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ゴースト・ナンバーズ現る

訓練からの帰り道、タロッチ達は自分たちの縄張りを巡回していた、そんな所に、ゴースト・ナンバーズ等と言う、見知らぬグループが現れたのだ...。   

             その113




 ゴースト・ナンバーズとの遭遇


ラバァルによる本気の特訓が始まって3週間が過ぎていた。タロッチ、ウィロー、ラモン、メロディの四人は、見違えるようにたくましくなっていた。連携の精度も上がり、個々の戦闘能力も確実に向上している。その日も、訓練を終えた帰り道、彼らは自分たちの縄張りを巡回していた。以前のようなただのガキ大将の威勢ではなく、自分たちの居場所を守るという責任感が、彼らの表情を引き締めていた。

そんな彼らの前に、見慣れない少年グループが立ち塞がってきたのだ。服装はボロボロだが、その目つきは妙に挑戦的で、数も十名近くいる。

「おい、お前ら、最近調子に乗ってるらしいな。この辺りは俺たち『ゴースト・ナンバーズ』のシマだぞ。さっさと消えな」リーダー格らしき、痩せぎすだが目つきの悪い少年が吐き捨てるように言った。

「ゴースト・ナンバーズだと?」タロッチは眉をひそめた。「聞いたことねえ名前だな。ここは俺たちの場所だ。そっちこそ、どこか他所へ行け!」

タロッチは、これまでの経験から、ここで引いてはならないと分かっていた。


「なんだと、このチビ!」相手はすぐにカッとなり、タロッチたちに掴みかかってきた。

「やる気か、上等だ!」タロッチも応戦し、乱闘が始まった。

訓練の成果は明らかだった。タロッチたちの動きは鋭く、連携も取れている。ウィローが壁となり、タロッチが突っ込み、ラモンが撹乱し、メロディが三節棍で相手の武器を絡め取る。ゴースト・ナンバーズの連中は、数では勝っていたが、個々の実力と連携で劣り、次々と打ち倒されていった。


「くそっ、強え…!」

リーダー格の少年も、タロッチの勢いに押され、地面に倒れ伏した。

「どうだ! これが俺たちの力だ!」タロッチは勝ち誇った。

しかし、倒されたリーダー格の少年は、悔しそうに顔を歪めながらも、不敵な笑みを浮かべた。

「へっ…威勢がいいのも今のうちだぜ…! 俺たち『ゴースト・ナンバーズ』に手を出して、ただで済むと思うなよ!」

「はっ! ゴーストだかナンバーズだか知らねえが、負け犬は黙ってな!」タロッチが言い返す。


「…なら、『スチール・クロウ』の名前は知ってるだろう?」少年は、意味ありげに言った。

その名前に、タロッチたちは息を呑んだ。特にメロディは、「スチール・クロウがどうかしたの?」と鋭く問い返した。あのファング率いる、自分たちが引き分けた(ラバァルが止めたが)強敵だ。

「へへ…奴らも最初は威勢が良かったさ。だがな…俺たちの『ナンバーズ』には敵わなかった。今じゃ、あの地区も俺たちのモンよ!」


少年はそう言い残し、仲間たちに肩を貸りながら、捨て台詞と共に去っていった。

「スチール・クロウが…負けた…?」タロッチたちは顔を見合わせた。信じられなかった。あのファングたちが、自分たちが引き分けた(ラバァルが止めたが)強敵だ。

「嘘よ、きっと!」メロディが大きな声で否定し。「確かめに行くわよ!」


四人は、少年の言葉の真偽を確かめるため、スラムの中でも特に危険とされる東部地区、スチール・クロウの縄張りへと足を向けた。


「スチール・クロウが…負けた…?」タロッチたちは顔を見合わせた。信じられなかった。あのファングたちが、自分たちと互角以上に渡り合った彼らが、負けるはずがない。

「嘘よ、きっと!」メロディが言い放った。「確かめに行くわよ!」

四人は、少年の言葉の真偽を確かめるため、スラムの中でも特に危険とされる東部地区、スチール・クロウの縄張りへと足を向けた。



敗北したスチール・クロウ


東部地区の雰囲気は、以前とは明らかに異なっていた。活気はなく、どこか重苦しい空気が漂い、見慣れない顔つきの、ゴースト・ナンバーズと名乗る少年たちが、あちこちで幅を利かせている。タロッチたちが知るスチール・クロウのメンバーの姿はどこにも見当たらない。

