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番外編 冒険者タンガ誕生 その9

番外編 冒険者タンガ誕生も今回で終了です。  

                  その21




 元の大きさに戻った【悪魔ドミネート】は、体格に見合わない俊敏さこそ失ったものの、その巨躯から繰り出される破壊力だけは健在であった。いや、追い詰められたがゆえの狂気と必死の形相が、衰えた膂力を補って余りある殺気を放っていた。

 最初の頃のような、獲物を弄ぶような余裕は微塵もない。ドミネートは、今まさに目の前に立つ小さな光り輝く敵を、己の命運を左右する最大の脅威として認識し、最初から全身全霊を込めたフルパワーでタンガに襲い掛かった。


 タンガもまた一歩も退かなかった。輝く光に包まれた少年の体は、悪魔の巨腕と正面から組み合い、互いの力を極限までぶつけ合う肉弾戦へと突入する。

 速度で分が悪いと悟ったドミネートは、単純な力比べでタンガをねじ伏せようと試みた。丸太のように太い腕でタンガを締め上げ、そのままへし折ろうとする。


「ぐぬぬぅぅ……ッ!」

「……ッ」


 筋肉が軋み、骨が悲鳴を上げるような音が響き渡る。だが、ドミネートと眩しく発光するタンガとの力比べは、驚くべきことに互角の拮抗を見せていた。

 ドミネートの額には青筋が浮かび、歯ぎしりの音が漏れる。対するタンガは無言のまま、その小さな体の中に無限とも思えるエネルギーを漲らせていた。


「ぐぬぬぬぬぬ……ッ! くっ、小僧、これほどの力を……どこに隠し持っておったわ!」


 輝くタンガが、スピードだけでなくパワーにおいても自分と同等、あるいはそれ以上だと悟った瞬間、ドミネートは焦燥に駆られた。反射的に、踏ん張るタンガの腹部めがけて強烈な蹴りを放つ。


 だが、その蹴りもまた、輝くタンガを捉えることは叶わなかった。

 タンガは常人の反応速度を遥かに超越し、蹴りの軌道を見切って軽やかに跳躍した。空中で身をひるがえすと、ドミネートの背後へと音もなく着地する。

 間髪入れず、タンガはドミネートの巨大な体を背負い投げの要領で担ぎ上げると、そのまま地面へと豪快に叩きつけた。


 ズドン!


 重厚な衝撃音が響き、地面が大きく陥没する。

 しかし、投げられたドミネートもタフだった。なんとか足を踏ん張って体勢を立て直すと、獣のような唸り声を上げて再びタンガに組み付き、泥臭い力比べが再開された。


「くっ、このままでは……負ける……!」


 焦燥の色を濃くしていたのは、明らかにドミネートの方だった。

 タンガのパワーは尋常ではない。それ以上にドミネートを戦慄させたのは、目の前の少年に疲労の色が全く見えないことだった。

「こいつ、疲れないのか……?」

 これだけの激闘を繰り広げ、神速の動きと怪力を振り絞り続けていれば、肉体には凄まじい負荷がかかり、疲労が蓄積するはずだ。現に、ドミネート自身の呼吸は荒くなり、腕は鉛のように重く感じ始めている。

 だが、タンガは涼しい顔で、表情一つ変えず、最初と変わらぬ圧倒的な圧力で押し返してくるのだ。その底知れぬスタミナは、不気味ですらあった。


 スピードで翻弄され、力でも拮抗し、持久力においては完全に負けている。

 じわじわと、しかし確実に追い詰められていく恐怖。

 焦りに理性を焼かれたドミネートは、なりふり構わぬ行動に出た。

 タンガの襟首を掴んで強引に自分の方へ引き寄せると、その硬い頭蓋骨を武器にして、捨て身の頭突きを繰り出したのだ。


 ズゴンッ!


