番外編 冒険者タンガ誕生 その7
今回は、本命の悪魔との闘いに入ります。
その19
討伐時の報酬の話が終わると、今度は総督府庁舎へ殴り込むかどうかという話が始まった。
「それじゃあ今度は、総督府庁舎へこのまま乗り込むかどうか、どうする?」
エイゼンはそう問いかけた。
すると、生き残った冒険者のひとり、斧戦士のグリボールが、
「ちょっと待ってくれ。俺たちは先ほどの戦いで消耗しているんだ。休憩させてくれぬか」
休息を求めている。
その意見には、ほとんどの者が賛成したのだが、ロウ爺さんが、
「ダメじゃ。今すぐに乗り込んだ方が、勝てる確率は高い、遅くなるほど困難になる。」
そう反対した。皆、驚きの表情でロウ爺さんに注目した。
「ロウさん、どうしてそう思うんですか?」
ロスコフは、さらに詳しく尋ねた。
「ロスコフ様も皆も聞いてくれ。先ほどの悪魔と戦った者なら、あやつらの強さは分かったじゃろう。しかし、あれほどの悪魔でも、今回の目的となっておる悪魔ドミネートとは別の悪魔じゃった」
「別の悪魔…」
「そうじゃ。初っ端に出てきた悪魔はイオシスと名乗っておった。覚えておるか?そして、我らと言ったのじゃ」
「私も覚えてる。確かにそう名乗り、そう言ったわ」
レザリアさんも覚えていると言っている。もちろん、ロスコフも覚えていた。
エイゼンも覚えていると口を出す。
「ああ、それは俺も覚えている。確かにそう言った。それで、ロウさん、だから?」
「先に登場した悪魔でさえ、あれほどの強さなのじゃ。ほぼ間違いなく、
悪魔はそれよりも強いじゃろう。
それに、"我ら"というのが二体の悪魔を指すのか、三体なのかは分からぬが、
確実に言えることは、先ほどのイオシスという悪魔は、
レザリアが放ったユピテルの雷撃で相当弱っているということじゃ」
ここまでロウ爺さんの言うことを聞いていたエイゼンも、ようやく理解できたようだ。
「分かった。悪魔は今弱っていて、もし二体もしくは三体同時に戦えば、相当不利な戦いをしなくてはならない。ここで時間をかけると回復されてしまい、ほぼ勝てなくなる。そう言いたいんですね、ロウさんは」
エイゼンの説明に、皆もなぜロウ爺さんがすぐに行動すべきと言ったのか、理解し始める。
「エイゼン、その通りじゃ。今の我らに、複数の悪魔と同時に戦って勝つ余力は、到底ないじゃろう。好機は今しかない。どうするのじゃ?万全を期して回復を待つか、それとも好機を逃さず今すぐ挑むか?」
ロウ爺さんは、そう選択を突きつけた。
すると、ここで初めてタンガが口を開く。
「今しかないなら、考える必要なんてねぇだろ。何してるんだ、さっさと行こうぜ」
そう声を上げたのだ。すると、ロウ爺さんはにっこりと笑顔を見せ、
タンガに親指を立ててみせたのだ。GJ
すると皆、タンガに続いて進みはじめる。
一方、冒険者たちを見かけたものの、あえてやり過ごし襲撃を控えた悪魔サルコヴィッチは、静かに様子を窺っていた。
タンガ率いる18名の冒険者たちは、ハイメッシュ島の総督府庁舎前に到着。
「ここが勝負所だぜ!必ず勝って賞金をいただき、贅沢しようぜ!」
エイゼンの掛け声に、皆の闘志も幾分高まり、その勢いを借りて、
恐るべき悪魔が居ると言う、庁舎の扉を開け、中へと足を踏み入れる。
何人かの冒険者たちは緊張した面持ちで庁舎内へと足を踏み入れ、慎重に奥へと進んだ。彼らの目に飛び込んできたのは、惨劇の痕跡だった。血痕と肉片が至る所に散乱し、異様な光景を作り出していた。しかし、奇妙なことに、死体は一つも見当たらない。一体何が起こったのか。想像するだけでも背筋が凍りつく思いがした。
「またアンデッド兵士が出てくるかも。」
パトリックが小声でそう言うと、さらに緊張感が広がった。
そして、彼らは次の大きな扉を開けた。
すると、中央奥にある総督の椅子に、まるで王のようにふてぶてしく座っている者がいる。
皆の視線は、その悪魔に釘付けになり、一瞬たりとも目が離せない。しかし、周囲には他の敵の気配はなく、その悪魔だけが悠然と椅子に腰かけている。悪魔は、まるで獲物を値踏みするかのように、一度だけゆっくりと室内を見回すと、やがて視線を定め、口を開いた。
「よく来た」
悪魔は、彼らにも理解できる言葉でそう言葉を発した。すると、エイゼンが尋ねた。
「お前が悪魔ドミネートか?」
その問いに、悪魔は答えた。
「そうだ。俺が悪魔」
「お前に『公』が懸賞金をかけた。俺たちは、その懸賞金をいただくため、お前を殺す」
エイゼンがそう宣言すると、悪魔(s\ドミネート)、
「ククク…いいだろう。いつでも来い好きにしろ。」
と、圧倒的上位者としての微笑を見せ。 何時でも好きにしろと余裕を見せる。
それい怒ったのかどうかは分からないが、タンガが。
「お前を殺して、賞金をいただいてやるぜ!