不安を覚えながら、彼らはファングたちの溜まり場だった廃工場へと向かった。

そして、彼らは目の前の光景に言葉を失った。


廃工場の壁に寄りかかるようにして、ファングと、彼の腹心である数名のメンバーたちが、力なく座り込んでいたのだ。彼らは皆、顔や体に痛々しい傷や痣を作り、その目には、以前の鋭さはなく、深い疲労と屈辱の色が浮かんでいた。

「ファング…!」タロッチが声をかけると、ファングはゆっくりと顔を上げた。

「…タロッチか。何の用だ? 見ての通り、ここはもう俺たちのシマじゃねえ」ファングの声には力がなかった。

「一体何があったんだよ!? ゴースト・ナンバーズとかいう奴らにやられたのか!?」

ファングは、悔しそうに地面を殴りつけた。「…ああ。奴ら、数が多すぎた。俺たちは戦えない奴らを逃がして、たったの四人で戦ったんだ。だが、相手は二十人以上いやがった…それだけじゃない…」

ファングは歯ぎしりしながら続けた。「…奴らの中に、『ナンバーズ』と呼ばれる四人の幹部がいた。そいつらが、俺たち一人ひとりにタイマンを仕掛けてきやがったんだ」

「タイマンでなら、あなたたちが負けるはずない!」メロディが信じられないという顔で言う。

「…そう思ってたさ」ファングは自嘲するように笑った。「だが、奴らの動きは…尋常じゃなかった。今まで戦ってきたどんな奴とも違う、まるで…機械のような、正確で、無駄のない動きをしてきやがった。俺たちは、完全に動きを読まれ、圧倒されちまった…手も足も出ずに、全員が叩きのめされたんだ…」


ファングの言葉に、タロッチたちは戦慄した。自分たちが必死の思いで引き分けた相手を、こうも簡単に打ち負かす存在がスラムにいるとは。ゴースト・ナンバーズ…そして、その幹部『ナンバーズ』。彼らは一体何者なのか?

しかし、その話を聞いたメロディの目には、恐怖ではなく、新たな闘志が燃え上がっていた。

(ナンバーズ…! 面白いじゃない! あんたたちを倒せば、あたしたちがスラムで一番だって証明できる! ラバァルにも、きっと認められるはず!)

彼女は、仲間たちが止めるのも聞かず、決意を固めた。「決めた! あたし、そいつらに挑戦する!」



ヨーゼフの尾行と子供たちの決闘


翌日、オーメンの訓練場。タロッチ、ウィロー、ラモン、そして特にメロディは、いつもと様子が違っていた。訓練に集中しているものの、どこかソワソワし、時折、仲間同士で目配せをしたり、小声で何かを話し合ったりしているのが分かる。

その微妙な変化に気づいたのは、彼らと打ち解け、一緒に訓練する時間も増えていたヨーゼフだった。彼は、気のコントロールの練習を続けながらも、子供たちの様子を観察していた。

(…何か企んでるな、あのガキども。特に、あの気の強い娘っ子…妙に張り切っている)

訓練が終わると、子供たちはそそくさと訓練場を出て行った。ヨーゼフは、ふと気になり、彼らに気づかれないように、付け出した。 


側面からメロディやタロッチたちが、如何にも戦いに行く時の様な只ならぬ雰囲気で、歩く姿を見掛けた、銀髪のファング、素早い動きが特徴の少女カリーナ、力自慢の少年キッコリー、そして冷静沈着なスパイク。彼らスチール・クロウの主要メンバーたちは、「あいつらまさか!」 「あれは絶対乗り込む気のようね」 「ほんとにやるつもりなのかよ。」「俺たち、負けっぱなしでかっこわりぃな。」等と言いながら、やはり気になるのか、少し離れた位置取りから注意しながら、タロッチたちを付け始めた。 

