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意見の対立

小都市トラブスタンに辿り着いたラバァルたちだったが、吹き続く吹雪で

何処もかしこも雪で埋もれてしまっていたのだ、宿を探す為、

目星を付けた所を掘り返し探すが、中々見つからず、諦めムードに、

しかしようやく、雪に埋もれていた行政の建物を見つけた・・・

     

               その60




『キャルベール』での休息を経て、一行は再びウッデン地方を目指した。さらに3日間の厳しい雪中行軍の末、ようやく目的地である『トラブスタン』の街に到着したのだ。

しかし、目の前に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。人口1万に満たないこの街は、降り続く記録的な大雪によって完全に埋もれ、どこが道でどこが建物なのか、判別することすら困難な状態となっていた。雪の重みに耐えきれず倒壊した家屋も散見され、街はまるで雪に閉ざされた死の都のようだった。

そんな惨状を目の当たりにしながらも、ノベル、リバック、ジュリアンの三人は、依頼主への荷物を届けるという使命を果たさねばならない。

「では、ラバァル。俺たちは依頼主の元へ行ってくる。落ち合う場所はどうする?」ノベルが尋ねる。

「そうだな…まずは、この雪の中からまだ機能しているであろう宿屋か、あるいは避難所のような大きな建物を探そう。そこを一時的な拠点とし、待ち合わせ場所に指定する。少し待っていてくれ」

「分かった。それじゃあ、俺たちも手分けして探そう」

一行は手分けして、雪に埋もれた街の中から比較的大きな建物を探し始めた。しかし、視界を遮る吹雪と、腰まで埋まる深い雪の中での探索は困難を極めた。数時間後、周囲を探索していたエルトンとラーバンナーが、かろうじて屋根の一部が雪の上に見えている大きな建物を発見した。近づいてみると、それは街の行政庁舎のようだった。

慎重に中へ入ってみると、そこには多くの住民たちが身を寄せ合い、寒さと飢えに耐えながら避難生活を送っていることが分かった。ラバァルは直ちに他のメンバーを呼び寄せ、この建物を一時的な拠点とすることを決定。ノベルたちにもその旨を伝え、彼らは依頼を遂行すべく吹雪の中へと向かっていった。

建物の中に入ったラバァルたちは、改めて事態の深刻さを痛感することになった。中にいたマーブル国の文官から話を聞くと、暖房用の薪や木炭は既に底をつき、備蓄されていた食料も残りわずか。避難民たちは疲労困憊しきっており、ただひたすら外部からの救助を待っている状態だった。一刻の猶予もない、まさに切羽詰まった状況に陥っている。

「なんてこと…! このような惨状になっているというのに、王宮の者たちは未だに兵を動かさず、派閥争いに明け暮れているなんて…!」

現地の状況と王宮の内情を知るマルティーナは、抑えきれない怒りを王宮に向けていた。その憤りは、側近のオクターブとシャナにも痛いほど伝わり、彼らもまた、何とも言えない無力感と憤りに襲われている。

その時、マルティーナが決然と立ち上がり、避難民たちに向かって声を張り上げた。

「皆さん! どうか希望を捨てないでください! もう暫くだけ、耐えてください! わたくしは、マーブル国王女、マルティーナです! 約束します。必ず、この状況を変えてみせます!」

その声に、絶望に沈んでいた避難民たちの間に、わずかな動揺と希望の光が灯った。

「マ、マルティーナ様…!?」

「おお、王女様が直々に来てくださったのか!」

「王女様が、我々を見捨てていなかった…!」

それまで諦めの色に染まっていた人々の間に、ざわめきと、微かな活気が戻り始めた。

「ラージン! 大至急、王都へ連絡を!」マルティーナは国家魔術師に命じる。

「承知いたしました。して、どのようにお伝えしましょうか?」

「『トラブスタンは壊滅的な状況にあります。雪に埋もれ、燃料も食料も枯渇寸前。多くの避難民が凍え、飢えています。マーブル王女マルティーナの名において、直ちに最大規模の救助隊を派遣するよう、国王陛下および宰相に強く要請します』と、そう伝えてください!」

