灰色の巨都、ロット・ノット その8
キーウィ構成員たちの怪我の状態を見て、ラバァルは、早期にオーメンたちを鍛えれる訓練施設の建設を望んでいた。その為ウィッシュボーンらが居るオーメンのアジトへ、ボンサックを担ぎ向かった。
その105
シュガーボム、ラバァルの部屋
作戦から戻ったラバァルは、部屋でベルコンスタンの報告を受けていた。
「…ラバァル様、作戦は成功いたしました。ムーメンの連中は壊滅させ、荷馬車は無事、目的地へ到着したようです。ですが…」ベルコンスタンは声を潜める。「ボルコフの報告によると、敵の中に強力な変身能力を持つ者がおり、我々のメンバーも数名が重傷を負いました。ボルコフ自身も危ういところだったと…しかし、正体不明の何者かがその強敵を一瞬で仕留め、姿を消した、とのことです…」
ベルコンスタンは探るような目でラバァルを見つめる。
「ほう、正体不明の何者か、ね」俺は、表情を変えずに応じた。「運が良かったな、お前の部下たちは。それで、ムーメン側の反応は?」
「今のところ、表立った動きはありません。おそらく、何が起こったのか把握できていないのでしょう。計画が外部に漏れていたのか、あるいは別の組織の介入があったのか…疑心暗鬼になっているはずです」
「結構なことだ。しばらくは大人しくしているだろう」俺は頷いた。「負傷者の手当ては怠るな。ボルコフには、よくやったと伝えておけ。だが、今回の件で油断するなともな」
「はっ! かしこまりました!」
ベルコンスタンが退出した後、俺は一人、窓の外を見た。
(変身能力持ちか…ムーメンも厄介な手を隠している。キーウィの連中だけでは、いずれ限界が来るな。やはり、オーメンの連中も鍛え上げ、数を揃える必要がある。そして変身能力持ちの様な強敵への対策も必要となって来るだろう、何時も俺が付いてる訳にはいかんのだからな)
今回の作戦は、ベスウォール家の問題を解決するという目的は達成したが、同時に新たな課題も浮き彫りにした。ロットノットの裏社会は、想像以上に複雑で全部を把握するにはかなり掛かる事に成るだろう。
キーウィの主力戦闘員だったヨーゼフはまだまだ回復に時間がかかる、先のムーメン家への報復作戦では、ボルコフを含む精鋭メンバーの多くが重傷を負ったのだ。シュガーボムの戦力は、ラバァルの想定以上に消耗してしまっている。
(これでは、一つ事を起こす度に回復を待たねばならん。これほど戦闘が頻発する街で、これでは話にならんな…)
ラバァルはシュガーボム内の自室で、ベルコンスタンからの負傷者リストを眺めながら舌打ちした。マルティーナの様な回復魔法を使える者がいれば、状況は大きく変わる。ロットノットでは教会や神官を見かけない、とベルコンスタンは言っていたが、本当にそうなのか? この街のどこかに、傷を癒す力を持つ者がいるはずだ。
(何とかして、回復役を雇い入れるか、あるいは…『確保』する必要がある)
ラバァルは新たな目標を定め、思考を巡らせ始めた。
ヨーゼフとの激闘から五日が過ぎ、シュガーボムは表向きの日常を取り戻しつつあった。壊れた賭博テーブルは新調され、血痕も綺麗に拭き取られ、今夜からまた、怪しげな客たちが集い、騒々しい活気に満ちている。ラバァルは、その喧騒の中を、特に目的もなく見て回っていた。彼は従業員たちからは「ベルコンスタンのお客人」として認識されており、キーウィの末端構成員たちも同様だ。ベルコンスタンは依然としてボスとして振る舞う様にと言ってあり、ラバァルの存在は客人として認識されていた。
そんなラバァルが、賭場の片隅にあるカウンターで一人、静かに酒を飲んでいると、ふらりとした足取りで見知らぬ女が近づいてきた。年は二十代半ばだろうか。身なりは悪くないが、どこかだらしなく、既にかなり酔っているようだ。
