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盗賊団(イニークゥス)

今回は、ラバァルに取って3人目の母親的な存在、ラナとのエピソードになります。  

                   その30 






意識が朦朧としたまま一日が過ぎ、ようやく目が覚めたラバァル、それが分かると一人の大人が


手に何かを持って来て、ラバァルの横に、ドスンと音を立てて荒っぽく置いたのだ。また暴力を受けるのだろうか――ラバァルの心臓は一瞬跳ね上がる。しかし、それはただの木のお椀だった。


与えられたのは、飼われている犬たちが漁っているような、正体不明の小さな虫や、土などが混じったおぞましい残飯だ。一口、恐る恐る口に運んでみたものの、吐き気を催し、すぐに吐き出してしまう。喉は乾ききり、腹は激しく空いているのに、それを飲み込むことは容易ではなかった。それでもラバァルは、生き延びるためには何でも口にしなければならないと、幼いながらに必死でその残飯を口の中に押し込んで食べたのだ。




ラバァルが寝かされていたのは、隙間風が吹き込む村のぼろ小屋の隅だ。見慣れない村の大人たちは、時折興味深そうにラバァルの顔を覗き込み、「クスクス」と笑ってはどこかへ行ってしまう。彼らの態度は、好奇の目に晒しているだけで、親身な世話というものではなかった。






数日間、希望のない時間が過ぎていった。衰弱しきっていた体力は、ほんのわずかに回復したものの、依然として全身は鉛のように重かった。ようやく数歩、よろめきながらも歩けるようになったある日、ラバァルは村の長老がいるという質素な部屋へと連れていかれた。古びた木の椅子に深く腰掛けた長老は、静かに、しかし鋭い眼光でラバァルを見つめ、低い声で問いかけたのだ。「お前の名は?」




名前を尋ねられたラバァルは、叔父のサーヴアントに言われた通り、はっきりとした声で「ラバァル」と答えた。「ラバァル……」長老は、その名前をゆっくりと繰り返すと、低い声ながらも威厳を込めて語りかけてきた。「ラバァル、お前はこの村の者に助けられたのじゃ。分かるな?」ラバァルは、長老の言葉を理解しようと、真剣な眼差しで頷いた。「うむ。人は人から受けた恩は返さねばならぬと言うことは分かるか?」五歳のラバァルには少し難しい問いだったが、長老の顔をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。それを確認した長老は、重々しく頷いた。「良し。ではお前はこの村で働かなくてはならぬ。テスタ、この子の面倒を見てやれ。」




長老の言葉が終わると同時に、村の大人の男が一人立ち上がった。テスタと呼ばれたその男は、一番最初にラバァルを見つけたという権利を行使し、ラバァルを自分の使用人として使う権利を得たのだ。テスタは、無表情のままラバァルの小さな手を掴み、自分の粗末なあばら家へと連れて行った。




その家は、外から見てもボロボロで、中に入るとさらにひどく散らかっていた。床にはゴミが散乱し、家具は埃を被り、まるで住む者の心が荒廃しているかのようだった。「良し。お前は今日から俺の物だ。今すぐここを片付けろ。」テスタは、冷たい声でそう言い放つと、適当な場所に寝る場所を作って、ゴロンと横になり、すぐにいびきをかき始めた。




ラバァルは以前、似たような状況で何もできずに酷い目に遭った苦い記憶が蘇った。今回は二度とあんな目に遭いたくないと、幼いながらも必死に考える。記憶の片隅に残るマーヤの教えを頼りに、言われた通り、散らかった小屋の片付けを始めた。小さな体で懸命にゴミを集めて外に運び出し、使えるかもしれない物を丁寧に整理していく。数時間後、ようやく重い瞼を開けたテスタは、乱雑な部屋を見回すなり、雷が落ちたように激怒した。「なんじゃこりゃあ!言いつけた物はどこへやった!あれもないぞ、一体どこに隠しやがった!」何が気に入らないのか、何を探しているのか、幼いラバァルには全く理解できなかった。テスタは、小さなラバァルを見つけると、考える間もなく強烈な平手打ちを叩きつけた。衝撃で床に倒れ込んだラバァルに、さらに容赦ない足蹴りを何度も加え、一方的に怒りを爆発させる。なぜ自分がこんな目に遭うのか、ラバァルには全く理解できず、ただただ激しい痛みに耐えるしかなかった。意識が遠のく中、最後に感じたのは、冷たい床に叩きつけられる衝撃だった。




