あんたが死んでから
あんたが死んでからもう何年たつ?7年?
ろくな死にかたしないと思ってたけど やっぱりねって死に方だったね。
がばがば酒飲んで、ばかばかタバコ吸って、これぞ「昭和の男」ってなこと言ってるから、こうなるんだ。
残された家族のこと今、どう思ってんのよ。
嫁はパートでレジ打ってたの、急に世帯主になって、フルタイムで働かなきゃとか、
保険金があるからしばらくは大丈夫だけど、一人娘は小学生よ。息子でなくてよかったとか、
夏に毎年行ったキャンプ無理だろ、私一人じゃとか、
ほら、温泉は同性だから一緒に入れるから良かったわ。
おかしいな。こんなに早くシングルマザーになる予定じゃなかったのに。
定年離婚とか、考えたことは無きにしも非ずよ。普通でしょ。
また来るってさ。
あんたの友達よ。あの、幼馴染3人?
小学校からの付き合いだとかいう。
毎年命日付近に示し合わせて……誘い合って御出でになる。
何なのよ…あんたらそんな仲良かったわけ?
家族ぐるみの付き合いとか、したことないけど。一回もな。
私一人で相手すんのプレッシャーで、胃がキリキリするのよ。
考えてもみ?
みんな知らんおっさんよ。
娘に面影でも重ねるわけ?ひんしゅく買うわよ。
目元が似てるなぁとか言われたら、ダッシュで整形に行くわよ。
一重気にしてるんだから。
乙女心の分からなそうなとこ、さすがあんたの友達って感じだわ。
「俺の中では一番かわいい。」
それは、決して褒めてないからな!!
決して!!
だいたい、奥さん奥さんて、
もう奥さんじゃないし!我が大奥は潰えたり!
大黒柱はいまや土の中。芽吹いて7年の若木が必死で支えてるっつーの。
あーあ
韓流スターみたいなイケメンがプロポーズしてくんないかな。
いや、
結婚はもういいか。重責が伴うからな。
恋人にほしいヨネ―
目の保養シタイヨネ―
アーソロソロシニタイヨネー
コドモモヒトリデナンデモデキルトシダシネ―
サミシガッテモコマリワシナイ
イや
案ガイ困るカ
結婚するトカ 出産するトカ その時は
親族席に遺影二つとか……
しかもその遺影、私のほうが年くってんじゃん。無いわ―。
初めての子育て、どんだけ母親の手が有難かったか…
あーッ
まだ死ねない。
出来れば、疎まれる前の、惜しまれるタイミングで死にたい。
そんなうまくは行かないって、重々知ってるけどさ。
思えばアンタ良い死に方だったよ。
朝起きて、トイレでぽっくりって、何だよ!
ボケる事も、弱ることも、長患いすることも、ぜ―――んぶすっ飛ばしてさぁ
ぽっくりって!!
いっそ羨ましいわ!
その分私が苦労してっけどな!!
なにが「一生守る。」だ。
お前の一生私の一生より短すぎたな!私の残りの一生どう守るのさ!
嘘つきめ!絶対許さん。絶対文句言ってやる。
ピコン
『18日13時了解。お返しどうする?』
『仕事終わったらシャトレーゼ寄るわ。今日何時ごろ帰る?なんかいる?』
『バイト20時あがり。38分駅着。お迎えよろ~。シュークリーム―。』
『ん。気をつけな。』
確か御3方とも子供さん学生だったはず。日持ちするお菓子でみつくろうか。
毎年律儀っていうか、なんていうか……
単に友達の集まる口実に使ってるとも言える。
実際そう言ってたし、うちに来たあとで飲みに行ってるらしいし。
断るのも変だけど、
有難いとも思わない。
彼らの知る男と、私の知る男は、同じ人だけどやっぱり違う。
友人として付き合う男同士の顔。
恋人で、夫で、父親で、家族であった男の顔。
友人たちの目線、私の目線。
やっぱり違う。ちぐはぐな人物像にチリチリと脳が違和感を訴える。
そして、はっきり言えば、
家族が揃って欠けることなく山あり谷あり乗り越えている君たちの、
そんな話など聞きたくもないのだ。
興味もないし、関心もないし、参考にならんし、実に無益な情報だ。
私と娘の貴重な休日の、実につまらん時間の浪費だ。
誰か彼らに言ってくれ。
勝手に墓参りに行けと。
私の立場で考えてくれと。
家を片付け、手土産を用意し、身だしなみを整え、
知らない家族の話を愛想笑いで聞くのだ。
大人なので話は合わす。
だが彼らが帰った後、失笑。あー今年もこの時を終えた。
自問自答の時間です。
どうなの?私がおかしいの?
もっと、「主人も喜んでるわ」「いつもありがとう」って、スタンスじゃないと変?
愛が足りないってわけ?
そもそも愛か?愛なのか?
契約不履行の相手に対し、生前よりももっと謝意を表し、愛を表せと?
もとより愛は、あちらにあってこちらには無かったものだ。
注がれることで満たされたものだ。
今空っぽじゃないのは、娘が注いでくれるからだ。
干からびずに生きていられるのは、それだけの理由だ。
もうこれ以上は落ちないとこに居た私を
力技で引き揚げた
空っぽだった私を
満たして内側から押し広げた
今私がここにこうして働いているのも、
帰る家があるのも
娘がいるのも
すべてあなたの行動のなせる業だ。
だから責任を取るべきだ。
あのひ
私の心は死んだ。
確かに聞いた ひゅっと 音がして 体が数グラム軽くなった
持って行った半分を、置いて行った半分を、
今度はちゃんと一つにしてよ。
タイミングを間違えないで
必ず
疎まれる前の、惜しまれるタイミングで引っ張っていけ。
どうせどっかから見てるんだろ。
四六時中、あんたの愛する女二人を。
ヤダ、ヘンターイ
あーあ
旅路は長い。まだ先だろうな。
休憩時間が終わる。あと3時間立ち仕事はきついな。
「台風が近づいてるから、お惣菜半額にするってよ!」
まじか!!
いい!そうしよう!今日は夕飯作らない。
家帰って、すぐお風呂にしよう。あの、お土産でもらったバスキューブ入れて、
デトックスしよう。2時間くらいまったり過ごそう。
それからお迎えに行って、あ、ビールとか、買って帰るか。
あ~、デトックス無駄になる…ま、いっか。たまにはビールもね~
あんたと違って毎日じゃないしね~
スマホから見慣れた笑顔が消える ポケットに入れて、
よし、仕事だ。今日は金曜日、明日は台風で臨時休業だろう。
もうひと踏ん張り、
頑張ろう。
《ママって、パパのこと好きだよね~
いまどき居ないよ。死んだ夫の写真待ち受けにしてるひと》
っふ……失笑。
そりゃあ、言いたいことがいっぱいありすぎて…主に文句。
虚空に話すより、像があるほうが言葉も投げつけやすいというもの。
娘よ知らぬだろうが、この笑顔、よく見るとひきつってるんだよ。
なにせ、
財形預金を勝手に使い込んだのがバレて、私に詰められてる時の
青ざめたごめんなさいの笑顔だから。
ね?