ヨーデルでの調査 その3
怒りの感情を抑制する事無く、表に出し始めたラバァル、
そんなラバァルを見て仲間達は・・・
その49
暖炉の傍で、パチパチと薪の爆ぜる音を小さく響かせながら寛いでいたルーとニコル、それにデサイヤ。静かな寝息を立てていたエルトンとマリィも、突然のラバァルの言葉に、ハッと息を呑み、一斉にその鋭い視線を向けた。
ラバァルの顔には、これまで見たことのないほどの怒りの形相が浮かび上がっていた。その只ならぬ雰囲気に、居合わせた者たちは瞬時に悟ると、無言のまま、臨戦態勢へと移行。武器を手に取る者、身構える者、それぞれの動きには一切の迷いがなかった。「ラーバンナーの所からだ。」ラバァルの低い声が、静かな部屋に重く響く。「メリンダがどこで張り込んでいたのか、聞く必要がある。」ラバァルがそう言うと、皆は固く頷き、まるでやった事があるかのように、一斉に動き出した。
一方、ラーバンナーは、冷たい夜風が吹き付ける中、依然として黙々と教会の様子を見張っていた。深夜にも関わらず、教会の扉が開閉する音が時折聞こえ、ポツリ、ポツリと人影がやって来ては、静かに中へと吸い込まれていく。彼らが何をしているのか、ラーバンナーにはまだ見当もつかない。今はただ、出入りする者たちの中から、特に警戒すべき人物を洗い出すという、地道な作業を続けている段階だった。そんな静寂を破り、背後から複数の足音が近づいてくるのに気づくと。スタッ……スタッ……スタッ……スタッ……スタッ……スタッ。皆がやって来たことに気づいたラーバンナーは、驚きと戸惑いの表情を浮かべながら、声をかけた。「ど、どうしましたラバァル?こんな真夜中に皆で?」
「メリンダが死んだ。」ラバァルの声は、氷のように冷たかった。「ラーバンナー、メリンダの行き先は何処だ?」その言葉に、ラーバンナーは息を呑んだ。「なんですって!」信じられないといった表情で、ラバァルを見返す。「お前、もしかして知らんのか?」ラバァルは、抑えきれない怒りのエネルギーを全身から放っていた。その強烈な圧に、ラーバンナーは正面から目を合わせることができず、俯いたまま、震える声で話し始める。「いえ……メリンダなら、ルーエン卿の娘を探してくると言って、偵察に……」「それは何処だ?」「そこまでは分かりません。メリンダの話では、その娘が攫われ、それを盾にしてルーエン卿はグラティア教の神父に脅されて、何かさせられているそうでして……娘を助け出す契約をルーエン卿と結んだらしく、先ずは何処に攫われ囚われているのか、探し出してくると言って行ってしまったので……」「今更だが、何故一人で行動させていた!俺は、三名で行動させる為にお前達を組ませたのだぞ!」ラバァルの声は、怒りで僅かに震えていた。「すみません……俺の指示する前に勝手に行動されてしまい……でも、まぁ、自主的にやるのもいいかと思い、そのままにしてしまいました……ただ、無茶はするなと釘を刺しておいたのですが……」「仕方ない。」ラバァルは、深くため息をついた。「こうなってしまっては、何を言っても手遅れだ。では、その娘の居所を探すことから始めよう。今はここは良い。お前も手伝え。」「分かった。」ラーバンナーは、重い足取りでラバァルの後を追った。
二名一組に別れ、メリンダの残した僅かな足取りを追って回る。冷たい夜風が、雪に覆われた地面を吹き抜けていく。
その日の明け方、探し始めて四時間が過ぎた頃、ラバァルたちが辿り着いたのは、ヨーデルの東にそびえる寒々とした峠だった。遠くに見える粗末な小屋を、一行は静かに見つめていた。「あれだな。」ラバァルの低い声が、吐く息で白く染まった。「はい。メリンダが向かったのは、あそこだと思います。」ラーバンナーが、確信を持てない様子で答えた。「確かに、いかにもって感じだな。」エルトンが、周囲の警戒を怠らずに呟く。「周囲を固めろ。一人も逃すな。」ラバァルの冷たい声が、その場の空気を凍らせる。「ラーバンナーとエルトンは、中の者達をここへ連れて来い。」「了解。」二人は、無言で頷き、小屋へと近づいていく。
