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凍えるマーブル  

ようやく寒いマーブルから抜け出せると思った矢先、ルカナンのブレネフ参謀から新たなる注文が届いた、

その内容とは、マーブルに降り続く吹雪を止めてくれと言う、無理難題とも思われる注文だったのだ、

しかし調べて行くうちに、この吹雪はマーブルの秘宝〖永劫の冬〗が破壊され、秘宝に封印されていた

大精霊が齎した厄災だったと知る事に、ようやく対処出来るかも知れない情報を掴むと、

今度は大勢のAランク冒険者が必要になる事が分かったのだが・・・        

               その58




「…ところで、あんたら」ラバァルは先程までの殺気をすっかり消し、ロゼッタと、まだ脇腹を押さえて呻いているアスタリオンに向き直った。「こんな酒場でくだらない喧嘩をしているより、俺に雇われてみる気はないか?」

突然の申し出に、ロゼッタは訝しげな表情を浮かべる。

「雇う…ですって?」

「ああ。先ほども話したが、俺たちは【生贄の迷宮】に潜る必要がある。だが、見ての通り、俺たちは戦闘には多少自信があるが、迷宮探索の経験は皆無だ。だからこそ、迷宮を熟知した熟練者の経験と知識が必要だと考えている。どうせ雇うなら、腕利きの優秀な者がいい」

ラバァルはロゼッタの目を真っ直ぐに見据えて続ける。

「この先、攻略に最低限必要とされる人数が集まり次第、すぐに出発するつもりだ。…どうだろう? 報酬は弾むぞ」

彼の瞳には、奇妙な説得力があった。ロゼッタはしばし考え込む。生贄の迷宮――それはSランク指定の超危険地帯であり、並の冒険者が足を踏み入れて生還できるような場所ではない。目の前の男の実力は計り知れないが、無謀な挑戦であることに変わりはない。しかし、彼の底知れない強さと、その瞳の奥に宿る尋常ならざる決意のようなものに、ロゼッタは妙な興味を掻き立てられていた。あるいは、女性特有の未知の危険性を秘めた男への、本能的な興味に惹かれたのかもしれない、今までに経験した事のない何かが起こるのかも、そんな予感を覚え、引き込まれたのだ。

「……いいわ。その話、乗った」

ロゼッタは、自分でも意外なほどあっさりと頷いた。その様子に、ラバァルは内心でガッツポーズを作り、仲間たちに目配せを送る。それを見ていたアスタリオンが、慌てて声を上げる。

「ま、待て! ロゼッタが参加するなら、俺も参加する! お前一人をそんな危険な場所に行かせるわけにはいかないし、それに…」アスタリオンはラバァルを睨みつける。「こいつに負けっぱなしというのも癪に障るからな!」

ロゼッタを守りたいという気持ちと、ラバァルへの対抗心、そして地に落ちたプライドを回復したいという思いが、彼を突き動かしたようだ。ラバァルとしては、一撃で倒した相手であり戦力としては未知数だったが、それでもAランクの肩書を持つ以上、頭数にはなるだろうと考えた。(最悪、捨て駒にしても惜しくはない人材だ)ラバァルは内心そう算段し、アスタリオンの参加も了承した。

(ラバァルはこの時知らなかったが、剣士アスタリオンはヨーデル周辺の冒険者で知らぬ者はいないほどの有名人であり、過去には難関とされるザッソン迷宮で、A+ランク指定の魔獣ヒドラ討伐隊の一員として名を馳せた実力者だったのだ。)

それから二週間。ラバァルは酒場を拠点に、他のAランク冒険者たちにも接触を試み、破格の報酬を提示することで、なんとかロゼッタ、アスタリオンを含む合計6名のAランク冒険者を確保することに成功した。しかし、生贄の迷宮の攻略に必要な戦力としては、まだ足りない。伝え聞く情報では、最低でも12名、推奨は18名のAランク冒険者が必要だという。

だが、問題は、現在のヨーデルに滞在しているAランク冒険者は、ラバァルが雇った6名で全てだということだった。これ以上人員を確保するには、ヨーデルを離れて他の都市や国で探すしかない。しかし、この猛吹雪の中、いつ見つかるとも知れない冒険者を探して時間を浪費するのは得策ではなかった。どうしたものか…ラバァルが次の手を思案していた、まさにその時だった。