そう言い放つと、皆、武器を構え直し、戦闘態勢に入った。後衛の者たちは、前衛職の者たちにバフをかけ始める。
僧侶のパトリックは、神に祈りを捧げ始めた。
『プロテクティオ カエレスティス』天の守護
エイゼンに天の守護がかけられ、続いて前衛職のメンバーたちにも
順次同様の加護を施していく。
レザリアは、まずはロスコフに掛ける。
"sigil"
【レプルシオ マジカII】
を付与し、次に自身、タンガへと順に魔法をかけ、防御態勢を固めていく。
そしてロウ爺さんは、
【ムニメン トトゥムII】全体的な防御
アライアンスのメンバー全員に、物理防御力を高めるプロテクションIIを瞬時に付与した。18名全員に同時に魔法をかけたのだ。
皆、自分にプロテクションIIがかけられたことに驚いていた。アライアンス全体に一度に魔法をかけてしまう魔術師など、今まで出会ったことがなかったからだ。
「わぉ」
「これは凄い」
「流石です、【防御者さん」
皆の士気も高まっていく。
しかし、そんな準備を整えている間、全く動くことなくその様子を眺めているだけの
悪魔は。
「さて、そろそろ準備はできたか?」
まるで彼らを待っていたかのように、余裕を見せ。
「バフを掛け終わるのを待ってたのか!」 チェスは悪魔の考えが分からないようだ。
「くっ、あいつ我々を舐めてやがる」 アシタガが呟く
エイゼンは、そんな悪魔ドミネートに向かって言った。
「随分と余裕じゃねぇか、悪魔さんよぉ。ハイメッシュ島の島民は、
全て殺し尽くしやがったのか?」
「準備は済んだのか、お前たち?俺を倒せば、その答えはわかるだろう。
口で語らず、さっさと掛かってこい」
「わかったそうしよう」
それが戦闘開始の合図となった。
エイゼンは、先制攻撃を仕掛けようと、高速で動き、【悪魔の首筋に短剣を突き刺そうと後ろへ回り込む。
まだ玉座に座っていたため、誰もがこの攻撃は避けられないと思っていた。
ガキン!
「ぐっ、何だと!」
首筋まであと一ミリというところで、短剣の刃先は何か硬いものに阻まれ、全く刺さらない。それどころか、短剣はまるで吸い付いたように動かなくなってしまった。
「くっ、動かん!」
必死に短剣を引こうとするが、まるで石のように動かない。どうすることもできず、
エイゼンは焦燥感を募らせる。しかし、そんな猶予は与えられなかった。
悪魔、がついに動き出したのだ。
グニャ、悪魔はエイゼンの腕を掴むと、瞬時に握り潰してしまったのだ。
「ぐぎゃあああ!」
短剣を握っていた右腕が千切れ、後方に引っ張られていたエイゼンの体は、そのまま後ろへと倒れ込む。
その瞬間、ナイトブレイドのガイアと僧侶のパトリックが、素早くサポートに駆けつける。
ガイアは倒れかけたエイゼンを受け止め、後方へと素早く引きずり退避させた。エイゼンの右腕からは、夥しい量の血が噴き出している。パトリックは、懸命に上級回復魔法の詠唱を開始した。
神への祈りを捧げます。
『サンティオ プロヴェクタ』進歩した癒し
パトリックの上級回復魔法『サンティオ プロヴェクタ』が、ガイアに引きずられ後方へと退避するエイゼンの千切れた腕を癒し始めると、瞬く間に再生が始まり、千切れた腕の先が元通りになっていく。
「くう、すまねぇ、二人とも」
「生きててよかった」
エイゼンたちは、開始早々、思わぬ手痛い一撃を受けた。
しかし、大盾戦士のチェス、盾とロングソードで戦う黒衣の戦士アシタガ、戦斧を振るう戦士グリボールの三人が、ようやく立ち上がった【悪魔を包囲するように取り囲み、攻撃を開始。
斬撃が、【悪魔に何度も叩きつけられると、ドミネートも反撃を開始した。それは、ただのパンチだったが、アシタガが盾で受け止めると、
ドスン!