ラバァルは、静かに、そして深く決意していた。一人残らず殺す。自分に関わる者を殺した者は、そいつに関わる者たち全て殺す。そこに一片の人間性も無く、ただの標的として捉えている。
五分後、小屋の中から、怯えた表情のカスティガトルたち八名と共に、一人の若い女性が引きずり出されてきた。五センチほどの雪が積もった地面に、彼ら全員を座らせると、ラバァルは冷たい眼差しで一人ずつ見据えながら喋り始めた。「さて、お前達の命はもうない。」ラバァルの声は、静かだが、その底には絶対的な力が宿っていた。「何を言っても無駄だ。お前達はもう終わりだが、最後に質問には答えて貰う。分かりやすく答えた者には、他より楽な死を与えてやる。メリンダの死体は何処にある?そして、どう殺した?」ラバァルの問いに、カスティガトルの一人が、恐怖に顔を歪ませながら答える。「違うんだ!俺はやってねぇ!信じてくれ!やってねぇんだ!」「何をやっていない?」「女だ!何人もの仲間を殺しやがった!やっとの事で捕えたんだ!」「ふむ、続けろ。」ラバァルの声には、一切の感情がこもっていなかった。「だから、その……しっかり教えてやる事になって……」「何をだ?」「あれは、教育なんだ!あれは……」「だから、あれとは何だ!はっきり言わないと、もうお前は殺して、次の奴に聞くぞ!」ラバァルの言葉には、容赦がなかった。「あう……裸に剥いた……それから、順番に回して……」「ほぉ……俺の大事な部下を回したんだな。」ラバァルの声は、さらに低くなった。「あいや……それは男として、仕方なく……」「それからどうした!さっさと全部言え!もう待てんぞ!」しかし、その男は、その後の事をはっきりと言えず、のらりくらりとした言い回しを始めた。すると、ラバァルは躊躇なく、男の片目を指で抉り出した。ぎゃあ~!ううう……更にもう一方の目にも指を突き入れ、眼球を取り出した。ぐぎゃあ~~!それを座って見ていた者たちは、恐怖で全身を震わせ始める。
「待ってくれ!ダイソンだ!ダイソン神父の指示で、俺達はその小娘を攫い、ここに監禁してたんだ!あの女は、その娘を取り戻しにやって来て死んだんだ!そうだ!奴だ!奴が全部悪い!ダイソン神父なんだよ!」別のカスティガトルが、必死に訴える。「分かった。」ラバァルは、冷酷な眼差しで言った。「ダイソン神父とやらには、お前達以上の責任を取ってもらう。だが、その前にお前等だ。こんなのは序の口だぞ。これから、お前達は自分たちから殺してくれと言うまで、甚振り殺す。」凄まじく残忍な顔つきを見せるラバァルは、まるで別人のようになっていた。その姿は、【深淵山羊】の者たちにさえ、異様な光景として映った。すると、一人の男が、震える声で釈明して来た。「待ってくれ!話を、話をさせてくれ!」一人が言い出すと、他の者も雪崩を打って、話したいと言い始め、どの様にメリンダを殺したのか、競うように声を挙げ語ったのだ。「崖に突き落としただと……」ラバァルが張り上げた声を聞いた部下たちが、一斉に崖の下へと向かって走り出す。残ったのは、地面に座らされたカスティガトルたちと、そこにいた怯えた様子の娘、そしてラバァルだけだった。それまで座らされていたカスティガトルたちは、今がチャンスだとばかりに、立ち上がろうとする。すると、まるで見えない強大な力で、上から抑え込まれたかの様に、再び地面に座らされてしまった。