 頭蓋骨と頭蓋骨が正面から衝突する、鈍く重い音が響いた。

 激しい衝撃に、二人の体は同時に大きく弾かれ、一瞬よろめいた。


「くっ……!」

「……」


 ドミネートは視界が明滅し、自分がよろめくほどのダメージを受けたことに愕然とした。だが、退くわけにはいかない。もはや彼に残された手段は他にないのだ。

 追い詰められたドミネートは、頭突き攻撃こそが打開の糸口だと信じ込み、最後の賭けに出た。全身全霊を込め、狂ったように何度も何度も頭突きを繰り返す。


 ズゴォン! ズゴォン! ズゴォン!


 岩を砕くような鈍く重い衝撃音が、戦場に何度も何度も響き渡る。

 その壮絶な光景を、ロウ爺さんやパトリックたちは固唾を飲んで見守っていた。だが、タンガの発する光があまりに眩く、直視すれば目が焼かれるほどで、何が起きているのか正確には視認できない。満身創痍で倒れ伏している冒険者たちもまた、耳をつんざく衝撃音と、明滅する光の激しさだけを頼りに、そこで繰り広げられている神話のような死闘を想像するしかなかった。


 激しい衝突音が、十度、二十度と続き、辺りの地面がその余波でひび割れていく。

 そしてついに、渾身の力を込めた三十三度目の衝突の瞬間。


 バヂィンッ!


 乾いた破砕音が響き、【悪魔ドミネート】の頭蓋が砕け散った。

 ドミネートの巨体から力が抜け、まるで糸の切れた人形のように、ゆっくりとタンガの方へと崩れ落ちていく。

 タンガは、倒れて来たかつての強敵を、慈しむように優しく受け止めると、そっと地面に横たえた。


 頭部を砕かれ、沈黙したドミネートは、もはや微動だにしない。

 激闘を制したタンガもまた、その瞬間に全ての力を使い果たしたのだろう。体を包んでいた輝きが徐々に失われ、ふらりとよろめくと、崩れるようにその場へ倒れ込んでしまった。


 戦場に、深い静寂が訪れた。

 光が収まり、ようやく周囲の状況を視認できるようになったロウ爺さんは、倒れ伏したタンガとドミネートの姿をはっきりと捉えた。

「タンガ!」

 彼は老体に鞭打ち、急ぎタンガのもとへ駆け寄った。脈を確認する。生きている。だが、ひどく衰弱している。

 ロウ爺さんは安堵と焦燥が入り混じった声で、パトリックを呼ぶために大声を張り上げた。


「パトリック! 急いでくれ! 上級回復魔法を頼む!」


 その悲痛な呼び声に反応したパトリックは、自身も満身創痍でよろめきながらも、懸命にタンガのもとへ駆け寄った。膝をつき、震える手でタンガにかざすと、敬虔な祈りを捧げ始めた。


『サンティオ・プロヴェクタ(進歩した癒し)』


 詠唱と共に、タンガの全身が高位の癒しの光に包まれる。体力の消耗も、打撲の痕も、急速に再生されていく。

 しかし、これまでの戦闘で幾度となく上級回復魔法を使用し、マナを搾り出してきたパトリックの体も限界を迎えていた。魔法の完成と同時に、彼もまた糸が切れたように意識を失い、どうっとその場に倒れ伏してしまった。