「ねぇ、あなた。さっきからずっと一人で飲んでるじゃない。退屈しのぎに、私にも一杯おごってよ」
馴れ馴れしく声をかけてきた女に、ラバァルは一瞬、鋭い視線を向けた。普通ならその視線だけで怯んで逃げ出すところだが、女は全く動じない。それどころか、ラバァルが確保していた酒のボトルを勝手に掴むと、どこからか持ってきた自分のグラスになみなみと注ぎ始めた。
「おい…」ラバァルが咎める間もなく、女は「ん~、いい香り!」などと言いながら、グラスを一気に呷った。「ぷはぁーっ!」
(…なんだこいつは。随分と厚かましい女だな)
ラバァルは呆れを通り越して、ある種の感心すら覚えていた。このシュガーボムで、しかも初対面の(しかも見るからにカタギではない)男に、これほど大胆に絡んでくる女は珍しい。
「お前、名前は?」思わず尋ねていた。
「あら? ふふ、興味持っちゃった?」女はケラケラと笑いながら、悪びれもなく答える。「まあ、いいわ。教えてあげる。私の名前はクレセント。二度は言わないから!」
そう言うと、彼女はまた勝手にボトルから酒を自分のグラスに満たし、美味そうに飲み干した。「ぷはぁぁぁぁ、やっぱりここのお酒は最高ねぇ!」
そのあまりにも自由奔放な姿に、ラバァルは思わず苦笑した。(変人…というより、ただの酔っ払いか? だが、妙な度胸はある)彼の中の警戒心は薄れ、むしろこの奇妙な女に対するわずかな面白さが勝っていた。最初に見せた鋭い雰囲気は消え、どこか柔らかな表情になっていることに、クレセントも気づいたのかもしれない。彼女は気を良くしたのか、黙ってもう一杯注ごうとする。
「おい、自分のグラスにだけ注ぐな、俺のグラスにも注げ」ラバァルはそう言い、彼女が傍にいることを暗に了承する。
「へーい、りょーかい!」クレセントは上機嫌で、ラバァルのグラスにも酒を注ぎ入れる。
その時だった。店のマスターを任されているハウンド(ベルコンスタンの部下の一人だ)が、険しい顔で近づいてきた。彼はクレセントの襟首を乱暴に掴むと、ラバァルに向かって深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、お客様! こいつがご迷惑をおかけしたようで…! 新しいボトルはすぐにこちらへ。こいつは外へつまみ出しますので!」
「あらら~、ハウンドったら無粋ねぇ~」クレセントは酔った声で抵抗するが、ハウンドは構わず彼女を引きずっていこうとする。ラバァルは、特に止めるでもなく、その様子を黙って見ていた。(やれやれ、騒がしいのがいなくなったか)そう思い、再び静かにグラスを傾けようとした。
シュガーボム裏口付近
「ちょっと、離しなさいよ、この馬鹿力!」店の裏口まで引きずられたクレセントが、ハウンドの手を振り払おうともがく。
「客に絡むなといつも言ってるだろうが、クレセント! 特に、あの方はベルコンスタン様の大事なお客様なんだぞ!」ハウンドは声を潜めながらも、厳しい口調で叱責する。
「だってぇ、お酒買うお金、もうないんだもーん。誰かにおごってもらうしかないじゃない!」クレセントは悪びれもせず言い返す。
「あのなぁ…頼むから、この店で問題を起こさないでくれ。俺の評価にも関わるんだよ」ハウンドはため息をついた。「今夜はもう帰れ。分かったな?」
「わーった、わーったわよぉ! ケチ!」クレセントはべーっと舌を出すと、千鳥足で夜の闇へと消えていった。ハウンドは、やれやれと首を振りながら店の中へ戻った。
ロットノット、旧市街北西部・隠れ家
酔い覚めやらぬ足取りで、クレセントは慣れた様子で旧市街の北西部エリアへと向かっていた。沈黙ブロックとあだ名される人通りの少ない路地を抜け「囁きの路地」の奥にひっそりと壊れた石の建物がある、 彼女はその建物の前にたどり着いた。表向きは寂れた倉庫のように見えるが、彼女は迷わず脇の小さな扉を開け、中へと入る。内部は薄暗く、埃っぽい。だが、彼女は壁の一部に手をかけると、隠された仕掛けが作動し、地下へと続く階段が現れた。