ヒュ~~~~~~~~~ン…ドスン!
そのパンチがアシタガの盾に受け止められた瞬間、アシタガの体は宙に浮き、
凄まじい勢いで後方へと吹き飛ばされてしまった!
「ぬおっ!」
アシタガは、建物の壁まで吹き飛ばされ、激しく叩きつけられた衝撃で、地面に倒れ伏した。しかし、彼はゆっくりと体を起こし、周囲に無事を知らせるため、右手を力強く掲げた。
「大丈夫だ」
アシタガが吹き飛ばされると同時に、すぐにカバーが入る。
代わりに前衛を務めたのは、エイゼンPTのナイトブレイド、ガイアだった。
その間、魔法職も攻撃魔法の詠唱を始めていた。
最初に放たれたのは、魔術師モニカの【ラディウス マギクスII】魔法の光線だった。
魔法の光線が発射され、【悪魔】に直撃したかに見えた。
しかし、その光線はまるで鏡に反射したかのように屈折し、軌道を変え、
前衛で戦っていた大盾戦士チェスの肩に直撃してしまう。
「ぐわぁぁ!」
チェスの肩付近を見ると、鎧が抉り取られ、握りこぶし大ほどの丸い穴が開いていた。チェスはその場に倒れ伏してしまったのだ。
「キャア~~~~~!」
それを見てしまったモニカは、自分の魔法で仲間を傷つけてしまったと思い、
ショックで頭が真っ白になり、その場に座り込んでしまった。
それを認識したパトリックは、先ほどまでエイゼンの治療をしていたが、
今度はチェスに向けて神への祈りを開始し、
上級回復呪文『サンティオ プロヴェクタ』進歩した癒しを唱える。
詠唱が終わり、『サンティオ プロヴェクタ』の効果でチェスの傷が回復を始めると、じゅぅ~~~と白い蒸気が立ち上り、傷が塞がっていく。
チェスが倒れた事で、前衛が手薄になった戦線へ、慌てて冒険者のひとりが駆けつけ、倒れているチェスを後方へと引きずり、パトリックの元へと運び込む。
その間、ガイアはショートソード二刀流を駆使し、巧みな剣技でドミネートに斬りかかっていた。しかし、そのほとんどが硬い腕に阻まれ、有効なダメージを与えられずにいる。
もちろん、グリボールも戦斧を振りかぶり、渾身の一撃をドミネートの肩に叩き込んだ。
だが、その強靭な筋肉と、その上に張られた防御膜を打ち破ることはできず、攻撃は完全にブロックされてしまっていたのだ。
「くそっ、ダメージが通らねぇ。なんて硬さだ」
グリボールは、愛用の鋼の戦斧の刃先が砕けているのを視認した。
その時、ガイアの頭が砕け散った。悪魔ドミネートの一撃が、ガイアの頭蓋を粉砕し、
脳漿と骨片が飛び散ったのだ。主を失った肉体は、まるで糸の切れた人形のように、
ドサリと地面に崩れ落ちた。その惨状を目の当たりにしたエイゼンは。
「ガイアァァァ!てめぇ、よくもガイアを!」
まだ回復しきっていない体を引きずり、悪魔ドミネートに向かって突進。
ロウ爺さんに止められ、前線に加われずにいたタンガだったが、
目の前で繰り広げられる悲惨な光景に、地団駄を踏んで悔しさを露わにしていた。
しかし、ついに我慢の限界を超え、タンガは咆哮とともに前線へと飛び出す。
強い思いが十分にわかるロウ爺さんは、飛び出したタンガを制止する事無く
ただ一言、強く言い放つ。
「タンガ、死ぬでないぞ」
タンガは、その言葉に力強く頷き、迷うことなく前線へと駆け出した。
沸き上がる闘志を抑えきれないタンガは、前線に到着するや否や、
怒涛の如く攻撃を開始。
タンガは、渾身の力を込めてトンガを振りかぶり、
【悪魔】の正面から突撃した。
「うぉぉぉ、これでも食らいやがれぇ!」
勢いよく突進し、ロウ爺さんの忠告も聞かずに、再び最大の大振り攻撃を繰り出した。
その様子を見ていたロウ爺さんは、何を思ったのか、数日間弟子のように接してきたタンガに、他の者とは異なる特別な魔法をかける。
物理防御に関しては、先ほど全体にかけた『ムニメン トトゥムII』よりも強固で持続時間の長い『プロテクターIII』を付与し、僅かでもタンガの生存率を高めようとしたのだ。
タンガは、レザリアがかけた攻撃魔法を弾く魔法障壁『レプルシオ マジカII』と、ロウ爺さんから与えられた物理防御魔法『プロテクターIII』を纏い、鉄壁の守りを誇る前衛として戦うことになる。
勢いよく飛び出し、その勢いのまま、タンガはトンガを振り下ろして、
悪魔ドミネートに真正面から攻撃を仕掛けた。
これに対し、悪魔ドミネートは怒るどころか、ようやく見応えのある者が現れたかと、
口角を上げたのだ。
その攻撃を容易く片手で受け止めると、
「ククク、やっと面白い奴が加わったようだな」
そう言い放ち、トンガを掴んでいた手を離した。
「そうだ、正面から来い。俺を倒してみせろ」
カモン!
