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番外編 冒険者タンガ誕生 その6

今回は、悪魔(イオシス)とゾンビたちとの闘いに生き残った者達で悪魔(ドミネート)を討伐する事を

話し合う事が主となってます。  

     その18


悪魔との戦いは、まだ終わっていない。逃げ去った悪魔の残滓が、今も生き残った

冒険者に襲い掛かっている。


悪魔イオシスがその場から逃走した後も、完全に倒しきれていなかったため、術の効果が残っていたのだ。そのため、アンデッドはまだ何処からともなく姿を現し、生存している冒険者たちを襲い続けている、生き残りの冒険者たちは、協力して、アンデッドの掃討に当たっていたのだ。


エイゼンたちは、チェスとアシタガとも合流し、共に戦っていた。彼らは、遠くで何度も轟く咆哮と振動、そして【悪魔(デビルズ)(オーラ)】が発生していることに気づいていた。しかし、次々と現れるアンデッド化した島民に道を塞がれ、なかなか酒場方面に戻ることができなかったのだ。


結果的に、この状況が彼らの命を救うことになるとは、誰も知らずにいる。彼らは、ただ運が良かっただけなのだ。


ようやく、襲い掛かってくるアンデッド化した島民の始末がついた頃、逃げ出した悪魔イオシスは、深い傷を負い、人間界で蓄えた力のほとんど失い、衰弱していた。


そんな悪魔イオシスが逃げ込んだのは、ハイメッシュ島の総督府庁舎だった。

そこは、【悪魔ドミネート】が支配する空間となっている。


イオシスは、ドミネートの配下として傍若無人に振る舞っていた悪魔であり、今回も自由に冒険者を狩るつもりだったが、目的を果たすことはできなかった。


消滅寸前のイオシスは、黒い霧と化して次元間移動を行い、辛うじて逃げ延びた。


「危なかった…人間風情が、まさか秘密(ホタム)印章(ソーディ)を使うとは…」


なんとか体勢を立て直したものの、生命力のほとんどを失ったイオシスは、エネルギー回復が思うようにいかない、そんなイオシスの前に、彼の帰還に気づいた部下の悪魔が現れ、話しかけてきた。


