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切り捨てられた者達 その3

敵の前に降り立ったラバァルが見た者は。   




  

               その44



神の怒りと、赤黒い捕食者


「やっと会えたわね、ラバァル」

 ナムの声は、獲物を追い詰めた喜びと、嗜虐的な愛撫のようにねっとりと甘く響いた。

 周囲の森は深く静まり返り、時折、夜の帳の中で虫の羽音が不気味に聞こえるだけだ。

「これ、お前の部下たちさ、ホホホ(笑) ……ごらんなさい弱者の姿を、この通りの無様な格好になっちゃったわ」


 ナムが指し示した先には、食肉の様な肉塊が広がっていた。

 それは、もはや人間としての尊厳を留めていない肉塊だった。

 首だけの姿に成っていたバッシュ、

 両腕と両足は無残に切断され、顎を粉砕されて失った、変わり果てたタロットの姿

 それでも、彼はまだ生きていた。

 最後の力を振り絞り、虚ろな目でラバァルを見つめるその瞳。そこには、言葉にならない苦痛と、そしてたった一つの切実な懇願が宿っていた。

 ――殺してくれ。

 ラバァルは、その目に映る痛切な思いを汲み取った。

 迷うことなど許されない。それが彼にできる、最後の手向けだ。

 ヒュンッ。

 一瞬の躊躇もなく、冷たい光を放つナイフが投げつけられた。

 ドスッ。

 鈍い音が響き、ナイフがタロットの額に深々と突き刺さる。彼の瞳から光が消え、意識は永遠の闇へと沈んでいった。


「うっひょ~! 自分の部下を躊躇なく殺せるだなんて、なんて冷たい人間なの♥」

 ナムは嬌声にも似た歓声を上げ、ゾッとするような満面の笑みを浮かべた。

「だ・ま・れ……」

 ラバァルの声は、地底から響くように低く、底知れない怒りを孕んでいた。

「心配しなくてもいいわよ、ラバァル。ちゃんとあんたもすぐに後を追わせてあげるんだから♥」

 ナムは楽しげに、殺意を弄ぶように言う。


「イカレ野郎、黙ってろと言った!」

 怒号と共に、ラバァルの内側で何かが決壊した。

 幼い頃の経験から、どんな絶望的な状況でも感情が波立つことのなかったラバァル。

 大人たちに死ぬほど殴られた時も。

 親代わりのラナが、組織の暗殺者に襲われ、血を噴き出して倒れていた時も。

 何も感じなかった。悲しみも、怒りも、恐怖さえも。

 『斬られた、血が出ている、相手を無力化しなくては』

 彼の思考は、ただその事務的な認識のみが占め、感情という回路は凍りついていたのだ。だからこそ、ラナを殺した組織の中で、平然と暗殺者として生きてこられた。


 だが、今は違う。

 アンラ・マンユと融合した魂が、人間の容量を超えた「神の感情」を注ぎ込んでくる。

 それは怒りではない。憤怒だ。

 地獄の業火のように爆発した感情が、ラバァルの理性を焼き尽くす。

 ゴオォッ……!

 彼の体から、ドロドロとした赤黒い闘気が噴出し始めた。それは陽炎のように揺らめき、周囲の空気を歪ませる。

 ラバァルの瞳孔が一瞬、妖しい赤光を放った。

 それを真正面から受けたナムは、尻の穴から脳天まで一気に駆け上がるような、根源的な恐怖に襲われた。

(な、なに……これ……!?)

 冷や汗が一気に噴き出す。圧倒的な「死」の存在感の前に、蛇に睨まれた蛙のように全身が硬直する。指一本動かせない。

 この間、ほんの一秒にも満たなかったが、ナムには永遠にも等しい時間に感じられた。


 その永遠を、ラバァルが破った。

 意識が飛び、完全に暴走状態となった彼は、ただ「目の前の敵を排除する」という本能のままに動いた。

 信じられない踏み込み速度。

 残像すら残さず肉薄したラバァルは、ナムの頬を平手で叩いた。

 パァンッ!!