「馬鹿どもが。最初に言ったな。お前達はもう終わってると。」ラバァルの声は、静かだが、その言葉には、絶対的な支配力が宿っていた。「さて、そろそろ本気でお前達を甚振り殺してやろう。」そう言うと、ラバァルはゆっくりと立ち上がり、一人のカスティガトルの皮を剥ぎ始めた。うぎゃあ~~!そして、その男の体を、両手に握ったナイフで薄く、細かく斬り刻んでやる。さらに、容赦なく蹴りを入れる。「まだまだだ。こんなもんでは、メリンダは浮かばれん。」そう言うと、ラバァルは全身から、赤黒い闘気ゼメスアフェフチャマを噴出させた。その赤黒く透けた煙のようなオーラが周囲を覆うと、座らされていたカスティガトルたち全員が、その中に包まれていた。その中で、どのような拷問がなされたのかは定かではない。しかし、赤黒い闘気ゼメスアフェフチャマが晴れ、周囲が見えてくると、そこには、もう包み込まれた者たちの痕跡は跡形もなくなってしまっていて、灰しか残されてはいなかったのだ。全員を灰に変えたラバァルは、残された娘に冷たい視線を向け、話を聞き始めた。
「お前が、ルーエン卿の娘か?」娘は恐怖のあまり、声が出ない。ただ、小さくコクリと頷く。「お前の為に、大事な部下を一人死なせてしまった。お前に責任はないが、文句は言わせてもらう。」メリンダの死体を見つけた部下たちが、メリンダを抱え、崖の下から上がってきて、ラバァルの元へ戻ってきた。死んだメリンダの変わり果てた姿を見たラバァルは、静かに言う。「残念だが、もう手遅れだ。戻って、埋葬してやろう。」「はい。」部下たちは、悲しみを押し殺した声で答える。
しかしラバァルは、「その前に、ダイソン神父だ。その神父が、今回の元凶らしい。そいつには、俺が直接地獄を見せてやる。」ラバァルは、部下たちにメリンダの遺体とその娘を連れ、アジトへ戻れと指示を出し、自らは、深い憎しみを込めて、ダイソン神父を探しに、夜の闇の中へと消えていった。そして次の日、ダイソン神父は、手足を千切られ、目玉をくりぬかれ、尻の穴から旗に使用されていた棒で串刺しにされた状態で、グラティア教、聖堂にそびえ立つグラティア神の巨大な像に、無残にも突き刺さった状態で発見される事と成っていた。体には、血文字で「ゆるしてください」という言葉が彫られ、その顔は、凄まじい恐怖に歪み、硬直したまま死んでいたという……
昨日の昼過ぎのことだ。ラバァルはエルトンと共に、さるお方という者からの指定通り、ヨーデルにある、一際目立つ高級服の仕立て屋へとやって来ていた。時刻はまだ三時ではなく、二時を過ぎたばかりだ。
やって来たラバァルたちは、外から、見るからに上質な生地が飾られた、高級そうな衣服店を静かに眺めていた。「やれやれ、こんな高そうな店か。やはり、どこぞの身分の高い奴が、興味本位で話を聞きたいというところだな。大した話にはならんだろう。」指定された場所を見て感じた最初のイメージは、そんなものだった。ラバァルたちが店の前で待っていると、見覚えのある顔が近づいてきた。見ると、女二名と、昨日市場で出会った剣士だ。剣士はラバァルたちを視認すると、すぐに駆け寄ってきた。「お待ちになられましたか。」剣士は、丁寧な言葉遣いで話しかけてきた。「いや、色々見学できて良かったですよ。」ラバァルは、そっけなく答える。「そうですか。それでは、彼方の方が今回、お話を希望されたマルティーナ様です。」剣士は、奥に控えていた、上品な雰囲気の女性を指し示す。
「ふ~ん、それで?」ラバァルが、相変わらずそっけない態度でそう言うと、近づいてきた女性が、優雅な微笑みを浮かべながら。「初めまして。今回、突然の申し出をお受け下さり、感謝しております。さぁ、ここでは何ですので、中へ入ってください。中の者には、私の方から準備をさせております。」そう言うと、ラバァルたちは、やって来た三名と共に、高級仕立て屋の店へと入って行った。中へ入ると、店のオーナーと共に、店長、そして店の店員たちが、まるで客を迎えるように、整然と並んで待っていたのだ。