ゴースト・ナンバーズに敗北し、縄張りを追われた彼らは、偶然、タロッチたちの只ならぬ様子を見かけて、後を付け始めていた。


「…あいつら、ゴースト・ナンバーズに喧嘩売る気か?」カリーナが呟く。

「無茶だ。俺たちでさえ、あの『ナンバーズ』には…」キッコリーが悔しそうに言う。

「…だが、あいつら、以前戦った時とは雰囲気が違う」スパイクが冷静に分析する。「何かあったのかもしれん」

ファングは黙って、タロッチたちが東地区へ向かう背中を見つめていた。その目には、悔しさだけでなく、わずかな好奇心も浮かんでいた。(あいつら…どこまでやる気だ?) ファングは、他の三人に目配せした。「…行くぞ。少し、様子を見る」 スティール・クロウの四人もまた、音もなくタロッチたちの後を追った。



子供たちは、いつもの縄張りではなく、ゴースト・ナンバーズが支配するという地区へと向かっている。

やがて、彼らは広場のような場所で、ゴースト・ナンバーズの集団と対峙した。中央には、リーダー格の少年と、明らかに他のメンバーとは雰囲気の違う四人の少年少女――『ナンバーズ』だろう――が立ちはだかっている。

「よう、昨日の奴らか。また喧嘩売りに来たのかよ?」ナンバーズの一人、鋭い目つきの少年が挑発する。

「ふん、あんたたちに挑戦しに来たのよ!」メロディが一歩前に出て、三節棍を構えた。「ナンバーズとかいう強いのが四人いるんだって? 上等じゃない! あたしたちも四人よ! 一人ずつ、タイマンで勝負しなさい!」


ヨーゼフは物陰からその様子を見守っていた。(おいおい、無茶だぞ、あいつら…)ラバァルからは子供たちの喧嘩には手を出すなと言われている。彼はじっと堪え、戦いを見守ることにした。

メロディ対ナンバーズの一人(鞭使いの少女)、ラモン対ナンバーズの一人(小柄で俊敏な少年)、ウィロー対ナンバーズの一人(大柄な力自慢)、そしてタロッチ対リーダー格のナンバーズ(鋭い蹴り技の使い手)。四組のタイマン勝負が始まった。

戦いは熾烈を極めた。ナンバーズのメンバーは、ファングが言った通り、個々の能力が非常に高く、動きも洗練されている。しかし、ラバァル直々の厳しい特訓を受けているタロッチたちも、以前とは比較にならないほど成長していた。

メロディは三節棍を巧みに操り、鞭の攻撃を捌きながら懐に飛び込み、打撃を加える。ラモンは持ち前のスピードと撹乱戦法で相手を翻弄し、一瞬の隙を突いて攻撃を当てる。ウィローはリーチと防御で相手のパワーを受け止め、粘り強く戦う。そしてタロッチは、リーダー格のナンバーズと、互角の打撃戦を繰り広げていた。

彼らは傷つき、倒れ、それでも立ち上がり、必死に食らいついた。毎日の過酷な修練で培われた根性と、仲間への信頼が彼らを支える。そして、ついに、激闘の末、タロッチ、メロディ、ラモン、ウィローは、それぞれが対峙したナンバーズを打ち破ることに成功したのだ!


「やった…! 勝った…!」

四人は、息も絶え絶えになりながらも、勝利の雄叫びを上げた。

しかし、ゴースト・ナンバーズは、幹部であるナンバーズが敗北しても、素直に負けを認めなかった。

「ナンバーズがやられただと!?」

「ふざけんな! 全員でかかれ! あの生意気なガキどもを潰せ!」

リーダー格の少年(ナンバーズに敗れた者とは別の、一般メンバーのリーダー)が叫ぶと、残っていた二十人以上のメンバーたちが、一斉にタロッチたち四人に襲いかかってきた!


「なっ…! 卑怯だぞ! タイマンじゃなかったのかよ!」ラモンが叫ぶが、相手は聞く耳を持たない。

多勢に無勢。しかも、四人はナンバーズとの戦いで既に満身創痍だ。あっという間に囲まれ、数の暴力に晒される。連携を取ろうにも、四方八方から襲い来る攻撃に、次第に動きが乱れていく。

「チッ…やっぱりこうなったか。多勢に無勢で袋叩きとは、とことん卑怯な奴らだ!」

その時、鋭い声と共に物陰から飛び出してきたのは、ファング率いるスチール・クロウの四人だった! 彼らはタロッチたちのナンバーズとの激闘、そしてその後のゴースト・ナンバーズの卑劣な行いを、ずっと見ていたのだ。タロッチたちの成長と根性に感服し、そしてこの状況を見過ごすことは、彼らのプライドが許さなかった。


「ファング!?」タロッチが驚きの声を上げる。

「いつまでも見てられねえんでな。それに、お前らにはまだ『借り』がある」ファングはニヤリと笑うと、ゴースト・ナンバーズの集団へと疾風のように突っ込んでいった!

