深愛 -アリアスside- 1
大事な大事な、この命よりも大切な愛娘をアーデスト王国へと見送った夜。
私、アリアスは夫のウェルトと共に、寝室に備え付けられている小さなテーブルを囲んでいる。普段なら他愛ない会話を交わして、すぐに寝てしまうのだが今日はそうはいかない。今日の話題はもちろんクレアのこと。きっと暫くは、クレアから到着したと手紙を貰うまではこうして話してしまうのだろうな、と思っている。
「…クレアが行ってしまうとやはり寂しいな…。」
ウェルトは見送った後からずっとこの調子だ、気持ちは同じだから分かるのだが延々と言っているから、ほかっておくことにする。
「でもこれはクレアが、自分で選んだ道よ?受け入れなさい。」
意外と女々しい夫に喝を入れる。普段クレアやサイサスの前でと話し方が違うのは、ウェルトが一番偉いのだと教えるため。二人の時はこうして砕けて話している。嫁いできた頃はもちろん堅苦しく話していたが、ウェルトが私に言ったのだ。
―――家族なのだからそんな話し方じゃ寂しいじゃないか、と。
それからはありのままで話すようになった、子供が産まれるまでは。私の真似をして父を侮ってしまわぬようにと互いに話し合い決めた。
そのおかげもあったのか、クレアもサイサスも良い子に育った。
我ながら上手く子育てをしているな、と感心していれば。
「クレア…いつになったら帰ってくるのだろうか…。」
ウェルトは未だにクレアが居ないことに悲観していた。普段は凛々しく格好良いのに、たまにこうして凹む時がある。まぁそこも含め愛しているのだけれど。それよりもクレアは今日出発したばかりである、いくらなんでもそれを言うには早すぎる。
軽く溜息を吐いて、子供達が産まれてからを思い出した。
それは今から十年前の話。
伯爵家から十八の頃にカレンティス公爵家へと嫁いできて三年。
中々恵まれなかった神からの授かり物、そして夫婦の愛の形である子供が産まれた。
公爵家を継ぐ者として男児を望んでいた。それは神の采配の分野ではあるが、祈りが届いたのか男児が産まれた。
そしてそれより数分前にもう一人。夫、ウェルトに似た顔立ちをした可愛らしい女児も産声をあげていた。双子はやはり珍しいもので、幸運の象徴とされている。
無事に産まれてきてくれたことの喜びと出産の痛みを抱えながら、愛おしい夫に話しかける。
「ウェルト…、双子よ…!どちらも天使のように愛らしいわ…。」
ウェルトは心配と安堵の両方で暫し硬直していたが、妻の語りかけに意識を戻す。
「あぁ…、あぁ!本当に、愛らしい…!どちらも君の美しい顔立ちを引き継いでいるな!」
双子を眺め今にも嬉し泣きをしそうな、いや既に泣いている夫が興奮気味に話している。
それを見て、やはりこの人と縁を繋いで良かったなぁと改めて感じた。
「ねぇ…?よく見て、女の子の方はどちらかと言うと顔立ちがウェルトによく似ているわ…。素敵な子ね…?」
微笑みながら話すと夫は、男の子はアリアスに似ているぞ!と言いながら、ずっと子供に視線が釘付けになっていた。それは私も同じで、これ以上無いのではないか、と思えるほど幸せな時間がここには流れていた。
「アリアス、ありがとう、こんな幸せをくれて。出産は辛かっただろう…。私は見ていることしか出来なかったのが歯がゆい…。」
そうやってアリアスを慮ってくれた。少しして医師が双子の健康状態を見るため別室に行ったあと、ウェルトが慌てる。
「あぁ、汗が!気づかずすまない、気持ち悪くはないか?侍女を呼ぶからゆっくり体を養ってくれ。」
そう言い、汗を拭い侍女を呼びに行く。
達成感と多幸感に包まれたアリアスは侍女の到着を待たずに眠りについた。




