マルティーナVSカイ・バーン
グラティア教信者に撲殺されるセティア信徒たち、そんな有様にとうとうマルティーナが
動き出したのだが・・・
その50
しかし、先に店から帰された従者のオクターブとシャナの二人は、マルティーナ王女が強い関心を示した男、ラバァルのことを内心良く思っていなかった。自分たちに暇を与えたマルティーナの意図とは裏腹に、二人は密かに反発心を募らせ、別の行動を取り始めていた。二人が足早に向かったのは、《夜明けの塔》だった。冷たい夜風が二人の頬を撫で、甲冑が微かに擦れる音が、静かな夜の街に響く。ここは、女神〖セティア〗を信仰する者たちの総本部であり、神の代行者と呼ばれる法王フェニックスその人が管理している神聖な場所だ。二人の目的は、その法王フェニックスに今回の事態を詳しく相談し、マルティーナの父であるカイ・バーン王に、良からぬ男と接触する王女の危険な行動を抑止してもらおうというものだった。焦燥の色を浮かべた二人の足取りは、重く、そして早かった。
二人は、《夜明けの塔》の荘厳な門をくぐり、中へと入って行く。神聖な空気が肌を刺すように感じられる。管理する神官に、法王との謁見を許可してもらうため、二人は息を呑みながら手続きを行っていた。「我々は大至急、法王様にお会いしたいのです!大切な話があるのです!」オクターブは、焦りを隠せない声で、受付の神官に訴えた.しかし
女性神官は、静かに微笑みながら答え。「しかし、法王様は、只今休憩なさっておいででございます。少しお待ちいただけませんか?もうお歳ですので、無茶はさせない様にと、枢機卿から言われておりますので。」シャナは、苛立ちを隠せない様子で、小さく舌打ちしたが、オクターブはそれを制し、「分かった。ここで待たせて貰おう。しかし、出来るだけ早くお願いしたい。」と、やや語気を強めて頼んだ。それから、二時間以上もの時間が、重く、そして長く感じられるほど、オクターブとシャナは待っていた。冷たい石の床に立ち続け、時折、不安げな視線を交わし合う。そしてようやく、許可が下りたのだ。「お待たせいたしました。法王様は、祈りの間にいらっしゃいます。お静かに、出来るだけ小さなお声でお話し下さい。」管理の女神官の案内に、二人は小さく頷き。「分かりました。」「ありがとうございます。」二人はそう言うと、神聖な空気に満ちた祈りの間へと、足を踏み入れた。
二人が近づいてくる気配を察知した法王フェニックスは、荘厳な女神像に静かに祈りを捧げながら、二人が近くまで来るのを待っていた。薄暗い祈りの間には、静寂と、微かに香る香の匂いが漂っている。「オクターブとシャナか。久しいのぉ。」法王の声は、穏やかで、深い慈愛に満ちている。「はい、法王様。ご無沙汰しております。」二人は、恭しく跪き、頭を下げた。「うむ、良く来た。それで、今回は何用かな?」法王は、優しく問いかける。「はい、実はマルティーナ王女のことで、ご相談したきことが!」オクターブは、意を決したように顔を上げ言葉を発した。「ほぉ……マルティーナ様のことで。して、どんな?」法王の目は、二人の顔をじっと見つめた。「はい、実はマルティーナ様は、市場で見掛けた、さる男に魅了されていまして……その男の話に耳を傾けてしまい、お父上であるカイ・バーン様が設けた規律に反するような行いを口に出し、是正されておられます。ここは法王様から王にお話しして頂き、マルティーナ様をお諫めして頂きたく、参上した次第であります。」オクターブは、言葉を選びながら、事の顛末を説明した。「なるほど……マルティーナ様ももう良いお年頃。精悍な男性に興味を持たれるのも、自然なことだと思うのだが。それを邪魔する権利は、誰にもない。」法王は、静かに微笑んだ。「しかしですね、法王様!もしあの男に誑かされ、王女がグラティア教の者に武力を行使されでもしたら、ロマノス帝国に付け入る隙を与えてしまいかねません!」シャナは、強い口調で反論する。「お主らは、そこまで主を信じておらぬのか?」法王の声音が、僅かに低くなった。「いや、そうではないのです法王様!胡散臭いのは、男の方なのです!」オクターブは、慌てて弁解。「ははははは!胡散臭いとは面白いのぉ。
