少年達と鉱山 その1
今回は、ロスコフの少年時代に起こったエピソードです
大魔晶石が出た鉱山へ入ったロスコフ達は、ライバルの多さにその場を諦め、
他の場所へと掘りに行く、だが、そう簡単にはいかなかった。
その4
タンガとスペアー。ロスコフが二人の存在を知ったのは、二人が鉱山で働いているところに、祖父と訪れたのがきっかけだった。
最初は互いに言葉を交わすこともなく、ただ視線を交わすだけの関係だった。しかし、祖父が実験に使う魔晶石を選別している間、たまたま休憩中だった二人に話しかけたことから、徐々に会話をするようになった。そして、鉱山で見かけるたびに言葉を交わすうちに、二人の仕事についていくなど、親交を深めていった。
そんな三人組が連れ立って鉱山に到着すると、
「チャース!」
タンガが元気よく挨拶をした。
「おっ、お前たち、今日も潜るのか?」
鉱山管理人のジョペリが尋ねた。
「そうさ!大魔晶石が俺たちを待ってるからね!」
スペアーが胸を張って答える。
「ははははは!そいつぁスゲェな、スペアー!」
タンガが笑いながらスペアーの肩を叩く。
「張り切りすぎて、悪さすんなよ!」
ジョペリが冗談めかして言う。
「問題ないって!軽く掘ってやんよ!」
スペアーは自信満々に答えた。
「そんな大口は掘り出してから語るもんだぞ、タンガ!」
ジョペリがタンガに釘を刺した。
二人の会話が終わると、ロスコフが小さな声で挨拶をする。
「こんにちは。」
「んっ!これは領主様のところのロスコフ様じゃないですか!今日は一体、何を……?」
ジョペリが驚いたように尋ねる。
「うん、タンガとスペアーと一緒に、大魔晶石が出るところを見たくてね。」
ロスコフがそう答えると。
「そりゃあ大変だ!おい、タンガ、スペアー!死ぬ気で掘らにゃあならんぞ!」
ジョペリが二人に発破をかける。
「まぁ、頑張るよ。」
タンガが苦笑いを浮かべた。
まず、入り口に立っていたジョペリに挨拶をし、その後ろにあるチェックイン事務所で名前と目的を記入した。そして、貸し出し用のツルハシ、カンテラ、補充用オイルなどをそれぞれ選び、持っていく。これらはすべて、鉱夫たちが円滑に作業できるようにと、ロスコフの祖父フォルクスが設置させたものだ。
もちろん、無料で貸し出されている。その代わりに、鉱山内部では厳守すべきいくつかのルールが定められている。
一つ目のルールは、八時間ルールだ。これは、どんなに長くても一回の坑道への滞在時間を八時間以内と定めている。地下の坑道内の空気は非常に悪く、健康への負担が大きいからだ。いくら稼げても、体を壊してしまっては元も子もない。鉱夫たちに元気で長く働いてもらうためのルールと言える。
二つ目のルールは、坑道内で事故が起きた場合、全員が助け合う義務を負うというものだ。これは、わざわざ定めなくても、多くの人が自然と助け合うだろう。しかし、義務として定めることで、全員が行動するように促す意図がある。
三つ目のルールは、坑道内で他人と喧嘩をした者は、この鉱山への出入りを制限するというものだ。初回は七日間、二回目は三十日間、三回目は永久追放となる。ただし、人を殺めた場合は一発で永久追放となる。これは、鉱夫には荒くれ者が多いため、喧嘩が絶えないからだ。外で喧嘩をする分にはまだしも、坑道内で喧嘩をされると、危険が生じる可能性があるため、このようなルールが設けられている。
今回は子供たちだけなので、ツルハシは借りずに、カンテラ、補充用オイル、そして時間を計る砂時計だけを借りた。タンガとスペアーは、あらかじめ用意しておいたピッケルを携帯している。これで採掘をするのだ。ロスコフは見学に徹する。地上に戻るまでの時間は最大八時間、予備の燃料は一人一個だ。
