破蕾 -ノイルside- 4
頭の中で浮かんでくるのは、ただ一人の顔。逆境に立ち向かい、花が綻ぶように笑う、ただ一人の顔。俺が魔法を知ろうとするきっかけになった人物。
「ミレイ…。」
大切に、包み込むように目の前にいない名前を呼ぶ。魔法が使えずに影から、目の前で罵られようと凛としていた彼女。ヘイルスと俺の大切な妹。三年前に魔法が主流ではない他国へ嫁いでいった。
「…もっと早くここに来るべきだったな。そうすりゃまた違っただろうに…。」
気分が落ち、パタンと本を閉じる。ミレイは、国王であり兄でもあるヘイルスがこの国にいてはミレイが心の底から笑うことは出来ない、と魔法に重きをおかない国との縁談を決めた。その国の王は俺と同じ歳、ミレイからすれば一つ上であったからか、意気投合して恋に落ちた。政略結婚でありながら、恋愛結婚でもあったからか幸せそうに嫁ぎ、幸せの手紙を送ってくる。それを読むと良かった、と心から安堵するが同時に、今ここにいたらどうだったのだろうか、とも考える。
「…どちらにせよ、俺達の我儘だな。」
自分の考えを鼻で笑い、禁書室の出口へ向かう。確かな収穫はあった、だがこれをどうするべきか。クレアは無意識に使っている可能性が高い。使い方を誤れば取り返しのつかない事に繋がるが、そのリスクをちゃんと理解出来る人間と使い方を教える人間がいない。使い方だけであれば、自分が教えることは可能だと思う。禁書室の中には無属性の魔法について記したものもきっとあるだろう、それをクレアに教えればいい。ただ問題はリスクを理解する人間だ。兄であれば理解するだろう、だがアルカート王国ではどうだ。闇をただ忌避するだけの者達に、無属性の恐ろしさが理解出来るとは思えない。…だからアーデスト初代国王もアルカートに残らなかったんだな。
どうしたものかと答えを探しながらいれば、扉の前まで着いてしまった。少し立ち止まり考えていたが、やめた。
「とりあえず兄上に報告してから考えるか。」
そう呟き、来た時と同じようにして禁書室を出た。