「パトリック!」

 今度は、それを見ていた神官見習いのファミリアが叫び、パトリックに駆け寄る。

「呪文の使いすぎです。休ませないと、命に関わります」

「そうじゃな……。幾度となく我らの傷を癒し、上級回復魔法に頼りきっておったからのう。無理もない」

 ロウ爺さんは痛ましげにパトリックを見つめる。

 ファミリアは、少しでも彼の体力を回復させようと、自身の残ったわずかな魔力を振り絞り、祈祷魔法を唱え始めた。


『ウィレス・レパロ(活力の再生)』


 淡い光と共にパトリックに活力の再生が施されると、彼の顔にわずかに赤みが戻り、うっすらと目を開けた。

「……あれ、私は……?」

 ぼんやりとした視線で周囲を見回す彼に、ファミリアが優しく答えた。

「パトリック、あなたは回復呪文の使いすぎで倒れてしまったのよ。もう無理はしないで」

「そうか……。ごめん、少し無理をしすぎたようだね」

 パトリックは力なく微笑み、起き上がろうとする。ファミリアは彼に手を差し伸べ、その体を支えた。


 その時、周囲の瓦礫の陰から、生き残った冒険者たちが一人、また一人と集まってきた。

 彼らは頭部を砕かれ、完全に絶命している【悪魔ドミネート】の体と、その傍らで横たわる小さな少年の姿を見て、信じられないという表情で驚きの声を上げた。


「信じられない……。本当に、あの【悪魔ドミネート】を倒したのか、この子供が……」

「嘘だろ……しかも、タイマンで……。あの化け物を、たった一人でねじ伏せるなんて、一体、タンガという男は何者なんだ……? ロウさん?」


 問われたロウ爺さんは、困惑した表情で首を振ることしかできなかった。

「儂にも、皆目見当がつかんよ。なぜあのように光り輝いたのか、どこにあんな力が眠っていたのかも、さっぱりじゃ」


 そんな会話をしていると、不意にドミネートの亡骸に異変が起きた。

 巨大な肉体が黒い泥のように溶け出し、ジュウジュウと音を立てて地面に吸い込まれていく。そして、その残滓の中から、無数の青白い光の粒が立ち上り、空へと昇り始めたのだ。


「魂ですね……。数えきれないほどの魂が、解放されて天へと昇っています」

 パトリックの静かな言葉に、皆も自然と手を合わせ、祈りを捧げ始めた。

「こやつほどの悪魔なら、さぞ多くの無念な魂を喰らっていたのでしょう……」

 誰かがポツリとそう呟いた。

 昇っていく光の粒は美しく、そしてどこか悲しげだった。


 冒険者たちが昇天する魂に祈りを捧げている頃、遥か上空、雲の上では、その魂を冷静に見つめ、回収する者がいた。すべてを漏らさず回収し終えると、その者は何事もなかったかのようにふっと姿を消した。


 タンガの無事を確認したロウ爺さんは、ふと我に返り、ロスコフたちがいた場所へと慌てて向かった。ドミネートの赤色覇光で大きく抉られ、地形が変わってしまったその場所。

 辿り着いたそこには、何もなかった。

 ロスコフも、レザリアも、跡形もなく消え失せていた。

 ロウ爺さんは膝から崩れ落ち、虚空を見つめた。守るべき主君を、最期の瞬間に守れなかった無念。

(……儂は、万死に値する)

 絶望が胸を締め付ける。フォルクス様の元へ戻り、すべてを報告した後、責任を取って自害する以外に道はないと考えていた。


 その瞬間である。

 目の前の空間が、まるで布を引き裂くようにバリバリと音を立てて歪んだ。

 そして、ドサリという鈍い衝撃音と共に、何かが虚空から落下してきた。

 ロウ爺さんが反射的に音のした方を見ると、土煙の中に、何も身に着けていない若い女性が倒れているのが見えた。

 レザリアだ。

 ロウ爺さんは何事かと目を疑いながらも、慌ててそちらへ駆け寄ろうと動き出した。

 その矢先、今度は頭上から、先ほどと同じように空間が歪み、何かが落下してくる気配を感じた。

 それを察知したロウ爺さんは、とっさに身を翻し、両手を広げた。


 ドサッ!