テスタの怒りは狂暴な嵐のようだった。小さなラバァルに、手加減など一切ない大人の暴力が何度も何度も降り注ぐ。殴る、蹴る、踏みつける。容赦のない暴行を受け続け、ラバァルの小さな体は悲鳴を上げ、意識は何度も途切れかけた。息をしているのかさえ分からないほど瀕死の状態に陥ったラバァルは、そのまま冷たい牛小屋の隅に、まるでゴミのように放置された。意識を取り戻すことなく、何日もの時間が過ぎていった。




その頃、村の外では、恐ろしい出来事が起こっていた。盗賊たちが村を襲いにやって来たのだ。男たちは次々に殺され、家には火が放たれ、女や子供たちは悲鳴を上げながら捕らえられ、連れ去られていった。「ひゃっはっは!女子供は皆さらえ!」「男は皆殺しだ!一人残らず斬り捨てろ!」「火を放て!家も畑も、全て焼き払え!」村はたちまち炎に包まれ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。女や子供たちは村の中央に集められ、恐怖に震えている。そんな中、牛小屋で意識を失っていたラバァルは、燃え盛る炎にゆっくりと包まれていたのだ




その騒ぎの中、何かないかみつけに牛小屋にやって来た二人の盗賊が、隅で倒れていたラバァルを見つけた。最初はただのガキだと思い、連れて行こうと持ち上げてみたが、全く起きない。死んでいるのかと顔を近づけて息をしているか確認すると、微かに息があるため。二人の盗賊は、とりあえずこの子供も連れて行くかと、村の中央へと運んで来た。




ぐったりとしたラバァルの姿を見た古株の盗賊の一人が、彼を連れてきた二人に呆れたように言う。「馬鹿かお前らは!死にかけのガキを連れてきてどうするんだ?お前らが看病してやるつもりなのか、あぁ?」そう言われた二人の盗賊は、慌てて言い訳をする。「えっと……暗くて、死にかけだとは分かりませんでした。一応ガキだから、連れてきただけですよ。」そう言うと、二人は再び牛小屋の方へと走って行った。「けっ、使えねぇ奴らだ。」古株の盗賊は、吐き捨てるように言った。




それでも、ラバァルは一応、盗賊団のアジトへと連れて行かれ、手当てを受けることに...。




村の男による凄惨な虐待の痕跡は、幼いラバァルの全身に生々しく刻まれていた。その痛ましい姿を見た盗賊団のリーダー、ラナ(33歳)は、冷たいながらもどこか決意を秘めた眼差しで周囲に言い放った。「その子は私が預かる。他の者を近づけるな。」そう命じると、ラナは手下たちに、ラバァルを自分の部屋へ運ぶよう指示した。


ラナの命令に従い、二人の女盗賊がラバァルの衣服を脱がせた。乾ききって皮膚に張り付いた粗末な布の下から現れたのは、全身を覆う夥しい数の青痣だった。それは、まるで彼の幼い体をキャンバスに、暴力という名の絵筆で塗りたくったかのようだった。痣は深く、一部は壊死寸前で、女盗賊たちはその凄まじい光景に息をのんだ。彼女たちは顔を見合わせ、無言のまま、まずはラバァルの汚れた体を丁寧に拭き清めることにした。




温かい湯でゆっくりと汚れを落とした後、ラナが連れてきた薬師による本格的な治療が始まった。ラナは手下たちに様々な薬草や薬を持ってこさせ、薬師に指示を与えながら、熱心にラバァルの手当てを見守り。盗賊団らしからぬ手厚い看護は、ラバァルの小さな命を繋ぎ止めるための、精一杯の試みだった。




