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罠発動

疾風のジンが動いたと言う報告を受けたラバァルは、直ぐにシュガーボムへと戻り...。 

         その118




オーメン訓練場、翌日の午前


翌朝、ラバァルが目を覚ますと、隣の部屋からは既にクレセントのいびきは聞こえなかった。先に出て行ったのだろうか、と思ったが、彼が訓練場へ向かうために部屋を出ると、廊下の隅でクレセントが壁に寄りかかって待っていた。昨夜の酔いは多少抜けたようだが、まだ少し眠そうだ。

「…なんだ、まだいたのか」ラバァルが声をかける。

「ん…おはよう、ラバァル…どこ行くの?」クレセントは目をこすりながら尋ねた。

「訓練場だ。お前には関係ない」

「へー、訓練場? 面白そうじゃない。私も行く!」クレセントは、好奇心を刺激されたのか、有無を言わさずラバァルの後をついてきた。ラバァルは追い払うのも面倒なので、好きにさせることにした。


訓練場の中では、既にオーメンのメンバーや子供たちが訓練を開始していた。ラバァルと、その後ろをついてくる見慣れないクレセントの姿に、皆が一瞬注目したが、すぐに自分たちの訓練に集中する。


「あっ、ラバァルだ!」「おはよー!」子供たちが駆け寄ってくる。

「わー! 何ここ! すごいじゃない!」クレセントは、訓練場の活気と、真剣に訓練に励む子供たちの姿を見て、目を丸くしていた。

メロディが、ラバァルだけでなくクレセントにも気づき、「ねえ、ラバァル! この女、誰? ラバァルの女?」と遠慮なく尋ねる。


「ち、違うわよ! 失礼ね!」クレセントが慌てて否定する。

「ただの酔っ払いだ。気にするな」ラバァルは適当にあしらい、メロディの三節棍の練習を見た。「おい、メロディ、手首の返しがまだ硬いぞ。もっと滑らかに…」

ラバァルが子供たちの相手をしている間、クレセントは興味深そうに訓練の様子を眺めていた。特に、ヨーゼフが気のコントロールに苦戦している姿や、子供たちが真剣に組み手をしている姿を、飽きることなく見ていた。彼女の目には、普段の酔っ払いのそれとは違う、何か別の光が宿っているようにも見えた。


ラバァルは、ヨーゼフの進捗を確認し、子供たちの成長を認めながら、訓練全体の様子を監督していた。

…と、その時、訓練場の入り口に、息を切らしたオーメンの見張りが駆け込んできた。

「ラバァルさん! ウィッシュボーンの旦那から緊急連絡です! ムーメンの…“疾風”のジンが、昨夜から姿を消した、と! おそらく、動き出した模様です!」

訓練場の空気が、一瞬で張り詰めた。ムーメン家の反撃が、ついに始まろうとしていた。ラバァルは、静かに頷くと、ヨーゼフと、そして事態を察して顔色を変えている子供たち、さらにはいつの間にか真剣な表情になっていたクレセントに視線を送った。


「…どうやら、退屈な日々も終わりらしいな」

彼の目は、再び冷徹な戦略家のそれに戻っていた。ジンを迎え撃つための罠は、既に仕掛けられているはずだ。あとは、獲物がいつ、どこに現れるか…。ラバァルは、次なる戦いの始まりを静かに待つのだった。クレセントもまた、この不穏な空気の中で、ただならぬ事態が起ころうとしていることを感じ取っていた。



オーメン訓練場、休憩時間


午前中の厳しい訓練が終わり、休憩時間となった。オーメンのメンバーたちは汗を拭い、子供たちは地面に座り込んで息を整えている。ヨーゼフも、壁に寄りかかり、まだ完全ではない気のコントロールを反芻するように目を閉じていた。クレセントは、相変わらず物珍しそうに、しかし先ほどの緊急連絡のせいか、少しだけ真剣な表情で周囲を見回している。

ラバァルは、ヨーゼフの隣に腰を下ろし、低い声で話しかけた。

「ヨーゼフ。少し前の話になるが…お前がゴースト・ナンバーズの連中から子供たちを助けた日、最後に現れたという『大人三名』…あいつらのこと、もう少し詳しく聞かせてくれ」

