番外編 冒険者タンガ誕生 その3
今回はタンガの装備を整える所です。
その15
「と言う訳で、明日出発の便で、ハイメッシュ島へ向かおうと思う。既に今日出発したアライアンスもいたが、相手は悪魔だ。後から行っても十分にチャンスはあると考えている。それに、ツキに恵まれれば先に行った奴らがそこそこ敵を倒し弱らせてくれてる可能性もあるだろうからな」
エイゼンは、そう言ってニヤリと笑った。
「うむ、漁夫の利を得ようと言うのじゃな?」
ロウ爺さんが、穏やかな口調で尋ねた。
「くくく、それもある、しかし今はタンガだ。そいつの服装、
まさかそのままの恰好で行く気じゃないよな?」
エイゼンは、タンガの服装を指摘してきた。それもその筈、タンガはいつもと同じ、動きやすさ重視の質素な服を着ていたのだ。
「もちろん、装備は揃えよう」
ロウ爺さんの一言で、この話は終わり。
「お前さんの言う通り、相手は悪魔じゃ。例えAランク冒険者PTだろうと、そう簡単に倒せる相手ではない。最悪の場合は、別の悪魔を呼ぶって事も想定して事を起こさにゃ成らん」
ロウ爺さんは、神妙な面持ちで言った。
「そうだ。悪魔の場合、体勢が悪くなると別の悪魔を召喚しやがる者もいると聞く。だから真っ先に挑む危険は回避した方が良いと判断したんだ」
エイゼンも、ロウ爺さんの意見に同意した。
「で、今の人数だと、まだ10名には届いて無いんだけど」
タンガが、素朴な疑問を口にした。
「後3名ですね」
僧侶のパトリック・モーリーが、静かに付け加えた。その時、一人の女性が近づいてきた。
「あのぉ、あなた達の会話を聞かせ頂いたんですが、私も悪魔討伐に興味がありまして、良かったらあなた達のアライアンスに参加させて頂けないでしょうか?」そう声を掛けてきたのは、ロウ爺さんがここで何が起こったのか話しかけた折に、教えてくれた魔術師のお姉さんだ。しかし、いつものようにすぐに忘れてしまったロウ爺さんとは対照的に、ロスコフはしっかりと覚えていた。
「えっと、お姉さんは魔術師ですよね?」
タンガがそう尋ねると、モニカはにこやかに答えた。
「はい。私は冒険者ランクBBBの魔術師で、名はモニカ・サンタフェスタと申します」
「おっ、BBBの魔術師なのか。そりゃあいいねぇ。滅多にいねぇ人材だ。是非一緒にやろうぜ」
エイゼンは速攻で許可を与え、他の者たちに異論がないか見回した。
その瞬間、パトリックを除く一同の顔に、驚きと安堵の表情が浮かんだ。BBBランクの魔術師は、ノース大陸でも指折りの実力者であり、その圧倒的な火力が悪魔討伐の成功率を大きく引き上げることは明白だったからだ。モニカの存在は、単なる人数合わせではない、強力な戦力強化を意味していた。
「あの、エイゼン。一つ良いかな?」
「どうした、パトリック」
「うん。今いるメンバーってさぁ、魔術師や僧侶、秘術師と、後衛がやたら多いんだよね。そして、エイゼンはマスターシーフだし、ガイアはナイトブレイドなんだよね。皆、アタッカーばかりだよ。盾の役目は一体誰がすることになるのかな?悪魔の攻撃を受けるなんて誰にでもできるもんじゃないよ。もし盾がいなければ、せっかくの高火力な魔術師たちも、悪魔の一撃で一瞬で殲滅されかねない。そんな状況で、悪魔が体勢を崩して別の悪魔を召喚でもしたら、もう手の施しようがなくなってしまう。」
パトリックの懸念に、エイゼンは少し考え込んだ。
「うむ。それは俺も考えてた。でも魔術師の攻撃力で一気に殲滅って手もある。できるだけ高火力を期待してBBBの魔術師は押さえておきたかったんだ。いざ必要だと思った後では遅いんだしな。魔術師自体少ないのに、モニカはBBBの魔術師と言ってるんだ」
「わかったよ。でも残りのメンバーはもう盾役ができる人材に入ってもらおうよ」