「うおおお!」力自慢のキッコリーが咆哮し、敵を薙ぎ払う!

「援護する!」素早いカリーナが側面から敵を撹乱し、冷静なスパイクが的確に指示を飛ばす!

スチール・クロウの突然の加勢に、ゴースト・ナンバーズは混乱した。タロッチたちも、強力な援軍の登場に士気を取り戻す!


「よし、行くぞお前ら! ファングたちに遅れを取るな!」タロッチが叫ぶ。

タロッチ組とスチール・クロウ組、合わせて八人の子供たち。数は依然として不利だが、二つのチームが互いを補い合うように連携し始めたことで、戦況は一変した。ファングとタロッチが前線で敵を切り崩し、ウィローとキッコリーが壁となり、ラモンとカリーナが撹乱し、メロディとスパイクが遊撃と指揮を執る。個々の実力も連携も格段に上がった彼らの猛攻の前に、数だけが取り柄のゴースト・ナンバーズの一般メンバーは、なすすべなく次々と打ち倒されていく。


「くそっ、強い…!」

「逃げろ!」

ゴースト・ナンバーズの連中は戦意を喪失し、算を乱して逃げ出していったのだ。


「…はぁ…はぁ…やった…のか?」タロッチは、肩で息をしながら、散り散りに逃げていくゴースト・ナンバーズの背中を見送った。

「ああ…みたいだな」隣で同じく息を切らしているファングが応じた。「しぶといだけの連中だったが…数が多くて骨が折れたぜ」

タロッチ組とスチール・クロウ組、合わせて八人の子供たちは、互いの健闘を称えるように視線を交わした。ボロボロで、満身創痍だったが、その表情には確かな達成感と、生まれたばかりの奇妙な連帯感が浮かんでいた。


その様子を、物陰からずっと見守っていたヨーゼフは、静かにその場を立ち去ろうとしていた。(…見事なもんだ。子供たちだけで、あれだけの数を退けるとは。特にあの二つのグループが組んだ時の力は、予想以上だったな。俺が出る幕はなかったようだ)彼は、子供たちの成長を認め、満足げに頷くと、誰にも気づかれずに闇へと紛れようとした。


広場では、勝利の興奮が冷めやらぬ中、タロッチがファングに歩み寄った。

「…ファング、助かったぜ。お前らが来てくれなかったら、やばかった」

「ふん、借りは返しただけだ」ファングはぶっきらぼうに答えながらも、その声には敵意はなかった。「それより、お前ら…いつの間に、あんなに強くなったんだ? 特に、お前たちの連携…以前とは比べ物にならん」


ファングの仲間たち、カリーナ、キッコリー、スパイクも、興味深そうにタロッチたちを見ている。ナンバーズを倒した個々の実力もさることながら、チームとしての動きが格段に向上していることに驚いていたのだ。


「へへん、まあな!」タロッチは得意げに胸を張った。「実は、俺たち、すげえ人に特訓してもらってるんだ!」

「特訓?」

タロッチは、少し声を潜めて続けた。「ああ。ラバァルっていう…なんだかよく分かんねえけど、メチャクチャ強い人にさ。新しい訓練場で、毎日しごかれてるんだ」

ウィローやラモン、メロディも頷く。


「あの人の訓練、マジで地獄だけどな…」ラモンが付け加える。

「でも、おかげでナンバーズにも勝てた!」メロディが誇らしげに言う。

その話を聞いたファングたちの目の色が変わった。彼らも、ゴースト・ナンバーズに敗れた後、どうすれば強くなれるのか、ずっと考えていたのだ。


「ラバァル…その人、俺たちも会えるか?」ファングが、真剣な表情でタロッチに尋ねた。「俺たちも、もっと強くなりたいんだ! ゴースト・ナンバーズに、このままやられっぱなしじゃ終われねえ!」

カリーナたち他のメンバーも、必死な目でタロッチを見つめている。

タロッチは、ファングたちの真剣な眼差しに、少し戸惑った。ラバァルは気まぐれで、何を考えているか分からない。自分たち以外を指導してくれる保証はない。だが、共に戦い、互いを認め合った仲間からの頼みを、無下にはできなかった。