ラバァルの突然の問いに、ヨーゼフは目を開けた。


「…ああ、あの連中か。妙に手練れだったな。短剣使いに、剣士、それにワイヤー使い…連携も取れていた。ただのチンピラじゃなかったのは確かだ」

ヨーゼフがそう話していると、近くで聞いていたタロッチやファングたちも集まってきた。

「そうなんだよ、ラバァル! あいつら、俺たちがナンバーズを倒したら、急に出てきて!」タロッチが興奮気味に話し出す。


「うん、それに、なんか『引き取る』とか言ってた…俺たちのこと」ファングも、思い出すように付け加えた。

「俺たちを攫うつもりだったんだ! 怖かったよな!」ラモンが身震いする。

メロディは黙って頷き、ウィローも顔を青くしている。カリーナたちスチール・クロウのメンバーも、同様に恐怖を覚えていたようだ。


子供たちの話と、ヨーゼフの証言、そしてゴースト・ナンバーズという組織の異質さ(ナンバーズと呼ばれる幹部の存在や、候補生のようなシステム)。それらを総合し、ラバァルの頭の中で、一つの仮説が確信へと変わっていった。


(…子供たちを攫い、戦士として育成する組織…暗殺団アウルか。ジンとの繋がりも考えれば、まず間違いないだろう。そして、その目的は、見込みのある子供を『拉致』し、新たなアウルの戦力として洗脳、育成すること…)

ラバァルの脳裏に、自身の過去が蘇った。幼い頃に盗賊団(イニークゥス)の首領ラナの元からさらわれ、暗殺者として育てられた日々。エシトン・ブルケリィとアウル、組織は違えど、やっていることは同じだ。まだよく事情が分からない子供たちを、自分たちに都合の良い様に働く道具にしようとしている。


ラバァルの表情が、一瞬、凍てつくように冷たくなった。

(…こいつらの自由を奪わせる訳にはいかんな)

それは、個人的な思いだった、同時に、このスラムの子供たちに対する、彼自身も気づいていない庇護欲のようなものだったのかもしれない。

「…ヨーゼフ」ラバァルは、再びヨーゼフに向き直った。「あいつらは、必ずまた来るぞ。それも、今度はもっと周到に、もっと強力な戦力を連れてな。奴らの狙いは、この子供たちだ。お前がここにいる限り、子供たちの盾となれ。決して、奴らに手出しはさせるな」

ラバァルの言葉には、普段の彼からは珍しいほどの、強い力が込められていた。

「…分かっている」ヨーゼフは、ラバァルのただならぬ気配を感じ取り、力強く頷いた。「この子たちは、俺が必ず守る」


ラバァルは頷くと、立ち上がった。

(アウル…奴らが子供たちを狙うなら、こちらも手を打つ必要がある。ジンが動いている今、奴らが次にどんな手を打ってくるか…。いや、待つ必要はない。こちらから仕掛けるべきか? ジンを捕らえ、アウルの情報を吐かせるのが先か…?)

思考を巡らせながら、ラバァルは訓練場を後にしようとした。


「ねぇ、どこ行くんだよ、ラバァル?」タロッチが尋ねる。

「少し、野暮用だ」ラバァルは短く答えた。

(ジンを確実に捕らえ、情報を吐かせるには…普通のやり方では難しいかもしれん。奴も手練れだ。ならば…少しばかり『荒療治』が必要か)


ラバァルは、闇市へ向かうことに決めた。目的は、ホークアイの店ではない。もっと深く、暗い場所。そこでは、法や倫理など通用しない、あらゆる「危険な薬物」が取引されているという噂があった。自白を引き出すための薬、あるいは相手の抵抗力を奪う薬…。ラバァルは、これまで使うことを躊躇してきた類の手段に、手を出すことを決意したのだ。アウルを潰すため、そして子供たちを守るために。



闇市~シュガーボムへ


ラバァルは、闇市のさらに奥深く、最も危険とされるエリアへと足を踏み入れた。そこは、怪しげな薬師や錬金術師、そして出所の知れない「商人」たちが店を構える一角だった。ラバァルは、以前ホークアイから聞き出していた情報を元に、目的の「薬」を扱っているという店を探し当て、必要なものを(もちろん、それなりの対価を払って)手に入れた。それは、使い方を間違えれば相手を廃人にもしかねない、強力な代物だった。

