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少年達と鉱山 その3

今回も少年達と鉱山の続きです。  

狂獣に襲われる少年達は、強烈な出来事に遭い、ピンチに、

そんな時、鉱山に眠っていたマナ結晶石が共鳴し始めたのだ、

更に魔昌石にも飛び火、続いて離れた所で実験に使われていた大魔晶石までも活性化させる事に!  

        



                 その6




タンガの視界の隅に、何かが引っかかった。スペアーの姿を探す焦りが、一度それを見過ごさせていた。人にしては小さすぎる、地面に転がる黒い塊。それが何なのか、脳が認識するよりも先に、腹の底から冷たいものがせり上がってくる。


ガツンと、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃。

下半身が意思とは無関係に震えだし、カタカタと歯の根が合わない。言い知れぬ不安の正体が、そこにあった。


「そんな……」


一歩、また一歩と、震える足を引きずる。近づくほどに、心臓が肋骨を内側から叩き、体の震えは痙攣に変わっていく。


「どうして……なんで……嘘だろ……」


もつれる足を無理やり前に進める。その塊の周りに、魔晶石の光をぬめりと反射する水たまりができていた。鉄錆の匂いが、鼻腔を刺す。それは水たまりなどではなかった。血だまりだ。そして、その中心にあるものを見た。下半身が、ない。肩から上しかない、見慣れた友の姿が、そこにはあった。


「わぁぁぁぁぁっ!」「おぇ……ごぼっ……ぉぉぉぉ……」


胃の中のものが、食道をごぼりと逆流した。

スペアーだ。さっきまで一緒にいたスペアー。弟のように思っていた、スペアーだったものだ。

タンガの心の何かが、ぷつりと切れた。


「……夢だ。これは夢に決まってる。どうなってんだよ、一体……」


現実を拒否しようとする思考も虚しく、彼の精神は限界を超えた。体が、これ以上のショックから主人を守ろうとするかのように、強制的に意識をシャットダウンさせた。全身が激しく痙攣し、タンガは崩れ落ちるように気を失った。


だが、時間の流れは止まらない。獲物の匂いを嗅ぎつけた二匹の怪物モグラが、闇の奥から再びその姿を現す。


その間にも、ロスコフから始まった【共鳴振動】は、坑内に眠る無数の魔晶石を揺り動かし、その波動は波紋のように広がっていた。そしてついに、フォルクスたちの研究室に置かれた【大魔晶石】までもが、その共振に捉えられたのだ。


「何事だ!」


突如として激しい光と振動を放ち始めた【大魔晶石】に、エクレアとロウが叫ぶ。ロウは咄嗟に最高レベルの防御魔法【デフェンショ・クィルクルスクリプタEX】を展開し、暴走するエネルギーを封じ込めようと試みた。だが、地下深くから伝播してくる力は、老魔術師の想定を遥かに超えていた。


ゴウッ!


光の壁に亀裂が走り、凝縮されたエネルギーの塊が、まるで光の槍となって防御壁を突き破った。研究室の壁が爆音と共に吹き飛び、直径一メートルほどの、熱を帯びたトンネルが地中深くへと穿たれたのだ。


「なんじゃ、今の魔法は……」ロウが絶句する。


「魔法ではない。儂にも分からん。だが、この振動の発生源を突き止めねばならん。実験は中止だ!」

フォルクスは、未知の現象に対する研究者としての興奮を抑え、冷静に指示を下した。


研究室から放たれた光の槍は、地層を焼き切り、岩盤を溶かしながら、ただ一点を目指して突き進む。その終着点にあったのは、宙に浮かぶロスコフの体だった。


光は彼の体に命中すると、爆発も衝撃もなく、まるで魂そのものに吸い込まれるように消えた。それは破壊のエネルギーではなかった。彼の存在そのものに、新たな法則を刻み込むための、天からの啓示だった。


このエネルギーの循環が引き金となり、ついに、この鉱山の最深部で永い眠りについていた存在が目を覚ます。原初の頃より成長を続けてきた【精霊石】。その中に宿る【大精霊】が、ロスコフの魂の叫びに呼び覚まされたのだ。