マルティーナの強い口調に、ラージンは厳粛に頷くと、目を閉じ精神を集中させ、遠話の魔法を唱え始めた。彼の体が淡い光を放ち、周囲にマナの波動が広がる。風もないのに長い髪がなびき、瞳が薄い水色に明滅すると、その言葉は遠く離れた王都の王国参謀室にいる連絡係、バグナットへと届けられた。

「…伝わりました、マルティーナ様」

「ありがとう、ラージン。これで、少しは…」

ひとまずの連絡を終え、一行はノベルたちが戻るのを待つことになった。だが、避難所の厳しい状況を目の当たりにしたマルティーナは、いてもたってもいられない様子で。

「…ラバァル様、お願いがあります。私たちの食料を、少しでもここの方々に分けて差し上げることはできませんでしょうか?」

その申し出に、ラバァルは即座に、そして冷徹に言い放った。

「それは、ダメだ」

「どうしてですか、ラバァル様!?」

「分からんのか? 俺たちの最優先目的は、生贄の迷宮最下層に到達し、大精霊を封印して、この吹雪を根本から止めることだ。その目的達成に支障をきたすような行動は、一切許可できない」

「ですが、ここの方々は飢えているのです! 私たちの食料を少し分けるくらい、迷宮攻略に大きな支障が出るとは思えません!」マルティーナは食い下がる。

「甘いな。生贄の迷宮がどれほど過酷な場所か、まだ理解していないのか? 迷宮内で何日かかるか、どんな事態が起こるか、誰にも予測できん。食料が尽きれば、我々全員が死ぬことになる。君は、目の前の小さな同情心を満たすために、部隊全体の生存と、この地方全体の未来がかかった任務の成功確率を下げるというのか?」

「小さな問題ですって!? その言葉、取り消してください! ここにいる人々にとっては、生きるか死ぬかの瀬戸際なのです! 決して小さな問題などではありません!」マルティーナの声が震える。

「まだ分からんか。俺たちが見据えなければならないのは、この地方全体の救済だ。根本原因である吹雪を止めなければ、結局、ここにいる人々も、他の街の人々も、いずれは全滅する。君がやろうとしているのは、ここの問題をほんの少し先延ばしにするために、任務達成に必要な貴重な物資を消耗させるという、極めて危険で近視眼的な行為だ。もし、肝心な時に食料が足りず、力尽きたらどうするつもりだ?」

「それは…! でも、目の前で困っている人がいるのに、何もしないで見ているだけなんて…! それでは、先のグラティア教の問題の時と、何も変わりません!」

「あれとは違う!」ラバァルは厳しい声で断じた。「あの時は状況が異なった。だが今は違う。君は、目先の『小』を救うために、全体の『大』を見捨てるという決断を下そうとしている。…ならば、もはやこの部隊に君の居場所はない。好きにするがいい。その食料、好きなだけ分け与えるがいい!」

ラバァルの非情とも思える決断に、その場にいた全員が息をのんだ。王女であろうと容赦なく切り捨てるリーダーとしての覚悟と冷徹さに、改めて彼の器の大きさと、任務への執念を思い知らされた。

(…あいつ、本気で王女を切り捨てやがった…)

(すげぇ奴だ…)

(リーダーとしては正しい判断かもしれんが…半端ねぇな…)

冒険者たちの間で、そんな囁きが交わされる。

PTから外されたマルティーナは呆然とし、オクターブとシャナは怒りに震えた。

「そんな…ラバァル様…!」

「貴様ぁーっ! マルティーナ様に向かって、なんという無礼な口を!」オクターブが剣の柄に手をかける。

「王女であろうと特別扱いはせん。任務遂行の妨げになると判断しただけだ。文句があるなら、二人がかりでも構わん、俺を倒してみろ。もし俺が負けたら、この部隊の指揮権をお前たちに譲ってやろう」

ラバァルは、こういう状況で最も手っ取り早く場を収める方法を知っていた。圧倒的な実力差を見せつけ、異論を封じ込めること。禍根を残したまま危険な迷宮に挑むわけにはいかない。彼は、あえてこの対立を選んだのだ。