 乾いた破裂音。

 だが、その威力は尋常ではなかった。

 ナムの首は、まるで熟れた果実が枝から落ちるかのように、あまりにあっけなく胴体から千切れ飛んだ。

 切断された頚椎がピクピクと痙攣し、鮮血が噴水のように吹き上がる中、その生首はラバァルの手にしっかりと握られていた。

 ラバァルは無造作にその頬を鷲掴みにすると、まるで価値のない石塊のように、地面へと叩きつけた。

 グシャァッ!

 暴走した腕力は凄まじかった。

 激突した頭部は木っ端みじんに砕け散り、脳漿と骨片が、まるで悪夢の粘液のように周囲へ撒き散らされた。


 ナムが瞬殺されたという衝撃的な光景を目の当たりにし、周囲に展開していた熟練暗殺者たちが凍りついた。

「な、ナムが……!?」

「殺せ! 一斉にかかれ!」

 恐怖を打ち消すように叫び、彼らは一斉にラバァルへの攻撃を開始される。

 だが、その殺気を感知した赤黒い闘気――【ゼメスアフェフチャマ】が、まるで意思を持った生物のように反応する。

 ここからは、一方的な蹂躙劇だった。

 ラバァルは動くことさえしなかった。噴出した赤黒い闘気が、巨大な蛇のように鎌首をもたげ、四方に展開していた暗殺者たちへ殺到したのだ。

 ズゾゾッ!

 闘気が彼らの体に絡みつく。

「ぐあぁっ!? な、なんだこれは!」

 物理的な実体を持った影が、彼らの体を締め上げる。

 ミシミシ……バキッ!

 骨が砕ける音。

 大蛇に絞められた獲物のように、圧倒的な力で圧搾された暗殺者たちは、悲鳴を上げる間もなく肉塊へと変えられた。

 次々と空中で圧し潰され、ボタボタと雨のように地上へ落下する元・人間の残骸。


 シュツルムもまた、自分と激しく斬り合っていた敵が、突然現れた赤黒い影に呑まれ、一瞬でひき肉に変わる様を呆然と見上げていた。

「何だ……こりゃあ……?」

 森の静寂を破るのは、肉が潰れる湿った音だけ。


 ナムの胴体は、まだ完全に死んではいなかった。

 首が飛んだ速度があまりに速すぎたため、脳からの「死んだ」という信号を受け取れないまま、反射神経だけで激しく痙攣し、のたうち回っている。

 血の海で踊る首なし死体。

 やがて痙攣が止まり、完全に動かなくなった。

 だが、ラバァルの暴走は終わらない。

 彼はナムの死体に近づくと、その場に漂う「魂」を視認し、無造作に鷲掴みにした。

 握り潰し、砕き、そして深く吸い込む。

 ジュボッ。

 魂を食らう音。

 捕食が終わると、ラバァルの意識の中に、アンラ・マンユの満足げな声が響いてきた。

『素晴らしいぞ、ヴェルディ。それが魂を食らうということだ』

 その声を聞いた瞬間、ラバァルはハッと意識を取り戻す。

「……はっ!」

 目の前には凄惨な死体。自分の手は血に塗れている。

「だまれ……何だ、今のは? 何が起こった?」

 記憶がない。ただ、口の中に得体の知れない「満腹感」と、体内に異物が混ざり込んだような違和感だけが残っている。


『お前は、仲間の死を見て、暴走したのだ』

 アンラ・マンユは静かに答えた。

「暴走だと!」

『そうだ。お前の感情は、今まで無意識レベルで抑制されていた。それが私との融合を果たし、枷が外れ、神の領域の憤怒となって顕現したのだ』

「感情が自由になっただと? それで、何故こうなる?」

『神の感情は、人間ごときの器では制御できん。感情が一気に沸き上がり、爆発した。お前の精神を守るため、意識は一時的にシャットダウンされ、その間、防衛本能システムが敵を排除したのだ』