「いらっしゃいませ。本日は、王女様の御依頼で貸し切りとなっております。御要望に応え、食事の用意もさせて頂いておりますので、さぁ、奥へ。こちらです。」そう言うと、店長が先導し、奥に用意してある、豪華な食事が並べられたテーブルへと誘導された。「ここは仕立て屋だったよな……」ラバァルは、周囲を見渡しながら呟いた。そこは、どこから見ても高級レストランそのもので、落ち着いた雰囲気が漂う、洗練された空間に成っていた。流れてくる音楽も上品で、この店が、上流階級の者だけを相手にしている店だということが、すぐに理解できた。席に着くと、ラバァルの正面に座っていた女性が、ゆっくりと立ち上がり。「それでは、改めてまして、本日は私の招待をお受け下さり、感謝しております。私、マーブル新皇国第一王女マルティーナと申します。」マルティーナは、深々と頭を下げた。「昨日遭遇いたしました、市場での英雄的行為に、私、とても感激しており、今回、あなた様にお会いしたく、このような機会を設けさせていただきました。今日は、ざっくばらんに、あなた様のお話をお聞かせいただければと思っております。食事の方も、遠慮なさらず、好きなだけお召し上がりください。」「俺の話……そんなことより、この国の王女様ともあろうお方が、市場であのように無頼漢に民が痛めつけられていたのを見て、黙って見ていただけだと!」ラバァルは、開口一番、遠慮のない言葉で王女を問い詰める。予想外の厳しい言葉に、マルティーナは一瞬、顔を曇らせた。その言葉に、二人の従者が慌てて立ち上がり、「その問いは、おやめ下さらぬか!」と声を上げたが、マルティーナは静かに二人を制して。
「良いのです、オクターブ、シャナ、控えなさい。」そして、ラバァルに向き直り、静かに語り始めた。「現在、マーブル新皇国の置かれている立場は、南西からラガン王国に突き上げられ、何時攻めて来られるか、非常に危険な状態となっております。そこに、北西からロマノス帝国による圧力が掛かっているのです。勿論、ロマノス帝国との間には、神聖モナーク王国や、プレアデス同盟も存在しますが、現在、ロマノス帝国はグラティア教を多くの国へ送り込み、布教活動という国民への洗脳行為で、他国を支配しようと動いているのです。その両方同時に対処するには、マーブルは国力不足で現実的ではありません。出来れば、ロマノス帝国との揉め事は先延ばしにしたいとの、国の意向があるのです。」マルティーナの説明を聞きながら、ラバァルは出されたばかりのステーキに銀のフォークを突き刺し、強引にかぶりつき、ムシャムシャと咀嚼し、ごくりと飲み込むと、無関心な声で言った。「それで。」話は聞いている、それで、と言われたマルティーナは、少し戸惑った表情を浮かべながら、「それで……あの、だから……」「だから、動けなかったと?」ラバァルの言葉には、僅かな嘲りの色が滲んでいた。「はい。私の勝手な行動で、国が滅びるようなことでもなれば、責任を取れませんから……」「ふ~ん……そんなことでは、この国も、グラティア教に乗っ取られるのも、時間の問題だな。」ずばりと言い放ったラバァルの言葉に、マルティーナはハッとした表情で顔を上げた。「あなたは、この国がグラティア教に蹂躙されると言うのですか!」ラバァルの言葉には、確信があった。「そうだ。あんたらは甘い。本物の悪は、引くと幾らでも押してくる。間違った判断だと気づいた時には、奥まで入り込まれた後になり、何も出来ず、全てを奪われている。」「そんな……私達が手を出さないことが、逆に相手を強くしていると、あなたは言いたいのですか?」マルティーナの声には、焦りの色が滲んでいた。「まぁ、概ねその通りだが、相手は元から全部奪いに来てるんだ。何故そんな相手に引く必要がある?それは先延ばしにして、状況が悪くなるのを待っているだけだろ。」マルティーナは、この言葉に、まるで頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けたりだ。