六時間用の砂時計を借り、余裕をもって入り口に戻ってこられるように計画を立て、坑道内へと足を踏み入れた。
坑道内は非常に暗い。一応、ポット型の石炭ランプ(壺型の容器に石炭を詰め、下から火を灯す。明かりが長持ちする)が所々に設置されているが、間隔はかなり開いており、坑道内は薄暗かった。
タンガとスペアーは、競うようにその薄暗い坑道内を急ぎ足で進んでいく。慣れないロスコフは、その後を追いかけた。
「うおっ!やったぁ!」
「今日はついてるぜ、俺たち!」
まだ坑道内を少し進んだだけなのに、タンガとスペアーが喜び始めた。一体何があったのかと、ロスコフが追い付いてその場を見ると、ちょうど坑車が下から上がってくる所だった。
「よぉ、坊主ら!今日も掘りに来たか!」
坑車を動かす作業員が、顔見知りのタンガたちに声をかけた。
「ソーサさん、今日もよろしく!」
タンガが答えた。
掘り出された岩石の屑を、数人の鉱夫たちが坑道に設置された坑卸を使って外に運び出す。タンガとスペアーは、坑車の荷物が片付くまで、その作業を手伝い、作業効率を高めた。
「坊主、ありがとな。」
ソーサが礼を言った。
「このくらい、どうってことないって。」
タンガはそう答える。
坑車が空になると、すぐに二人は乗り込んだ。ロスコフも後に続いて乗り込むと、坑車を動かしているソーサが、暗がりにもかかわらずロスコフを視認し、慌てて声をかけた。
「これは領主様のところの……、ロスコフ様では?」
作業員のソーサは、暗い坑道の中でロスコフの顔を認め、驚きの声を上げた。
ロスコフはソーサに向かって丁寧に頭を下げ挨拶する。
「お世話になります。」
「あ、どうも、こちらこそ……。えっと、タンガ、一体これは?」
ソーサはタンガに尋ねる。
「一緒に掘りに行くんだ。ロスコフ様は見学だよ。」
タンガはそう答えた。
「そ、そうか。くれぐれも危ないことすんなよ。」
ソーサは心配そうに注意を促す。
「わかってるよ。」
タンガはそれに対し軽く答えて。
「ソーサさん、大丈夫だよ!心配ないって!僕が付いてるから!」
スペアーが自分の胸を叩き、偉そうに胸を張った。その答えにいくらか安心したのか、ソーサはそう言う。
「まあ、くれぐれも気を引き締めて行くように。」
そう言い、ソーサは坑車をゆっくりと下げ始める。
ガラガラガラガラガラガラガラガラ……
坑車は、暗い坑道を軋ませながら、下へ、下へと下がっていく。そして、やがて止まった。
「よし、みんな降りて、次の坑車へ移動してくれ。」
ソーサが声をかけた。
「はーい!」
「O.K!」
「わかりました!」
タンガ、スペアー、ロスコフの三人は、坑車を乗り継ぎ、地下深くまで掘り進んだ現在の最下層地点まで降りていく。一つの坑車の移動距離は、三十一メートル。現在、九つ目の坑車までが稼働しており、かなりの深さまで坑車を乗り継ぎ、降りていかなければならない。大魔晶石が掘り出された場所は、地上からおよそ二百八十メートル下にあるからだ。
鉱山を坑車に乗り、下へ、下へと降りていく。大魔晶石が掘り出された空間は、現段階の最下層に掘られた空間だ。当然、掘りに来たタンガとスペアーの二人も、目当てはその大魔晶石なのだ。それは、褒められるからだけではない。良い魔晶石を掘り出せれば、それだけたくさんの賃金に交換してもらえるからだ。大魔晶石を掘り出すことができれば、一体どれだけの賃金がもらえるのだろうか?