「…分かった。ラバァルが特訓してくれるかどうかは、正直分かんねえ。あの人は忙しいし、気分屋だからな。でも…俺たちが使ってる訓練場、あそこなら、たぶん一緒に入っても怒られねえと思う。一緒に練習するくらいなら、許してもらえるかもしれん」

「本当か!?」ファングたちの顔が輝く。

「ああ。明日から、俺たちと一緒に来てみろよ。ラバァルに会えたら、俺からも頼んでみる」

「恩に着るぜ、タロッチ!」

こうして、タロッチ組とスチール・クロウ組は、単なる同盟関係から一歩進んで、共に強さを求める仲間となった。彼らは互いの傷を手当てしながら、明日からの新たな訓練への期待に胸を膨らませる。



「よし、今日はもう解散だ! 明日、訓練場でな!」

タロッチが言うと、皆が頷き、それぞれのねぐらへと帰ろうとした。スチール・クロウのメンバーも、タロッチたちと一緒に訓練場へ行く約束を取り付け、明日への期待に胸を膨らませていた。

その時だった。

先ほど逃げていったゴースト・ナンバーズのリーダー格の少年が、今度は見るからに危険な雰囲気を纏った大人三名を連れて、彼らの前に再び立ちはだかったのだ。その大人たちの冷たい視線は、傷つき疲弊した子供たち全員に向けられていた。

「…いたぜ、兄貴! こいつらだよ、ナンバーズを倒した生意気なガキどもは!」少年は、タロッチやファングを指さして叫んだ。

連れてこられた大人三名は、薄汚れてはいるが、その目つきや立ち姿は、ただのチンピラではないことを示していた。一人は背中に短いショートソード、一人は腰に複数の短剣、そしてもう一人は、手に奇妙な細い紐のようなものを巻き付けている。


彼らは暗殺団【アウル】の外部協力者であり、ゴースト・ナンバーズ(未来のアウルの候補生)の管理者だった。自分たちの『商品』候補であるゴースト・ナンバーズを打ち負かした上に、ナンバーズまで倒したこの子供たちの才能に目をつけたのだ。そして、その才能ある子供たちを『確保』し、アウルの新たな戦力として育て上げるため、実力行使で攫いに来たのである。


「…なんだよ、あんたら…ガキの喧嘩に大人が出てくんのかよ…!」タロッチは恐怖を感じながらも、仲間たちをかばうように前に出た。ファングも、すぐさま臨戦態勢を取る。他の子供たちも、疲弊した体で武器を構え直すが、相手から放たれる殺気に完全に気圧されていた。

三人の大人は答えない。ただ、子供たちを値踏みするような冷たい視線を向け、ゆっくりと距離を詰めてくる。

「さあ、おとなしくついて来い、ガキども。痛い目見たくなかったらな」短剣使いが、舐めるような口調で言った。

子供たちが絶望的な状況に追い込まれた、その瞬間。


「――待ちな」

低い、しかし重みのある声が響いた。声の主は、いつの間にか子供たちの前に割って入ったヨーゼフだった。彼は、タロッチたちの戦いが終わった後も、彼らが無事に帰路につくのを念のため見守っていたのだ。そして、この大人たちの出現と、その尋常ならざる気配を察知し、再び姿を現したのである。


しかし、以前とは明らかに様子が違った。ヨーゼフから放たれる『気』は、驚くほど抑えられており、まるで少し体格のいいだけの、ただの男のようにしか見えない。この一ヶ月以上の、ラバァルによる(そして子供たちによる?)指導と、彼自身の努力によって、気のコントロールは格段に進歩していたのだ。


「ああん? なんだてめぇは? 部外者はすっこんでろ!」ショートソード使いが、ヨーゼフをただの邪魔者と判断し、威嚇する。アウルの協力者である彼らは、自分たちの実力に絶対的な自信を持っており、気を抑えているヨーゼフの真の実力に全く気づいていなかった。

「その子たちは、俺の知り合いでな。何の用だ?」ヨーゼフは、静かに、しかし鋭い視線を三人に向けた。

「へっ、知り合いだろうが関係ねえ。こいつらは、俺たちが『引き取る』ことになったんだよ。邪魔するなら、てめえから先に片付けるまでだ!」短剣使いが言い放ち、三人は同時にヨーゼフへと襲いかかって来た!