 腕の中に飛び込んできたその重みを、しっかりと抱き留める。

 それは、何も身に着けていない、裸のままのロスコフ様だった。


「ロスコフ様……ッ!」


 ロウ爺さんは、あまりの事態に言葉を失いつつも、震える手でロスコフ様の顔を確かめた。

 間違いなかった。それは、紛れもなくロスコフ様ご本人だった。温かい。生きている。

 驚きと歓喜で目頭を熱くさせながら、ロウ爺さんは大声でパトリックとファミリアを呼んだ。


「おーい、パトリック! ファミリア! ここじゃ、こっちへ来てくれ!」


 ロウ爺さんの切羽詰まった声に、パトリックらがふらつく足で駆け寄る。

 そこには、裸の男の子を抱きかかえ、涙ぐんでいるロウ爺さんの姿があった。パトリックは瞬時に状況を察し、慌てて駆け寄る。その後ろから、シャーマンのファミリアも息を切らせて追いついてきた。


「すまん、お主らが疲弊しておることは重々承知で頼む。ロスコフ様を……この子を助けてくれ、パトリック。どうか、頼む!」

 ロウ爺さんは、祈るように懇願した。

 パトリックは、疲労の色など微塵も見せず、当然だという顔で力強く頷いた。

「任せてください!」

 彼はすぐさま神に祈りを捧げ始め、治療魔法の詠唱を開始した。


「ファミリア、この先に倒れている女性は、おそらくレザリアじゃろう。あちらも頼む!」

 ロウ爺さんが指差すと、ファミリアは短く頷き、倒れている女性のもとへ急いだ。


 生き残った者たちは、崩壊した総督府庁舎跡地で、散乱した仲間たちの遺体を集める作業を始めた。

 瓦礫をどけ、千切れた手足を拾い集める辛い作業。

 破壊された府庁の前で、集められた遺体が薪の上に丁寧に寝かされた。夜の帳が下りる頃、静かに火がつけられる。

 揺らめく炎が、死者たちの顔を赤く照らす。この島では、埋葬ではなく火葬が鉄則だ。死体が動き出し、ゾンビ化するのを防ぐために。


 夜になり、焚火の爆ぜるパチパチという音だけが響く静寂の中。

 包帯でぐるぐる巻きにされ、ボロボロになったエイゼンが目を覚ました。

 霞む視界で隣を見ると、パトリックが座って休んでいるのが見えた。

「……パトリック。戦いは……どうなったんだ?」

 掠れた声で問いかける。

「うん、目が覚めたかい。……なんとか、勝てたよ」

「そ、そうか……。よく勝てたな、あんな化け物に」

「ああ。不思議なことが起こったんだ。タンガ君が……おそらく、神の御業だろうね」

「神の御業……?」

 エイゼンは要領を得ないといった顔をしたが、それ以上追及する気力もなかった。

 そんな話をしていると、ふとエイゼンが何かに気づいたように耳をそばだてた。

「パトリック」

「何だい?」

「……何か、聞こえないか?」

「うん? 焚火の音はするね」

「違う。もっと奥……庁舎の方からだ」

 エイゼンはそう言って、痛む体に鞭打ち、無理やり立ち上がろうとした。

「おい、エイゼン、無理をするな! 君は足を破壊され、大量の血を失ったんだぞ。私の回復魔法では、失った血までは元に戻せないんだ」

「ああ、わかってる。……だが、どうしても音が気になるんだ」

 エイゼンはパトリックの制止を振り切り、ふらつく足取りで瓦礫の山となった総督府庁舎の方へと歩き出した。パトリックも仕方なく彼を支え、後に続いた。

 ロウ爺さんは、その様子を少し離れた場所から訝しげに見つめていた。だが、もう二度とロスコフの傍を離れるまいと心に決めた彼は、その場を動かなかった。

「グリボール、すまんが、あいつらの護衛を頼む。まだ何があるかわからん。油断はできん」

 ロウ爺さんがそう指示を出すと、近くで休んでいたグリボールが「わかった、俺も行こう」と重い腰を上げた。それに続き、アシタガとモニカも立ち上がり、「私も行ってきます、ロウさん」と告げた。

 ロウ爺さんは無言で頷き、彼らを見送った。


 死体を焼いた大きな焚火とは別に、小さな焚火が熾されている。その周りには、まだ意識を取り戻さないロスコフ、レザリア、そしてタンガが横たわっており、ファミリアとロウ爺さんが片時も離れず付き添っていた。


