ヨーデルでの調査 その2
ルーエン卿の娘の居所を探していたメリンダは一人ヨーデルの外、
東部に出た所にある峠に建てられた山小屋に来ていた、
だが一人で調査していたため応援を呼びに戻ろうとしたのだが・・
その48
シュツルムは、目を光らせ、警戒しながらも、自分が追っていたカスティガトルたちの動向を観察していた。その視線の先には、市場に現れたラバァルたちの姿もあった。喧騒とした市場の音、人々のざわめき、そして時折聞こえる子供たちの笑い声。そんな喧騒の中で、ラバァルたちが何をしているのか、シュツルムは注意深く見守っていた。
その誰もが思ってても行動する事が出来なかった、本来なら当たり前の光景を目撃していたのは、シュツルムだけではなかった。先程まで市場でグラティア教徒たちが行っていた暴虐を止めに入ろうとしたものの、側近の二人に固く制止され、悔しさを滲ませながら、その成り行きを見守っていた者もいたのだ。
その者の名はマルティーナ。マーブル王カイ・バーンの愛娘である。そして、マルティーナ王女を必死に止めていたのは、忠実な従者の二人、オクターブとシャナだった。二人は、王女がこの件に介入すれば、一人や二人の命では済まない、大規模な争いに発展すると危惧して、必死に姫を説得、その場に留まらせていたのだ。そんな緊迫した状況の中、突如現れ、倒れた店主の介抱を始めた者たちがいた。当然、マルティーナはその者たちに強い興味を抱き、その行動を食い入るように見つめていた。すると、予感は的中し、ラバァルたちは案の定、カスティガトルに絡まれ始めた。その場の空気は一瞬にして張り詰めた。
「これ以上、わたくしも黙ってられません!」マルティーナは、抑えきれない怒りを声に出し、一歩踏み出そうとした。しかし、オクターブとシャナの二人は、顔面蒼白になり、「いけません!」と声を揃え、必死にマルティーナの腕を掴み、その行動を阻止する。「目の前の国民が、酷い目に遭っているのです!何故ダメなのですか!」マルティーナの声は、悲痛な叫びだった。しかし「だからこそ、一人二人の命では済まなくなるからです!」オクターブは、必死な表情で訴える。「ここでマルティーナ様がお出になれば、数百、いや、数千の命のやり取りでも済まなくなるかもしれません!その責任を、マルティーナ様に背負わせるわけにはいかないのです!」マルティーナは、信頼するオクターブの真剣な眼差しと言葉に、言葉を失った。乗り込もうとした足は止まり、ただ、カスティガトルに絡まれている人々を、見守るしかできない。そんな無力な自分自身に、マルティーナは深く苛立ちながら、事の成り行きを見守っていた。
その時だった。「おいおい、何してんだお前達!」粗野な声が、市場に響き渡った。「その店主は、我々が直々に制裁している途中なんだよ!何を勝手に手当なんかし始めてんだ、こらぁ!」カスティガトルの一人が、凄みを利かせてラバァルたちに詰め寄ってきた。しかし、ラバァルは男を完全に無視した。まるでそこに存在しないかのように、空気のように扱い、淡々と倒れた店主の手当を続ける。「おい、お前!俺達を無視しやがって!舐めてんのかぁ!お前等、構わねぇ!こいつ等も制裁してやれ!」カスティガトルたちのリーダーと思われる、いかにも悪人といった風貌の男が、仲間たちをラバァルたちにけしかけた。すると、ラバァルの傍らに立っていたエルトンが、鋭い眼光で相手を睨みつけたのだ。その瞬間、周囲の空気が凍り付いたように感じられた。底知れない殺気が、まるで冷たい刃のように、七名のカスティガトルたちを襲い、彼らは一斉に足を止めてしまった。それを見た悪顔の男は、苛立ちを露わにして。「何してやがるお前等!何故動かない!」「くっ……何してんだお前等!仕方ねぇ!俺がやってやる!」そう言うと、悪役顔の男が、自らラバァルたちの前に進み出てきた。だが、次の瞬間、あっけなくエルトンに殴り飛ばされ、地面に昏倒したのだ。エルトンは、冷たい声で残りのカスティガトルたちに言い放つ。「お前等、命が惜しかったら、こいつを連れて、ここから立ち去れ。もう一度顔を見せたら、次は容赦なく殺す。」恐ろしいほどの殺気を全身に感じながら、そう言われたカスティガトルたちは、倒されたリーダー格の男を慌てて担ぎ上げ、我先にと、その場から逃げ去っていく...。
