不穏は未だⅡ 9
そろそろお茶会も終わりだろうか、と思っていたら、妃殿下が私を呼ぶ。
「ごめんなさいね、長話ばかりになってしまって。私からも一つだけ話したいことがあるの。」
妃殿下からのお話…となると、温室に来るまでにあった母とのことだろうか?と思い、返事をすると。
「貴女の淑女教育、講師皆が優秀だと褒めていたわ。アルカートでしっかりと学んでいたのね、偉いわ。」
そう言い、柔和に微笑んでいたかと思えば、急に真剣な眼差しに変わる。ドリアードに向けていたものとは違うが、やはり王妃としての威厳を感じさせる眼差しに、少し緊張をし言葉を待つ。
「講師からは教えられることはもうない、とも聞きました。ですが、それはあくまでマナーや礼儀といった部分。貴族の世界には、それだけでは取り繕えない部分もある。」
妃殿下が言わんとしていることが、今分かった。それは私に足りていない、それのせいで間違えてきたこと。
「社交は必要不可欠よ、貴族の世界で生きていくには。故に私が直々に、貴女に社交や公的な場での立居振る舞いを教えます。」
「え?」
疑問を抱いたのは私ではない。そしてユリウスでもない。この場に残る一人に、妃殿下が優しくも圧がある笑顔を向けた。
「何かおありでしたか、陛下?」
「いやシリーネ、それって…。」
恐らく妃殿下から報告を受けていなかったであろう陛下が、普段見せる姿とは違う、素の様子で妃殿下に何か言おうとしている。が…。
「ヘイルス、何か?」
優しそうな見た目に反して、思っていた以上に怖いのだと悟る。ユリウスにチラッと視線をやれば、首を振り口を出さない方が良い、と小声で教えてくれた。コクンと頷き、成り行きを見ていれば。
「…何でもないよ、但し無理はさせないこと。」
と妃殿下に屈していた。ただ私を気遣ってくれる言葉を添えて。それに妃殿下は、もちろんよ、と先程と変わって優しく微笑んだ。それだけでやはり、この二人は愛し合っているのだな、と感じられる。だって互いに信頼しているように見えるのだから。そう思うと、父と母を思い出して少し寂しくもなるけれど。
妃殿下は再度私に向き合う。
「貴女にはこれからは私と共に、今まで以上にお茶会などに参加してもらいます。こればかりは場数を踏むしかないの、理解してほしいわ。もちろん、陛下が仰ったように無理は禁物よ。」
人と関わり合うことを避けてきていたからこそ、私は間違えてしまった。変わりたいと願ったからこそ、アーデストに来たのだ。この機会を逃せば、私はまたきっと気付かぬうちに同じ間違いを繰り返す。なら、答えはもう決まっている。
「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」