そう言って、タンガを挑発。
タンガも、その挑発に応じ、再び真正面から突進する。
「ぬぉぉぉぉ、舐めるな!」
その間にも、前衛の二人はただ傍観していたわけではない。
戦斧を振るい攻撃を叩き込むグリボール。
三者による同時攻撃が開始されたのだ!
悪魔ドミネートは、三人の攻撃を腕や足で見事に防ぎながら、武闘家のような動きでグリボールとエイゼンの足を払い、二人を転倒させると。タンガには強烈な前蹴りを食らわせ、吹き飛ばす。三人掛かりでも、悪魔ドミネートに全くダメージを与えることができず、逆に一方的に
振り払われてしまった。
「ぬぅぅ、全く相手になっておらぬか」
ロウ爺さんの言う通り、今のところ、全く歯が立っていなかった。
そんな戦いが繰り広げられている間、外で様子を伺っていた悪魔は、内心焦っていた。「ダメだ、あいつらでは【悪魔】の相手にもならん。このままでは、この私も奴の餌食になってしまう…どうすれば…」
悪魔は、悪魔に相当なダメージを与えた冒険者たちに襲い掛かるのを躊躇している間に、事態が急変してしまったことを後悔していた。今、何も行動を起こさなかった自分が、後でどのような仕打ちを受けるのか、それが心配でならない。
もちろん、サルコヴィッチが【悪魔】に喰われる確率が一番高く、良くても力を奪われ、下級悪魔レッサーデーモンに落とされ、こき使われる未来が待っている。そのため、冒険者たちが少しでも【悪魔】にダメージを与え、消耗したところで、悪魔イオシスの時のように、漁夫の利を得ようとしていたのだ。
しかし、やはりそう上手くはいかないようだと悟り、少しでも早く決断して、逃げるべきかどうか迷っていたのだ。
その時、突如として現れた美しい少女が、背後からサルコヴィッチに声をかけた。
「お前は戦わぬのか、サルコヴィッチ」
少女は、息を呑むほどに美しい容姿をしていたが、その瞳は氷のように冷たく、サルコヴィッチを睨みつけていた。
突然背後から声をかけられた悪魔は、
「な、何者だ?」
と、動揺を隠せない。
「愚か者め」
少女は、冷たく言い放つ。
「ま、まさか…そんな、あなたは…」
少女の正体に気づいた悪魔は、逃げ出そうとした。
しかし、目の前にいる少女は、逃がすような甘い相手ではなかったのだ。
飛び立って逃げようとするサルコヴィッチに対し、
少女は秘密の印章を発動。
【ヤッド ハ・サタン ハ・ハザカ】魔王の強大な手
飛び立ったばかりの悪魔サルコヴィッチの真上から、巨大な魔王の手が現れたのだ、
巨大な手とは思えぬ速さで彼を掴み取る。そして、何も言わせずに、
一切の動きを封じてしまうと、まるで小さな蝙蝠を握り潰すかのように、
サルコヴィッチを握り潰してしまった。
握りつぶされたサルコヴィッチは塵となり、消えた。
フワッと浮かぶ魂エネルギー。
悪魔サルコヴィッチの中から出て来た魂エネルギーは、
少女に吸い取られ、消えるたのだ。
ぺろりと舌を出し、少女は呟いた。
「上級悪魔のなり損ないといったところね」
そう言い残し、少女は姿を消したのだ。
最後まで読んで下さりありがとう、また続きを見かけたら読んでみて下さい。