実は、よく分かっていなかったが、大人の話では、
「三日前に掘り出した奴は、次の日から姿を見せていないらしいぞ。」
こうなると、たいてい色々な噂が広がっていく。そのうちの一つに、あまりにも高額が支払われたため、もう働く必要がなくなったからだろう、という噂が有力視されていて話されている。二人の耳にもそんな噂話が入ってきていたため、俺たちもそれを狙おうなどと、希望を膨らませ、やることはいつもと変わらなかったが、気持ちはチャレンジしていたのだ。
鉱山労働は、大人でも子供でも良いものを掘り出した者が、掘り出した魔晶石に見合った価値の交換をしてもらえるのだ。
そのため、良い出物が出た鉱山の空間に鉱夫は集まる。
この日、この鉱山の奥深くではかなりの鉱夫でごったがえしていた。
そんな鉱夫だらけの地下深くまでやってきた、この三名の子供たちは、あまりのライバルの多さに、
「げっ、やっと降りてきたってのに、なんて人の数だよ。」
タンガはうんざりしたように言う。
「昨日より増えてんじゃねえか。」
スペアーは呆れたように言ったのだ。
「これじゃあ、何も掘れそうにないね。」
ロスコフは肩を落としてそういう。
タンガとスペアーの二人は、そんなことを口走っている。
それを聞いてロスコフが、
「どうする?ここでやるの?」
こう尋ねた。
「ダメだ。子供の俺たちじゃあ、大人にはかなわないよ。それに、同じことしてちゃあ、絶対勝てない。俺たちは俺たちだけの場所で掘ろうぜ。」
一番年長のタンガがそう言うと、二つ年下のスペアーは、
「じゃあ、どこで掘る?」
と尋ねる。
「行ったことない場所へ行ってみようぜ。」
タンガはそう言い出したのだ。その言葉を聞いたロスコフは、
「えっ、行ったことがない場所ってどこ?」
と尋ねた。
「馬鹿だな、ロスコフ様。行ったことがない場所だから知ってるわけないよ。」
スペアーが呆れたように言う。
「あっ、そうか。行ったことない場所だもんね。」
ロスコフもそれに気づき、納得したように答える。
「じゃあ、どうするのさ?」
スペアーの問いに、タンガは、
「行動あるのみだ。片っ端から掘られた坑道を進んでみようぜ。」
タンガの言葉を聞いた二人は頷き、行動を開始する。
それから、三人は黙々と見つけた坑道を進んでいた。あれからもう三時間は、ただ坑道を登ったり下ったりと、今では現在地がどこなのかも分からない。
それもそのはず、現在、魔晶石が掘り出されている鉱山は、リバンティン公国はおろか、ノース大陸の中でもここの鉱山と、ノース大陸北部にあると聞くユールベルク鉱山だけしか知られていないのだ。もちろん、他にも隠されながら掘り出されている可能性は大いにある。だが、広く知られているのはこことユールベルクだけなのだ。
しかも、あちらはかなり昔から掘られていた鉱山だったので、ノース大陸に住む鉱夫たちは、新たに発見されたこちらの鉱山でより多くの富を稼ごうと、世間に知られ始めた二十年前を境に、徐々にどこからともなくやってきて集まってくる鉱夫が今もワーレン侯爵領の人口を倍増させているのだ。
さらに、先代領主フォルクスは、鉱山労働者の待遇を、一ヶ月単位の給料制から、採れた量や質に応じてその日の帰りに分配する成果報酬制へと大胆に変革した。この改革は、元々やる気のあった鉱夫たちの闘志に火をつけ、彼らの潜在能力を最大限に引き出す事に成功したのだ。
身近な者が、それまで見たこともないような高額報酬を手にする様子を目の当たりにした鉱夫たちは、我先にとばかりに採掘に精を出した。その結果、高額報酬を手にする者が続出し、その様子を横目で見ていた他の鉱夫たちも、「よっし、明日は俺も!」とばかりに、熱気に飲み込まれ、同じようにやる気を燃やし、採掘に励んでいる。