湿った冷たい空気の中、螺旋階段を降りていく。やがて、地下深くとは思えない、清浄な空気に満ちた空間に出た。そこは、およそ20メートル×30メートルほどある広さを持つ石造りの広間だった。壁には美しいステンドグラス(ただし、外からの光は届かないため、内部のランプの光を反射している)が嵌められ、中央奥には、慈愛に満ちた表情を浮かべる女性神の石像が安置されている。祭壇には清められた水と、季節の花が供えられ、紛れもなく、ここは神を祀るための聖堂だった。
「…光の神、ラーナ様の御前で、またそのような姿を…クレセント!」
クレセントが広間に入るとすぐに、祭壇の近くで祈りを捧げていた、白い清廉な法衣を纏った女性に鋭く声をかけられた。テレサ司祭(30歳)、この隠れ聖堂を前任者より託された現責任者だ。
クレセントは、しまったという顔で逃げ出そうとしたが、すぐにテレサに腕を掴まれた。酒の匂いをぷんぷんさせている。
「またどこかで飲んだくれていたのですね! いい加減になさい!」
「ひっく…だ、だって、飲みたかったんだもん…それに、今日はお金なくって…」
「あなたは飲んでいるのではなく、お酒に飲まれているのです! ラーナ様の教えを忘れたのですか! 清貧と節制、そして他者への奉仕こそが…」
テレサが厳しく説教を始めようとしたが、クレセントは聞く耳を持たない。
「はいはい、分かってまーす。テレサ姉のお説教は、いっつも長いのよねぇ~」そう言うと、掴まれた腕を振りほどき、奥にあるであろう自分の寝床へとふらふらと向かってしまった。
「もぅ…あの子ったら、いつになったら更生してくれるのでしょう…」テレサは深いため息をつき、眉間に皺を寄せた。「ああ、偉大なるラーナ様、どうかあの子にもあなたの光をお示しください。迷える子羊を、正しい道へと導きたまえ…」
彼女は再びラーナの石像の前に跪き、近くで心配そうに様子を見ていた他の数名の信者たちと共に、静かに祈りを再開する。この腐敗と暴力に満ちたロットノットの地下深くで、彼らは密かに光の女神への信仰を守り続けていたのだ。
旧市街でラバァルとウィッシュボーン
翌日の昼過ぎ、ラバァルは旧市街にあるオーメンのアジトを訪れていた。アジトの中庭では、ウィッシュボーンの指示の下、オーメンのメンバーたちが基礎的な体力訓練や打ち込み稽古に励んでいる。以前の無気力なチンピラ集団とは、少しずつだが雰囲気が変わり始めていた。ラバァルは、アジトの一室でウィッシュボーンから報告を受けていた。議題は、以前ラバァルが命じていた訓練場の確保についてだ。
「…というわけで、スラムの南東区画にある古いレンガ造りの倉庫ですが、持ち主と交渉しまして、なんとか」ウィッシュボーンは、一枚の古びた見取り図をテーブルに広げながら説明する。
「ん? すると、3000ゴールドあれば、その倉庫と土地を丸ごと買い取れる、ということだな?」ラバァルは見取り図を眺めながら確認した。思ったよりしっかりした建物だ。
「はい。それも、ただ買い取るだけでなく、簡単な補強と床の張り替えなど、道場として最低限使えるようにするためのリフォーム代も含めて、その値段で話をつけました」ウィッシュボーンは少し得意げに付け加えた。
「ほう、随分と安く見つけてきたじゃないか」ラバァルは感心したように言った。このスラムでまともな建物を手に入れるのは、金だけでなくコネや交渉力も必要だろう。ウィッシュボーンは、元オーメンのボスとしての経験が生きているようだ。
「まあ、あくまで最低限の改修ですから。もっと頑丈な床にしたり、訓練用の設備を整えたり、住み込み用の部屋を作ったりするなら、どんどん費用はかさみますが…」
