深愛 -アリアスside- 3
しかし我が儘を言わないことを気にしていなかったのを、深く後悔する日がきた。
歳を重ねるにつれ、クレアもサイサスも他人からの目を理解するようになった。二人とも家族と顔立ちは似ていても、引き継ぐことのなかった色を気にし出した。
サイサスは当然のように疑問を口にする。その度クレアは顔を曇らせながらも何も言わずにいる。それを聞く度、見る度に二人を強く抱きしめ、「二人は私達の宝物よ、愛しているわ。」と伝えた。
それをすると二人は、さっきまでのことは何処かに飛んでいったように笑顔になった。だがその答えは正解で間違っていたのだろうか。
二人が六歳になる頃、サイサスがクレアを拒絶するようなことを言い始めた。私達はサイサスにそんな言葉を教えるようなことはしなかったから、サイサスに誰から聞いたのかと問うた。
返ってきたのは、下女が話していたのを聞いた、と。
カレンティス家は比較的に属性差別の意識が少ない者が多い。といっても侍女や執事辺りまでは、だが。それでもクレアとサイサスが産まれた際に新しく雇った者はそれが一つの雇用条件に掲げていたから、少なくともそこにはいないと思っていた。でも蓋を開けてみれば、その場限りのアピールをして入っていた者がいたようで、私達に聞こえないことを良いことに話していたのだろう。それをたまたまサイサスは聞いてしまった。
しかも悪いことにサイサスの言葉に感化されたのか、クレアはアリアス達といても笑うことがなくなり、目には諦めに似たものが浮かぶようになった。…実際はそれだけじゃなかったのだが。
当時の私は理由はそれだと思い、クレアと話をする際に聞いてみたのだ。
「クレア…?何か悩んでいるのではない?お母様に教えてほしいわ。」
悩みを話す、それが我が儘になってしまうと思ったのだろうクレアはいつも同じ答えを繰り返す。
「いいえ、お母様。悩みなどございません。ご心配おかけしてすいません。」
今にして思えばもっとしつこくとも、なにをしてでも聞いておくべきだった。突拍子のないことでも、私達は娘のことなのだから信じたのに。
そうすれば長いすれ違いなど起きずに、クレアは独りで戦うこともなく、笑って過ごせていただろうに。
あれからも家族として向き合おうにも上手くいかなかった。
サイサスに注意をし、私達の前では言わなくなった。が、クレアへの当たりは強いまま。クレアも常に氷の中にいるような、そんな雰囲気で誰も寄せ付けようとはしなかった。
ウェルトもどうしていいのか分からず、常に悩み私も共に考えていた。
「アリアス…私はクレアに厳しくしすぎたのだろうか…。悩み一つを言わせることも出来ないなんて…。」
ウェルトは自分のせいだと思っていた。アリアスはその言葉に首を振る。
「違うわ…決してウェルトのせいではないわ…。誰よりも近くにいながら、聞き出す機会はいくらでもあったのに…。母として私がダメだったの…。」
クレアのことを思い浮かべるだけで、瞳から後悔が溢れ滲む。どうしたらあの子をもう一度笑わせてあげられるのだろう。