「どうですか、ラバァル、その人?」エルトンが、静かにラバァルに尋ねる。「脳震盪を起こし気絶しているが、死んではいないようだ。」ラバァルは、倒れた店主の状態を確かめながら答え。「かなり酷くやられているから、一ヶ月は寝ていないと駄目だろうな。」「そうですか……しかし、何故助けたんですか?俺達は、目立っちゃあ駄目だって言ってましたよね。」エルトンは、疑問を口にする。「ああ、これはあれだ。」ラバァルは、ニヤリと笑って言った。「セティア教徒の者たちに顔を売るのに、都合が良いと判断したからだ。」そんな話をしていると、カスティガトルたちを追い払ったラバァルたちの元へ、市場のセティア教徒たちが、安堵の表情を浮かべながら続々と近付いてきて、感謝の言葉を述べ始めた。
「いやぁ、お兄さんたち、凄いじゃない!グラティア教の無頼漢共を追い返すだなんて!」前に店を出していた年配の女性が、満面の笑みで二人を褒め称えながら側に寄ってきた。「ほんとうだよ!俺達もあいつらには、ほとほと困ってたんだ!憲兵に頼んでも、『国と国との争いになるから動けないとか言って』突っぱねられ、誰も助けてくれなかったんだよ。」そんな言い訳じみた言葉を聞かされたラバァルは、低い声ながらも、強い怒りを込めて言い放つ。「何が国と国との争いだ!目の前で痛めつけられている者がいて、誰も助けない国に、未来など来るものか!今度来た時は、お前達が一丸となり、あいつらをブチ殺してやれ!」ラバァルの怒りの籠った言葉は、市場の者たちだけではなく、買い物に来ていた多くのセティア信者たちの胸にも、強く突き刺さり、深く共鳴した。そして、同じように心に槍を突き刺されたかのように、衝撃を受けた者がいた。隠れてその様子を見ていた王女マルティーナだ。彼女は、今の言葉を民衆に放ったラバァルに、まるで落雷を受けたかのような衝撃を受け、この後、彼の行動を片時も逃すまいと、一挙手一投足を必死で見守り始めたのだ。「では、後は貴様達の仕事だ。俺達は行くから。」介抱も終わり、ラバァルたちが去ろうとすると、市場の店主たちが、慌てて店の品物を次々に持ってきて、「これ、今日の残り物なのだけど、良かったら食べておくれよ!あんた達に何もお礼が出来なくて、恥ずかしいからさ。」そんな風に、次々と品物が差し出され、あっという間に、持ちきれないほどの食料が二人の手に渡った。「おい、エルトン、持てるだけ持って今日は帰ろう。」ラバァルの言葉に、エルトンは頷いた。「分かりました、ラバァル。」二人は、大量の食料を抱え、家路についた。
そんな二人の後を、人影が一つ、静かに追っていた。「オクターブ、決してあのお方を見逃してはなりません!」マルティーナは、従者に低い声で命じる。「何処に住んでいらっしゃるのか、調べてきてください。後で、私が直接ご挨拶に行かねばなりませんから。」「お任せ下さい、マルティーナ様。」オクターブは、恭しく頭を下げ、ラバァルたちの後を尾行するため、静かに動き出した。
しばらく後、当然のように背後からの気配に気づいたラバァルたちは、住処とは違う方向へと移動した。ラバァルが囮となり、注意を引きつけながら移動し、その隙にエルトンが、尾行してきたオクターブの背後に音もなく回り込み、冷たい刃を首筋に当て。「何者だ!何故俺達をつける!」「馬鹿な……私が、接近を察知できなかっただと……」オクターブは、内心で愕然とした。彼は、マーブル新皇国の中でも指折りの剣士、『三本の剣』と呼ばれる騎士の一人である。その実力は、マーブル国内でも最上位にランクされ、並の者では到底敵わないほどの剣豪なのだ。そのオクターブが、虚を突かれたとはいえ、背後を取られ、刃を突きつけられてしまうとは……敵として尾行したわけではなく、王女の命で、ただ住処を知ろうとしただけだったため、命の危険に晒されるなど、全くの想定外だった。そのため、抵抗する意思は全くなかった。ただ、この状況をどう収拾しようかと、冷静に思考を巡らせ始めた。オクターブは、この寒空の中、額から冷や汗が流れ出るのを自覚した。