「そうだな。パトリックの言う通り盾を探そう」
そんなこんなで、とりあえずロスコフたちは、明日出発するための準備のため、
この場を解散とした。
話が終わり飲み物も飲み終えた事からロスコフたちはタンガの装備を整える為
街の上方にある中心街へと向かうため冒険者の酒場から外へ出ようと扉に向かう。
酒場の扉を押し開け、外へと踏み出した瞬間、彼らは思わず顔をしかめた。潮の香りと共に、鼻をつんと刺激する魚の匂い、そして何よりも、けたたましい海鳥たちの鳴き声が耳をつんざいた。
そこには、港町ホエッチャの活気溢れる光景が広がっていた。白い壁の建物が立ち並ぶ向こう側の海には先ほど近くで見て知っている、堂々とした大型船が停泊しているのが見える。
しかし、その美しい景観を台無しにするかのように、やって来た時にはこれほど多くはなかった無数の海鳥たちで空が埋め尽くされていたのだ。
彼らは、漁を終えて戻って来てた漁船に付いてきたのだろう、停泊している舟や水揚げされたばかりの樽に入れられた魚に群がり、魚を啄んでいる。その騒がしさは、まるで嵐のようだ。
そして、何よりもロスコフらを怯ませたのは、容赦なく降り注ぐ海鳥たちの糞だ。
白い点々が、まるで雨のように彼らの頭上を覆い、服や髪に容赦なく降りかかってくる。
「うわっ、何て数の鳥なんだろう!」
ロスコフは、あまりの光景に目を丸くし、思わず叫ぶ。
そして、頭上に落ちてくる糞から身を守るため、南側に見えた細い階段を駆け上がり始めた。
「あっ、ちょっと待って、ロスコフ様~!」
レザリアが慌ててロスコフを追いかけ、タンガたちも後に続いた。
「こりゃあ溜まらんわい!ワシ等も早く行くぞ!」
ロウ爺さんが杖を手に、急ぎ足で階段を上り始める。彼らは、まるで逃げるように、
白亜の街並みが広がる高台へと駆け上がっていく。
はぁ、へぇ、はぁ、へぇ。
細い階段を上りきり、彼らはようやく一息つくことができた。
額にはうっすらと汗がにじみ、ロスコフは「もうへとへとだよ」と肩で息をしている。
「おいらはこの位、へっちゃらさ。」
タンガは、飛んできた海鳥の糞を払いながら、涼しい顔でそう言った。鉱山で鍛え上げられた彼の肉体は、この程度の運動ではびくともしない。その頑健さは、悪魔討伐という死地で生き抜くための、揺るぎない礎となるだろう。ロスコフは、タンガの糞にも負けないやる気に改めて感服していた。
「まったく、とんだ洗礼でしたわね」
レザリアが珍しく、苦笑いを浮かべながら呟いた。
それにロウ爺さんが。
「わっはっは、えらい目にあったのう。」
「それじゃあ、先に進もうかの。」
彼らは、互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。そして、再び歩き出し、タンガの装備を調えるため、
ゆるやかな傾斜になり始めた街の中心部へと向かい歩き出す。
ゆるやかな坂を上へと昇っていくと、ホエッチャの中心街に出てきた。
細い階段を上りきり、緩やかな坂道を上っていくと、視界が開け、港町ホエッチャの中心街が現れた。賑やかな人通り、色とりどりの店が並び、活気に満ち溢れているのが分かる。
潮の香りと、人々の熱気が入り混じった、独特の雰囲気が漂っている。
その一角に、ひときわ目を引く武器屋の看板が目に飛び込んできた。
『イクタス ケルトゥス』(確実な一撃)
古びた木製の看板には、力強い筆文字でそう書かれていた。風雨に晒された看板は、所々色が剥げ落ち、年季を感じさせる。しかし、その文字からは、武器屋の誇りと自信がひしひしと伝わってきたのだ。
