたテリアルとヒューイの二人が、不意に足を止め、後方に向かって手で合図を送った。何か異変を感じ取ったのだ。
少し離れて後方を進んでいたリバック、ロゼッタ、ダクソン、そしてノベルたちは、その合図を視認し、即座に武器に手をかけ、戦闘態勢を取る。さらに後方にいたマルティーナたち王国兵も、冒険者たちの動きに合わせて足を止め、警戒態勢に入った。一気に緊張感が辺りに漂い始める。
一行が進んでいた中央廊下は、幅が5メートルほどあり、天井までの高さは10メートル近くある、広々とした空間だった。その廊下の両側の壁には、一定間隔で、大きく楕円形にくり抜かれた窪みが設けられており、そこには大理石を彫って作られた巨大な兵士の石像が、まるで門番のように安置されていた。
最初はただの装飾的な彫刻かと思われた。しかし、テリアルとヒューイがその石像の一つに近づいた、その瞬間――。
石像の硬く閉ざされていた瞼が、ゆっくりと開き、その奥から不気味な光を放つ瞳が現れたのだ! そして、石像は壁から抜け出そうとするかのように、ゴゴゴゴゴ……という重々しい音を立てて動き始めた!
「うぉぉっ! こいつ、目を開いたぞ!」
「動き出した! 生きてるのか!?」
ヒューイとテリアルの驚愕の声が、後方にいる者たちにもはっきりと聞こえてきた。
「やばい! 下がれ!」
誰かが叫んだが、遅かった。
6メートルはあろうかという石造りの巨人は、完全に壁から離れると、その両手に握られた、岩石から削り出された巨大な両手斧を、眼前のテリアルとヒューイめがけて振り下ろす!
ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッン!!!!!!
特大両手斧が石畳の床を叩き割り、凄まじい衝撃波となって二人を襲った!
ファーーーーーーーン……!
「うわぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
巨大な石像が振るった特大両手斧の衝撃波は、テリアルとヒューイの体を木の葉のように吹き飛ばした。二人は後方へと弾き飛ばされたが、幸いにも、そこには衝撃波に耐えて踏ん張っていたリバックがいた。彼は吹き飛ばされてきた二人を、その屈強な体で受け止め、なんとか勢いを殺す。
「大丈夫か、二人とも!」
リバックが声をかける。
「す、すまん、助かった……! それより、あの石像の巨人は!?」
テリアルが尋ねる。
「こっちに来てる!」
ロゼッタの声が飛ぶ。石像の巨人は、ゆっくりと、しかし確実にこちらへと歩を進めてきていた。
テリアルとヒューイは、さらに後方へ下がろうとするが、リバックがそれを制した。
「いや、逃げてはダメだ! ここで、こいつを食い止める!」
リバックは覚悟を決めたように言うと、背負っていたボロボロのタワーシールドを降ろし、前面に構えた。その盾は、最近ロゼッタを庇いヨトゥンの攻撃を受けた際に、激しいダメージを負い、ひび割れ、歪んでしまっていた。もはや盾としての機能はほとんど失われているように見える。だが、他に代わりになるものはない。「無いよりはマシだ」と、リバックはそれを捨てずに持ち続けていたのだ。
彼はその満身創痍のタワーシールドを両手でしっかりと掴み、前面に突き出すようにして構える。そして、仲間たちに向かって叫んだ。
「俺がこいつの攻撃を引き受ける! お前たちは、全力で攻撃を叩き込んでくれ!」
そう言うと、リバックは巨大な石像に向かって、一歩、また一歩と、敢然と前に進み出たのだった。
最後まで読んでくれありがとうございます、中々書くのが遅くなってきていますが
見かけたらまた読んでみてください、よろしく~。