しかし、皆の目が魔晶石に集中するあまり、徐々にではあるが、魔晶石や石炭を採掘する際に発生する大量の屑石や屑岩石を坑道から運び出す作業員の数が減ってしまった。そこで、フォルクスは苦渋の決断を下し、魔晶石採掘に割り当てていた賃金から必要な額を屑石運搬作業に回すことにした。その結果、鉱山発見当初のような爆発的な収益は得られなくなってしまったのが実情だ。
それでも、鉱山の利益率は十分に高く、他国からこの鉱山にやってくる者は後を絶たなかった。
やる気に満ち溢れた鉱夫たちは、二十年の歳月をかけて、ワーレン侯爵領内に広がる鉱山を深く、そして広く掘り進めていった。
今や鉱山内部は、まるで巨大なアリ塚の内部のように複雑に入り組んだ坑道が張り巡らされ、元々は石炭を採掘するための鉱山が、巨大なアリ塚ダンジョンと化している。
そんな巨大ダンジョンの中を、十歳前後の子供三人が、まるで迷子のようにあてもなく彷徨っていたのだ。どこにいるのか分からなくなっても、無理はないだろう。
ロスコフたちが辿り着いた場所は、他の鉱夫たちが掘削しているはずの音が、まるで聞こえないほど静まり返っていた。
先ほどまでは、ひたすら歩くことと、疲労感に意識が集中していたロスコフたちも、ようやくその異様な静けさに気づいた。
シン……と静まり返った坑道に意識が向くと、途端に心細さがこみ上げてきた。
オロオロと不安げな表情を浮かべるロスコフとスペアーを見て、タンガが声を荒げた。
「バカヤロー!これしきのことでビビるんじゃねぇ!」
その大声に、ロスコフは我に返る。
「ごめん……こんな経験、初めてだったから……もう大丈夫だよ。」
「うむ、分かればいいんだ。ビビっても、いいことなんて何もないんだからな。」
「タンガ、その通りだよ。君は勇敢だね!」
ロスコフは、タンガをまるで英雄を見るような目で見ていた。
そんな言葉に、タンガは少し照れくさそうに言った。
「おう……それじゃあ、休憩がてらカンテラの燃料を補給したら、もう少し進もうぜ。」
その言葉に従い、三人は少しだけ休憩を取り、タンガは弱まっていたカンテラの灯に燃料を補給し、再び歩き始めた。
休憩を取り、落ち着きを取り戻したロスコフは、ふと、坑道の床に線路が敷かれていることに気がついた。なぜ今まで気づかなかったのだろう?自分でもおかしくなり、思わず笑ってしまった。
「ふふふ……」
その笑い声に反応し、スペアーが尋ねた。
「どうしたの、ロスコフ様?」
タンガも、カンテラに燃料を詰めながら、何事かと注意を向けた。
「ほら、これを見て。」
ロスコフは線路を指差し、説明した。
「それは、屑石車用のレールだよ。」
「屑石車?」
「そう。掘ったら出るでしょう、たくさんの石が。それらや、石炭、鉄なんかをこれで運ぶんだよ。」
ロスコフがスペアーに説明していると、スペアーの後ろからタンガが言った。
「ああ、それは俺も知ってる。それじゃあ、この線路を辿れば、シーソー車や屑石車がどこかにあるんじゃないか?」
「その通りだよ、タンガ。見つけて使おうよ!」
「おおっ!さすがロスコフ様、頭いいねぇ!」
「やった!楽ができる!」
スペアーは、楽ができると知って大喜びした。
目的が見つかり、三人は俄然、元気を取り戻し、再び移動を開始した。
……
三十分ほど歩いたところで、それは見つかった。レールの上に止まった屑石車だ。よく見ると、その先にはシーソー車も置いてあった。
「やった!こんなところに止まってるよ!」
タンガが声を上げた。
「使ったら怒られないかな?」
スペアーは、勝手に使って大丈夫なのかと心配そうに尋ねた。
しかし、
「僕はもう限界……足が痛くて、もう歩くのも嫌になってるよ。」
ロスコフは、疲労困憊といった様子で言った。
「ロスコフ様は、弱いねぇ。」
スペアーは、まだ元気だとばかりに胸を張った。
それを見たロスコフは、
「すごいのは分かったよ、スペアー。だけど、僕はもう疲れてるんだ。」
と訴える。
「ロスコフ様もこう言ってるし、乗っちまおうぜ、スペアー。」
タンガがスペアーを説得した。
「そうだね……面白そうだしね。」