ロスコフの精神は、肉体を離れ、精霊界へと招かれていた。


「我を呼び覚ましたのは、汝か」


声が、思考に直接響く。意識がゆっくりと覚醒すると、目の前に、本で見た魔人のような、巨大で足のない存在が揺らめいていた。


「……ここは?」


度重なる異常事態に、もはやロスコフは驚きさえ感じなくなっていた。ただ、状況を理解しようと問いかける。


「そなた、目覚めたか」


だが、記憶の断片が繋がった瞬間、そんな冷静さは消し飛んだ。

スペアーが目の前で噛み千切られた、あの光景。下半身を咥えて去っていった、あの怪物。


「そうだ、スペアーが……! 畜生、取り返さなきゃ!」


涙が溢れ、悲しみと、焼けつくような怒りが胸の内で渦を巻く。その生々しい感情の奔流は、精霊界の静寂とはあまりに不釣り合いだった。


「辛い記憶よな。その叫び、我らにはよく届いた」


「えっ?」


「そなたの記憶を共有した。そなたから発された【共鳴振動】が、この鉱山に眠る全ての魂を震わせ、我を目覚めさせたのだ」


「共鳴振動って、何ですか?」


「……知らぬのか。まあ良い。教えてやろう。例えば、二つの音叉。片方を鳴らせば、同じ音を持つもう片方もひとりでに震えだす。そなたの魂の叫びという音が、我ら全ての音叉を鳴らしたのよ」


「……なんとなく、分かりました。それで、ここは? タンガはどうなったんですか?」


「友は、狂獣と対峙しておる。だが、今はまだ目覚めておらぬ」


「助けに戻らないと!」


「よかろう。まずは、そちらの狂獣を少し大人しくさせてやろう」

大精霊の意識が現実世界に干渉する。それは、自然の法則そのものを、僅かに書き換える行為に等しかった。


その頃、坑道では、気を失ったタンガに、スペアーの下半身を喰らったモグラがゆっくりと近づいていた。その顎からは、友の血が滴っている。

一方、もう一匹は、宙に浮かぶロスコフに狙いを定め、見えない障壁に阻まれながらも、狂ったように攻撃を繰り返していた。


その時、倒れたタンガの傍らで、奇跡が起きた。

死んだばかりのスペアーの魂が、周囲に満ちるマナの光を浴びて、おぼろげな幽体としてその場に留まっていたのだ。


「……タンガ……起きろ……!」


声なき声が、友に届くよう、力を振り絞る。その想いに応えるように、周囲の魔晶石から無数の光の球――小精霊たちが集まり、スペアーの幽体に力を与え始めた。見えない力が、物理的な力となって、タンガの体を揺さぶる。


「んっ……ここは……」


ゆっくりと目を開けたタンガの目に、牙を剥いて迫るモグラの姿が映った。


「うわっ!」


反射的に飛び起き、地面に転がるピッケルを掴む。そして、仇の姿をはっきりと認識した瞬間、彼の内側で何かが砕け散った。悲しみは怒りを通り越し、氷のように冷たい狂気へと変貌していた。


「お前が……お前が、スペアーをぉぉぉぉぉぉっ!」


襲い来るモグラを避けることなく、タンガは逆にピッケルを構えて突進した。


ガギィン!


ピッケルがモグラの左頬を抉り、肉を引き裂く。だが、タンガの攻撃は止まらない。彼の瞳から感情の色が消え、ただ目の前の仇を破壊するためだけの、純粋な器と化していた。


腕が勝手に動く。疲れも息切れも感じない。ただ、ピッケルを振り下ろすたびに、胸の奥の何かが削られていくような感覚だけがあった。彼の周囲に集まった小精霊たちが、その狂気に力を貸しているとは知らず、タンガは無心で鉄塊を振り下ろし続けた。


「うぉぉぉぉぉぉっ!だりゃゃゃゃゃ!」


何度も、何度も、何度も。硬い皮と肉を叩き潰し、骨を砕く。


「俺の……大事な……スペアーを……よくも……」


はぁ、はぁ、はぁ……。

気づけば、ピッケルは砕け、柄だけが手に残っていた。目の前のモグラは、もはや元の形を留めていなかった。液状化した血と肉塊の中心で、下半身だけが痙攣している。


復讐は終わった。

タンガは、魂が抜け殻になったように、その場に崩れ落ちた。


残る一匹のモグラは、なおもロスコフを攻撃し続けていた。その時、大精霊の意志が、鉱山全体に響き渡った。

無数の魔晶石から一斉に小精霊たちが飛び出し、合体し、青白い炎を纏った巨大な手の姿を形作る。それは、自然そのものが持つ、根源的な怒りの顕現だった。


巨大な炎の手は、モグラを鷲掴みにすると、玩具のように坑道の壁に叩きつけた。


ギィィィィィ!


悲鳴を上げる暇も与えず、鉱山の中心で生まれた原初の炎が、凝縮され、放たれた。


ボボボボボボーーーー!


凄まじい爆炎が狂獣を飲み込み、その体は四散し、骨の一片さえ残さず、灰燼に帰した。




最後まで読んでくけた方、ありがとうございます、

良ければ、書く力に成るように評価を宜しくお願いします。   

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