いつものように酒場で仲間たちと情報交換をしていると、冒険者ギルドの紋章を付けた男が近づいてきて、ラバァルに声をかけてきた。

「失礼、あなたがラバァル殿でいらっしゃいますか?」

「そうだが、あんたは?」

「申し遅れました。私、ヨーデル冒険者ギルドにて事務を担当しております、コットンと申します」丁寧な口調だが、どこか事務的な響きがあった。

「それで、ギルドの人が俺に何の用だ?」

「はい。単刀直入に申し上げます。聞くところによりますと、ラバァル殿は生贄の迷宮へ挑むため、現在ヨーデルに滞在中のAランク冒険者の方々を雇い入れているとか」

「そうだが、それがどうした?」ラバァルは警戒心を露わにする。

「実は…大変申し上げにくいのですが、ある事情により、そのAランク冒険者の方々との契約を、こちらに譲っていただきたく、参上いたしました」

その言葉に、ラバァルの眉がぴくりと動いた。

「…なんだって? 苦労して口説き落とし、雇った冒険者たちを、譲れ、だと?」

「は、はい…。勿論、ただでとは申しません。こちら、金貨100枚を用意しております。これでどうか、冒険者の方々との契約を破棄していただけないでしょうか」コットンはおずおずと金貨の詰まった袋を差し出した。

ラバァルは鼻で笑った。

「馬鹿を言うな。先程も言ったはずだ。俺たちはどうしてもAランク冒険者の力が必要だから集めているんだ。金貨を積まれたくらいで、それを手放すわけがないだろう」

「そこを何とかお願いできませんでしょうか…」

「理由もまともに述べず、金だけ見せて譲れとは、話にならんな。これ以上話しても時間の無駄だ。とっとと帰れ」

ラバァルの冷たい拒絶に、ギルドの使者コットンは顔面蒼白になりながらも、すごすごと引き下がっていった。だが、これで話が終わったわけではなかった。

しばらくして、コットンが再び酒場に現れた。今度は、屈強で威圧的な雰囲気を纏った、いかにも歴戦の戦士といった風情の男を伴っていた。コットンはその男をラバァルの元へ案内すると、耳打ちするように説明する。

「…ベラクレス様、この方が、Aランク冒険者の方々を先に雇われたラバァル殿です」

説明を聞いたゴツイ男――ベラクレスは、ラバァルを一瞥すると、有無を言わせぬ口調で言い放つ。

「貴様がAランクどもを雇った若造か。話は聞いた。つべこべ言わず、大人しくその契約をこちらに譲り渡せ」

初対面の相手に対する、あまりにも横柄で高圧的な物言い。ラーバンナーやエルトンは、(このオッサン、ラバァル相手に何を言っているのか、分かっているのか…?)と呆れた視線を向けている。

ラバァルは、この男が酒場に入ってきた瞬間から、その尋常ならざる実力を見抜き、既に臨戦態勢に入っていた。相手の攻撃範囲を計算し、最適な位置取りを確保する。以前のラバァルであれば、正面から戦えば苦戦は免れなかったかもしれない。しかし、つい最近、ホーバットから膨大な〖魂力ウィス・アニマエ〗を取り込み、己の内に眠る存在アンラ・マンユの力の一部を覚醒させつつある今のラバァルにとっては、もはや脅威ではなかった。

「…ほう? 懲りずに、今度はもっとデカいバカを連れてきたのか?」ラバァルが挑発するように言うと、ベラクレスは即座に反応した。言葉を発する間もなく、凄まじい速度でラバァルに襲いかかる!

だが、ベラクレスが動いた瞬間、ラバァルも動いていた。いや、先に動いたはずのベラクレスよりも速く、ラバァルの体は反応し、容赦のないカウンター攻撃を相手の急所に叩き込むべく動作を開始していた。

まず、一歩鋭く踏み込み、ベラクレスの屈強な胸郭に体重を乗せた肘打ち(エルボー)を叩き込む。

「ぐぉっ!?」

予想外の衝撃にベラクレスが一瞬うずくまる。その隙を見逃さず、ラバァルは流れるような動作で跳躍。空中で身を捻りながら一回転し、その勢いを利用した強烈なオーバーヘッドキックを、胸を押さえて体勢を崩したベラクレスの後頭部に寸分違わず叩き込んだ!

ゴッ!と鈍い衝撃音と共に、軍人然としたいかつい男の巨体は、顔面から酒場の硬い床に叩きつけられた。衝撃で体が腰の高さまで跳ね上がり、そのままピクリとも動かなくなる。完全な気絶。

スタッと軽やかに着地したラバァルは、何事もなかったかのように自分の席に戻ると、テーブルに残っていたエールのジョッキを掴み、一気に飲み干した。

「…ふぅー、旨い」

その一部始終を見ていたギルドの使者コットンは、わなわなと全身を震わせ、声も出せずに立ち尽くしている。

一方、成り行きを見守っていた酒場の他の冒険者たちは、もはや驚きもしなかった。

(…やっぱり、こうなるのか)

(あの若いのには、もう誰も敵わないんじゃないか…?)