「ふむ、分かった。まずは最低限でいい。後で必要なら追加すればいいだけだ。それで、そのリフォームを請け負ってくれる業者とは、どこで会える?」
「はい、闇市に店を構えている『ゴブリンズ・ハンマー』という工務店です。腕は確かですが、少々変わり者が多いと評判でして…よろしければ、今からご案内しますが」
「よし、行こう。善は急げだ」ラバァルは即座に立ち上がった。オーメンの連中を早く本格的に鍛え上げるためには、しっかりとした訓練場が不可欠だ。
ラバァルはウィッシュボーンを伴い、再びあの活気と危険が同居する闇市へと足を踏み入れた。昼間だというのに、地下空間は薄暗く、怪しげなランプの光が商品を照らし、様々な人種や身なりの者たちが行き交っている。ウィッシュボーンは慣れた様子で人混みをかき分け、闇市の一角、比較的まともな(といっても、やはりどこか胡散臭い)職人系の店が並ぶエリアへとラバァルを案内した。
この地下空間の壁や柱のいくつかには、明らかに現在の建築様式とは異なる、奇妙な幾何学模様や未知の文字のようなものが刻まれているのが見て取れた。ロットノットの地下に眠るという、三千年以上前の古代文明の遺跡。その片鱗が、この闇市には無造作に残されているのかもしれない。行き交う人々のほとんどは気にも留めていないようだが、ラバァルはその異質な意匠に、一瞬だけ意識を向けた。(この街の地下には、まだ多くの秘密が眠っていそうだな…)
やがて、一つの店の前で足を止めた。看板には、金槌を振るうゴブリンの姿と共に『ゴブリンズ・ハンマー工務店』と乱暴な字体で書かれている。店先には、用途不明の金属部品や、古びた木材、奇妙な工具などが山積みになっていた。
「ここです。親方は中にいるはずですが…」ウィッシュボーンが言い終わるか終わらないかのうちに、店の中から、油と汗にまみれた作業着を着た、背の低い小柄な男が顔を出した。見た目は人間だが、尖った耳と緑がかった肌、そして何より、その道の修羅場をいくつも潜り抜けてきたかのような、鋭く、一切の揺らぎがない強い意志を宿した目が印象的だ。ゴブリンの血を引いているのは間違いないが、ただの職人ではない雰囲気を漂わせている。
「…あぁ? ウィッシュボーンじゃねえか。何の用だ? まさか、あの倉庫の話、もう決まったのか?」男――親方のゴードック――は、ぶっきらぼうだが、妙な貫禄のある声で尋ねた。
「そうだ、ゴードック親方。話はまとまった。それで、こっちの旦那が、その倉庫の改修を正式にあんたに頼みたいそうだ」ウィッシュボーンは、やや敬意を込めてラバァルを紹介する。
ゴードックは、ラバァルの全身を、値踏みするというよりは、まるで未知の素材でも鑑定するかのように、鋭い眼光で上から下までじっくりと観察した。ラバァルが放つ尋常ならざる雰囲気にも、全く臆する様子はない。
「…ほう。あんたがウィッシュボーンの新しい雇い主かい。ただ見てるだけですげぇ威圧感じゃねぇか、一体何者なんだよウィッシュボーン?」 ウィッシュボーンはキーウィの客人だと紹介、ラバァルも「そうだ。」と短く答えた。
で、あのボロ倉庫を訓練施設なんかにするって? 物好きなこった。まあ、どんな仕事だろうが、請けたからにゃ最高のモンを作ってやるのが俺の流儀だがね」ゴードックは悪態をつきながらも、その目には確かな職人としての自信がみなぎっていた。
「最高のモン、か。いいだろう」ラバァルはゴードックの目を真っ直ぐに見据え返した。「あんたの仕事は、俺が満足するように、あの倉庫を頑丈で使いやすい訓練場に作り替えること。口先だけでなく、腕でそれを示せるか?」
ラバァルの言葉には、暗黙の威圧感が込められていた。常人ならば気圧され、視線を逸らすであろうその圧力を、ゴードックは真正面から受け止め、逆に挑戦的な笑みを浮かべる。