しかしそれでも、お主らの王女は、その男性を気に入ったのだろう?王女に人を見る目が無いと言っておる様に、わしには聞こえるのだが……」法王の言葉には、深い洞察が込められていた。「いえ、そういう訳ではないのですが……とにかくその男は、市場で事が起こった所、必死で我慢なさっていたマルティーナ様に対し、『何故助けなかった』などと、ののしり、挙句の果てには、『相手は全部を奪いに来ている輩なのに、引く必要はあるのか』などと、カイ・バーン王がお決めになられたことを、辛辣に批判したのです。しかも、その考えにマルティーナ様まで、賛同を示してしまい……とにかく、あの男にこれ以上影響されてしまわれると、とても危険なのです!どうか法王様、我々の力になって下さい!この通り、なにとぞお力を……!」オクターブとシャナは、額を床に擦り付けながら、必死で法王に懇願した。その必死さに免じて、法王は静かに頷き。「まぁ、良かろう。その件を、カイ・バーン王に進言しておこう。」その言葉を聞くと、二人の従者の顔に、安堵と希望の光が差した。「有難うございます!女神セティア様のご加護があらん事を!」二人はそれから、法王と共に女神像に祈りを捧げ、三十間の祈りが終わってから、《夜明けの塔》を後にした。
大きなホールに一人残った法王フェニックスは、あまり気が進まなかったが、あそこまで必死な様子に、少しばかりの同情を覚え、手を貸すことを約束したのだ。ところが、背後に微かな気配を感じた法王が、ゆっくりと振り返ると、そこには、荘厳な女神像に光が降り注ぎ、なんと〖セティア〗神が降臨していたのだ!儀式も経ていない、まさかの降臨に、法王は目を見開いている。今回の降臨は、女神が自らの意思で降りてきたため、儀式など必要としなかったのだ。驚愕した法王は、息を呑み、女神を見つめた。
「法王フェニックス。先程の話、しかと聞いておりました。しかし、王女マルティーナの件には如何なる事情があっても関わっては成りません。彼女がミレニアの様に覚醒できるかどうか、確かめねばなりません。自然にかの者たちを見守るようにしなさい。良いですね?絶対に関与しては成りません。これはとてもデリケートな事象なのです。」直接脳に響く、神聖な声でそう告げられた法王は、女神の子として、その言葉に従う以外の選択肢は存在しなかった。この件には関わってはならない。もう一度、心の中でそう念じ、自分に言い聞かせた法王だった。
次の日、一人でカスティガトルたちを張り込んでいたシュツルムは、まだメリンダが死んだことを知らずに、アジトへ戻ってきた。重い木の扉を開けると、中に皆が揃っていたので、どうしたのかな?と首を傾げ。「あれ~?皆、張り込みはどうしたんだ?」調査の方は、朝まで頑張っていたのは俺だけなのかと、そんなことを尋ねると、教会を張り込んでいたはずのラーバンナーが、沈痛な面持ちで答えた。「メリンダが死んだ。ルーエン卿の娘を探しに行って、峠にある小屋にいたカスティガトルたちに捕まっちまったんだ。」「なんだって!メリンダが……そんな……」シュツルムは、信じられないといった表情で言葉を失った。すると、そこにラバァルもやって来て、低い声で。「言ったはずだ。一人で行動するなと。皆にも言っておく。一人で行動するのは、どうしようもない時だけにしろ。こういう、しょうもないことで命を落とすこともあるのだからな。」ラバァルが怒るのも無理はなかった。あの程度の者たちに殺されてしまったのだ。二人なら間違いなく問題なく倒せていただろう相手にだ。舐めていた、油断していた。その甘さが、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまったのだ。大体、【灰色影】に追われていることも忘れていたのではないのか?そう思えるほど、皆、気の緩んだ状態だったのだ。