「どうしました、悪魔(イオシス)。何かあったのですか?」


「悪魔サルコヴィッチか。別に大したことではない。あちらへ行け」


「情報は共有する契約でしょう」


「また冒険者が来ただけだ」


「それで、なぜここへ戻られたのですか?」


「疲れたのだ」


そんな会話をしていると、突然、悪魔(サルコヴィッチ)はイオシスの目の前までテレポートして現れた。


「ククククク、ずいぶんと弱っておられるようですね」


「うるさい。お前には関係ない。早く下がれ」


「心配しなくても、冒険者は私が頂いて差し上げますよ」


「なに!」


イオシスは、元気な冒険者たちをサルコヴィッチに奪われると思い、


「お前は大人しくしていろ。そして下がっておれ」


そう命じる。


すると、悪魔笑いを浮かべたサルコヴィッチが行動に出た。


「まずい!」


消耗しきったイオシスが強がっているのを見て、サルコヴィッチは今がイオシスを食らう絶好の機会だと判断したのだ。


だが、もう遅かった。


サルコヴィッチが大きく口を開けると、イオシスの生命エネルギーを吸い込み始めた。


イオシスは、


「貴様、何をする!」


そう叫ぶが、サルコヴィッチは何も答えず、


スゥゥゥゥゥゥ…


と、吸い込み続ける。イオシスの体から魂エネルギーが強引に引き出され、


サルコヴィッチ口の中に、イオシスから引き出した


魂エネルギーがどんどん飲み込まれていく。



「わかった!冒険者たちはすべてお前に譲る、だからやめてくれ!」


「馬鹿め、こんな好機を目の前にして逃がすと思っているのか」


ジュワアアア…、

さらに強力な吸引力でイオシスの魂エネルギーが吸い込まれていくと、

イオシスの体はみるみるうちに干からびていく。


そして数秒後、完全に干からびたイオシスの姿が露わになると、

灰と化し風に吹き飛ばされてしまう。


逆に、イオシスを喰らったサルコヴィッチは、

ルビーのように赤く光る瞳を輝かせ、さらなる高位の悪魔へと進化を遂げた。


「ククククク、これで私もようやく上位悪魔(グレーターデーモン)だ」


悪魔の世界に敗北は許されない。弱みを見せた瞬間、部下であった悪魔の餌食となる。そこは、強烈な弱肉強食の世界なのだ。



その出来事が終わった直後、重々しい瘴気が空間を震わせるかのように、その場に現れた者がいた。


ゴゴゴゴゴゴゴ…、ゴゴゴゴゴゴゴ…、ゴゴゴゴゴゴゴ…


ただそこにいるだけで、圧倒的な瘴気を放つ存在。それは、先ほど上官を喰らい、

上位悪魔(グレーターデーモン)へと進化したばかりのサルコヴィッチでさえ、即座に身を低くし、敵意がないことを示し、服従の姿勢を取らせるほどの存在だった。


「これは、悪魔(ドミネート)様。いかがなさいましたか」


「サルコヴィッチ、ずいぶんと良い思いをしたようだな」


ドミネートにそう問われ、サルコヴィッチは即答する。


「はい、我が主人は悪魔の誇りを汚しました。人間ごときに敗北し、逃げ帰ってきたのです」


「ほぉ、誇りか。それで、お前は今、何をしている」


サルコヴィッチは、平伏しながら、喰われるのではないかという恐怖に震えていた。ようやく上位悪魔グレーターデーモンになれたというのに、この状況はあまりにも危険だと、ただ平伏することしかできなかった。


「はい、悪魔(イオシス)を喰らい、進化いたしました」


「ふむ、それで進化して何をしている」


ドミネートの言葉でようやく状況を理解したサルコヴィッチは、慌てて答えた。


「すぐに人間どもを始末してまいります」


そう言い残し、サルコヴィッチは姿を消し、人間たちのいる場所へと向かった。


残されたドミネートは、冷たい視線を落とした。


「くだらん。どいつも使えん奴ばかりだ」


悪魔(ドミネート)に尻を叩かれ、悪魔(イオシス)に深手を負わせた人間たちの処分を強制されたサルコヴィッチは、進化した上位悪魔(グレーターデーモン)としての力に満足していた。しかし、相手はフル形態へと変化したイオシスを追い詰めた実力者たちであることを知っていたため、すぐに攻撃を仕掛けることを躊躇している。