「これを……無意識がやったというのか」

『一切の記憶がない。それが証拠だ。あれこそが、本能を解放した真のお前の姿だ』

「真の……俺……」

 ラバァルは血塗れの手を見つめ、愕然とした。


 その時。

 シュツルムが血相を変えて駆け寄ってきた。

「ラバァル! ルーレシアは生きてます!」

「何? ルーが!」

 生存者の知らせに、ラバァルは思考を中断し、シュツルムに続いて走った。


 そこにいたのは、血の海に沈むルーだった。

 ショートソードで腹と胸を貫かれ、さらに全身を切り刻まれ、毒の影響で肌は土気色に変色している。

 まさに瀕死。命の灯火が消えかけている。

「ちくしょう……これじゃ、もう手の施しようがない……」

 シュツルムが絶望的な声を漏らす。

 ラバァルは息を呑んだ。

 脳裏に、かつて死にゆくラナの姿がフラッシュバックする。

 『ラバァルを見捨てちゃダメ』

 あの時も、自分は無力だった。また繰り返すのか。また守れないのか。

 憤怒と悲哀がないまぜになり、再び感情が暴走しそうになる。

 その時、アンラ・マンユの声が脳内に響いた。

『教えてやろう、ヴェルディ』

 悪魔の囁きのように。

『その娘を、死の淵から引き戻す方法を』


「またお前か……お前と話している時間はない」

 ラバァルは苛立ちを隠せない声で答えた。目の前の命が、砂時計の砂のようにこぼれ落ちていくのだ。

『ほぅ……折角、その死にかけの部下を“活かす”方法を教えてやろうというのにか』

 アンラ・マンユは、人の不幸を楽しむかのような声色で囁く。

「何だと? 助けられるというのか!」

『そうだ。……しかし、代償が必要になる。お前と同じように、半分人間ではいられなくなる』

 人外への変異。それは死にも等しい冒涜かもしれない。

 だが、ラバァルは即答した。

「それならいい。半分は人間のままなんだな?」

『そうだ。だが、やるからにはその魂に対する“責任”が発生するぞ。お前が背負えるか?』

「責任は俺が引き受ける。どうすれば助けられる、早く教えろ!」

 ラバァルの声には、迷いなど微塵もなかった。

『良かろう。お前の選択を受理してやろう。……ただし、今言った“責任を持つ”という言葉、忘れるなよ。契約に書き込まれたぞ』


 その瞬間。

 ラバァルの目の前の空中に、ぼんやりと光る羊皮紙のようなものが現れた。そこには血文字で【ヴェルディ】の名が刻まれている。

 ラバァルがそれを認識した途端、契約書はゆらりと燃え上がり、灰となって虚空に消えた。

「なっ……!」

 それを見ていたシュツルムが、目を丸くして叫んだ。

「今、契約書のような紙が……突然現れて燃えましたよ! 一体何なんです!?」

「今は説明できん。後だ」

 ラバァルは短く遮り、再び意識を内の神へと向けた。

「で、どうするんだ?」

『お前の使徒にすれば良い。相手に触れながら、**『使徒契約ブリートシュリフト』**と唱えろ。後は、その者の“生きる意志”がどう反応するかによって決まる』

「反応? それは、ルーの意思が反映されるってことか?」

『もう死ぬぞ。早くしろ。死んでからでは魂が霧散する。肉という器があるうちに繋ぎ止めろ』


 猶予はない。

 ラバァルは震える手を伸ばし、冷たくなりつつあるルーの額に手を当てた。

 意識を集中する。体内の奥底にある、あのどす黒い力が脈打つのを感じる。

「……使徒契約ブリートシュリフト

 言霊が放たれた瞬間。

 ルーの胸元から、まるで煙のように頼りない、青白い光の塊がゆらりと浮き上がった。それは細い光の糸で、かろうじて彼女の肉体と繋がっている。

 魂だ。

 ラバァルはその光景に息を呑みながらも、本能に従って腕を差し出した。

 光の塊は、導かれるようにラバァルの掌の上へと移動する。

 温かい。そして、儚い。

 ラバァルが掌をゆっくりと広げると、彼の指先から、赤黒く光る血管のような禍々しい光糸が伸びた。それは飢えた寄生虫のように青白い魂に絡みつき、侵食していく。

 ジュワッ……。

 純白だった魂が、みるみるうちに鮮血と闇の色――赤黒い色へと変色していく。

 書き換えられた魂は、ラバァルの手から離れると、光の尾を引いてルーの胸へと戻り、吸い込まれるように消えていった。


 