「何故俺達の後を……何者だ?」「ま、待ってくれ!これには事情があるんだ!」オクターブは、必死に弁解しようとする。「ほぉ……俺達をつけた事情って何だ?俺達はお前の事を全く知らんのだが。」ラバァルが言うのはもっともなことだった。第一、この国に来てから、まだほとんど人と関わりがなく、ほんの少し顔見知りになった程度の相手につけられるなど、思い当たる節は全くなかった。「実は……先程、市場でのやり取りを拝見させて頂き、さるお方が、あなたと話がしたいと、お住まいを調べて欲しいと頼まれ、尾行していたのです。」オクターブは、正直に事情を説明した。「ふむ……さるお方ってのは誰のことかな?どのような話なのか聞かせて頂けると、話も進むのだが。」ラバァルは、探るような視線をオクターブに向けた。「話の内容までは分かりませんが……ただ、さるお方は、あなたに対し、とても好意的な感情を抱いておられ、是非お話がしたいとおっしゃられておりました。」オクターブは、言葉を選びながら答えた。
「ふむ……すると、悪意があってここにいるわけではないと。」ラバァルの言葉には、確認の意味合いが込められていた。「その通りです!決して悪意はございません!」オクターブは、力強く頷いた。「なるほど……確かに、邪念は出ていないな。エルトン、離してやれ。」そこでラバァルは、エルトンに、羽交い絞めにしながら首筋に当てていたナイフを解放するように命じた。解放されたオクターブは、安堵の表情を浮かべた。「感謝する。しかし、参ったな……まさか私の尾行がこんなにあっさり見抜かれるとは……そんなに下手でしたか?」オクターブは、自嘲気味に笑った。「ははは、そんなことはありませんよ。」ラバァルは、肩をすくめて。「ただ、そんな甲冑をつけた格好で人をつけるなんて奴は、そうそういませんからね。」「甲冑を着けた恰好……確かに……」オクターブは、ラバァルの言葉に、自分がなぜ見つかったのかを悟った。「で、どうします?」オクターブは、改めてラバァルに向き直り、真剣な表情で頼み始めた。「こんな形で申し訳ないのですが、私が仕えているお方は、あなたと話がしたいらしく、なにとぞ、その機会をお与えください。」すると、ラバァルは、あっさりと承諾した。「構いませんよ。それで、いつ、その機会を設けましょうか?」ラバァルからの予期せぬOKに、オクターブは目を輝かせた。「では、連絡先を教えて頂ければ、後程こちらから連絡させて頂きます。」「分かりました。」ラバァルは、知っている場所に、明日の昼までに封書を隠すようにと指示を出した。もしなかったら、この縁はここまでとなると告げ、オクターブと別れた。
アジトにしている粗末な住まいに戻ったラバァルたち。「おかえりなさい、ラバァル。それに、エルトン。」デサイヤの優しい声が、二人の帰りを迎えた。「ああ、ただいま。」ラバァルとエルトンは、それぞれ返事を返した。ニコルから、メリンダが戻り、何か大事な物をベッドに隠したという報告を受けると、ラバァルは早速、そのベッドの元へとやって来た。「ここか?」「うん。その中に、隠したと言うか、ただ置いた感じだったよ。」ニコルは、少し不満そうな表情で言っている。「ふ~ん、なんだろうな。」そう言い、ラバァルはベッドの薄汚れた毛布をどかして、何があるのか確かめた。すると、大きめの巾着袋が置いてあり、開けると中から、ずっしりと重い金貨が、音を立てて現れた。「なんだこれは……メリンダの奴、一体どこからこんな大金を見つけてきたんだ?」ラバァルの驚きの声に、大金という言葉に敏感に反応した皆は、一斉にそのベッドへ駆け寄ってきた。「ほんとだ、金貨だ!」ルーが、目を丸くして言う。「メリンダの奴……こんな大金、適当に置いて行くなんて!なんて図太い奴なんだよ!」ニコルは、大事な物とは聞いていたが、あまりにも無造作に置かれている様子を見て、大した物ではないと勝手に判断してしまったことに気づき、悔しそうに頬を膨らませた。「ははは、ニコル、それはお前、騙された方が悪いって。」エルトンの指摘に、ニコルは肩を落としたが、まんまと関心を持たせないように仕向けられ、メリンダにしてやられたことを、心底悔しがった。「ウキキッ♯」