闇市を出て、新市街へと戻る。すると、いつの間にか、クレセントが彼の後ろをついてきていた。訓練場では、ラバァルが出て行った後、ヨーゼフや子供たちに絡んでいたようだが、飽きたのか、あるいはラバァルの行き先が気になったのか。


「ねーえ、ラバァル! どこ行ってたのよー? 私を置いていくなんてひどいじゃない!」

「…お前、まだいたのか」ラバァルは溜息をついた。「ついてくるなと言ったはずだ」

「だって、気になるんだもん! あんた、何かヤバいことでもしてたんでしょ?」クレセントは、妙に勘が鋭いところがある。

ラバァルは答えない。ただ黙ってシュガーボムへと向かう。クレセントは、文句を言いながらも、結局、シュガーボムの入り口までくっついてきてしまった。


「…ハウンド」ラバァルは、入り口にいたマスターのハウンドを呼びつけた。「こいつに、安酒でもなんでもいい、適当に与えておけ。俺の部屋には絶対に入れるなよ」

「へい、かしこまりました!」ハウンドは心得たように頷き、クレセントに「ささ、こちらへどうぞ、お嬢さん」と声をかける。


「えー! ラバァルと一緒がいいー!」クレセントは駄々をこねるが、ハウンドに上手く言いくるめられ、カウンターの方へと連れて行かれた。

ラバァルは、やれやれと肩をすくめると、ベルコンスタンの執務室へと向かった。手に入れた「薬」と、それをどう使うか。そして、迫りくるであろうジンとの対決。彼の頭の中は、次なる暗闘への準備で満たされていた。




シュガーボム、深夜


ロット・ノットの街が深い眠りについた深夜。シュガーボムの店内も、表向きの営業は終わり、客の姿はなく、見張りの構成員が数名、持ち場についているだけだった。しかし、その静寂は、張り詰めた緊張感を伴っていた。ベルコンスタンとラバァルは、“疾風”のジンが今夜あたり、必ずや潜入してくると予測していたからだ。


ベルコンスタンの執務室。その部屋には、彼がラバァルのヒントと自らの知略を駆使して考案した、巧妙かつ悪辣な罠が仕掛けられていた。ラバァルが闇市で見聞きした「電気ウナギ」の話から着想を得たその仕掛けは、高電圧を発生させる特殊な魔道具(これも闇ルートで入手したものだ)を応用したものだった。執務室へ続く特定の通路の床下、そして執務室のドアノブ、さらに内部の金庫と思わしき場所に、触れた者に800ボルトを超える強烈な電流を流す罠が、複数、連動するように設置されていたのだ。通常の人間なら即死、あるいは重度の火傷と神経損傷を免れない威力だ。ジンのような手練れでも、不意を突かれればただでは済まないはずだ。

深夜2時過ぎ。ラバァルは部屋で仮眠を取っていた、すると彼の元に、見張りの構成員が慌てた様子で トントン トントンとノックをして来た。


「ラバァルさん! 罠が作動しました! 執務室の方で、何者かが仕掛けにかかった模様です!」

「…来たか」ラバァルは、眠気など微塵も見せず、素早く起き上がった。「状況は?」

「断末魔のような声と、何かが焦げるような匂いが…恐らく、侵入者は動けないかと」

「よし。ベルコンスタンと、信頼できる者を数名連れて、現場へ向かう。他の者は警戒を厳にしろ」

ラバァルは短く指示を出すと、構成員と共にベルコンスタンの執務室へと急いだ。


執務室へ続く通路には、微かに肉の焼けるような異臭が漂っていた。そして、執務室の扉の前には、黒装束に身を包んだ痩身の男が、痙攣しながら倒れ伏している。その手は、焼け焦げたドアノブに触れたままだった。男の顔には苦悶の表情が浮かび、意識はない。その風貌は、ベルコンスタンが持っていた資料の、“疾風”のジンと完全に一致していた。


「…見事にかかったようだな、ベルコンスタン」ラバァルは、倒れたジンを一瞥し、傍らで安堵と興奮の入り混じった表情を浮かべているベルコンスタンに言った。

「は、はい…! ラバァルさんのお知恵のおかげです…! まさか、本当に電気を使うとは…」ベルコンスタンは、自分が仕掛けた罠の威力に、改めて戦慄しているようだ。

「感心している暇はないぞ」ラバァルは冷ややかに言った。「そいつを地下へ運べ。シュガーボムの地下には、使っていない古い貯蔵庫があったはずだ。そこを『尋問室』にする。口を割らせるための道具も用意させろ」