ここ最近、ラバァルたちに手を出そうとした者は、魔法剣士のロゼッタを除き、ことごとく地面に叩き伏せられてきた。そんな光景を何度も目撃してきた彼らにとって、この結果は「またか」としか思えない、ある意味で予想通りの結末だった。

床に伸びていたベラクレスは、しかし、わずか数秒で意識を取り戻した。ゆっくりと、だが確かな足取りで起き上がり、打ち付けた後頭部をさする。

「くっ…なんということだ…」

「ん? もう起きたのか。まだやる気か、おっさん?」ラバァルが挑発的に尋ねる。

「まさか…この俺が、一撃で気絶させられた、だと…?」ベラクレスは信じられないといった表情で呟いた後、ラバァルに向き直った。「…いや、もうやらん。こんな所で無用な怪我をするわけにはいかんのだ。我々には、迷宮に挑まねばならぬ使命があるのだからな」

「ほう? おっさんたちも、あの迷宮に入りたいのか?」

「そうだ。我々は【生贄の迷宮】に入り、その最下層にいるという大精霊〖ニフルヘイム〗を封印せねばならん。この忌々しい吹雪を止めるために」

その言葉に、ラバァルの表情が変わった。

「なに? 〖ニフルヘイム〗を封印だと? それに、吹雪を止めると言ったな? …その方法を知っている、ということか?」

ラバァルがベラクレスに詰め寄ろうとした、その時。酒場の扉が再び開き、新たな来訪者が現れた。ラーバンナーとエルトンが警戒してそちらに視線を向ける。ラバァルも、その人物の気配に気づき、振り向いた。

「…マルティーナ王女」

ラバァルがその名を口にすると、酒場にいた者たちが一斉に扉の方を注目した。

「へぇ、あの方がマルティーナ王女かぁ…」

「なんという美しさだ…まるで聖女様のようだ…」

様々な感嘆の声が漏れる。

しかし、入ってきたマルティーナ王女の視線は、真っ直ぐにラバァルに向けられていた。

「やはり、ラバァル様でいらっしゃいましたか。先程ギルドの方からお噂は伺っておりましたが…。しかし、どうしてラバァル様がAランク冒険者の方々をお雇いに?」

王女は、酒場に入ってくるなり、驚いた様子で尋ねてきた。

「それはこちらの台詞ですよ、王女。ここは場末の冒険者の酒場です。あなたがなぜこのような場所に? それに、俺がAランク冒険者を雇っているという話を、どうしてご存知なのですか?」

「失礼いたしました、ラバァル様。実は、そこに立っているベラクレスは、私たちが編成した迷宮攻略部隊パーティのリーダーなのです」

「なに!? こいつが…PTリーダー?」ラバァルは気絶から立ち直ったばかりのベラクレスを見やる。

「はい。ご存知かもしれませんが、先日、王家の秘宝の一つである〖永劫の冬〗が破壊され、そこに封印されていた大精霊〖フロストキング〗が解き放たれてしまいました。この終わらない吹雪は、その影響によるものです」

マルティーナは悲痛な面持ちで続ける。

「この国難に対処するため、王家としてもようやく重い腰を上げました。行方不明のフロストキングを探し出すよりも、別の強力な大精霊を新たに確保し、その力でこの異常気象を鎮める方が現実的である、という結論に至ったのです。そして、古文書の記述に基づき、生贄の迷宮の最下層にいるとされる大精霊〖ニフルヘイム〗を封印し、その力を借りることになりました。そのための攻略部隊が必要となり、Aランク冒険者の協力を得るべくヨーデルの冒険者ギルドに依頼したのですが…現在ヨーデルに滞在中のAランク冒険者は、一人残らずラバァル様に雇われてしまっている、と聞き、事情を伺いに参った次第です」

「ほう…マーブル王家も、ようやく本腰を入れたというわけか。だが、残念だがマルティーナ王女、貴女が相手であろうと、俺が雇ったAランク冒険者を手放すつもりはない」ラバァルはきっぱりと言い放つ。

「それは…どうしてなのですか、ラバァル様? 生贄の迷宮へ行くためにAランク冒険者をお雇いになっているということは、ラバァル様も、この吹雪を止めようとなさっているのでは…?」

