不穏は未だ3
そろそろユリウスとの約束の時間になる、とエイリー達と共に王宮内の温室に向かって移動していた。すれ違う騎士や登城していた貴族達と挨拶をしながら、温室まであと少しのところで呼び止められた。
「クレア嬢、どちらに向かわれるのですかな。…侍女二人だけでは、王宮内と言えど危険ですぞ。」
少し急ぎ足でいたその歩を止め、こちらを見つめる男性に会釈をする。
「ご機嫌よう、ドリアード侯爵閣下。お心遣い痛み入ります。ですがエイリーもユニも、護衛としての技術を持ち合わせておりますので、ご心配には及びません。」
なるべく関わりたくはないために、返事だけをして歩みを進めようとすれば、立ち塞がるように動いてきた。良く言えば体格が良く、悪く言うのであれば不摂生の果てと言える体で、目の前に立たれてしまえば逃げ道がない。約束の時刻も迫っている中、努めて表情を崩さずにドリアードを見つめる。何を考えているのか、ニヤニヤと不快感を与えてくる笑みを浮かべながらいる。
「そうは言えど見かけてしまった以上は心配ですな。…そうですな、私が目的地まで同行いたしましょう。」
やはりそう来たか。ドリアードはどうも私が来てからというもの、接触を図ろうとしてきたことが多々あった。大抵は王妃やノイルが近くにおり、寄っては来なかったが。その思惑は全く分からないが、ずっと私が一人になる機会を窺っているのは分かっていた。王妃達もそれを察して、極力一人にならぬようお茶会などに呼んでくれていたのだが…、天候が悪いから登城しないだろう、と油断してしまっていた。
「…ご提案は大変有難いのですが、行き先はもうすぐですので。それにドリアード侯爵閣下も、御用があって登城されているのでは?私にはエイリー達がおりますので、どうぞ御用をお済ませになってください。」
少し冷たい言い方になってしまったが、引いてくれそうにないのでは仕方ないだろう。ドリアードだって登城するほどの用事があるから来ているのだろうだから、それを言えば流石に引くかと思ったが…。
「まぁまぁ、そう仰られずに。予定の時間にはまだ余裕があるのですよ、ですから…。」
そう言いながら手を伸ばし、私の手を取ろうとしてきた。瞬時に後ろに一歩ほど下がり、なんとかかわした。それと同時にエイリー達が私の前に隠すように立ち、ドリアードを嗜める。
「ドリアード侯爵閣下、淑女に許可無く触れようとするなど。紳士としてのマナーをお守りくださいませ。」
エイリーが静かに、だが圧をかけるように言えば、ドリアードは悪びれもせず上辺の謝罪をする。しかし目の前から退こうとはせず、依然ニヤついた顔で立ち塞がる。本当は押し退けるなりなんなりしたいが、他国の貴族で侯爵位の中でも権力のあるドリアードに、変な言いがかりをつけられるのは避けたい。時間も迫る中で、こちらとしても引くわけにはいかず、かと言って押し通ることも出来ない。エイリーかユニに誰かを呼びに行ってもらうのが一番か、と考えていたその時。
「あら?ドリアード侯爵。往来の真ん中で何をしているのかしら?」
どこか威厳を感じさせつつも、優しさも感じさせる声がドリアードの後方から聞こえる。アーデストに来てから聞いた、聞き慣れた声になった人物が見える。