一行が武器屋へ向かうのは、タンガの身なりがあまりにも心もとなかったからだ。ボロボロのシャツに、擦り切れた鉱山用のズボン。とても悪魔と戦える格好ではなかった。ロウ爺さんは、エイゼンの提案を受け入れ、ロスコフにタンガの装備を揃えるよう頼んだ。ロスコフもその必要性を理解して、二つ返事で引き受けたのだ。
「タンガ、お前さんのその格好では、悪魔の爪牙に触れる前に、
風邪をひいてしまうじゃろう」
ロウ爺さんは、冗談めかして言ったが、その瞳にはタンガへの深い愛情が込められていた。
「ロスコフ様、どうかタンガに相応しい武具を選んでやってください。
なにぶん、田舎育ちのタンガじゃ、武器屋の武具には疎いじゃろうて」
ロウ爺さんは、ロスコフにそう言い、軽く頭を下げた。
ロスコフは、ロウ爺さんの言葉に頷き、タンガの肩に手を置いた。
「任せてください、ロウさん。タンガに最高の武器と防具を選ばせてやります」
ロスコフは、タンガの目をじっと見つめ、力強く言った。タンガは、ロスコフの言葉に少し戸惑いながらも、嬉しそうに頷いて中へと向きを変えた。
武器屋の扉を開けると、中には所狭しと武器が並んでいた。
貿易が盛んな港町らしく、色んな種類の武具が並べられていて、
湾曲した刀身が特徴的なシミター、ずっしりとした重厚なバトルアックス、
装飾が施された細身のレイピア、様々な形状の刀剣が壁一面に飾られている。
槍もまた、穂先の形状や長さが異なるものが並び、
中には、装飾が施された儀礼用のものも見受けられた。
鋼鉄製の刀剣は、磨き上げられ、美しい光沢を放っている。
革製の鞘に収められた槍は、丁寧に手入れされていることが伺える。
使い込まれた風合いのバトルアックスは、歴戦の勇者の愛用品だったのだろうか?
その武器の放つ金属の輝きと、独特の油の匂いが、
タンガの冒険心をくすぐる。
タンガは、目を輝かせ、まるで宝箱を見つけた子供のように、
店内に並ぶ武具を眺めていた。
こんなにたくさんの武器を見たのは初めてだ。
どれもこれも、強そうでかっこいい。
タンガは、これからの武器をロスコフからどれでも好きな物をと言われたが、
種類の多さに圧倒されてしまい、内心たじろいでしまっていたのだ。
暫くはどれにしようか悩むタンガを辛抱強くただ見ていたロスコフだったが、
見たこともない武具が飾られているのに興味が惹かれ、じっくり見始めてしまう。
するともうタンガの事も忘れてしまい、見ていた武器の材質や作り方などを
武器屋の主人に問いただし、細かく聞き始めてしまったのだ、
ほぼロスコフが店の主人を独占してしまい、タンガはただ武器を眺めるだけとなっていた。
タンガは、壁にかけられたシミターを手に取ろうとしては、その刃の重さに尻込みした。次にバトルアックスに手を伸ばすが、これもまた想像以上の重さに、すぐに棚に戻してしまう。細身のレイピアは、どう握ればいいのかすら分からず、困惑した顔でそれを眺めていた。
するとどれにしようか迷うタンガに、ロウ爺さんが近づいて来て、こう言ったのだ。
「おい、タンガ。お前さんはまだ全く武器の扱いを知らん、ずぶの素人じゃ」
「う、そんなことわかってるよ、ロウ爺」
「うむ。その代わり、どの武器を使ってもやはりずぶの素人なのじゃから、
どれでも好きなのを選ぶが良いぞ」
ロウ爺さんの後押しで、タンガは再び目を輝かせた。沢山あるため、田舎育ちのタンガには、これ程多くの中から物を選ぶということが難しかったのだ。そこにロウ爺さんの後押しが入ると、ただ好きな形だけで決めることができたようで。
「あの、これを持ってみたいんですが」
タンガの呼びかけに気づいた店の主人は、ロスコフに断りを入れると、
タンガの元へとやって来た。
「良い得物を見つけられましたか?」
そういい、タンガが示した得物を見て飾られていた場からタンガに手渡すと。
「これはトンギと言います、どうぞ振ってみて下さって結構ですよ。」