「まあ、目的は同じ、と言っていい」

「でしたら! どうか、私たちとご一緒に、迷宮へ挑んでいただけませんか?」

「…一緒に、生贄の迷宮へ、だと?」

「はい! ラバァル様ほどの御方がご一緒なら、私、とても心強く感じます!」

マルティーナは、まるで遠足に誘うかのように、嬉しそうな表情でラバァルを見つめた。ラバァルはしばし腕を組み、考え込んだ。

(ふむ…これは思わぬ展開になったな。だが、悪くないかもしれん。現状、Aランク冒険者の数は明らかに足りない。これ以上ヨーデルで粘っても増える見込みはないし、王家と取り合いになれば、さらに時間を浪費するだけだ。目的が同じなら、協力して事に当たった方が効率は良いだろう。問題は…俺たちの本当の実力や、この吹雪を止めようとしている真の理由を探られることか。ルカナンとの繋がりが露見するのは避けたい。だが…)

ラバァルは思考を巡らせる。

(…いや、今は目の前の目的達成を優先すべきか。下手に隠し立てするより、流れに乗って協力する方が、結果的に都合が良いかもしれん。後々のことは、その時に考えればいい)

しばらくの沈黙の後、ラバァルは決断した。

「…よかろう。その提案、受け入れよう。ただし、条件がある」ラバァルはマルティーナとベラクレスを交互に見据える。「俺が雇った冒険者たち、そして俺の部下たちは、あくまで俺の指揮下にある。俺たちは誰の下にも付かんし、彼らへの指示も俺が出す。基本的には、そちらはそちらで自由に動いて構わんが、部隊全体の行動に関わるような重要な決定事項については、最終的に俺の判断に従ってもらう。…それで良いか?」

それは共同戦線というより、自身の主導権を確保するための要求だった。マルティーナは少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

「分かりました、ラバァル様。私はその条件を飲みます。…ベラクレス隊長、あなたはこの条件を受け入れられますか?」

ベラクレスは苦々しい表情を浮かべたが、ラバァルを一瞥すると、諦めたように言った。

「…致し方ありません。実際に、私はこの男に敗北しました。敗者は勝者に従うまでです」

「…というわけです、ラバァル様。あなたがお出しになった条件は、了承されました」マルティーナが安堵の表情で告げる。

「そうか、分かった。だが、共同戦線を張ったとしても、まだAランク冒険者の数が足りない。聞くところによると、最低でも12名、できれば18名は必要だということだが?」ラバァルはさらに問いかける。「それに、最も肝心な点だ。大精霊をどうやって封印するつもりなのだ? その方法を知り、実行できる者が、この中にいるのか?」

「はい、封印術の担い手については、こちらで既に対応を進めております。ですが…」マルティーナは少し言い淀む。「その方との正式な契約は、まだ完了しておりません。迷宮の最下層に到達できた場合にのみ、転移魔法で現地に現れ、封印術を行使する、という条件での暫定的な合意、と聞いております。正直なところ、その方は私たちが最下層まで辿り着けるとは信じていないご様子で…」

要するに、マーブル王家の現状や実力を信用していない、ということだろう。

「それで、その封印術師とやらは、何者なんだ?」

「リバンティン公国に籍を置く秘術師の方だと伺っております。通名を【炎帝ガーベラン】。ノース大陸でも屈指の能力を持つ、特上級秘術師だとか…」

秘術師とは、一体どんなものなのだ? まあ、今はいいか…

魔法の知識に乏しいラバァルには、「強力な炎の魔法使い」程度の認識しか持てなかったが、今はそれ以上詮索する余裕もなかった。

「Aランク冒険者の人数不足についても承知しております。ヨーデルにはもうAランクの方がいらっしゃらない以上、不足分は、マーブル軍の中から志願者を募り、補強しようと考えております」

「おいおい、待て」ラバァルは眉をひそめる。「冒険者と兵士を一緒にするのはまずいだろう。兵士は対人戦や集団戦には長けているかもしれんが、迷宮のような未知の環境や、異形の怪物との戦闘には不慣れなはずだ。それなら、まだBランクの冒険者を加える方がマシかもしれんぞ」

すると、話を聞いていたロゼッタが口を挟んだ。

「Bランクを入れるのは、おそらく無理よ。ギルドの規定で、生贄の迷宮は危険度Sランクに指定されているわ。過去にあまりにも多くの冒険者が生還できなかったため、挑戦には厳しい制限が設けられていて、原則としてAランク以上の冒険者で構成されたパーティでなければ、立ち入りが許可されないはずよ。今では半ば見捨てられた迷宮になっているわ」

「規定だと?」そんな決まりを知らなかったラバァルは、呆れたように言った。「マルティーナ王女、国が氷漬けにされて滅びかけているという時に、そんな些細な規定を守って、座して死を待つおつもりか?」