次の日の昼、指定された場所に、ラバァルはエルトンと共に来ていた。周囲には、冷たい風が吹き抜け、乾いた土の匂いが漂っている。指示した通り、石を乗せて隠した場所に、確かに封書があることを確認すると、ラバァルはそれを手に取り、開けて中身を確かめた。中には、上質な紙に書かれた衣服仕立て屋の名と、その辺りの簡単な地図が描かれていた。そして、昼の三時に来て欲しいという短い文が添えられていたのだ。それを読んだラバァルは、小さく頷く。「確かに置かれていたな。文面から見て、位の高い女性のようだ。」ラバァルがそう教えると、エルトンは静かに尋ねた。「どうします?」「まぁ、会ってみても良いだろう。何か役に立つことに繋がるかもしれん。」この地での味方になりそうな者との縁は、持っておいた方が後々役に立つだろうと考え、ラバァルは時間を割くことにしたのだ。こうして、ラバァルたち二人は、指定された衣服仕立ての店へと向かった。
その頃、メリンダは、カスティガトルの後をつけ、ルーエン卿の娘がどこに囚われているのかを探っていた。彼女が目を付けて見張っていたのは、ヨーデルの東に位置する寂しい峠道だ。この辺りは人通りもほとんどなく、地面には三センチほどの雪が積もり、冷たい風が強く吹きつけ、防寒着を着ていても、体温が容赦なく奪われていくような寒さだった。そんな峠道にある、古びた小さな小屋を、メリンダは息を潜めて見張っていた。凍てつくような寒さの中、小屋の外には五名ものカスティガトルたちが、物々しく見張っており、中に何か非常に重要な何かがあることだけは、すぐに分かった。ヒュ~……ヒュ~……ヒュ~~……冷たい風が、まるで獣の咆哮のように吹き荒れている。「う~……なんて寒いの……私一人、見張りをしながらここで凍え死ぬのね……」メリンダは、そんな弱音を心の中で呟きながらも、目は鋭い光を宿したまま、小屋の一点を見つめ続けていた。そんな状態を三時間ほど続けていたのだが、さすがにこの容赦ない寒さの中で、いつまでもここに留まるのは限界だと感じ始め、一度引き返して応援を連れてこようかと考えていた。その時だった。小屋の中から、悲鳴のような、女の叫び声が聞こえてきたのだ。「キャー!やめて~!離して!」どうやら中にいた女が、何か酷い目に遭わされているようなのだ。それを聞いたメリンダは、思わず顔をしかめ。「うそっ……何故このタイミングで、私にそんな悲鳴を聞かせるの?」そう呟きながらも、メリンダは悲鳴に誘われるように小屋に接近し、交代したばかりのカスティガトルたちを始末することに決めた。
メリンダの暗殺者としての腕は、決して高くはなく、中の下といった程度だ。得意なのは諜報活動であり、正面からの激しい戦いにはあまり向いていない。強敵が混じった戦いになれば、反対に自分が殺されてしまう可能性も十分にあり得る。今回は、そんなメリンダの弱点が、残酷なまでに露呈してしまった。ラバァルたちならば、助けを求める見知らぬ者など、躊躇なく見捨て、そのまま応援を呼びに戻っていただろう。だが、メリンダは、変に残っていた人間的な感情に突き動かされ、悲鳴の主を助けるため、危険な行動を起こしてしまったのだ。一人を始末した後は、他の者たちも殺すしかなくなり、結果として、徹底的な殺し合いへと発展してしまった。「おい!一人倒れてるぞ!」カスティガトルの一人が、雪の中に倒れている仲間を発見し、声を上げた。周囲には、他の者の足跡も残っていたため、侵入者が現れたことにすぐに気づいた。「気を付けろ!侵入者だ!」大声で、仲間に警戒を促した。メリンダはその時、既に小屋の反対側に回り込み、次の獲物に忍び寄っていた。首に短剣を深く突き刺されたカスティガトルは、苦悶の表情を浮かべ、ドクドクと血を流しながら倒れ伏し、薄く積もった白い雪を、鮮やかな赤い血で染め上げていく。二人目を始末したメリンダは、今度は屋根に素早く上り、近づいてくるであろう敵を、息を殺しながら待ち構えている。懐には、冷たい二本のナイフを握りしめながら……「あっ!また倒れてる!」