「かしこまりました!」ベルコンスタンは、すぐさま部下に指示を出し、気を失っているジンを担ぎ上げさせ、シュガーボムの地下へと運ばせた。



シュガーボム地下、旧貯蔵庫(尋問室)


湿っぽく、カビ臭い地下の旧貯蔵庫。壁には錆びた鎖が取り付けられ、中央には頑丈な椅子が一つだけ置かれている。そこに、ジンは意識を取り戻さないうちに、しっかりと拘束されていた。ラバァルは、ベルコンスタンと、口の堅いキーウィの構成員数名だけを残し、他の者は下がらせた。

冷たい水を顔に浴びせかけられ、ジンはうめき声を上げて意識を取り戻した。全身に走る激痛と痺れ、そして自分が完全に拘束されている状況を理解し、彼の目に鋭い光が戻る。


「…貴様ら…キーウィの残党か…何のつもりだ…」ジンは、苦痛に顔を歪めながらも、低い声で凄んだ。

「何のつもりか、だと? それはこっちのセリフだ、“疾風”のジン」ラバァルは、ジンの前に立ち、冷たい視線で見下ろした。「夜中に、こそこそと忍び込んで、何を探っていた?」

ジンは、ラバァルの顔を見て、一瞬目を見開いた。シュガーボムの『客人』。ヨーゼフを倒したという噂の男。なぜこの男がここに?


「…ふん、ネズミが何か嗅ぎつけたか、と思っただけのことよ…」ジンは、余裕を装って嘯いた。

「ネズミ、ね」ラバァルは鼻で笑った。「そのネズミにまんまと罠にかかるとは、お笑い草だな。さて、問答は時間の無駄だ。単刀直入に聞く。お前の雇い主、モロー・ムーメンについて知っていることを全て話せ。そして、貴様が繋がっているという暗殺団…アウルのこと、特に奴らの秘密基地の場所をな」


ジンの表情が、初めて明確に動揺した。アウルのことまで知っているのか、この男は?

「…知らんな。何の事だか、さっぱりだ」ジンは、口を固く閉ざした。拷問には慣れているのだろう、簡単には口を割らない覚悟が見えた。

「そうか。ならば、仕方ない」ラバァルは、懐から小さな小瓶を取り出した。それは、先日闇市で手に入れた、強力な自白薬だった。「痛めつけただけでは、貴様のような手合いは口を割らんだろうからな。少しばかり、『手伝って』やる」

ラバァルは、構成員にジンの口を無理やりこじ開けさせると、粘性の高い、不気味な色の液体を数滴、彼の口の中に流し込んだ。


「ぐっ…!? ぐぅぅ…!!」ジンは激しく抵抗し、薬を吐き出そうとしたが、遅かった。薬はすぐに彼の体内に吸収され、効果を発揮し始めた。

最初は、ただ混乱し、意味のないうわ言を繰り返していたジンだったが、ラバァルが的確な質問を繰り返すうちに、徐々に彼の意識の深い部分に薬が作用し始めた。しかし、ジンの精神力は凄まじかった。アウルの暗殺者としての訓練か、あるいは生来の強靭さか、彼は薬の効果に必死に抵抗し、核心に触れる情報だけは頑なに口にしなかった。モロー・ムーメンに関するいくつかの情報(金の流れの一部や、他の組織との密約など)は断片的に漏らしたが、アウルの基地の場所については、どれだけ問い詰めても、うめき声を上げるだけで答えようとしない。


「…ちっ、しぶとい奴だ」ラバァルは舌打ちし、二度目の薬を投与した。ジンはさらに激しく苦しみもがき、意識が朦朧とし始める。それでもなお、彼は最後の抵抗を見せ、アウルの秘密を守ろうとした。

「…まだ、足りないか。仕方ないな」ラバァルは、躊躇なく三度目の薬を投与した。さすがに高価な薬だけのことはある。三度の投与に、ジンの強靭な精神もついに限界を超えた。彼の目は虚ろになり、口からは泡を吹き、ラバァルの問いかけに対し、もはや抵抗する力もなく、途切れ途切れに、しかし核心に触れる情報を漏らし始めた。

