不穏は未だ1
ユリウスと話し合えた翌日、この半年抱えていた重りがなくなったような、清々しい気持ちで目覚める。『夢』を見ることもなく良い一日になりそうだと、カーテンを開けると空は今の気持ちには似つかわしくない、どんよりとした灰色をしていた。
「今日は何もないから散歩でもして、庭園で本を読もうと思っていたけれど…。仕方ないわね。」
一つ溜息をこぼし、時間を確認し鏡台の前に座る。そろそろエイリーとユニが私の支度をするために来る時間だからだ。何をするでもなく、ただ鏡の自分と目を合わせながら待っていれば、すぐにドアがノックされる。
どうぞ、と一言かけると聞き慣れた声で失礼します、と入ってくる。声の主はもちろんエイリーとユニ。
「お早う、今日もよろしくね?」
「任せてください!今日もとびっきり可愛く仕上げますよ!」
ユニがいつも通りの元気な声で返事をしてくれる。そんなユニに溜息を吐きながら、エイリーが指摘をする。
「ユニ、まずはお早うございます、でしょう?全く…。クレア様、お早うございます。今日は生憎の空模様ですので、明るめのドレスにいたしましょう。」
そう言って、ユニに指示を出しテキパキとこなしていく。あっという間に着替えを終えて、髪を整えてもらっていると。
「ふふっ!今日のクレア様、ここに来てから一番の笑顔ですね!何か良いことがありましたか?」
髪を整えてくれているユニが鏡越しに私を笑顔で見つめ、そう言った。私としては普段と変わらない表情のはずなのだが、ユニにはどうも笑顔に見えたらしい。
「そう…かしら?笑っている自覚は無かったのだけれど。」
鏡の自分を見つめても、やはりそこにはいつも通りの自分が映るだけなのだが。
「そうですか?私から見たら、とても柔らかい表情に見えましたよ!ね、エイリーさん!」
唐突に話を振られたエイリーは一瞬驚きながら、作業の手を止めず答えた。
「ええ、表情だけでなく雰囲気も。ずっと気を張っているご様子でしたから、私達にはそう思えます。」
半年そばにいて、あれこれと世話をしてくれるエイリー達が言うのであれば、そうなのだろう。自分でも気付かぬうちに、昨日の事が嬉しくて出ていたのだろう。…そうだ、今日は何もない一日なのだし、アーデストに来てから一度も出来ていなかったことをしよう。
そう思い立つと、エイリー達に声をかける。
「エイリー、ユニ。突然なのだけれど、今日は何も予定が無いでしょう?二人が良ければ、また三人でお茶会をしたい、って思ったんだけど…。」
言っている最中に、エイリー達にもやるべき事があるのでは、と思いながら、切り出せば二人は笑顔で頷く。
「クレア様さえよろしければ、是非ともご一緒させていただきたいです。」
「美味しいお菓子がタイミング良くありますので、そちらをお持ちしますね!」
ユニが今から持ちに行こうとするのを止めて、時間を決めてから朝食へと向かった。