場所は変わり、建物の外。吹き荒れる吹雪の中、わずかに開けた雪原で、ラバァルと、マルティーナの復権を賭けたオクターブ&シャナの戦いが始まろうとしていた。

「オクターブ、シャナ…ごめんなさい、わたくしのせいで…」マルティーナが申し訳なさそうに呟く。

「マルティーナ様は何も悪くありません! 悪いのは全てあの男です! 王女殿下に向かってあの様な暴言…絶対に許しません!」シャナは怒りを燃やし、槍を握りしめる。

オクターブもまた、王国最強と謳われる三剣士の一人としての誇りを胸に、この機会にラバァルの鼻をへし折り、王女の目を覚まさせようと意気込んでいた。

「見ていてください、マルティーナ様! あの若造に、我々の実力と思い知らせてやります!」

雪で足元がおぼつかない悪条件の中、ラバァル対オクターブ&シャナの、1対2の戦いの火蓋が切られた。

先手を取ったのはオクターブだった。王家より賜った名剣【マルキス】を抜き放ち、一直線にラバァルへと突進する。しかし、ラバァルは武器を抜くどころか、腕を組んだまま、その突進を静かに見据えている。

オクターブがラバァルの目前に迫り、予備動作なく剣を突き出す。それは、無駄な動きを一切削ぎ落とした、必殺の刺突。紛れもなく、相手の命を奪うための、殺意のこもった一撃だった。

(…殺す気か!)

前衛の経験が豊富な者たちは、その一撃の鋭さに気づき、息をのんだ。そして、避けようともしないラバァルの姿に、「ダメだ!」と誰もが思った、その瞬間――。

オクターブの剣は、空を切っていた。

「馬鹿な!?」

確かな手応えを感じなかったオクターブが驚愕の声を上げる。ラバァルは、ほとんど動いたように見えないほどの最小限の動きで、紙一重で剣先を回避していたのだ。

そして、回避と同時に、オクターブの剣の側面を、信じられない速度で掴み取る。

「なっ!?」

次の瞬間、ラバァルは恐るべき握力で剣を捻り、一点に力を集中させて圧し折った! パキン!と乾いた音を立てて、名剣【マルキス】は半ばから砕け散った。

カイ・バーン前王から賜り、長年誇りとしてきた剣。そして、マーブル三剣士としてのプライド、マルティーナの側近としての名誉もまた、その剣と共に打ち砕かれた。オクターブは、あまりの出来事に何が起こったのか理解できず、折れた剣の柄を握りしめたまま、放心状態で膝をついた。

ラバァルは、もはやオクターブには目もくれず、次の攻撃に移っていたシャナへと意識を切り替えていた。

仲間が一瞬で無力化されたのを見たシャナは、怒りと焦りから、即座に自身の得意技を繰り出していた。懐から取り出した短い槍を一振りすると、それは瞬時に長さ3mほどの長槍へと変化。彼女はその槍を巧みに操り、「真槍連操術」と呼ばれる秘伝の槍術で、ラバァルへと襲いかかる!

雪の上を滑るように、風のような軽やかさで接近し、鋭い突きを連続で繰り出すシャナ。対するラバァルもまた、雪に足を取られることなく、まるで宙に浮いているかのように移動し、シャナの攻撃をことごとく最小限の動きで躱していく。

「やるわね…! でも、これは避けられないわ!」

シャナは距離を取ると、自身の奥義である「真槍五連突き」を放つための予備動作に入った。槍先に凄まじい闘気が集束していくのが見える。

「シャナ、それはダメ!」

マルティーナが叫んだ。彼女は訓練場で何度もシャナの五連突きを見ており、その破壊力を知っていたからだ。しかし、シャナを止めるには遅すぎた。五つの槍の幻影が、人間離れした速度でラバァルへと突き進む! マルティーナは思わず目を覆った。

だが、ラバァルはその超高速の五連突きすら、まるで踊るように、最小限の体捌きですり抜けていた。そして、全ての突きを回避しきった瞬間、シャナの懐に潜り込み、その鳩尾に、軽く、しかし的確な一撃を入れたのだ。