お店の主人がそう促すとタンガは手に取り、トンギを暫く振ってみた。
その感触は幼い頃から使い慣れたピッケルに似ており、タンガの手に驚くほどしっくりと馴染んだ。まるで、この日のために用意されたかのように、トンギは彼の手に吸い付く。その瞬間、タンガの冒険心が全身を駆け巡り、胸の奥底から込み上げるような、言い知れない高揚感を覚えた。
それを振っていたタンガは、何かを感じたのか、手に掲げたトンギを示して
「これにする、これに決めた。」これに決めたと言ったのだ。
タンガが選んだ獲物は、トンギという得物だ。
ロスコフは最初それを見た時、鉱山でタンガが使っていたピッケルを黒く鈍く光る鋼鉄にしただけの物だと思って見ていた。鉱山育ちのロスコフにとって、それは武器というより、
見慣れた鉱山採掘で使う用具にしか見えなかったのだ。薄暗い坑道で、
タンガが汗を流しながら鉱石を砕いている光景を、ロスコフは思い出していた。
ロスコフの薄暗い坑道での回想と、タンガが汗を流しながら鉱石を砕いていた姿が重なる。タンガの腕力と、ピッケルで培われた独特の振りの速さ。そのすべてが、このトンギという武器に凝縮されているかのようだった。
ぼーと思い出していたロスコフの耳にも、武器屋の店長が説明する声が聞こえて来て。
説明によると、
「お目が高いですねぇ」と、武器屋の店長は、髭を撫でながら言った。その目は、タンガが選んだトンギを見つめ、満足そうに細められている。「この武器の種類はトンギといいまして、片手でも両手でも使用することができ、鉱山ではつるはしの代わりに原石を彫ることもできます。見た目ピッケルに似ておりますが、より大きく頑丈な金属で作られております。
こいつで叩かれたら、シールドガメロンの甲羅であろうと破砕しますよ、それに鉱山では、
硬度8トパーズの原石を破砕することも可能と言われております。また、その重量と形状から、敵の攻撃を受け流し、カウンター攻撃を繰り出すのにも適しているのです。タンガさんのように、鉱山で培った体幹と腕力、そして独特の振りの速さを持つ者ならば、このトンギを両手で振り回し、アームシールドで敵の攻撃を受け流し、間髪入れずにカウンターを叩き込む。まさに、タンガさんの戦闘スタイルに完全に合致した最高の得物と言えましょう!」
そう説明されると、もう待ちきれない様を見せブルブルと武者震いするタンガは。
「俺は、これに決めた。手にしっくりとくる」タンガは、そう言いながら、
トンギを力強く握りしめ、握り具合を確かめる、
その感触は幼い頃から使い慣れたピッケルに似ており、
安心感を感じていたのだ。やはり幼い頃から振り慣れている物に良く似た物の方が、
相性が良かった様で、タンガは手になじんだ様にトンギを振ってみせアピールした。
「決まったようだね、タンガ。それじゃあそれを購入してから、次は装備の方に行こうよ」
武器が決まったことで、腰にぶら下げるベルト型のフックも購入し、
タンガは早速腰にトンギをぶら下げた。
「う~ん、やっぱ剣のようにカッコ良くはならないな」
タンガは、トンギを眺めながら呟いた。
「カッコつけるのは強くなってからでいいんじゃないかな」
ロスコフが、呆れたように突っ込みをいれる。
「ロスコフ様のおっしゃる通りですわ」
珍しくレザリアも会話に参加してきた。
「あ~あ、レザリアさんにまで言われちゃったよ」
タンガは、肩を落とし。トンギの感触を味わいながら、
タンガたちは戦闘用の服屋兼防具屋へと向かい、石畳の道を歩いていた。
穏やかな午後の陽光が、彼らの影を長く伸ばしている。
しかし、その平和な光景を切り裂くように、前方から怒声が響いてきた。