近付いてきたカスティガトルは、倒れている仲間を見つけると、警戒しながらゆっくりと近づいてくる。最初の声を聞きつけた別のカスティガトルも、素早く接近してきた。メリンダは、これ以上敵が集まれば勝ち目はないと判断し、先にやってきた者に向かって、屋根の上から渾身の力を込めてナイフを投げ放った!そのナイフの鋭い切っ先は、男の頭部に突き刺さり、脳まで到達した。男は即死し、痙攣を起こして倒れる。「やった!当たったわ!」メリンダは、最大の力を込めて投げたため、当たるかどうかは、まさに一か八かの勝負だったのだが、見事に命中し、しばし安堵の息をついた。だが、まだ外には二人のカスティガトルが残っており、早く始末しなければ、中の者に気づかれるかもしれない。
メリンダの窮地は、まだまだ続いていた。「あ~あ……こんなことになるなら、一人で動くんじゃなかったわ……」そんな後悔の念が湧き上がってきたが、もはや後の祭りだ。今は、何とか残りの二名を素早く始末し、中に自分の存在を気づかれないようにと、メリンダは自ら動き出した。屋根の上から見つけた一人に飛びかかり、相手の肩にナイフを突き刺し、悲鳴を上げようとする相手の喉元を、さらに出したナイフで切り裂いた。相手の咽喉からは、ドバッと鮮血が噴き出し、声を出せなくなった男は、ヒー……ヒーと、空気が抜けるような小さな音を立てた後、力なく倒れ伏した。その倒れる音を聞きつけた、最後の一人が現れると、メリンダは一気に間合いを詰め、接近した。目潰し用の粉を握りしめ、その男の顔面にめがけて放つと、男は視界を奪われ、闇雲にショートソードを振り回し始めた。メリンダはその隙を見逃さず、男に近づき、やはり首筋をナイフで切り裂いて始末した。何とか外の五名を片付けたメリンダは、安堵の息をついた……だが、それが命取りとなってしまった。一息ついたその瞬間、騒がしい外の様子を確かめに出てきた者に見つかってしまい、中の者たちを呼ばれてしまったのだ。出てきた中の者たちは、全部で六名。外に転がる仲間の死体を見て、顔を歪めた。「この女……なんて奴だ!」「外を見張ってた奴ら、皆血を流して倒れてやがるぜ!」「お前達!こうなりたくねぇなら、油断するなよ!」リーダー格の男がそう言い、手に持ったショートソードや手斧などを用いて、メリンダを囲むように、隙なく接近してきた。正面からの戦闘に弱いメリンダは、絶体絶命のピンチに陥ってしまった。
「ミスった……もうダメかも……」そう小さく呟き、諦めたのか、最後の手段に賭けることにした。「待って!抵抗しないわ。」メリンダはそう言うと、持っていたナイフを地面に落とし、両手を上にあげて、降伏の意思を示した。「このあまぁ!手こずらせやがって!お前ら!女だからと言って容赦するなよ!」「勿論ですぜ!こっちもこれだけ殺されてるんだ!相応の礼はさせてもらう!」この後、小屋の中に連れて行かれたメリンダは、言葉にならないほど酷い仕打ちを、長時間の間、何人もの男たちから受けた挙句、寒い真夜中に素っ裸のまま外に連れ出されると、崖の前に立たされて……「うっ……うっ……やめ……い……」「ダメだ!お前は多く殺し過ぎた!生かせるわけねぇだろ!」「ま……死……に……い……」必死に懇願するメリンダに、カスティガトルの一人が容赦なく蹴りを入れると、メリンダは崖から転落した。落下中、何度も鋭い岩に激しく叩きつけられ、手足や肩、胴体までが激しく損傷し、下まで落ちた時には、既に虫の息となっていた。「……うっ……」メリンダの目から、一滴の涙が零れ落ちたが、それはすぐに凍り付いた。それと同時に、急速に目に宿っていた光も鈍く曇り、その輝きは完全に消え去った。メリンダに、ついに死が訪れたのだ。
その直後、アジトのベッドで横になっていたラバァルは、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に襲われ、自分の部下の死を、はっきりと感じ取った。ガバッと勢いよく起き上がり、ラバァルは低い声で、重々しく言ったのだ。「メリンダが死んだ。」
最後まで読んで下さりありがとう、また続きを見掛けたらよろしく。