ラバァルの厳しい指摘に、マルティーナははっとした表情になり、決意を固めた。

「…おっしゃる通りです。これは国家の存亡が掛かった非常事態。ギルドと掛け合い、今回は特例として規定の除外を認めさせてきます!」

そう言うと、マルティーナはまだ震えが止まらないギルドの使者コットンと、お供のオクターブ、シャナを伴い、足早に冒険者ギルドへと向かっていった。

後に残されたラバァルは、酒場にいるB、Cランクの冒険者たちに向かって声を張り上げた。

「おい、お前ら! この状況は他人事じゃないはずだ! この終わらない吹雪を止め、自分たちの街と国を守るために、力を貸そうという者はいないのか!」

ラバァルの声が酒場中に響き渡り、全ての視線が彼に集まる。しかし、静寂の後、手を挙げる者はわずかだった。見渡すと、挙手したのは3名のみ。その内の一人は、先程ラーバンナーに一撃で倒された戦士のソドンだった。

「…なんだ、たったこれっぽっちか」ラバァルはため息をつく。「まあいい。手を挙げた3名、聞いた通りかなり危険な迷宮らしいが、本当に参加する覚悟はあるんだな?」

「おう、俺は参加するぜ! 顔はもう知ってるだろうが、Bランク戦士のソドンだ。さっきはやられたが、今度は役に立ってみせる!」ソドンが意気込む。

「俺も行く! 王族の方と一緒に冒険できるなんて、一生に一度の機会かもしれねえからな!」短躯の男が前に出る。「武器は短剣とショートボウ、ローグのティーバックだ。よろしく頼む!」

「私も参加します。S指定の迷宮なんて、こんな機会でもなければ絶対に入れないでしょうし」少し気弱そうな女性が続く。「私はボウガン使いのクレリック、アンバーです。回復魔法は初級までですが、補助魔法なら中級もいくつか使えます」

手を挙げただけあって、実力はともかく、やる気だけは十分なようだ。

「よし、分かった。お前たちの参加を認めよう。これは支度金だ、受け取れ」

ラバァルはそう言うと、懐から金貨を3枚取り出し、他の冒険者たちが見ている前で、一人一枚ずつ手渡した。こうすることで、彼らが後から怖気づいて逃げ出すことを防ぐと共に、他の冒険者たちへの無言の圧力とする。もし彼らが後で翻意して出発に加わらなければ、この酒場での居場所を失うことになるだろう。ラバァルは金貨一枚で、彼らを後戻りできない状況に追い込んだのだ。

その様子を見ていた他の冒険者たちは、「あの坊主、見た目によらず、なかなかえげつないやり方をする…」と囁き合っていた。

【二日後:出発】

準備期間を経て、生贄の迷宮攻略部隊の編成が完了した。

ラバァル隊: ラバァル、ラーバンナー、ニコル、エルトン(計4名)

王家・軍部隊: マルティーナ王女、オクターブ、シャナ、ベラクレス隊長、マーブル軍からの志願兵(屈強な者を選抜、計6名)、国家魔術師ラージン(道案内および後方支援担当)

雇用冒険者:

Aランク: ロゼッタ(魔法剣士)、アスタリオン(剣士)、他4名(双剣使い、ハンター、詩人、 騎士)

Bランク: ソドン(戦士)、ティーバック(ローグ)、アンバー(クレリック/ボウガン)

総勢24名(+荷運び用の馬数頭)の混成部隊が、生贄の迷宮を目指してヨーデルの街を出発した。

肝心の大精霊封印については、マルティーナから改めて説明があった。やはり、封印術を行使する【炎帝ガーベラン】は、部隊が自力で最下層に到達した場合にのみ、転移で現地に現れて術を行うという契約であり、それまでは一切の協力も参加もしないとのことだった。失敗する可能性が高いと見ているのか、あるいはマーブル王家への不信感の表れなのか。いずれにせよ、封印は最後の最後まで不確定要素となった。

出発の日は、あいにく吹雪が一層激しさを増していた。馬は荷運び専用となり、一行は徒歩での移動を余儀なくされる。視界は悪く、足元は滑り、吹き付ける雪片が顔を打つ。移動速度は極端に落ち、一日に進める距離はせいぜい40km程度。目的地である生贄の迷宮までは、最短でも10日以上かかる過酷な道のりが予想された。

前途多難を予感させる、厳しい船出となった。






久々の投降でしたが、読んでくれた方ありがとうございます、続きを見掛けたらまたよろしくです。  

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