それでも、ラバァルは意識を取り戻すことなく、四日が過ぎていた。そしてようやく、薄暗い朝を迎えた頃、ラバァルはゆっくりと目を開けたのだ。




見慣れない天井、柔らかな寝具。自分がベッドで寝かされていることに気づいたラバァルは、キョロキョロと周囲を見渡した。喉はカラカラに乾き、胃はまるでペシャンコになったように空腹だった。ふらふらとした足取りでベッドから起き上がり、よろめきながら歩き始めたその時、部屋のドアが開き、また大人の人影が近づいてきた。ラバァルは、咄嗟に身を守るように両腕を前に突き出した。




近づいてきた人物、盗賊団イニークゥスの首領【ラナ】は、ラバァルのその仕草を見て、少し驚いたような表情を浮かべた。「小僧、私はお前の敵ではない。」ラバァルは、敵ではないと言ってくる女盗賊に向かい、警戒心を露わにしながら、その顔をじっと見つめた。真っ直ぐに自分の目を見つめてくる男の子の、怯えの色がない強い瞳を見返すと、【ラナ】は小さく息を呑んだ。「あんた……これだけ惨い目に遭って、それだけ度胸が据わっているなんて、大した男っぷりだよ。気に入ったわ。今からあんたは、私の子だよ。」夫と子を盗賊に殺され、一人で生きてきたラナは、ラバァルの強い眼差しに何かを感じたのか、彼を気に入り、自分の子供にすると手下たちに宣言したのだ。




ラバァルが盗賊団イニークゥスに連れてこられてから五日目のことだった。ようやく盗賊団のアジト内を自由に歩き回れるほどに回復したラバァルは、マーヤに教えられたことを思い出し、自分の体を鍛えるために動き回り始めていた。ただ歩いているのではなく、全身を使って走り回っているのだ。それを見たラナは、心配そうな表情で声をかけた。「ラバァル、無茶をするんじゃないよ!」まだ完全に回復していない体にも関わらず、ラバァルはまるで元気いっぱいの子供のように走り回っていた。「うそだろ……あんなボロボロだったガキが、まだ五日しか経ってねぇのに、あんなに元気に走り回ってるぞ。」「ラナは男を見る目があるな。」「ありゃあ、育てりゃあ、良い戦力になるぜ。」盗賊たちの間でも、ラバァルの驚異的な回復力は評判となっていた。




今日もラバァルがアジト内を走り回っていると、一つだけ頑丈な鉄格子でできた檻の中に、数人の人間が閉じ込められているのを見つけた。ラバァルは、以前にも何度か檻に入れられた人を見たことがあったため、また誰かが囚われているのだとすぐに理解した。そして、助けた人に裏切られ、海へと突き落とされた苦い経験から、今回はそっと遠くから見守るだけにする。




しばらく檻の中の人々を観察していると、突然、檻の中から声がかけられた。「坊や、ちょっとこっちだよ。」ラバァルは声のする方を向き、何だろうかと首を傾げた。すると、同じ檻の中に閉じ込められた見た事のある大人たちが、ラバァルに気づいて、必死の形相で助けを求めてきたのだ。




ラバァルも、その二人の顔をはっきりと視認した。あの海で自分を助けようとしてくれた大人と、自分を海に突き落とした大人だ。何度も助けを求める声が聞こえてきたが、今回ラバァルはただ黙ってその様子を見ているだけだった。「お願い、助けて、ラバァル!お願いよ!」「海では本当に悪かったわ!魔が差したの、ごめんなさい!助けて!助けてくれたら、きっとあなたにも良いことがあるわ!」二人の大人は、必死に言葉を連ね、何とかラバァルに助けを乞おうとしていた。




しかし、ラバァルは、ただ二人を見つめているだけで、一歩も動こうとはしない。そんな場に、ラバァルの背後から、彼と同じくらいの背丈になるように膝を折り曲げ、ラバァルの小さな体に優しく腕を回し、抱きしめる女が現れた。ラバァルはその温かい腕を払うことなく、ゆっくりと後ろを振り返る。誰か分かると、「ラナ...」と呟く。 するとラナは、




