深愛 -アリアスside- 7
だがウェルトも私もここまで聞いても決め手に欠けている、と思ってしまう。
クレアを第一に考えているのは分かる。がそれだけだ。
ユリウスはクレアへのメリットしか話していない。ではアーデストのメリットとは?もちろんこの話自体、国同士の話になっているから多少は隠すものもあるだろう。だがユリウスは終始隠し続けている。それも多分だが、この場にいる人間が気づくように。
(…これは逆に隠すつもりは無いという意思表示…なの?)
疑念がふつふつと湧き出てくる中、陛下が夫妻に問うた。
「さて申し出は理解しただろう。余はこの申し出に対して深く悩んでいる。国唯一の闇属性、魔力量を持つ者のことだ。国としての判断は出来る。」
それでも、と続ける。
「数代前の王が差別を無くす取り組みを行ったが、この国の偏見は既に凝り固まり、それが常識のようになっておる。その檻の中で生き続ければクレア嬢はいずれいなくなるやもしれん。」
だからこそ二人に聞きたかったのだと、国ではなく親の思いとして。様々な思いが入り乱れる。簡単に見えて複雑なものばかりが目の前にある。
それでも二人が思うものは同じ。
(クレアの幸せが一番)
答えが出た二人は陛下とユリウスに告げた――。
帰宅し、クレアとサイサスに全てを話した。やはりクレアの気持ちは決まっていたようだ。話はまとまった、と思えばここで漸く私達はクレアの痛みを知った。十歳の子供が独りで戦い続けていたことを。だからこそ私達はクレアが幸せになれる道を選ばなければいけない、と改めて心に誓った。
翌日の茶会で留学をすることを決め、出立の準備を進めて二週間後。
遂にその日が来た。クレアは未知の知識に思いを馳せ、楽しそうな雰囲気を醸し出している。
その姿を見ると自分達の決断は間違っていなかったのだと確信する。しかし、その思いと同じだけ寂しかった。
クレアの幸せが自分達のそばにないこと、期間は分からないがクレアの成長を自分の目で直接確認できないこと。
それでも笑って送り出してやらねばならない。この子の幸せがここから繋がり広がるために。
そして出発の前にクレアと最後の会話を交わす。
「クレア、アーデストで気が済むまで学んできなさい。色んな知識を付けて無事に帰ってきてくれ…。」
ウェルトはクレアを抱きしめながら、心の底から祈るように伝えた。
アリアスは涙ぐみながら、それでも泣かないようにクレアをぎゅっと抱きしめ伝える。
「クレア…私達の愛しい子。無事に行って手紙をたくさんちょうだい。あなたの言葉であなたの経験したことを書いて。そしてやり切ったのなら、迷わずに無事に帰ってらっしゃい。」
名残惜しむようにクレアの頬を撫でる。このまま時間が止まればいいのに、と思うのに出発の時間は来てしまう。
ユリウスから声をかけられるまでクレアを自分の瞳に、心に刻みつけていた。
それでも次から次へと零れてくる涙で視界は滲みかけてしまう。
(最後は笑顔で…、帰ってきたらまた笑顔で迎えるために…)
そう思いながらも体を離し、見つめていれば。愛しい娘からこの上ない言葉が贈られた。
「お父様、お母様、サイサス。…愛しています。絶対に帰ってきます、その時まで…待っていてください。」
泣き出してしまいたくなるくらい、行かないでと言いたくなってしまうような言葉を言ってくれた。寂しさがありながらもどこか清々しさも感じるような、心から出た言葉だったのが分かる。
そうか、クレアは今ちゃんと前を向いているのね、と思う。だから私達が後ろ向きな気持ちじゃいけない。ちゃんとこの子が未来を楽しめるように送り出してやらねば。
家族皆で頑張れ、と声を掛け手を振り続けた。泣いていたのか、笑っていたのかもあやふやなままに。でもきっと伝わったと思う、クレアの思いが届いたように。
馬車が動き出し、ゆっくり離れていくのを無事を祈りながら、かれからの幸せを願いながらいつまでも見送り続けた。