「おらぁ、ちゃんとショバ代払わねぇからこうなるんだぞぉ。さっさと店に戻って有り金全部持ってきな。さもないと、この娘を売り飛ばすしかねぇな!」
「そんなぁ!借りた金額はとっくに払い終わったじゃありませんか!利子も決められた通り、十一の利息をきっちり収めたはずです。それにあれからもう3か月経ってるじゃないですか!今更こられても、こっちはきっちり払ってあったので、その間の利息を請求されても、困ります!」
「あんだとこらぁ!お前は俺から金を借りたんだ!払ってない3か月分の利息、1500ゴールド、今日中に払えなけりゃあ、娘を売り飛ばす!こいつは連れて行くから、連れ戻したきゃあ1500ゴールド持って、俺のとこへきな!」
「そんな無茶苦茶な!払える訳ないじゃないですか!」
タンガたちが中心街に作られた石畳の道を歩いていると、前方の道の真ん中で、誰かの怒声が聞こえてきた。その声は一人二人ではない。複数の怒声が入り混じり聞こえてきている。そのまま直進しやって来ると、見てくれの悪い男たち6名程の一団が、若い娘を囲って、なにやら地面に伏しているおっさんを脅している様に見えた。
娘は怯えた表情で、男たちに何かを訴えている。その傍らでは、父親らしき男が地面にひれ伏し、必死に許しを請うている。男たちの顔は険しく、娘を今にも連れ去ろうとでもいうような、そんな物騒な雰囲気が漂っていた。
「あれは一体なにしてるんだろう…」
ロスコフは、眉をひそめて呟いた。
「どうやら、金銭トラブルのようじゃな」
ロウ爺さんが、冷静に状況を分析。
「酷い…あんなに怯えているのに」
レザリアは、娘の姿を見て、ロスコフの方を見る。
それより先にタンガは、先ほど手に入れたばかりのトンギを腰にぶら下げ、
いきがった様に、前に進み出ると男たちに向かって声を上げた。
「こらお前ら、天下の往来でなにやっとんじゃ!」 柄の悪そうな男たちに怒声を浴びせる。
その後ろから、ロウ爺さんも、出て来て、怒声を浴びせたタンガの事をニコニコして見ながら、チンピラどもを恫喝する様に、覇気を発した。
ロウ爺さんが気を入れ、睨むと、空気がピタっと止まり、
まるで時間が停止した如く静まり返る。
それだけじゃない、ガンを向けられた者たちは、尻の穴から頭のてっぺんまで駆け抜ける電気が走りぬけた様な衝撃を受け、気の弱かった者2名は泡を吹き出し、その場に倒れて、
その他の者たちも、恐怖の表情を見せ、青い顔を見せたのだ。
ロウ爺さんの覇気は、チンピラたちの喉元に冷たい刃を突きつけられたかのような衝撃を与えた。ロスコフはロウ爺さんの圧倒的な威圧感に思わず息を呑み、レザリアはその瞳に畏敬の念を宿していた。タンガだけが、ロウ爺さんの力強さに、どこか子供のような興奮を覚えていた。
それを見たロウ爺さんは。 「なんじゃヘタレが、根性見せて掛かってこんかい。」
そう言うと、カモンと手をクイクイとジェスチャー、しかし先ほどまで威勢の良い言葉を周囲に向け放ち、おじさんと娘を脅していたにも関わらず、ロウ爺さんを見てヒビったのだろう、
気絶した奴を見捨てて、反対側へと逃げ出してしまった、もちろん娘さんは置いている。
去った後、ロスコフが残り茫然と立っていた娘さんに声を掛け。
「大丈夫ですか?」 そういうと、娘さんは「あのどなたか存じませんが助けていただき
有難うございました、私は大丈夫です、でも父が。」
ようやく立ち直り始めると、倒れたままの父へと駆けて行った。
そして、倒れた父と言う男の方へと近づき、何事が起ったのか聞いたのだ。
「一体何があったんですか?」
「本当に、本当に助けていただき感謝の言葉もありません、さぁ
そこが私たちの店なので、お茶でもださせて下さい、
そこで話しします。」
そう言われて店の前に行くと、
防具屋『ディフェンスクラブ』と書かれた看板が!
