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少年達と鉱山 その2

前回の続きとなり、ロスコフの少年時代の話です。

坑道を進むロスコフ達は、化け物と遭遇しました、

果たしてタンガ、スペアー、ロスコフの3名はどうなってしまうのか!   

 

         その5



ロスコフたちが鉱山の地下深くで、怪物のモグラに襲われているとは知らず、祖父のフォルクスたちは研究室で実験の準備を進めていた。実験台に設置されたモビリティアームの先端には、巨大な魔晶石が固定されている。これから、

秘術師【氷門(アイスゲートのエクレア)】にマジックレーザーを照射してもらい、魔晶石の中を通過するレーザーが、蓄えられた濃縮マナによってどのような影響を受け、外に出てくるのかを観測しようとしていたのだ。


「よし、エクレアよ。準備ができたら発射してくれんか。」


「威力はどうするのさ?」


「まずは弱めから頼む。」


「あいよ。あたしゃあいつでもいいよ。」


(【氷門(アイスゲートのエクレア)】本名エクレア・サワー。彼女はフォルクスの伯爵時代、ワーレン伯爵直属の暗部を率いていた秘術師だ。その存在は秘匿され、表の世界には姿を現さなかった。領内に侵入する密偵を把握し、問題があると判断した相手を闇に葬ってきた。普段は穏やかな顔をしているが、その実、恐るべき実力者である。)


フォルクスが合図を送り、エクレアが印を結ぼうとした時、ロウ爺さんが待ったをかけた。


「ちょっと待ってくれ。儂の準備がまだじゃ。」


「おいおい、ロウよ。【守護(ガーディアン・ロウ)】も、もう錆びついてしまったのか?」


「わっはっは。少し待て、二人とも。今準備しておるのだから。」


(ロウ爺さんの本名はロウ・ケンブリッジ。伯爵時代、フォルクスの腹心であり、切り札と称された魔術師だ。職種はウィザードで、得意な魔法は防御魔法である。あらゆる攻撃から仲間を守る範囲防御、移動しながら一部分を防御する魔法、攻撃を一定の割合で反射するリフレクターシールド、装甲を魔法の膜で覆い強化するプロテクターシールドなど、状況に応じて様々な防御魔法を使いこなすことから、

守護(ガーディアン・ロウ)】と呼ばれている。)


「よっしゃ、準備ができたぞ。」


ロウ爺さんはそう声を上げ、【スクトゥム・マジクム×II】【プロテクター・マジクム】を発動し、フォルクスとエクレアに個別のマジックシールドを張った。そして、自身にもマジックアーマーをかけた。これで、魔法系の爆発が起きたとしても、ダメージは大幅に軽減されるだろう。


エクレアは、フォルクスたちにマジックシールドがかかったことを確認してから、マジックレーザーの秘術紋を完成させた。


"sigil"


【パーナス・ルクス・インシネランス】


紋章が浮かび上がると同時に、一発のレーザーが発射されたのだ。


ジュッ!


発射と同時に魔晶石を貫通し、背後に用意された厚い鋼板に穴が開いた。


「おお。」


「なんじゃ、もう終わりか?」


ロウ爺さんは、何かが起こることを期待していたのか、あっさりと魔晶石を貫いたレーザーに落胆した様子を見せた。


マジックレーザーを使ったエクレアも、もう終わりなのかと動き出そうとしたが、フォルクスが制止した。


「待て、エクレア。そこから動いてはいかん。そのまま同じ場所にいてくれ。」


エクレアは黙って頷いた。


「いや、そうではないロウ。結果はこれから調べないと分からん。とりあえず、今度は魔晶石を通さずに鋼板を撃ってくれんか。全く同じ場所から、同じ威力で頼む、エクレア。」


フォルクスの指示に従い、エクレアは再び鋼板を撃った。


"sigil"


【パーナス・ルクス・インシネランス】


ジュッ!


再び鋼板に穴が開いた。


「よし、ご苦労二人とも。一旦、休憩していてくれ。」


フォルクスは二人にそう言い、早速鋼板の穴を見比べ、丹念に調べ始めた。


……


一方、坑道深くで怪物のモグラに襲われていたロスコフたちは、カンテラの燃料を補充することができず、先に燃料が切れてしまった。最後に残ったのは、タンガのカンテラの灯だけだ。


この辺りの坑道は、人の出入りが少なくなっていたためか、石炭ランプの明かりは消されていたのだ。普段なら火を付ければ明かりを灯せるが、今は怪物の襲撃を受けているため、そんな余裕はなく、点ける事が出来ない。


ロスコフとスペアーのカンテラは既に消えている。


暗闇の中、三匹の怪物のモグラと戦っているのは、タンガとスペアーの二人だ。二人は、魔晶石を掘るために携帯していたピッケルを武器に戦っていた。


子供の力ではツルハシは重すぎて扱いにくいため、鍛冶屋に頼んで子供でも使えるピッケルを作ってもらい、それを携帯していたのだ。それが今、命を救うことに繋がっていた。


ピッケルで怪物のモグラの腹を突き刺したのはタンガだ。勇敢に戦っていたのだが、二体の怪物を引き付けていたため、ダメージを与えたモグラに追撃をかけることができなかった。獰猛なもう一体のモグラがタンガに噛みついてくる。その攻撃を避けるだけで精一杯で、スペアーの助けに行こうとするタンガの表情には焦りが浮かんでいた。


「ちっ、スペアー、待ってろよ。すぐに行ってやるから、それまで耐えてくれ。」


そう願うしかなかった。


もう一体の怪物と戦っていたのはスペアーだ。一番幼かったが、身軽さでは一番だった。狭い坑道の中で、なんとか攻撃を躱し、逃げ回りながら怪物を引き付けてくれていた。ロスコフとタンガは、スペアーに助けられていたのだ。


しかし、それも長くは続かなかった。スペアーが暗い坑道の中で、地面から突き出た突起物に足を引っ掛け、転倒してしまったのだ。


「いでぇ!」


「あっ!」


暗闇の中、必死に見ていたロスコフが声を上げた。


その瞬間、スペアーの腹を怪物の口が噛み砕き、引き裂いたのだ!