「確かに、甘かった。無理やりにでもついて行くべきだったよ。」シュツルムは、後悔の念を滲ませながら呟く。「分かればいい。今更どうにもならん。しかし、同じ過ちは繰り返すな。」全員に言い聞かせるつもりで、ラバァルは言った。もちろん、皆もその言葉を肝に銘じている。「良し、皆、情報収集に戻ってくれ。時は待ってはくれんのだからな。」そう指示を出し、ラバァルはまたエルトンと、何か目的があるのか、足早に何処かへ行ってしまった。戻ってきたばかりのシュツルムは、少し仮眠を取り、留守番のニコルと共にボロ屋に残り、デサイヤは、ラーバンナーがメリンダの代わりに連れて行くことになった。
それからの二週間は、淡々と情報収集の日々が過ぎていた。ルーとマリィの二人は、セティア教の信者となり、《夜明けの塔》が立つ傍にあるセティア教、修道院で見習い修道女として活動し始めていた。目的は、セティア教内部で起こったことの詳細な情報を収集するためだ。
「マリィさん、ルーレシアさん、ここが終わったら、塔の方へ来てください。塔の玄関口の掃除をお願いしたいから。」ロメール修道長(四十七歳)からの指示が、修道院の静かな廊下に響いた。「はい、分かりました。ここを片付けたら行かせていただきます。」ルーは、落ち着いた声で返事をする。「お願いするわね。」ロメール修道長はそう言うと、忙しそうに廊下の奥へと歩いて行った。二人は主に建物内の掃除をメインに仕事をしていた。「やった!塔の中、見れるわね!」マリィは、嬉しそうにルーに囁いた。「そうね。でも、塔は大きいわ。掃除が大変そう。」ルーは、少し心配そうな表情を浮かべた。二人はようやく、塔の中を見る機会を得られそうだ。というのも、《夜明けの塔》の中に入れるのは、選ばれた僅かな者たちだけなのだ。一般の信者への開放は年に数度だけで、その他の期間は、修道女ですら掃除の時しか入れないという厳しい決まりがあった。通常は、神官級の者たちしか出入りできないことになっている。そんな塔の玄関口の辺りを二人が掃除していると、慌ただしい足音が近づき、息を切らせた神官が駆け込んできた。「すまんが、ここを空けて置いてくれ!後から人が大勢来るから!」その神官はそう言うと、返事も待たずに奥へと走って行った。
それから十分も経たないうちに、ぞろぞろと大勢の人がやって来た。二人は掃除を辞め、邪魔にならないように脇に寄り、その者たちが通り過ぎるのを静かに見守っていた。その中で、ひときわ輝きを放っている高貴な女性がいた。「ご苦労様。突然の訪問で、お掃除のお邪魔になりごめんなさいね。」その女性は、優しい微笑みを浮かべながら、二人に向かって声をかけて来たのだ。「いえ、問題ありません。どうぞお通り下さい。」ルーは、ごく普通に答える。「ありがとう。でも、見ない顔の方たちね。新しく入った方たちなのかな?」マルティーナ王女は、興味深そうに二人を見つめてきた。「ええ、最近、修道女見習いになったマリィと言います。あっちはルーレシア。」マリィは、少し恥ずかしそうに自己紹介をした。「そう。マリィさんにルーレシアさん、ご苦労様。それじゃあ、宜しくお願いします。」そう言って、王女の一団は奥へと入って行った。