スペアーも納得し、三人はシーソー車と屑石車を連結させた。そして、
「ロスコフ様は、そっちの屑石車に乗ってて。俺たちが漕ぐから。」
タンガが言った。
「うん、分かったよ。」
ロスコフは、心底助かったと思った。もう歩きたくなかったからだ。
「よーし!出発だぁ!」
スペアーの掛け声とともに、連結させた屑石車とシーソー車が動き出し、徐々にスピードを上げて走り始めた……
「うっひょ~~♫」
「うっしっし!」
二人の漕ぎ手は、無邪気に歌い始めた。♬♬♫
歌のリズムに合わせて、1・2、1・2!
1・2・1・2・1・2・1・2・1・2・1・2・1・2・1・2……
次第に、二人の興奮はエスカレートしていく。
どんどん勢いを増していくシーソー車と屑石車。
少し怖くなってきたロスコフは、調子よくシーソー車を漕ぐ二人に声をかけた。
「ちょっと、タンガ、スペアー、早すぎないかな?」
しかし、すっかり興奮状態のタンガは、ロスコフの消極的な意見に耳を貸そうとはしない。
「そんなことないよ!大丈夫、心配しなくても、ロスコフ様は屑石車の中でゆっくり寛いでて!」
「分かったよ……」
ロスコフは心配していた。このままでは何か良くないことが起こるような気がしてならなかったのだ。
「うっひょ~~~!」
「わっはははは!」
二人は、まるで飛ぶようにシーソー車を漕いでいる……
ロスコフは、自分の不安が的中し始めていることを確信し始めた。
「ちょっと、早すぎるよ~!」
「わっはっは、大丈夫だって!」
そんなことを言っていたのも束の間、坑道が下り坂に入ると、
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「あへぇぇぇぇぇ!」
屑石車とシーソー車のスピードはどんどん上がっていき、ついに時速百キロメートルほどにまで加速していたのだ。
「あぎゃゃゃゃゃ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
ドッガァ~~~~ン!
ズッドォ~~~~ン!
バゴォ~~~~ン!
……
……
……
気が付くと、三人はトロッコから投げ出され、坑道内に倒れていた。どうやら、しばらく気絶していたようだ。
「大丈夫か、みんな?」
タンガが声をかけた。
「うん、俺は無事みたいだ。」
スペアーが答えた。
「僕もなんとか大丈夫。」
ロスコフが答える。
……
……
……
しばらくぐったりとしていたが、ようやく落ち着き始め、周囲の様子を気にし始めた。
「ここはどこだ?」
ロスコフが尋ねた。
「うん、僕も知らない。」
スペアーが答えた。
「入り口からは、かなり離れた場所だと思うけど……」
タンガはそう答える。
「仕方ない、また歩くしかないな!」
タンガが状況を見てそう言う。
「うん。」
「そうだね。」
ロスコフとスペアーも同意した。
そして、三人は再び歩き始めた。
「ふう……また歩きか。だるいね。」
スペアーがかったるそうに文句を言う。
「仕方ないだろ。シーソー車も屑石車も壊しちまったんだからな。」
タンガは憮然とそう言った。
「しかしシーソー車は楽しかったね。」
ロスコフは怖がっていたくせに今はそんな事を言っている。
「うん、あんな面白い経験、ぼく初めてだったよ。」
スペアーは本当に楽しかったのだろう笑顔でそう言った。
「ははははは、それは俺もだ。」
タンガは、俺様のおかげだと言わんばかりにそう答えた。
そんな会話をしながら歩いていると、
ギシギシ……グガガガ……
という不気味な音が聞こえてきた。
三人はピタリと足を止め、その音に意識を集中する。
ギシギシ……グガガガ……
再び、同じ音が聞こえた。今度は、意識を集中していたため、間違いなく聞こえている。
三人は、反射的にカンテラを音のする方向へ向けてみる。
すると、その方向に赤く光るいくつもの赤い光が浮かび上がっていめのが見えたのだ!