 静寂が戻る。

 しばらくは何の反応もなかった。

 ラバァルは、額に残る微かな温もりが消えないことを祈りながら、手を離さずにじっと待った。

 数分後。

 それは起こった。

 ゴオォッ……。

 ルーの体の表面から、ラバァルのそれと同じ、禍々しい赤黒い闘気【ゼメスアフェフチャマ】が噴出し始めたのだ。

 闘気は彼女の体を繭のように包み込むと、傷口に集束していく。

 肉が盛り上がり、血管が繋がり、切り裂かれた皮膚がビデオを巻き戻すように再生していく。物理法則を無視した、強制的な治癒。

 やがて闘気が霧散すると、そこには傷一つない肌と、健康的な赤みが戻ったルーの顔があった。


 ゆっくりと、彼女の瞼が開く。

 その瞳の奥には、以前とは違う、どこか人外めいた冷たい光が一瞬だけ宿り、すぐに消えた。

 彼女は心配そうに見守るラバァルとシュツルムを捉えると、夢見心地のような声で呟いた。

「私……生き延びれたのですね……」

 そしてハッとしたように周囲を見渡す。

「タロットと……バッシュは?」

 ラバァルは痛みを堪えるように奥歯を噛み締め、静かに答えた。

「遅れてすまん、ルー。二人は……手遅れだった。バッシュの体も、今から探す」

 ルーの瞳から涙が溢れる。

 ラバァルはシュツルムに振り返った。

「すまん、シュツルム。バッシュの体を探してやってくれ」

「……了解です。必ず見つけます」

 シュツルムが闇に消えると、ラバァルはルーに向き直った。

「助かって良かった。ところで……『使徒契約ブリートシュリフト』という言葉を聞いて、何か思い出すことはあるか?」

 ルーは少し考え込み、そして不思議そうに答えた。

「はい、ヴェルディ様……分かります」

 ラバァルの眉がピクリと動く。過去の名前。

「どうした? 何故その名前を?」

「私は、戦いで倒れ、暗い闇の中にいました。寒くて、寂しくて……。そこにあなたが現れたのです」

 彼女は遠い目をして語り始めた。

「夢の中のあなたは、こう言いました。『現実のルーレシアは今、死にかけている。俺の使徒になれば生きられるが、使徒になれば半分人間ではいられなくなる。人としての死か、使徒としての生か。さあ選べ』と」

「……それで?」

「私は、怖かった。でも、まだ死にたくありませんでした。色んなことを経験したかったし、まだ何も成し遂げていない……だから、破れかぶれで『なります』と叫んだんです。使徒が何か、分かってもいないのに」

 彼女は力なく笑った。

「そうか……自分で選択できたのか。それなら良かった」

 ラバァルは安堵した。強制ではなく、彼女の意志が生を掴み取ったのだ。

「だが、それでどうして昔の名を?」

「分かりません。ですが、契約した瞬間、何故かリーダーの昔のことが頭に流れ込んできたんです。『ヴェルディ様』と呼んだのも、意識して口にしたわけではなく、自然と口をついて出ました」