「なんだろ、あの人たち?」マリィは、ルーに顔を寄せ、小声で尋ねた。「見た感じでは、かなり高貴な方たちだったわね。」ルーも、同じように小声で答えた。そう話していると、ロメール修道長が慌ててやって来て、「二人共、ごめんなさい!突然、王家の方々がいらっしゃるとは思わなくて、ビックリしたでしょう?」と、申し訳なさそうに言った。「いえ、ご苦労様と、お声を掛けて頂きました。」ルーが答えると、修道長は安堵の表情を浮かべ。「それは、マルティーナ様ね。この国の王女様よ。」「そうだったんですか!高貴な方とは思いましたが、王女様だったんですね。とても気さくな方で、輝いてましたよ。」マリィは、目をキラキラさせながら言う。「そう。良かった。マルティーナ様がいらっしゃってたなら、問題なかったわね。でも、油断しないでね。特に第一王子のモーブ様は、恐ろしいお方なので。」ロメール修道長は、真剣な表情で二人を戒めた。「分かりました、ロメール修道長。教えて頂き、ありがとうございます。」ルーは、真剣な眼差しで頷いている。「当然のことよ。何かあってからでは遅いのだから。さぁ、今日はここはもう良いから、戻って休んでなさい。また明日、お願いするわね。」「はい、では部屋へ戻ります。」二人はそう言うと、修道院の奥へと歩いて行った。
《夜明けの塔》祈りの間。神聖な静寂が空間を満たしている。ここへやって来たのは、マーブル王家、長男モーブ。そして、長女マルティーナ。さらに、国家の重鎮であるアレック大将、ヘルナンデス将軍、ガウェイン将軍、ベロニカ将軍と、それぞれの副将たち。マーブル新皇国の【力】、軍を率いる幹部たちが、一堂に会していた。彼らの目的は、法王に、今、軍を動かして良いかどうか、女神〖セティア〗に許可してもらうためだった。というのも、父カイ・バーンは、如何なる理由があろうとも、グラティア教信者への攻撃はならんの一点張りで、今回の、多くのセティア教徒が撲殺された惨劇に対し、軍側として何もしなければ、セティア教徒の信頼を失ってしまうとの強い危機感があった。そのため、父抜きで行動するため、長男モーブとマルティーナが手を組み、法王フェニックスを味方に引き入れ、女神の許しを得て、正当な権利として戦いを起こそうと、この神聖な場所へとやって来たのだ。
事の発端は、二週間ほど前のことだった。グラティア教徒たちのアジトの一つ、峠にある小屋が何者かに襲撃され、そこにいた十二名のカスティガトルが皆、忽然と姿を消してしまったのだ。そして、その者たちに指示を出していた、ダイソン神父という神父が、聖堂の中で、旗に使われていたと思われる棒を尻の穴から首筋まで貫かれた形で、グラティア神像の胸に突き刺さった無残な姿で見つかった。それを知ったレニー大司教は激怒し、直々に指示を出すことにした。「ここヨーデルで、我らグラティア神に仕える者たちが殺されたことは、全てマーブル新皇国及び、セティア教徒の責任にあたる!よって、これより報復を開始する!手始めに、セティア教徒たちの集まる場所へ行き、そこにいるセティア信者共を殺して回るのだ!良いか!一切、容赦してはならん!これは、我々に手を出せばどうなるか、見せしめでもあるのだ!」このようなことがきっかけで、各地にあるセティア教、信徒たちが集まる集会場や、セティア教徒が多い市場などが、グラティア教、カスティガトルたち等、武闘派の者たちにより頻繁に襲撃されるようになった。ヨーデル内の一部では、セティア信者たちの死体が地面に転がると言う、目を覆うばかりの惨状となっていた。それでも兵士を派遣せず、ただ見ているだけの父カイ・バーンに、とうとうマルティーナが動き出した。軍の主力将軍たちと意思を合わせ、アレック大将を説得し、将軍たちと共に、兄モーブを味方に引き入れ、とうとう法王をも味方に引き込むべく、《夜明けの塔》へとやって来たという訳だ。