「…アウル…基地…は……ロットノット…北西…廃坑…その…奥……秘密の…入り口…が……」

ジンは、アウルの秘密基地の大まかな場所と、そこへ至るためのいくつかのヒントを、うわ言のように語った。


「…よし。それでいい」ラバァルは、必要な情報を引き出すと、もはや虫の息となっているジンを一瞥した。三度もの強力な薬の投与は、彼の肉体と精神を完全に破壊していた。もはや助からないだろう。

ラバァルは、傍らに控えていたベルコンスタンに、冷徹に命じた。

「…こいつは、もう用済みだ。秘密裏に処理しろ。火葬がいいだろう。骨も残すな。 この部屋も、奴がここにいた痕跡を完全に消し去れ。いいな?」


「は、はいっ! かしこまりました!」ベルコンスタンは、ラバァルの非情さと、薬の効果を直に見て顔を引きつらせながらも、力なく頷く。


「終わったら今度はアウルに関しての情報の整理だ、休んでる間はないぞ。」 

「分かりました全力でやっておきます。」


ラバァルは、もはやジンに一瞥もくれることなく、尋問室を後にした。アウルの秘密基地の場所という、極めて重要な情報を手に入れた。ムーメン家の頭脳であるカザンを掌握し、今度はその懐刀であるジンを排除し、さらにアウルの本拠地の情報まで掴んだ。彼のムーメン家、そしてロットノット裏社会攻略は、着実に、そして容赦なく進んでいた。彼は自室へと戻り、手に入れた情報を元に、次なる作戦――アウル壊滅作戦――の立案に取り掛かるのだった。死体の後始末や、ムーメン家への対応は、ベルコンスタンに任せればいい。彼は、より大きなゲームへと駒を進めていた。




シュガーボム、店内、翌朝 クレセント視点


うーん…頭、痛い…。

昨日は、あの面白い男、ラバァルを見つけたので思いっきり飲ませて貰えると思ったら、結局途中で闇市なんて物騒な場所に連れて行かれて、闘技場でなんかすごい試合を見て、興奮して…その後、訓練場などと言う場に付いて行って、凄い必死で訓練してる子供達やガラの悪そうな大人たちを見て、シュガーボムで安酒をまた飲んで…あれ? 私、どこで寝てたんだっけ?


重い瞼をこじ開けると、見慣れない天井が目に入った。どうやらシュガーボムの、客用のソファでそのまま寝落ちしてしまったらしい。首筋が痛い。口の中もカラカラだ。

(あーあ、またやっちゃった…テレサに怒られるわ…)

私がそんなことを考えていると、すぐ近くで低い声がした。


「…おい。まだいたのか、お前」

はっとして顔を上げると、そこには腕組みをして、呆れたような顔で見下ろしているラバァルがいた。ぶっきらぼうだけど、どこか放っておけない雰囲気の男。

「ら、ラバァル…! おはよう…」寝起きのだらしない声が出てしまう。

「おはよう、じゃないだろう。ここは宿屋じゃないんだ。とっとと起きろ」ラバァルは、眉間に皺を寄せている。でも、本気で怒っているわけではなさそうだ。


「だってぇ、昨日は楽しかったんだもーん」私はソファから起き上がり、伸びをしながら言い返した。「それにしても、あんた朝早いのね」

「用事があっただけだ」ラバァルは短く言うと、近くにいた店のマスター、ハウンドに声をかけた。「ハウンド、朝食を二人分頼む。簡単なものでいい」

「えっ! 私の分も!?」予想外の言葉に、私は思わず声を上げた。


「いつまでもここに居座られるよりはマシだ。食ったらさっさと帰れ」ラバァルはぶっきらぼうに言うけど、なんだかんだ言って優しいところもあるんだな、と私は思った。

ハウンドがすぐに運んできたのは、焼きたてのパンと、ベーコンエッグ、それと濃いめのコーヒー。シュガーボムでこんなちゃんとした朝食が出てくるなんて意外だったけど、空腹だった私は、ありがたくそれに飛びついた。ラバァルも、黙々と自分の分を食べている。