「あ~~あわああああわわ……なん……。」


声にならない!ロスコフは、目の前で起こったことに衝撃を受け、思考が停止した。全身が震え出し、意識が飛び、言葉さえ忘れてしまった。


それでも、目からは涙が溢れ、飛び散る内臓と血、引き裂かれたスペアーの体から目を離すことができなく、茫然と見ていた。


攻撃を避けながら戦っていたタンガは、二人から少し離れた場所に移動していたため、スペアーが噛み殺されたことにまだ気づいていない。


腹を鋭い牙で噛み切られ、上半身と分離したスペアーの下半身を口にくわえた怪物は、獲物を得たからか、そのまま逃げていったのだ。


地面に横たわる上半身のスペアーの瞳には、もう光はなかった。噛み千切られたショックで即死していたのだ。




ほんのわずかな時間の後だったが、ロスコフには、まるで永遠にも思えるような時間が過ぎ去ったように感じられた。意識が徐々に現実へと引き戻され、思考が追いついてくると、目の前に広がる信じがたい光景を理解してしまった。


「うぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!」


ロスコフは、言葉にならない叫び声を上げた。その慟哭は、必死に戦うタンガの耳にも届いた。


タンガも叫んだ。


「待ってろぉ!すぐこっちを片付けるから!」


タンガは、精一杯声を張り上げ、自身を鼓舞するように叫んだ。そして、狂暴な怪物モグラに渾身の攻撃を叩き込んだ。


「オラァ!てめぇなんかに殺されてたまるかよぉ!」


タンガは、必死にピッケルを振り回し、怪物モグラに攻撃を加えようとした。しかし、硬い岩盤さえも掘り進む怪物モグラの強靭な腕に阻まれ、ピッケルの攻撃は弾かれてしまう。


焦燥感に駆られたタンガは、連続して大振りをした。その結果、疲労が蓄積し、腕の振りが遅れ始め、重くなった足とのバランスが崩れ始めている。


怪物モグラは、タンガの動きを見切ったのか、体勢を崩したタンガに向かって、剥き出しの牙を突き立てようと口を大きく開けた。鋭い牙が、タンガに襲い掛かる!


ガシッ!


剥き出しの牙が迫る中、タンガは間一髪でその攻撃に気づき、必死に横へ飛びのき、地面を転がりながら攻撃を回避した。


間一髪だった。怪物の口は、ほんのわずかな差で空を噛み砕いた。


「ひぃ~、あぶねぇ……」


タンガは、なんとか立ち上がり、再び怪物モグラと対峙した。その時、先ほどタンガがピッケルで一撃を与え、逃げていったはずの別の怪物モグラが戻ってきて、タンガに狙いを定め、突進してきたのだ!


「ぐぇ~!」


連続攻撃に息つく暇もなく追い込まれたタンガは、もはや持ちこたえることができなかった。


「ダメ……」


回避行動を取ろうとしたが、体の反応が遅すぎる。タンガの思考は、もはや間に合わないと判断していた。


「くっ……」


その時だった。


先ほど大声を上げたロスコフに、異変が起こっていた。


ありえない悲惨な状況を脳が認識した直後、ロスコフの精神はオーバーヒートし、識別できる周囲は白く染まり、360度すべてが消失し、思考も停止した。


そして、突然ロスコフの体が淡い光を放ち始めた。


すると、今まで気づかれずに埋もれていた小粒のマナ結晶石も光を放ち始め、宙に浮かび始める。


さらに、それに呼応するかのように、周囲に埋もれていた魔晶石までもが輝き始め、坑道内の硬い地面や壁を割り、自ら姿を現し始めた。


そして、奇跡が起こった!


タンガを襲う怪物モグラの足元の地面から、突然尖った岩が突き出てきたのだ。


タンガを食らおうと夢中になっていた怪物モグラは、下から勢いよく突き出てきた尖った岩に足を貫かれ、悲鳴を上げたのだ。


「ギえぇぇぇ!」


足を串刺しにされ、身動きが取れなくなった怪物モグラは、悲鳴を上げながらのたうち回り、自分の足を引きちぎろうと必死にもがいている。


「ギィィィー!」「ギェー!キッキーーーー!」


振動とともに地中や壁が割れ、輝く魔晶石が姿を現した。一本のカンテラの明かりしかなかった坑道が、様々な色の輝きで満たされ、坑道内は一変し、遠くまで見えるようになっている。


タンガは、暴れまわる怪物モグラがなぜこうなったのか、理解できなかった。しかし、確かに地面から突き出た尖った岩に貫かれ、大量の血を流し、こちらへ来られない状態になっている。


「こいつはもう攻撃してこないだろう。」


そう判断したタンガは、尖った岩に突き刺された怪物モグラから視線を外し、二人の様子を確認した。


すると、宙に浮かぶ人型の光を捉え。


「なんだ?」


視線を集中させ、よく見ると、それは立ったまま空中に浮かぶロスコフだと分かった。


「ロスコフ様、なんだよこれ?」


声をかけたが、返事はない。意識がないのか?


淡い光を放つロスコフに驚いたタンガだったが、意識をそこから離し、スペアーの方へと向けた。


スペアーのことが心配だったのだ。ロスコフから目を離し、スペアーの様子を探し始める。



最後まで読まれた方、ありがとうございます、また続きを見かけたら読んでみて下さい。

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