ところが、祈りの間にやって来ると、先に来ていた父王カイ・バーン、そしてハウゼン宰相、デバッグ元帥、法王が揃い、マルティーナたちが来るのを静かに待っていた。「そなたら、王に黙り、如何なる用で、法王殿に会いに来た!」意気込んで乗り込んできたマルティーナたちは、いきなり出鼻を挫かれた形となった。マルティーナは、強い口調で父に訴えた。「父上!ヨーデルのセティア信者たちが殺されているのです!もう我慢している時は過ぎました!兵士を使って、ヨーデルからグラティア教、信者たちを一掃します!」カイ・バーン王は、娘の言葉を冷たい視線で一瞥し、重々しく言った。「一時の感情で判断を誤るな。これは王の方針なのだ。お前達は、王の言う事が聞けぬと言うのか!」すると、長男モーブが、意を決したように口を開き。「ですが父上!これ以上何もせぬのなら、兵士たちの上層部に対する忠誠心はガタガタになり、軍は維持できなくなります!もし、このような時にラガン王国に攻められでもしたなら、簡単に総崩れになってしまいましょう!」
カイ・バーン王は、モーブの言葉に眉をひそめ。「何を言うモーブ!たかが数百人の信者が殺されたくらいで、勝てない戦争を始めようとは!それに、この程度のことで、お前達は兵士たちの忠誠心を失うほどの統率力しか持たぬのか!」王にそう言われた将軍たちは皆、押し黙り、視線を床に落とす。
「何度も言わせるな!今、ロマノス帝国と事を構えることは、結果、この国に未来はなくなることを意味するのだ!自分たちで、そのスイッチを押す覚悟はできているのか!」すると、すかさずマルティーナが、強い眼差しで父を見据え言った。「もう十分です父上!私たちには覚悟があります!グラティア教徒たちは、全てを奪いに来ているんです!先延ばしにするほど、我々の立場は苦しくなって行くだけです!やるしかないのです!ここにいる者たち全員、覚悟はできております!」マルティーナの迫力は、父カイ・バーンにも引けを取らないほどの威力があった。その強い決意に押し切られるように、父王は重い口を開き。「分かった、マルティーナ。お前達に覚悟があるのなら、わしはもう邪魔はせぬ。モーブ。」「なんですか父上。」モーブは、緊張した面持ちで答える。「只今から、この国、マーブル新皇国の王はお前だ。その他の皆にも伝える。たった今から、マーブル王はモーブとする。」そう言われ、モーブは驚愕の表情を浮かべた。「あ、ありがとうございます父上……突然のことで、驚きました。」「うむ。さぁモーブ、お前は王になったのだ。それでもマルティーナと共に、ロマノス帝国と戦う覚悟はあるか?」王になった直後、元王カイ・バーンにそう聞かれた新王モーブは、激しく動揺し、頭の中で必死に思考を巡らせ始めた。「う……う……それは……少し考える時間が必要です。」その言葉を聞いたマルティーナは、信じられないといった表情で兄を見つめ。「兄上!何をおっしゃられているのですか!しっかり話し合って決めたではございませんか!」モーブは、妹の言葉に狼狽した様子で答える。「すまんマルティーナ。それは、王になる前の話だ。しかし今は、私は王となった。だから、少し待ってくれ。頭の中を整理したい。」そんなことを言い始めたモーブに、他の重鎮たちも、勢いを削がれてしまい、落胆の色を隠せない。「そんな……皆どうかしている!現在も何処かで、セティア教徒たちが被害に遭っているかもしれないというのに!助けもせずに、また考えるですって!国がボロボロにされるまで、ず~っと考え続けていると良いわ!信じられない!ここまでのことを起こされ、まだ考えるなんて……」それでも待てと言うモーブに、皆も逆らえず、結局、重苦しい沈黙の中、一人、また一人と祈りの間から帰って行った。マルティーナは、怒りのあまり従者も連れず、王宮から飛び出すように走り出し、町の外れにあると聞いていたラバァルがいる、ボロい倉庫へと、一人向かって行ってしまった。冷たい夜風が、彼女の怒りをさらに煽るように吹き付けていた。
最後まで読んでくれありがとう。