ようやく上位悪魔(グレーターデーモン)になれたというのに、あっという間に塵と化してはたまらない。サルコヴィッチはそう考え、しばらく様子を見ることにした。


その頃、激しい戦いを生き延びた冒険者たちは、タンガたちの元へと集まっていた。もちろん、エイゼンたちの姿もあった。


「タンガ、あんな強烈な【悪魔(デビルズ)(オーラ)】を受けて、よく無事だったな」


「ああ、ロウ爺のおかげさ。魔法障壁やプロテクトの魔法を作って、守ってくれたんでな」


タンガがそう言うと、ロウ爺さんが口を挟んだ。


「おい、タンガ。それだけではないじゃろう。お前さんが身に着けているミスリル製の鎖帷子や、お前さん自身が持つ気のおかげであの瘴気から身を守ることができたのじゃ。

その部分は、もっと誇っても良いじゃろう」


ロウ爺は的確に指摘した。それを聞いていたエイゼンたちも、


「いや、あんた達が来てくれて本当に助かったぜ。俺達だけでは、あの悪魔には勝てなかっただろう。それを俺達がアンデッドに構っている間に、倒しちまったんだからな」


エイゼンの言葉に、レザリアが反応した。


「いえ、倒せてはいないわ。逃げただけよ」


そう付け加える。


「まあ、いずれにせよ追い払ってくれたことには違いない」


「そうじゃ、レザリア。先程のユピテルの雷は、見事じゃったぞ」


「ありがとうございます、ロウ様。ですが、うちの師匠から言わせれば、まだまだ尻の青いガキだと言われております」


「はっはっは、そうか。エクレアからは尻の青いガキと言われておったか。

誰かおらんのか、大人にしてくれる良い男は。」


皆の前で18歳の女性にそんなことを言ったのだが、レザリアは聞こえないふりをして後ろを向いてしまった。


しかし、周囲の男たちは股間を膨らませ、レザリアを見始めたのだ。



ロスコフは、その場の雰囲気にわずかに苛立ちを覚え、レザリアに近づくと、

ロウ爺さんに向かってはっきりと指摘した。


「ロウさん、レディに失礼ですよ」


普段とは違うロスコフの語気に、ロウ爺さんも事の重大さに気づき、

慌ててレザリアに謝罪する。


「すまん、レザリア。まあ、あれじゃ、あのシギルは良かったと言うことじゃ」


よくわからない褒め言葉で、その場をなんとか取り繕った。


そんな騒ぎの中、生き残った者たちの数を確認すると…。



エイゼンが集めたアライアンスは全員無事。


他のパーティーの生存者は全部で8名おり、うち2名は重傷を負い、

ドルイドと思われる女性が治療を施していた。


その治療にパトリックも加わり、神への祈りを捧げ、上級治療魔法の詠唱を始めている。


神への祈り 『サンティオ プロヴェクタ』 進歩した癒し


詠唱が終わると、重傷を負っていた冒険者のひとりが青白い光に包まれ、傷口が一気に塞がり始めた。傷は完全に治癒したが、その冒険者はまだ意識を取り戻してはいない。


もうひとり、同じように重傷を負った冒険者もおり、付き添っていたドルイドは高度な祈祷と魔法を唱え始めていた。


祈祷 『レメディウム ポテンス』 強力な治療薬


木々の新芽のような鮮やかな黄緑色の光が、重傷を負った冒険者の体を包み込んだ。すると、見る見るうちに体の傷が塞がっていき、さらに森に住む精霊の癒しと活力が降り注ぎ、衰弱していた生命力が回復していくのが見ている者たちにも伝わって来た。


「こいつは素晴らしい」


「あんた、ドルイドか?それもかなりの腕だな。Aランクのドルイドなのか?」


「シャーマンよ。私の名はファミリア。Aランク冒険者アバロンチームのメンバーなの」


「するってぇと、あんたは昨日この島に来たメンバーの生き残りなのか?」


エイゼンがそう尋ねると、ファミリアは悲しげに頷いた。


その返事から大体のことは理解できたが、エイゼンはさらに詳しい情報を求めて。



「「悲しんでる所すまねぇが、こっちも命が掛かってるんで勘弁なんだがどうか頼む教えてくれ、昨日先にこの島に到着した冒険者たちは一体どうなったんだ?」


エイゼンの問いに、ファミリアも今がどれほど危険な状況か理解していたため、


「わかったわ。何を知りたいの?」


と答えた。エイゼンは頷き、


「Aランクパーティーを集めていた奴らが、なぜアンデッドにされてしまったんだ?」


そう尋ねる。


「私たちは昨日、この島に到着しました。船着き場周辺は至って平和で、島の人々も普通に生活していました。宿屋の主人も普通の人間だったので、私たちは安心して荷物を部屋に置き、まず酒場へと向かいました。酒を飲みながら、酒場のマスターから島の情報を集めていたんです。周囲には常に警戒を怠らなかったものの、最初は特に問題は見当たりませんでした。


しかし、突然アンデッドが店内に現れたんです。


私たちは慌てて武器を取り、応戦しました。外に出て戦う者、店内で戦う者に分かれて戦っていたのですが、その時、奴が現れたんです」


「そいつとは?」


「決まってるでしょう。今回のターゲット、【悪魔ドミネート】よ」


「あんた、【悪魔(ドミネート)】を見たのか」


「ええ、見たわ。あれは…まさに悪魔そのものだった。恐ろしさで全身の震えが止まらなくなり、私は咄嗟にオオカミへと姿を変え、物陰に隠れたの」


「戦わず、隠れたのか?」


そんな突っ込みを入れると、ファミリアは震えながら説明し始めた。


「もしあの場に居たなら、あなたも同じように物陰に隠れたでしょうね。だって、あいつから噴き出ていた【悪魔(デビルズ)(オーラ)】は、人間が耐えられるレベルを遥かに超えていたのよ。私ではとても耐えられないレベルのものだった。とてもじゃないけど、人が太刀打ちできる相手ではなかったわ」


ファミリアは、心底震えていた。Aランク冒険者をここまで震え上がらせるとは、一体どんな悪魔なのだろうか。エイゼンは、背後にいた仲間のガイアとパトリックの顔を見てから、ロウ爺さんの方を振り返った。