タンガたちは、丁度防具を買いに来たところだったので、この偶然に驚きながら
このおじさんと娘さんの後について行く。
「防具屋『ディフェンスクラブ』かぁ。もろ名前の通りだね」
ロスコフは、看板を見てそんな感想を漏らした。
「そうですね。私は分かりやすくて良いと思いますよ」
レザリアは穏やかな口調でそう答える。
「さぁ、中へ入ってください」
倒れていたおじさんが後ろを振り向き、皆を促す。
タンガを先頭にロスコフと続き、レザリア、ロウ爺さんと中へと入っていった。
「あなた、心配してたのよ、無事なの?」
中へ入ると、恰幅の良いおばさんが心配そうにおじさんの様子を伺い、
ケガをしてるのを知ると、救急箱を取りに奥へと入って行った。
「お母さん、それよりこちらの方たちにお礼してよ...」
娘さんも、母なのだろう、追いかけて奥へと入って行った。
その間、タンガはロスコフに促され、防具を見学、色々ある品を見始める。
他の者たちも、店の中の服や防具を見学、ここは他国との交易がおこなわれている
リバンティン公国唯一の港町なので、
他国から入って来る変わった衣服や防具も飾られていて皆の関心を引いたのだ、
特に他国の衣服を見るレザリアさんの目は真剣になっていて、
ロスコフも声を掛けにくい状態となっていた。
そうこうしてると、戻って来た恰幅の良いおばさんが戻って来て、ケガをした旦那さんの
治療している、そうしてると、娘さんがお茶を汲んで持ってきてくれた。
「お待たせしました、何もないですが、お茶菓子とお茶です、
ゆっくりしていって下さい。」
等と言い、父親の治療が終わるのをまっている様子だ。
そうして治療が終わると、店の夫婦が出て来て、ロウ爺さんたちに感謝のお礼を言って来た。
「本当に、あのままだったら娘は今頃あの連中に連れていかれ、
いいようにされていました、本当に感謝の言葉もありません。」
倒れていたおじさんは、終始平にうなだれ、感謝してくる、しかしロウ爺さんは。
「感謝の言葉はもう十分に頂いた、それよりあ奴らに狙われた訳を話してみせよ。」
そう促す、するとおじさんは。「はい、丁度一年ほど前の事です、異国からの船から
10年に一度出るか出ないかと言う、魔法の楔帷子が船から荷下ろしされ、オークションが掛けられたのです、そこで私は、どうしてもその装備を店に並べたくて、無理をして落札する事にしました、当然お金が足りなく、急だったので、何時も借りてる正規の金融業者ではない
あいつらの店から借りる事にしたのです、もちろん十分払える金額だと判断しての事です、
そして、今から4カ月前に決められた利子も含めて全て返済が完了出来ました。」
「ほ~、返済が済んだのならなんも問題もなかろう?」
「はい、私もそう思い、そのまま今日まで過ごしていました。」
「それでなぜ揉めておったのじゃ?」
「それが今日、店の前で水を撒いてたらいきなり奴らが現れて、
3か月分の利子を今すぐ払えと迫って来たのです、私は訳が分からずにいました、
すると、店の前で何してるのかと私の事を見に来た娘が奴らに捕まってしまったのです、
私は返し終わったはずの金銭の利子を払えと言う、奴らの言葉に抵抗してると、
足蹴にされ、娘を連れて行くと脅されていたと言う訳です。」
「なるほど、丁度そこへわしらが通りかかったと言うことじゃな。」
「その通りです。」
「ふむ、話を聞くと、その方、なにも悪くないではないか、のぅ、ロスコフ様。」
「そうですねロウさん、無茶ないちゃもん付けられただけの様ですね。」
「はい、しかし、また来る可能性もあります、私どもは一体どうすれば...」
「ふんっ、ロスコフ様、この地を収めておるのは、バンフォーレン子爵じゃ、
後で、ロスコフ様の方から話を付けていただけぬか。」
「そうですね、このまま放置していては何が起こるか分かりませんし、
そっちのお姉さんにもしもの事があったら、私も悔いるやもしれません、
タンガの防具を揃えてから、執政官庁舎へ行ってみましょう。」
ロウ爺さんとロスコフの話を聞いていた店の夫婦は、
話の内容から、ロスコフと言うこちらの男の子が貴族と言う事を知ると。」
「あの、もしやこちらのお方は?」そう聞いてきた、
すると、す~とレザリアが席を立ち、