 魂の結合により、記憶の一部が共有されたのか。

「分かった。だが、俺はラバァルだ。今後はその名は忘れてくれ」

「分かりました、ラバァル様」

「“様”も無しだ。以前通りでいい」

「あれ? 私、何故、リーダーに様を付けようとするのかしら……?」

 ルーは首を傾げた。どうやら、主従関係は本能レベルで刻み込まれてしまったらしい。

「動けるか?」

 ラバァルの問いに、ルーは立ち上がろうとする。

 驚くべきことに、大量出血と毒に侵されていたはずの体は、羽のように軽かった。痛みなど微塵もない。

「はい。……行きましょう。バッシュを探して、タロットを……埋めてあげないと」


 


 捜索はすぐに終わった。

 シュツルムが、少し離れた木の根元で冷たくなっているバッシュの体を発見したのだ。毒が全身に回りきった首無しの死体だ。

「……分かった。タロットと二人の手足と首を加えて土に還してやろう」

 ラバァルの声は震えていなかった。だが、その手は湿った土を握りしめていた。

 硬い森の土を掘り返し、二人を並べて埋葬する。

 墓標代わりの石を置き、短い黙祷を捧げた頃、後方から追いついてきたラーバンナー率いる残りの仲間たちが合流した。


 焚き火を囲み、ラバァルは事の顛末を告げた。

 敵の正体が【灰色影グレイシャドウ】であること。タロットとバッシュが殺されたこと。

 仲間たちの間に、衝撃と動揺が走る。

「どうしてだ? 何故グレイシャドウが!」

 エルトンが信じられないといった表情で叫ぶ。

「何故かは分からんが、暗殺団エシトン・ブルケリィは俺達を見限り、殺しにかかっている。俺達の首が目的らしい」

 ラバァルの淡々とした説明に、ラーバンナーが食って掛かった。

「『何故か分からん』だと? それは、ルカナンでやり過ぎたせいではないのですか、ラバァル!」

 鋭い指摘。

 ラバァルは目を伏せず、真っ直ぐに答えた。

「そうかもしれん。だが、組織が俺達の首を取りに来ているという事実は変わらん。理由を議論している暇があったら、生き残る方法を考えるのが先決だ」

「そうですわね……」

 メリンダが不安げに髪を弄る。

「だけど、組織に戻れなくなったら、補給も受けられませんわね」

「補給なんて金さえあれば何処ででも受けられる」

 ラーバンナーが思考を切り替え、現実的な問題を指摘する。

「問題は、奴らの追っ手を避けながらどう生きていくかだ。組織の執念深さは、俺たちが一番良く知っているだろう」

「では、組織に戦いを挑むのか?」

 エルトンの問いに、ラバァルは首を振った。

「それはできん。あそこを襲撃するのは自殺行為だ。俺達の戦力では、本部の防衛網を抜く前に全滅する。俺達は未熟で、奴らは経験も人数も圧倒的に上だ」

 森の冷たい風が吹き抜ける。

 全員の視線がラバァルに集まる。では、どうするのか。

 ラバァルの瞳に、冷徹な軍略家の光が宿る。

「俺達の出来ることは、逃げ回ることではない。追っ手を、こちらの有利な土俵フィールドで迎え撃ち、確実に始末することだ。……ということで、ルカナンへ戻るぞ」


「えっ……ルカナンへ?」

 ルーが素っ頓狂な声を上げた。

「そうだ。あそこの地理、隠れ家、抜け道……俺達は任務を通じて嫌というほど把握した。少なくとも組織の連中より、俺達の方が“あの街”を知っている」

 ラバァルは拳を握りしめた。

「ルカナンを俺達の要塞にする。追っ手は、あそこで全滅させる」

 その言葉には、不思議な説得力があった。

 逃げるのではない。戦う場所を選ぶのだ。

 ラーバンナーはニヤリと笑った。それは、絶望的な状況を楽しむような、野心的な笑みだった。

「了解した! 皆、ルカナンへUターンだ。今度は狩られる側じゃない、狩る側としてな!」

 ラーバンナーの掛け声に応え、仲間たちは一斉に動き出した。

 森の木々がざわめく。

 それは、新たなる反逆の狼煙を上げる、彼らの決意の音だった。




最後まで読んでくれありがとう、また続きを見かけたら宜しく。 

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