食事を終え、少し頭もすっきりしてきた頃、ラバァルが口を開いた。



「食べたらもう帰れよ、【ベロスッポン!】」 ラバァルがそう名付けてやるとクレセントは。  


「もぉ~なによベロスッポンって♯」 「ベロベロに酔うまで飲み、人にくっついて離れないんだからベロスッポンだ、どうだ気に入ったか!」ラバァルは笑いながらそう言って、最後に、さっさと帰れよといい去って行った。 「もぉ~酷いわねぇ。」等と文句を垂れた。     




執務室にやって来たラバァルは、昨夜命じた通りベルコンスタンはアウルの情報を寝ないで纏めていた

、その為、ラバァルが執務室に入って来たのを察知できなく、まだソファで熟睡していた。

  

ラバァルは、起こす事無く、さっと資料を見始める。 


暗殺団【アウル】に関する情報まとめ


ロット・ノット(ラガン王国)を拠点とする暗殺団:

闇市の情報屋ホークアイや、ベルコンスタンの知識などから、ロット・ノットの裏社会で活動する暗殺団の一つとして認識されている。


老舗の暗殺団であり、同じく老舗とされる【サギー】と共に、かつて新興勢力だった【エシトン・ブルケリィ】の壊滅に関与した可能性が高い。


ムーメン家との密接な関係:

評議会議員であり新興勢力の筆頭である【ムーメン家】、特に当主モロー・ムーメンと極めて密接な関係にある。

ムーメン家の”疾風”のジンはアウル出身である言われ、アウルと深い繋がりを持つと強く推測している(ラバァルの推測)。


モロー・ムーメンとアウルの首領が兄弟である、という黒い噂が存在する(真偽は不明)。

ムーメン家の非合法活動や、政敵の排除などに、アウルが関与している可能性が高い。


拠点(秘密基地):

ジンへの尋問(薬物使用)により、その本拠地が「ロットノット近郊北西部の廃坑の奥深く」にあることが判明した。

そこへ至るためには「秘密の入り口」を通る必要があるらしい(具体的な場所や入り方は不明)。

組織・構成員:

具体的な組織構造や規模は不明。


暗殺術に長けた構成員を擁している。

外部協力者や下部組織(候補生育成機関)として【ゴースト・ナンバーズ】を管理・育成している。

ゴースト・ナンバーズの幹部「ナンバーズ」は、アウルによる特別な訓練を受けており、子供とは思えないような高い戦闘能力を持つ。


アウルは、スラムの中から有望な子供を{ラガン王国の街、村から} 拉致)」し、将来のアウルの戦力として育て上げて使用している。

ゴースト・ナンバーズを管理する、アウルの協力者である大人(短剣、ショートソード、ワイヤー使いの三人組)が存在していたのを確認。


他の組織との関係:

【サギー】(ゾンハーグ家と繋がり?)とは、エシトン・ブルケリィ壊滅の際には協力した可能性があるが、現在の関係性は不明。老舗同士で縄張りを争っている可能性も、協力関係にある可能性もある。

壊滅した【エシトン・ブルケリィ】の残党(特に元リーダーのアビト=レボーグ)を追っている可能性がある(アビトが身を隠す理由の一つ)。


その他:

その名前(アウル=梟)から、夜間の活動や隠密行動を得意とするイメージがある。

ラバァルにとっては、ムーメン家を叩く上で障害となるだけでなく、自身の過去エシトン・ブルケリィや、現在保護している子供たち(タロッチ組、スチール・クロウ組)にも関わる、因縁深い相手となりつつある。


現時点での不明点・今後の焦点:

アウルの首領は誰なのか? モロー・ムーメンとの関係は?

アウルの具体的な組織規模、構成員の数、能力は?

秘密基地への正確な場所と侵入方法は?

サギーとの現在の関係性は?

ムーメン家以外に、アウルと繋がりのある評議会議員や組織はいるのか?

彼らがゴースト・ナンバーズを使って、最終的に何をしようとしているのか?


これらの情報が、今後のラバァルのアウル攻略作戦、そしてムーメン家との全面対決において、重要な要素となって来るでしょう。


ベルコンスタンが纏めた資料にはこう書かれていた。 


ラバァルはソファで寝ていたベルコンスタンを起こす事無く、自分の部屋へと戻って行った。






最後まで読んで下さりありがとう、またつづきを見掛けたら読んでみて下さい。

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