短剣使いが目にも止まらぬ速さで牽制の短剣を投げつけ、ショートソード使いが鋭い突きを繰り出し、紐使いがヨーゼフの足元を狙って鋼線を放つ!熟練した暗殺者たちの、完璧な連携攻撃!子供たちなら一瞬で無力化されていただろう。

しかし、ヨーゼフは動じなかった。

「ちっ…!」

彼は最小限の動きで投げられた短剣を弾き、ショートソードの突きを紙一重でかわし、跳躍して鋼線を避ける。その動きは、以前のような力任せのものではなく、ラバァルを彷彿とさせるような、洗練された体捌きだった。気を抑えることで、彼は力だけでなく、技術と集中力を高めていたのだ。

「なっ!?」三人の刺客は、自分たちの攻撃が容易く捌かれたことに驚愕する。相手がただの巨漢ではないことを、ここでようやく理解したのだ。

「だが、遅い!」

ヨーゼフは、彼らが体勢を立て直す隙を見逃さなかった。力押しではない。相手の動きの『芯』を見極め、最小限の力で、最大の効果を生む一撃を放つ。


まず、短剣使いの懐に一瞬で踏み込み、その鳩尾に強烈な掌底を叩き込む!「ぐぼっ!」短剣使いは短い悲鳴と共に意識を失い、崩れ落ちた。気の奔流ではなく、凝縮された一撃だ。


次に、ショートソード使いが慌てて斬りかかってくるのを、腕で受け流しながら体勢を崩し、がら空きになった脇腹に渾身の肘打ちをめり込ませる!「がはっ!」骨が砕ける鈍い音が響き、男は苦悶の表情で地面に転がった。これも、必要以上の力は使っていない。


最後に、距離を取って鋼線で絡め取ろうとする紐使い。ヨーゼフはその鋼線を掴むと、逆にそれを引っ張り、相手を引き寄せた。そして、驚愕する紐使いの顔面に、狙い澄ました鉄拳を叩き込んだ!「ゴシャッ!」鈍い音と共に、紐使いは鼻骨を砕かれ、その場で昏倒した。


あっという間の出来事だった。ヨーゼフは、かつてのような荒々しい力押しではなく、ラバァルから注意された(であろう)効率的な戦闘術と、自ら磨いた気のコントロールを駆使し、熟練の刺客三人を見事に、しかし再起不能になるであろうダメージを与えて打ち倒したのだ。


ヨーゼフは、倒れた三人を冷ややかに見下ろし、彼らを連れてきたゴースト・ナンバーズの少年を睨みつけた。少年は恐怖に顔を引きつらせ、腰を抜かしていた。

「…お前も、やるか?」ヨーゼフが低い声で問うと、少年は悲鳴を上げて逃げ出していった。

「……」

タロッチたちも、ファングたちも、ヨーゼフのあまりの静かさと、圧倒的な強さに、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「…す、すげぇ…ヨーゼフのおっちゃん…」タロッチが呟く。

ヨーゼフは、ふぅ、と息をつき、抑えていた気を再び穏やかにした。

「…よし、終わった。お前ら、怪我はないか?」彼は子供たちに向き直り、心配そうに尋ねた。

「は、はい…」

「大丈夫です…」


子供たちは、まだ興奮と恐怖から抜け出せない様子だったが、ヨーゼフのおかげで助かったことを理解し、感謝の視線を向けていた。

「ったく、子供を襲うとは物騒な街だ…」ヨーゼフはぼやきながら、再び子供たちを促した。「よし、今度こそ本当に解散だ! さっさと帰るぞ! …腹、減ってないか? 何か奢ってやろう」

ヨーゼフは、少し照れくさそうにそう言うと、子供たちを引き連れて、屋台の方へと歩き出した。子供たちは、ヨーゼフの強さと優しさに触れ、今日の出来事を興奮気味に語り合いながら、彼の後をついていく。アウルによる拉致の危機は去ったが、この一件は、彼らの中に新たな決意と、ヨーゼフという頼れる存在への信頼を、深く刻み込むことになった。

  




最後まで読んで下さりありがとうございます、またつづきを見掛けたら読んでみて下さい。

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