「そうです、こちらのロスコフ様はワーレン侯爵様の長男、
次代のロスコフ侯爵様なのです。」
レザリアはまるで自分を誇る様に、そう告げたのだ。
ロスコフが次代の侯爵様だと知ると、防具屋夫婦は驚き、平伏、
床に膝を付き敬いながら。
「知らぬこととはいえ、大変失礼な事を、どうかご容赦を...」
そんな事をし始めたがロスコフは。
「いえそんな事しないで普通にしていてください、
それに私たちは丁度タンガの防具を揃えにやって来てたんです、
こうして防具屋に来れた事に感謝してるのです。
と言う訳で、タンガに良い装備を見てやってください。」
それを受け、タンガはお茶を早々に切り上げると、防具の方へと向かった。
タンガにはお店のおばさんが付き添い、要望を聞いて合う物を選び出すことに。
タンガは、おばさんに、
「それなら、軽くて、動きやすくて、丈夫なもんを見繕ってくれよ」
そう注文。しかし先ほど見た時からそうだったが、
やはり田舎者のタンガに、こんなに多くの品物の中から、
選び出せる訳もなく、ギブアップ、お店のおばちゃんに任せる事にした。
「あらあら、戦士なら命を預ける防具は自分で決めないと。
でも、分からないのであれば、ちょっと待ってねお兄ちゃん。
私では分からないので、プロに見てもらうから」
そう言うと、おばちゃんはまた奥へと入っていった。
しばらく待っていると、職人風の叔父さんを連れてきたのだ。
「なんだぁ、自分の防具も選べん兄ちゃんっておめぇさんか!」
いきなり客に対して、きつい事を言って来たのだ。タンガは、
「う、確かにカッコ悪いが、防具なんて買うの初めてなんだよ。
どれが良いのかさっぱり分からねぇんだ」 正直に答えた。
「そうか、初めてか。よっしゃ、分かった。俺に任せろ。
だがな、良く聞いとけよ若いの。防具はな、重いほど丈夫になるが動きは悪くなる。
逆に軽いと、あまり丈夫にはならないが、その分身軽になり敵の攻撃を回避しやすくなる。
どっちも一長一短の部分を持ち合わせている。だからな、軽くて丈夫で動きやすいと言う注文だと、
丈夫にする分、それだけの金貨を掛けなければならなくなる。金貨を掛けたからと言って、
重さで得た丈夫さにまでは届かんのだ。先ずそれだけは覚えとけよ若いの」
ぶっちゃけた物言いだが、気の良さそうな叔父さんは、タンガの方に近寄ると、タンガの体を触り始め、メジャーを取り出し色々と長さを測りだした。さらに体重計まで持ってきて、タンガの体重を計ると、
「ちょっと待ってろ」
そう言って、奥へと入っていった。しばらくすると、服を持ってきて、
「先ずは服だ。これはベースになる服で、今着てる一般的な服とは違い、ファイアリザードの皮で出来ていて、軽くて比較的丈夫で火にも強い」
それだけ説明すると、今度は店舗内に飾られている鎖帷子の方へと向かい、それを指さして、
「それとお前さんにお勧めなのは、この鎖帷子ミスリルチェインだ。素材は名前の通りミスリルと皮で出来ていて、値段もそこそこ高いが、命を守る装備だ。ここをケチってちゃあ生き残れねぇ。兄ちゃんのような若い命なら、これくらいの装備は整えとかにゃ、すぐにあの世へと旅立たなくてはならなくなるぞ」
「まぁ、高すぎるなら取り合えずは、そっちのファイアリザードの皮で作った皮の服と、こちらにあるアームシールドをお勧めするよ。このアームシールドは小型だから、大型の両手武器などを防御するにはちと辛いが、片手用の武器なら大抵防ぐことはできる。もちろん両手用武器でも、まだ最大斬撃速度まで達してない段階で止めてしまえば、十分に防ぐことは可能だ。あと言う事は、短いが手の先より少し伸びてるのは分かるな?この先は武器として使用もできるぞ。これで相手を殴れば、結構なダメージを与えることも可能だ。どうだい、このアームシールドなら、兄ちゃんが腰にぶら下げたトンギを両手で振り回しながら、敵の攻撃をアームシールドで防ぐことも可能なんだぜ。凄いだろう?」
「うぉぉ、そいつぁスゲェや!超、欲しぃよ!」
タンガは、目を輝かせながら叫び、ロスコフを見た。
ロスコフは、静かに頷き、
「全部買っちゃって」
そう言ったのだ。ロスコフの許可が出たので、早速全てを装備することになった。
「お~い、お客の装備付けるの手伝ってやれ」