「ぐはっ…!」

強烈な衝撃に、シャナは息を詰まらせ、膝から崩れ落ちて雪に埋まる。手から滑り落ちた槍も、深々と雪に突き刺さった。彼女は苦しそうに呻き、身動きが取れない。

「…まだやるか?」ラバァルが冷ややかに問いかける。

シャナは、苦痛に顔を歪めながら、かろうじて首を横に振るのが精一杯だ。

マルティーナが恐る恐る目を開けると、そこには雪に埋もれて苦しむシャナの姿と、その傍らに平然と立つラバァルの姿があった。自身の守護者である二人が、完膚なきまでに敗北したことを、彼女は理解した。

(シャナの…真槍五連突きすら、通じなかった…? どうして…)

見守っていた他の者たちの多くには、あまりにも一方的で、呆気ない決着に見えただろう。しかし、ロゼッタやアスタリオン、ベラクレスといった実力者たちには、ラバァルの異常なまでの動きの精度と速度、そして敗れたとはいえオクターブやシャナが繰り出した攻撃のレベルの高さが分かっていた。この勝負が、見た目以上に高次元の戦いであったことを、彼らは理解していた。

だが、結果は結果だ。衆人環視の中、二人がかりで挑んで完敗したオクターブとシャナは、肉体的なダメージ以上に、精神的なダメージが深刻だった。それは、彼らを信じていたマルティーナにとっても同様で、彼女は深く落ち込み、ただ立ち尽くすしかなかった。

ラバァルは、そんなマルティーナの姿を一瞥したが、何も言わずに背を向けた。表向きは冷淡を装っていたが、その内心は決して穏やかではなかった。

その後、ノベルたちが戻ってくるまで、避難所には重苦しい沈黙が流れていた。約6時間後、ようやく三人が疲れた様子で戻ってきた。

「待たせたな、ラバァル」

「どうだった? 依頼は片付いたか?」

「うむ、依頼主の家も雪に埋もれてて探すのに苦労したが、なんとか見つけ出して、無事に荷物は届けてきた」

「報酬は?」

「それが…状況が状況だけに、今はとても金を出せる状態じゃないらしくてな。後日必ず支払うから、とツケにされてしまった。まあ、無理に要求するわけにもいかんだろう」

「…そうか。まあ、依頼を達成できたのなら、あんたらの評判に傷がつくことはないだろう。それより、すぐに出発できそうか?」

「すまんが、あと2時間ほど休ませてくれ。さすがに疲れた」

「分かった。休憩後、改めて出発しよう」

ラバァルたちはノベルたちの回復を待ち、2時間後、ついに『トラブスタン』の避難所を後にして、再び【生贄の迷宮】へと向かった。

それからさらに3日間の過酷な行軍を経て、一行は目的地である【生贄の迷宮】の入口があるはずの場所に、ようやくたどり着いた。しかし、やはり周囲は深い雪に覆われており、どこに入口があるのか皆目見当がつかない。

さらに、この迷宮の入口は、通常の方法では見つけることができず、特定の仕掛けを作動させることで初めて姿を現す、特殊な構造になっているらしかった。まずはその入口を見つけ出さなければ、中に入ることすらできない。一行は再び、広範囲に散らばって入口の手がかりを探し始めた。

…だが、ラバァルは入口を探す素振りも見せず、先程からチラリ、チラリと、少し離れた場所で立ち往生しているマルティーナたちの様子を横目で窺っていたのだ。彼女は、何か言いたげにこちらへ近づこうとしては、寸前でためらって引っ込む、という行動を繰り返している。その煮え切らない様子に、ラバァルは内心でイライラを募らせていた。