「ふふふ♫ こいつ等は奴隷だよ、ラバァル。良い稼ぎを生み出す雌鶏たちさ。」背後から近づいてきた盗賊団イニークゥス首領ラナは、屈託のない笑顔でラバァルの頬に優しくキスをしながら、檻に入れられたレクシアとローリーを指さした。檻の中の二人は、信じられないものを見るような驚愕の表情でこちらを見つめている。




ラバァルも、かつて共に海を漂流したレクシアたちのことは覚えていたが、あの時の必死さは遠い記憶となり、今はもう何の感情も湧いて来ず。ただ、そこに存在している、それだけの認識しか持てなかったのだ。




そのままラナは、ラバァルの小さな手を引き、何か食べたい物はないかと優しく尋ねて来る。


ラナの温かい手に引かれるまま、ラバァルは静かに頷き、「なんでもいいよ。」そう返事。


ラナは、まるで死んでしまった息子が戻って来た様な気分になり、ラバァルに接した...。 






盗賊団イニークゥス首領ラナに育てられ、二年の月日が静かに流れていった。七歳になったラバァルは、いつものように朝早くから野山を走り込み、体を鍛えていた。マーヤから教わった鍛錬を欠かすことはなかった。そんな時、仲間の一人が息を切らせて駆け寄って来たのだ。「ラバァル!頭は!?ラナはどこにいる!?」




ラバァルは、鍛錬を中断し、ラナがいる方向を指差して伝えた。するとその仲間、ハドソンは、ラナのいる方へと慌てて走り出し、大声で叫んだ。「大変だ、ラナ!オズワルドがここを襲ってくるぞ!」




ハドソンの報告を受けたラナは、涼しい顔で答える。「もう知ってるよ、ハドソン。こっちも間抜けじゃないんだよ。準備は万端整っているさ。」そう言うと、ラナは信頼を置く副長のルパートに目配せし、指示を出す。




ルパートは、ラナの意を汲み取り、手慣れた様子で三人の部下に指示を与えた。三人の部下たちは、それぞれの持ち場へと戻り、屈強な武闘派の集団を率いて、襲ってくるオズワルドの一団を待ち伏せするために、予め用意されていた隠れ場所へと静かに向かった。




オズワルドが率いる盗賊団の規模は、ラナが率いる盗賊団イニークゥスの約一・五倍にまで膨れ上がっている。ラナの亡き夫、ゾタックスが盗賊団イニークゥスを率いていた時代は、この辺りでイニークゥスに敵う盗賊団は存在しなかった。しかし、女が首領になったことを良く思わない者たちが離反し、オズワルドの元に結集して勢力を拡大。イニークゥスの縄張りを荒らし始め、ついには攻撃を仕掛けてくるまでに成長してしまったのだ。




もっと早く潰しておくべきだったと、今更ながら後悔の念がラナの胸をよぎる。しかし、彼女には数年間、この日のために綿密に練り上げてきた作戦があった。これ以上オズワルドの勢力が拡大する前に叩き潰すため、あえて隙を作って敵を油断させ、襲わせるように仕向けたのだ。その巧妙な罠に、オズワルドはまんまと引っかかり、この日の攻撃へと踏み切ったというわけだ。


ラナは、ラバァルの小さな手を握り、優しく言った。「行くよ、ラバァル。よ~く見てなさい。」そう言うと、ラナはラバァルを自分の馬の後ろに乗せ、駆け出す。「振り落とされんじゃないよ、ラバァル。」ラバァルは、ラナの腰に必死にしがみついた。馬に揺られることしばらく、二人は崖の上に辿り着く。そこからは、眼下に広がる地形が一望できた。両サイドの崖の上には、既に弓矢を構えた者たちや、巨大なバリスタを懸命に引っ張ってくる者たちの姿があった。両サイドに六機ずつ、計十二機のバリスタと、それを操作する二十四名の人員、そして三十六名からなる弓矢部隊が、息を潜めて待ち構えていたのだ。