職人の叔父さんがおばさんを呼び出して、装備を付けるの手伝えってやれと再び呼び戻す。
職人の叔父さんが奥へと引き上げていく際、叔母さんが「兄さん」と呼んでいたので、
あのおじさんは、叔母さんの兄だと言う事が分かった。
戻って来た叔母さんは、装備を見繕ってくれた職人風の叔父さんと交代すると、
タンガの装備を付けるのを手伝うため、タンガを試着室へと連れて行き、先ほど選んでくれた装備を持って行く。 そうしてロスコフたちは、しばらく待つことになった。
その間、ロウ爺さんと、職人だと一目でわかる叔父さんが話し始めた。
「ほ~、あんたら話題の悪魔を退治に行くのかい?それは大変な相手に挑むんだなぁ。しかし大丈夫かい、爺さん。あの兄ちゃんは装備もろくに選ぶことができない初心者だぞ?」
叔父さんは、心配そうな表情でロウ爺さんに尋ねた。
「わっはっは、大丈夫じゃ。ワシが付いておる、それにタンガを甘く見んほうが良いぞ。
あ奴は、言うならば磨けば光る原石なのじゃ」
ロウ爺さんは、自信に満ちた笑みを浮かべ、タンガの成長に期待を寄せた。
「へ~ 爺さん程の者がそう言うんじゃ、あの兄ちゃんは、相当期待出来るんだな、
それじゃあ、これから期待のホープとして割引きしておくよう妹に伝えておこう。」
暫くして、装備を着こんだタンガが店のおばさんと共に戻って来た。
「おお、見違えたぞ、タンガ」
ロスコフは、タンガが立派な冒険者に変身した事に自然と笑顔を見せて喜ぶ。
「ははは、ありがとう、ロスコフ様。こんな立派な装備を…」
タンガは、嬉しそうにロスコフに感謝を述べた。
「ははは、タンガに死なれたら困るからね。それに僕は戦闘できないから、タンガを助けるにはこんなことしかできないんだよ」
ロスコフは、謙遜しながらもタンガへの友情を示した。彼は、この高価な装備が単なる出費ではなく、タンガという未来のホープへの命を守るための「投資」であると考えていた。
「いや、ありがてぇよ、ロスコフ様」
タンガは、改めてロスコフに感謝した。
「うむ、これならそう間には死なんじゃろ。」
ロウ爺さんは、満足そう
「それでは、会計をお願いします、叔母さん」
ロスコフは、おばさんと共にカウンターへと向かっていく。
「トータルで、2300ゴールドなのですが、珍しい事に、ガンコな兄から
お若い冒険者様への投資をしておけとの事なので、2200ゴールドと勉強させて頂きます、
それと、夫と娘を救って下さった命の恩人に少しばかりの感謝の気持ちを入れさせて頂きます、ですから後200値引かせていただき、合計2000ゴールドとさしていただきます。」
トータルの金額を見たロスコフは、うんと頷くと。
「えっと、ワーレン家の方へツケでお願いできますか?ここに身分証があります」
そう相談、今回のタンガの装備一式2000ゴールドはワーレン侯爵家へのツケとし、ワーレン家が取引を行っている世界銀行ワールドトレード宛へ請求するための番号を記載してサインをした。
その契約書のサインと番号を確認すると、
「お待たせしました。間違いありません。良い取引ができました。
ありがとうございます、ロスコフ・ワーレン卿」
「いえ、友の装備を整えて頂き感謝しております」
支払いが終わると、ケガをして奥へ引っ込んでた店の主人、叔母さんの夫も再び出て来て
店の主人、職人の叔父さん、おばさん、娘さん、全員そろって見送ってくれた。
「毎度有難うございました、また何か入用になれば是非よろしくお願いします。」
そういい、またのお越しを願われたのだ。
タンガの武器防具が一通り揃うと、先ほど話した通り、ホエッチャの執政官であるバンフォーレン子爵に会うため、執政官庁舎前へとやってきた。そこでロスコフは身分を伝え、バンフォーレン子爵と面会すると、先ほど起こったチンピラと防具屋の一件を丁寧に説明し、是正するように促した。するとバンフォーレン子爵も快く引き受けてくれ、ホエッチャに蔓延る悪党たちに対し、厳しく対処することを約束してくれたのだ。ロスコフは感謝を述べ、執政官庁舎を後にした。
一行は、執政官庁舎からの帰り、中心街に立ち寄り、必要になる冒険者グッズを一通り買いそろえると、その日はまたロウ爺さんの息子さん宅に戻り、その日を終わらせた。
最後まで読んで下さりありがとう、また続きをみかけたら宜しく。