そんなラバァルの様子に気づいたエルトンが、こっそりと近づいてきて耳打ちしてきた。

「(…ラバァル、実は入口の仕掛け、見つけました。例の古文書にあった通りの場所に…)」

「(…分かった。だが、まだ言うな。少し待て)」

ラバァルは、なぜかエルトンに発見を報告させず、待機を命じた。

既に皆で入口を探し始めてから2時間が経過しようとしていたが、未だに発見には至っていない。痺れを切らしたエルトンが再びラバァルに囁く。

「(良いのですか、ラバァル? 皆、吹雪の中で疲弊しきっていますよ。早く知らせないと…)」

「(もう少しだ、エルトン。あと、ほんのちょっとだけ待て…)」

ラバァルとエルトンが何やらコソコソと話しているのに気づいたニコルが、疑いの目を向けて近づいてきた。

「ねえ、二人で何をヒソヒソやってるの? もしかして、また何かズルいこと考えてる?」

「バカ、お前! 変なこと言うな!」ラバァルは慌ててニコルを制止しようとする。

一方、PTから外されたものの、行く当てもなく後をついてきていたマルティーナ一行は、ラバァルたちが入口を見つけられずに右往左往している様子を見て、もどかしい気持ちでいた。王家の書庫で迷宮について調べていた彼女たちは、入口の仕掛けについて知っていたのだ。しかし、ラバァルにPTから外され、先程の対決で完敗した手前、どう切り出していいか分からず、近づくこともできずにいた。まるで喧嘩した子供が、仲直りのきっかけを掴めずにいるような状態だ。


そんなマルティーナたちの葛藤と、皆が疲弊している状況を見かねたラバァルは、ある計画を実行に移すことにした。(…やれやれ、仕方ない。ここは一つ、彼女に花を持たせてやるか)彼は、マルティーナたちが手柄を立てられるように、わざと入口の発見を遅らせていたのだ。その意図に気づいていたラーバンナーは、(うちのリーダーも、素直じゃないんだから…)と内心で呆れていた。

ついに意を決したマルティーナが、おずおずと一行の元へと近づいてきた。ラバァルはわざと素知らぬふりをして、背中を向ける。マルティーナはラバァルに直接話しかけるのをためらい、代わりにベラクレスに声をかけた。

「…ベラクレス、皆さん、入口は見つかりましたか? もしかしたら、わたくしが書庫で読んだ古文書に、何かヒントがあったかもしれません…」

マルティーナが入口の仕掛けについて話し始めると、ベラクレスはラバァルの意図を察し、わざとらしく大きな声で言った。

「なんと! 流石はマルティーナ様! そのような重要な情報をご記憶だったとは!」

ベラクレスは、マルティーナが入口の秘密を知っていることを、周囲に聞こえるように喧伝した。その少し芝居がかった称賛に、他の者たちも(ようやく見つかる!)と安堵し、マルティーナを褒め称え始めた。

「おお! 王家の書庫の伝記を読んでいらっしゃったのですか!」

「それは心強い!」

「もしや、迷宮内部の情報も…?」

「ええ、道中の注意点や、いくつかの罠についても書かれていました。大抵のことは記憶しております」マルティーナは少し照れながらも、皆の期待に応える。

人々がマルティーナの周りに集まり、安堵と期待で盛り上がっている。その輪の中に、ラバァルも何食わぬ顔で加わった。

「ほう? そんな重要な知識があるなら、さっさと知らせに来るべきだったな。このクソ寒い中、皆で無駄に苦労して探し回っていたんだからな」

ラバァルはわざと憎まれ口を叩いた。しかし、その言葉には、棘と同時に、彼女の復帰を暗に認める響きがあっのだ。マルティーナの表情にも、少しだが明るさが戻る。

「ふふ…ごめんなさい、ラバァル様。手間取らせてしまいましたわね。それでは、早速、入口を開きましょう」

マルティーナの指示に従い、オクターブとシャナが(少し気まずそうにしながらも)指定された場所の雪をかき分ける。すると、岩壁に隠された二つのレバーが現れた。二人が同時にレバーを引くと、ゴゴゴ…という重い音と共に、岩壁の一部が回転し、迷宮への入口が姿を現した。

「おおっ! 入口が開いたぞ!」

歓声が上がる中、ラバァルは誰よりも早く入口へと歩み寄り、振り返ってマルティーナを見た。

「…どうした? さっさと行くぞ」

その言葉は、マルティーナたちが再び部隊の一員として認められたことを、明確に示していた。






最後まで読んで下さりありがとう、続きを見掛けたらまた読んで見て下さい。

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