 一方、瓦礫の山と化した総督府の中へ、まだ足元のおぼつかないエイゼンとパトリックが足を踏み入れた。

 月明かりが差し込む廃墟の中、エイゼンは何かを探るように、物音のする方へとゆっくりと進んでいく。

 そこへ、ガチャガチャと重装備の音を立てながら、グリボール、アシタガ、モニカが追いついてきた。

『何かあったのか?』

 アシタガが小声でエイゼンに尋ねたが、エイゼンは人差し指を口元に当て、「シッ」と静かにするようジェスチャーで示した。

 五人は息を潜め、瓦礫を踏む音すら立てないように慎重に進んだ。

『……向こうだ』

 エイゼンはそう呟き、崩れた壁の向こうを指差した。

 彼らが辿り着いたのは、地下へと続く階段の入り口だった。天井が崩落し、階段は瓦礫で埋め尽くされ、足場は非常に不安定だ。

『待って、この瓦礫を吹き飛ばせばいいのよね?』

 モニカがそう聞くと、皆が頷いた。

『少し下がってて。崩れてきたら危ないから』

 モニカはそう言い、杖を構えて魔法の詠唱を始めた。


【ラディウス・マギクスII(魔法の光線)】


 モニカの杖から鋭いレーザー光線が放たれ、邪魔な岩塊や木材を次々と消し飛ばしていく。五発ほどの光線を慎重に放つと、人が一人やっと通れるだけの空間がこじ開けられた。

『さあ、これでどう?』

 エイゼンは無言で頷くと、先頭を切って暗い地下へと降りていった。


 地下は、かつて犯罪者の留置所だった場所のようだ。カビ臭く、湿った空気が漂っている。

 松明の明かりを頼りに奥へ進むと、鉄格子の檻の中で、複数の男女がまぐわい、裸で絡み合っているのが見えた。しかも、一組だけではない。あちこちの独房で、獣のような行為が行われている。

 その異様な光景に、エイゼンは顔をしかめた。

『……こいつら、何かおかしいぞ。正気じゃない』

 そう皆に告げた直後、奥からドス黒い禍々しい気配が漂い始めた。

『まだいたのか!』

 暗がりから現れたのは、三体の悪魔だ。しかし、あの絶望的だった【悪魔ドミネート】に比べれば、体格も覇気も劣り、取るに足らない存在に見えた。おそらく、下級悪魔レッサーデーモンだろう。

『貴様ら、何者だ? ここで何をしている?』

 グリボールが戦斧を構え、現れた悪魔に尋問する。

『フン……人間風情が、我らに何を言うか! 死ね!』

 悪魔は問答無用でそう言い放ち、襲い掛かってきた。

 瞬時に、アシタガとグリボールが前に出て応戦を開始する。


 悪魔の巨大な斧が風を切って振り下ろされたが、グリボールの剛腕が振るう戦斧がそれをガキンと弾き返し、勢いそのままに下級悪魔の首筋へと、巨大な刃を深々と叩き込んだ。

 先の激戦で刃こぼれだらけになったグリボールの戦斧は、もはや「斬る」というより「粉砕する」凶器と化している。下級悪魔の肉を裂き、骨を砕き、首の骨をへし折ると、悪魔は声を上げる間もなく地面に崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。

 そのあまりにあっけない勝利に、エイゼンは呟いた。

『……思ったより弱いな、こいつら』

 あのドミネートとの死闘を経験した彼らにとって、下級悪魔の動きは止まって見えるほどだった。

 敵に攻撃が通用するとわかると、彼らの動きは俄然軽快になった。

 黒衣の剣士アシタガは、流れるようにロングソードを振るい、もう一体の懐に飛び込んで喉を一突きにし、素早く血祭りに上げた。


 そして、最後の一体には、モニカが杖を向けていた。

『二人とも、下がって! 巻き込まれるわよ!』

 モニカはそう叫ぶと、少し緊張した面持ちで、しかし正確に悪魔の胸元に向けて魔法を放った。

「ファイアーボール!」

 バーーーン!

