広がりだした世界1
あの苦痛がありながらも、楽しく終われたお茶会から数日。
特別であった日からいつも通りの日々へと戻った。
しかし、今までと少しだけ変わった事が出来た。それはお茶会で出会った隣国アーデスト王国の王太子、ユリウスと文通を始めたこと。
あの日に質問し合った中で、互いに本が好きなことを知り、趣味志向の違いが何故か面白く、気軽に会うことは出来ないから代わりに文通をしよう、とユリウスが言ってくれた。
それがまた嬉しくて大きく頷くと、ユリウスが微笑み「楽しみだな。」と囁いたのは覚えている。
そうして始まった文通だが、数日のうちにすでに何度もやり取りをしていた。
この文通のおかげでユリウスのことをいくつか知ることが出来た。アーデスト王国の王太子で現在十一歳。ヨハネスと同い年で、今回の来訪は次期王となるであろう二人の顔合わせと親交を深めるため。
ただあくまでもヨハネスとの顔合わせが目的のため、来訪自体はお忍びに近い形式をとっていたこと。
お茶会はヨハネスから誘われたことで興味は無かったがとりあえず出たことを知った。
「ここまで詳しく教えてくださるのは嬉しいけれど…。お忍びに近いのならば、私に話してはいけないのではないかしら?」
なんて苦笑してしまいそうになるが、それでも聞きたいことや語りたいことが尽きず、それはユリウスも同じようで、返答や感想とともに質問が来るから同じように返す。
ジャルマン先生の講義のように、でもそれとはまた違うような楽しさがある。
(こんなに楽しい気持ちは初めて…)
そんな風に感じながら先程返ってきた手紙を読む。その手紙の最後に驚いてしまい、声を出しかけてしまった。
そこに書かれていたのは
『急な話だが三日後にまた茶会が開かれるそうだ。今回は私から招待状を送るから来てはくれないか』
とのことだった。
行きたい気持ちが早るが、お茶会に行くということはヨハネスともまた会うということで。
それでもユリウスが招待状を送ってくれるのに、あの日のように話す機会があるのならば、それを逃がす方が嫌だ。
葛藤しながらも決めた答えを文にしたため、返事を出した。
お茶を飲みながらホッとしていると母――アリアスが部屋に入ってきた。
今日も来たのか、と思いながら侍女にお茶の準備を頼み母を座らせた。
「クレア、今日もユリウス殿下から手紙が来たのね?表情がとても華やいでいるわ。」
母はあのお茶会以降、手紙が来たことを知ると話を聞きにくるようになった。
手紙が来るたびに母も来るから、少しだけ面倒だなと思うことはあるけれど、母の目や表情を見ているとどうでも良くなる。
今まではずっと、いや『夢』を見始めてから塞ぎ込んだ私にどうしたら良いのか分からず、途方に暮れた顔を浮かべ瞳は戸惑いをずっと映していた。
でも手紙が来たこと、それに返事を出していること、他者との繋がりを持つようになったこと、それが母はたまらず嬉しかったのだと思う。
気持ちが少し伝わってくるからこそ、話しても大丈夫そうなことは話してしまう。母が笑ってくれるのが嬉しい。
「お母様、手紙が来るたびにいらっしゃるのはどうかと思います。」
「あら?私の可愛い娘のことよ?一番に知りたいじゃない。」
こういうことを笑みを浮かべながら平然と言うくらいには隔たりが薄くなってきた。
そういえば昔…というか二、三年前までこうだったなと思い返しながら手紙の内容を話す。
「手紙の内容なのですが三日後、先日と同じ場所にてお茶会があるそうです。ユリウス殿下から招待状を手紙と一緒にいただきました。」
「あら!良かったわねクレア!お話するお時間が取れるのね。そうなると…目一杯着飾って行かなければいけないわね!」
母が自分の事のように喜んでいる。しかも目一杯着飾らせるようだ。…ドレスを選ぶだけで当日までかかってしまうのではないか?と気疲れを起こしそうだ。
「…お母様、お手柔らかにお願いしますね?」
これが精一杯の抵抗だった。