「ロウさん、どう思う?」


エイゼンは、熟練の経験を持つロウ爺さんにそう尋ねた。するとロウ爺さんは、


「今さら何を迷っておるのじゃ?お前さんたちは、はじめから悪魔と戦うことを望んでここに来たんじゃろう。この嬢ちゃんが仲間をあのようにされて怖がっておることはわかる。だがじゃ、お主ら話だけ聞いて、迎えの便が来るまで隠れておるつもりなのか?」


と、燃えるような口調で説教を始めた。周囲の者たちは、



「俺はやるぜ。ここまで来てビビッて帰るなんて、冒険者辞めるレベルの恥になっちまうよ」


エイゼンがそう語ると、他の者たちも、


「そうだな、ここで引き下がれるかよ」


ガイアも賛成する。


「ああ、俺たちもやるぜ」


チェスとアシタガの二人も、賛成に回った。


すると、先ほどまで消極的だった者たちも賛成に回り、結局反対する者は一人もいなくなり、悪魔ドミネート討伐は続行することとなった。


「ところで、現在18名なんだが、無事、悪魔ドミネート討伐がなされた時の分け前なんだが、どう分け合うか、決めておかないとならない」


エイゼンがそう切り出した。


しかし、今は誰も金貨のことを話そうとはせず、声が全く挙がらなかった。しばらく待ったが、やはり誰も声を出さないので、ロウ爺さんが話し始めた。


「皆良いか」


ロウ爺さんがそう言い、皆の視線を集める。


するとエイゼンが、


「ロウさん、どうぞ」


「うむ。今は、金の事より、如何に生き残るかの方が大事じゃ。しかしじゃな、無事に討伐が完了してホエッチャに戻れた時には、やはりご褒美は欲しくなるのが人間じゃろう。そこでじゃ、まず金は均等に分け合い、皆は6%をリーダーのエイゼンに渡す。それでどうじゃ?」


ロウ爺さんの案に、皆は賛成し始めたのだが、エイゼンが、


「ちょっと待ってくれ、ロウさん」


「何じゃ、不服か?」


「ああ。ここに残ってる10名は、元から俺が集めたアライアンスがほとんどだ。他の者のPTはほぼ崩壊していて、一人二人ではここを脱出するまで生き残れねぇって奴ばかりだ。もう船は出ちまってて、次やって来るのは早くても3日、遅ければ5日になる。その間ここで生き残るには、俺達と行動を共にするのが一番確率は高いだろう。報酬はその生き残る確率が高いってだけで十分の筈だ」


エイゼンはこう言ってきたのだが、ロウ爺さんは、


「ふむ。お前さんの意見は最もな話なんじゃが、抜けてる箇所がいくつかある」


「抜けてる箇所?」


「そうじゃ。まず、人は報酬がなければ真の実力は出さん。ギリギリ追い込まれた時、真価が表れるじゃろう。それに、元から報酬がある者とない者に分かれていては、団結力も衰える。そういうことじゃ。なぜこの事にこだわるかと言うとじゃな、この戦いは皆、命を捨てる覚悟で臨まんと生き残れんほど、ギリギリの戦いを予想しておる。団結力が勝利への鍵じゃ」


「でもそれは違う。一緒にいる方が生き残る確率が上がるのだから、皆命がけで戦うのでは?」


「いや、人は皆、同じ条件の時は同じように頑張ろうとするが、ハッキリとした差がある状態では、同じだけ頑張ろうとはしなくなる。お前さんが逆の立場ならどうじゃ?」


ロウ爺さんに痛いところを突かれ、エイゼンは黙ってしまった。


「分かった。俺はロウさんの意見に反対はしないが、最初のアライアンスに入った者たちはどうだ?条件が変わっちまったが、ロウさんの意見に反対する者はいるか?」


エイゼンは、チェスやアシタガ、ガイア、パトリック、タンガ、モニカ、レザリアの顔を見た。


「おれは構わねぇ」タンガがそう言うと、皆も頷いた。


全員一致したので、


「良し、ではロウさんの意見でやろう」


討伐時の報酬の話が終わると、今度は総督府庁舎へ殴り込むかどうかという話が始まった。






最後まで読んでくれありがとう、また見かけたら宜しくです。 

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