「うわっ、化け物だ!」
三人は必死で走り出した。
「逃げろ~~!」
走る!走る!走る!
走る!走る!
走った!走った!まだ走った!
「はぁ、はぁ、はぁはぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ロスコフは、逃げるタンガとスペアーの後を必死に追いかけ、無我夢中で走った。しかし、元々体力に大きな差がある二人には、ついていくことができず、次第に遅れ始め、ついに歩いてしまった。さらに、疲れすぎて、歩くことさえできなくなってしまったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう限界……」
ロスコフはその場にへたり込んでしまった。しばらくは、何度も息を吸い込み、息を整えていた。しばらくの間、何も起こらず時間が過ぎていく……
「どうしたんだろう?何も来ない?」
何も起こらないので、怖かったが気になり、後ろを振り返り、手に持っていた消えかけたカンテラを元の方向へ向けてみる。
すると、薄っすらと、こちらへ近づいてくる赤い光る目が見えたのだ。徐々に迫ってくるが、逃げられない。起きようとするが、足に力が入らないのだ。足がガクガクしていて、まるで自分の足ではなくなってしまったかのようだ。どうすることもできず、ロスコフはただ迫ってくる赤い目を凝視するしかなかった。
「ロスコフ様~!ロスコフ様~!」
ロスコフが、もう目の前まで迫ってきた怪獣に集中していると、怪獣が突然、
ガゴン!
「ギョエ!」
という鳴き声のような声を上げ、後ろへ逃げていった……
「大丈夫か、ロスコフ様!」
何が起こったのかよく分からなかったロスコフだったが、ゴロンと転がった大きな石を見て、
「あっ……」
と声を漏らした。
「へへへ、ブチ当ててやったぜ!」
タンガが誇らしげに言った。そう、タンガの投げた石が怪獣に当たったため、悲鳴を上げて逃げたのだ。
「タンガ、スペアー!」
ロスコフは二人の名前を呼んだ。
「怪我はないかい、ロスコフ様?」
スペアーが、地面にへたり込んでいるロスコフに、どこか怪我をしたのかと聞いてきた。
「いや、足がガクガクして歩けなくなったんだ。他は大丈夫だよ。」
そう答えると、ロスコフは先ほどの怪獣が、犬と同じくらいの大きさがあるモグラだったことを二人に話した。
「えっ、モグラだってぇ!」
スペアーが驚いた声を上げてほんとかよって感じだ。
「見たことがない種類のモグラだったよ。」
ロスコフはそう説明する。
「モグラだったらネズミよりかは大きいけど、犬と同じくらいの大きさがある奴なんて知らないし、聞いたこともないよ。」
タンガがも、信じられないと言う感じを面に出している。
「嘘じゃないよ。暗いけど間違いなかった。目が赤く光ってたんだ。それに、口からよだれを垂らしていたんだよ。」
そんな話をしていると、再び怪獣モグラが現れたのだ。しかも、今度は三匹もだ。
……
最後まで読んでくれた方、ありがとう、また続きを見かけたら読んでみて下さい。