 着弾と同時に激しい爆炎が上がり、悪魔は四散して消滅した。モニカはほっと安堵の息を漏らす。

『ひょ~、近くで見るとすげえ威力だな、ファイアーボール』

 アシタガが口笛を吹いて称賛すると、モニカは照れくさそうに微笑んだ。

『ありがとう、アシタガさん』


 敵を排除した四人は、さらに奥へと進み、先ほどの檻の中の様子を伺った。

 そこには、若い男女が裸で檻に閉じ込められ、薬か催眠でもかけられているのか、虚ろな目で強制的に交尾させられている、あまりに惨く異様な光景が広がっていた。

『ひでえな……。こいつら、無理やり子供を産ませるために、悪魔に家畜のように飼われてたんだぜ』

 グリボールが憤りを露わにする。

 モニカも思わず目を覆い、悲痛な声で呟いた。

『なんてこと……酷すぎる……』


 しかし、生きていただけでも良かったと言えるかもしれない。彼らは看守部屋から牢の鍵束を探し出し、次々と鉄格子の扉を開けて回った。

 そして。

「お前たち、もう大丈夫だ。ここを出てもいいぞ、悪魔はもういない」

 エイゼンは、怯える囚われ人たちに優しく語りかけた。

 すると、牢屋に入れられていた者たちの目に、次第に生気が戻り始めた。

『……た、助けてくれたのか?』

『本当に? 私たちを助けに来てくれたのね!』

『わ~、助かったぞ!』

『悪夢が終わったんだわ!』

 男女は抱き合い、一斉に歓喜の声を上げた。涙を流して感謝する者もいれば、へたり込んで動けない者もいる。

『お前たち、もう悪魔はいないと思うが、油断はするな。絶対はないからな』

『まずは服を着ろ。そして、この建物から出るんだ』


 こうして、エイゼンアライアンスは島民の生存者たちを地下牢から救出した。

 その五日後、ようやく本土から迎えに来た大型船に乗り、彼らは『ホエッチャ』へと無事に帰還を果たした。

 冒険者の酒場へ戻り、冒険者協会に討伐の報告をすると、その日のうちに、知らせを聞いた執政官バンフォーレン子爵が血相を変えて駆けつけ、約束の多額の懸賞金を持ってきてくれた。

 それを受け取り、生存者たちや遺族への見舞金として分け合うと、彼らは生き残った喜びと、失われた多くの仲間たちへの哀悼を胸に、酒場で夜通し語り明かした。


 酒宴の最中、タンガはエイゼンから熱心にパーティへの勧誘を受けていた。

「タンガ、お前の力が必要だ。一緒に世界を回らないか?」

 何度目かの誘いに、タンガは熟考の末、口を開いた。

「……俺はまだ未熟だ。十分な強さと名声を得たら、必ずロスコフ様の元へ戻る。それを許してくれるなら、あんたたちについていくよ」

 条件付きではあったが、タンガはエイゼンの誘いを受けることを決めたようだ。


 タンガが冒険者たちと共に行くことになり、リバイン村への帰り道は、ロスコフ、ロウ爺さん、そしてレザリアさんの三人となった。

 ロスコフは、共に生死をくぐり抜けた友との別れに大きな喪失感を覚え、胸にぽっかりと風穴が開いたような寂しさを感じた。

 それでも、タンガの決意を尊重し、彼の新たな旅立ちを笑顔で見送った事に、後悔はなかった。


 同じくエイゼンパーティに加わった斧戦士グリボール、パートナーのチェスを失い孤独となった黒衣の剣士アシタガ、そして魔術師ソーサラーモニカ。

 彼らを加えた新たな新生エイゼンパーティは、それぞれの胸に秘めた想いを抱きながら、新たな冒険の地へと旅立っていった。


 こうして、多くの悲劇と奇跡を生んだ、ハイメッシュ島の悪魔討伐という困難な任務は、多くの犠牲を払いながらも、ついに終わりを告げたのである。






最後まで読んで下さりありがとう、また続きを見かけたら宜しくです。  

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