「へっ、威勢がいいじゃねえか、若いの。面白い。ゴブリンズ・ハンマーの名にかけて、そこらの連中が作るような安普請じゃねえ、本物の仕事を見せてやるよ。ただし、最高の仕事には最高の対価が必要だ。それは分かってるんだろうな?」
その態度は、単なる強がりではない。己の腕に対する絶対的な自信と、どんな相手だろうと対等に渡り合おうとする、職人としての、あるいは一人の剛の者としての矜持が感じられた。
(…こいつは面白い。ただの職人じゃないな。使えるかもしれん)
ラバァルは、ゴードックという男に興味を持った。そして、彼の実力を試してみたくなったのだ。
「金は払うと言ったはずだ。だが、手抜きや遅延は許さんぞ」ラバァルはそう前置きし、
背負っていたボンサックから金貨が入った袋を取り出し作業台の上にじゃらじゃらと置き始めた。
そして、先ほどウィッシュボーンと話していた額の倍を提示、先ずは前金だと言い金貨を鷲掴みして作業台にどんどん置いて行く、ウィッシュボーンは、慌てて20枚づつ積み重ね綺麗に積んでいく、そして金貨3000枚が山の様に積み上げられると。
「!」ゴードックもウィッシュボーンも、その金額に目を見張る。
「これは前金だ」ラバァルは言った。「3000ゴールドあれば最低限の改修ができると言ったな? ならば、倍の6000ゴールドで、最低限ではなく、『俺が満足するレベル』の訓練場を作ってもらおうか。予算はくれてやる。材料も、工法も、あんたに任せる。その代わり、俺を驚かせるような、あんたの『最高の仕事』とやらを見せてみろ。できるか、ゴードック?」
ラバァルの言葉は、単なる発注ではない。それは、ゴードックの職人としてのプライドへの挑戦であり、期待であり、そして無言の圧力だった。
ゴードックは、山積みの金貨とラバァルの顔を交互に見た。そして、しばしの沈黙の後、カカッ、と乾いた笑い声を上げた。その目には、困難な挑戦に対する興奮と、職人魂に火がついたような闘志が燃えていた。
「……クックック…面白い! 実に面白いじゃねえか、あんた! よかろう! そこまで言われたからにゃ、半端な仕事はできねえな! 前金の3000ゴールド、確かに受け取った! この金に見合う、いや、それ以上のモンを必ず作り上げてやる! あんたをギャフンと言わせるような、最高の道場をな! 楽しみに待ってな!」
ゴードックは金貨を数えながら袋に入れて行く、まるで宝物でも扱うかのように、しかし力強く頷いた。その顔には、もはや先程までの悪態はなく、一流の職人が大仕事に挑む際の真剣な表情が浮かんでいた。
「よし。では、契約成立だ。残りの報酬は、仕事が完了し、俺が『満足』した時に払う。いつから取り掛かれる?」
「おうよ! 資材の手配もあるから、明後日からだ! 工期は…そうだな、この予算なら、もっと凝ったこともできる。しっかりした基礎から叩き直して、最高の床材を使い、壁も補強し…ふむ、一月…いや、三週間もあれば、見違えるようなモンができるだろう!」ゴードックは既に頭の中で設計図を描き始めているようだ。
「分かった。期待しているぞ」ラバァルは短く告げた。「ウィッシュボーン、お前が現場の連絡役と監督だ。ゴードック親方の邪魔にならない範囲で、進捗を俺に報告しろ」
「はっ! 承知いたしました!」ウィッシュボーンは、予想外の展開に興奮を隠せない様子で力強く頷いた。
こうして、オーメンの訓練場建設計画は、ラバァルの大胆な投資と、ゴードックという気骨ある職人の参加によって、当初の予定を大きく超える規模で動き出すことになった。ラバァルは、このゴードックとの出会いが、単なる訓練場建設以上の意味を持つかもしれないと感じていた。
最後まで読んでくれありがとう、引き続き自話を見掛けたらまた読んでみて下さい。