さらに、敵の行く手を遮るように、丸太の先端を鋭く尖らせた杭を五本一組にして傾斜させた移動式の杭柵が、わざと人が一人通れる程度の隙間を開けてジグザグに配置されていた。矢を防ぐための丸太も並べられ、その後ろには、槍と盾を持たせたまるで訓練された兵士のような者たちが、静かに待ち構えている。そこへやってきたオズワルドも、正面に置かれた杭柵や矢留めの丸太を目視したが、背後から押し寄せる大勢の部下たちの勢いは止められず、ここを正面から強引に突破する事になる。彼は部下に命じ、弓矢部隊を先行させ、この先で待ち受ける盗賊団イニークゥスの者たちに先制攻撃を仕掛けさせようと、部隊を進ませてくる。




見事にラナの罠にはまったオズワルドが率いる盗賊団に対し、ラナが合図を送ると同時に、崖の上から雨のように矢が降り注ぎ始めた。「今だよ!やっておしまい!」ラナの鋭い掛け声と共に、崖の上に配置させていた弓矢部隊が一斉に弓を放った。




ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……




ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……




ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……


ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……


上空からの容赦ない矢の雨が、両サイドの崖上から降り注ぐと、たちまちオズワルドの盗賊団はバタバタと倒れていった。さらに、「よ~し、撃ち方開始!」というラナの号令の下、今度は巨大なバリスタが轟音と共に射撃を開始する。バリスタから放たれる強烈な鏃は、命中した馬を瞬時に射抜き、絶命させた。この圧倒的な破壊力を持つ鏃を目の当たりにしたオズワルドの盗賊団は、完全に戦意を喪失し、我先にと後方へ逃げ出す始末だ。だが、ここで徹底的に叩いておきたいラナは、逃げる敵に容赦なく矢の雨を降らせるように命じる。


「一匹たりとも逃がすんじゃないよ!残せば、後から必ず仕返しに来るんだからね!」そう言い放ち、ラナは次々と矢を射込ませた。前方にいたオズワルドは、数本の矢に体を貫かれ、絶命した。中には、かつて盗賊団イニークゥスに属していた者たちの姿もあったが、裏切り者には容赦なく矢が放たれた。



どの程度の人数が逃げ延びたかは定かではなかったが、戦場に残された死体の数を数えると、百名を超えていた。副長のルパートからラナへ、「ざっと三分の二は始末できたと思われます」という報告が上がってきたのだ。



それを受けたラナは、冷たい表情で呟いた。「今度は、甘くしてられないよ。放っておくと、また数を増やしてくるだろうからね。そう何度も同じ手は通用しないんだから、ここで放置はできないねぇ。」ルパートもその指示の意図を理解し、力強く頷く。そしてラナは、副官のルパートに冷静な声で命じた。「三十名を与える。掃討してこい。一人も残すんじゃないよ。」馬に乗った三十名の屈強な盗賊たちが、ルパートに率いられ、先ほど塵芥のように逃げ出したオズワルドの残党を追いかけ始めた。



残ったラナは、部下たちに命じ、戦場に残された死体を広い場所へ集めさせる。そして、大きな穴を掘らせ、その中に次々と死体を落とすと、大量の油を撒いて火を放った。辺りには、焼け焦げた肉と油が混じった、鼻を突くような強烈な臭いが立ち込めた。




ラナは、燃え盛る炎を見つめながら、隣に立つラバァルに静かに語りかける。




「今回は運が味方して、私たちが勝ったに過ぎないんだよ。ほんの少しの差で、私たちがこうして焼かれていたかもしれないんだ。」そして、幼いラバァルに向き直り、真剣な眼差しで続けた。「結局、運と、どちらの力が強いか、どれたけの知恵を使って準備していたかで勝負は決まるんだよ。あっちが悪いとか、こっちが良いから勝てたわけじゃない。強いか弱いか、それだけなんだよ。分かるだろ、ラバァル。」


ラバァルは、ラナの言葉をしっかりと受け止め、深く頷いた。「ふふ、いい子だね、ラバァルは。さあ、帰って、温かい食事にしよう。」そう言うと、ラナは再びラバァルを自分の馬の後ろに乗せ、夕焼け空の下、アジトへと戻っていった。






最後まで読んで下さりありがとう、また続きを見かけたら宜しく。

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