そして、小さく呟き。「うう……確かに、あなたの言う通りだと、私も思います。父の言葉が間違っていると、私も初めてそう思いました。」王女から出たその言葉を聞いた二人の従者は、驚愕の表情で声を上げる。「マルティーナ様!カイ・バーン王のお言葉に対して、そのようなことを!」「そうです!この男の言葉に迷わされてはなりません!え~い、しれものがぁ!」マルティーナの従者の一人、シャナが、怒りに顔を赤らめ、ラバァルに掴みかかろうと動き出した。その瞬間、すかさずエルトンが立ち塞がり、「おっと。この席は動くな。死ぬぞ。」と冷たい声で言い、シャナの喉元に鋭い短剣を突きつけた。「お待ちください!」マルティーナは、激怒した顔を見せ、従者たちを制した。「従者の度重なる無礼、お恥ずかしい限りです。二人共、この場から立ち去りなさい。今日はもう非番とします。」激昂したマルティーナは、二人の従者を店から追い出し、今日は非番としたのだ。それにエルトンは、短剣を引っ込め、何事もなかったかのように席に着き、食事を再開した。ラバァルもまた、珍しい料理を味わい始める。
その後も、マルティーナは色々な話をラバァルと交わした。その中でも特に興味を示し、色々と詳しく聞いてきたのは、ラバァルが以前滞在していたルカナンでの話だった。現在のルカナンの状況を熱心に尋ねてきたのだ。そして、何故そんなにルカナンに関心を示すのかと尋ねると、「そんなにルカナンのことを知りたがるのは何故だ?」ラバァルは、疑問を口にする。「はい……話は十四年前にまで遡ります。」マルティーナは、少し寂しそうな表情を浮かべながら語り始めた。「当時の私は九歳で、まだ子供だったのですが、父の意向で、当時のタートス王家の長男との婚約が成立し、結婚するはずだったのです。目的は、タートス王国との合併でした。理由は、当時からラガン王国が攻めてくるというのは分かっていました。ですが、タートスもマーブルも、一つの国だけではとてもラガン王国に対処できません。そこで父、カイ・バーンはタートスとの合併を模索し、娘である私は、タートス王家の長男との結婚を言い渡されました。ところが、予想以上に早く、ラガン王国は動いたのです。あっという間でした。増援の準備が間に合わず、ルカナンが陥落させられたのです。こうなってはどうしようもないと、父カイ・バーンは国境を固め、守りに入りました。盟友だったタートス王家は、皆、殺されたと聞いております。」「ふむ……婚約者がいたから、気になったのか。」ラバァルは、マルティーナの言葉に、僅かに興味を示した。「はい……もしかしたら、私はルカナンで暮らしていたかもしれないのですから……」ムシャムシャと美味しそうにご馳走を食べながら、ラバァルは問いかける。「それで、これからはどうする?」「はい。私は、自分の正しいと思ったことを、国の意向に逆らってでもやります。」マルティーナは、強い決意を込めて答えて来た。「ふふふ……なかなか良い答えだ。気に入った。」ラバァルの口元に、僅かな笑みが浮かんだ。「ほんとうですか!あなたに気に入っていただいたのなら、とても嬉しく思います。」マルティーナの顔にも、明るい笑みが戻っていた。「まぁ、何だ。ここの料理は飛び切り旨かった。ご馳走様。今日のところは、これで帰るが良いな。」ラバァルは、満足そうに立ち上がる。「えっ!もうお帰りになられるのですか?もっとお話ししていたいのですが……これ以上、無茶は言えませんね。では、また会うにはどうすれば?」「また会いたいのか?」「勿論です!何度でもお会いしたいです!」マルティーナは、真剣な眼差しでラバァルを見つめる。「そうか。なら、会いたくなったら、東の外れにあるボロい倉庫まで、従者を送ればよい。」ラバァルの言葉に、マルティーナは首を傾げた。「ボロい倉庫でございますか?」「そうだ。ボロくて、汚くて、臭いから、すぐに分かる。」ラバァルの言葉に、マルティーナは少し戸惑ったが、すぐに頷いた。「……では、そうします。」こうして、王女マルティーナとラバァルの、初めての会談は、意外な形で幕を閉じたのだ。
最後までよんでくださりありがとう、また続きを宜しく。




