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1話

──時を遡ること、三年前。


「き、君は、歴代最強の聖女なのだから、僕の力なんか使わなくても魔王くらい倒せるだろう!」


震える声でそう叫んだのは、ルートリヒ王国が魔王を討伐すべく派遣した勇者様──エドワルド・グラニールだ。


聖剣・エクスカリバーを持ち、見事の金髪と空色の瞳を重装備の下に隠した彼は、()()()で誰よりも先頭に立っていなければならないはずだった。それなのにどういうわけか、戦闘職ではないわたし──アナスタシア・リーンの遙か後方で、お気に入りの魔道士を背に庇い、こちらを睨みつけている。


よりにもよって、()()()()()()()()()()()()で。


(たしかに、貴族家出身で、脳内お花畑っぽいなぁとは思っていたけど……)


「まさか……ここまで阿呆だとは思わなかった」


今、言ったのはわたしではない。たしかに喉まで出かかっていたけど、断じて違う。

今のは、わたしの隣で頭を抱えている賢者・エルドン・グラハムの発言だ。


「アナスタシア様は聖女だ。いくらその力が歴代最強だからといって、勇者の力無しに魔王を討伐などできるはずないだろう!」


──全くもってその通りだ。もっと言え。

心の中で声援を送りながらことの成り行きを見守っていると、勇者の背に庇われていた女性魔道士──ルーナ・ケインが、上目遣いにこちらを見回しながら。おずおずと口を開いた。


「あのぉ……でも、エド様にもしものことがあったらぁ、それこそ大変なんじゃないですかぁ?」


「……それはどういう意味だ、ケイン嬢ちゃん」


唸るような声で問いかけたのは、ルートリヒ王国の騎士団長・ベルトルト・ビッツィー。

彼もまた、エルドンと同じような……いや、それよりも厳しい表情をしている。


「えっとぉ、エド様がいないと魔王が倒せないのに、無理したりして怪我でもしたら大変だなぁって。それにぃ、勇者だからって危ない目に合うなんて、エド様だけ可哀想」


「そ、そうだ! ルーナの言う通りだ!」


「心配ねえだろ。エドワルドには、女神セルニアの加護がついてるんだ。相手が魔王でもそう簡単に怪我なんてしねえし、怪我しても聖女であるシアが治癒してくれる」


「で、でも、僕は怪我をしたくない……! 痛いのは嫌いなんだ! それで怖くなって剣を握れなくなったら、それこそマズいんじゃないのか!?」


「そうですぅ。それにシア様はいっつも一番後ろで安全なところにいるんですからぁ、こういう時くらい先頭に立ってぇ、いいとこ見せないとダメなんじゃないですかぁ?」


水を打ったような静けさとはよく言うけれど、今が正にそれだろう。


(いつも一番後ろにいるって……)


回復魔法や防御魔法を使えるわたしが、最前線に立って一番最初にやられたら、ここに居る意味がない。

そんなことは、彼らだって分かっているはずだろうに……。


「お前ら馬鹿か? んなコトしたら、みーんな共倒れで終わっちまうだろうが」


「そうです。まさか、そんなことも分からないだなんて言いませんよね?」


「そ、それは……僕だってわかっている!」


「それならどうして……」


「……っ、それは……」


「それは?」


「う、うるさい、うるさい! これは僕の……勇者様の命令だぞ!」


女神セルニアは、何故こんな男を勇者に選んだのだろうか。いや、理由はなんとなく分かっている。

このエドワルドという男は、馬鹿みたいに強い。騎士団長であるベルトルトでさえ、簡単に打ち負かされてしまうくらいには強い。

ならどうして、こんなに臆病なのかというと、彼が強くなった理由を聞けば全てが分かる。


『痛いのが嫌だから、痛めつけられる前に相手を倒せるようになるしかないと思った』


要するに、やられる前にやっちまえって事だったらしい。

女神の勇者選考基準には『人柄』という項目がなかったのだろう。本当に悔やまれる。次からは是非、人柄項目を追加して欲しい。切実に。

まあそれはいいとして、だ。


「ここまで来て、そんなことを言われてもこまります、エドワルド様。パーティーが総崩れになってしまっては、何の意味もないでしょう」


「だ、だからって僕に盾になれって言うのか! お前、それでも聖女か!?」


(面倒くさいわね)


ここでこうしている間にも、扉を突き破って魔王の攻撃が飛んでくるかもしれないのだ。それなのに『痛いのが嫌だから戦わない』なんて言っていられない。どんなに阿呆でも、その腕にはこの国の未来がかかっている。

けれどエドワルドは、まるで子供のようにぶんぶんと首を横に振った。


「きょ、今日はいかない! っていうか、こんなおどろおどろしい場所だなんて知ってたら来なかった! 僕は帰る!」


「えっ、ちょっ……エドワルド様!」


わたしたちが呼びかけるのを無視して、彼はルーナの手を引き来た道を戻っていく。

あまりに信じがたい光景に、引き留めることも忘れて、わたしは唖然として立ち尽くすしかなかった。

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