上手く言えなくても良いから1
気付けばいつの間にか朝日が昇り始める頃になっていた。就寝時間が遅かったはずだが、不思議と目覚めも良く昨日の疲れも残っていない。カーテンを開ければ、太陽はまだ顔を出したばかりで、昨日の夕日のような綺麗な色をしていた。気持ちの良い朝の空気を深く吸い込んで、外や部屋の中を見渡す。あと数刻もすれば私はここにいない。戻ってくるのもいつになるかも分からない。やはり寂しくはあるけれど、今はそれ以上にこれからの未来が楽しみになっている。それはきっと、昨日約束をしたから。また必ず帰ってきて家族と過ごすと。だから寂しいけれど、寂しくはない。
自分の気持ちを再確認していれば、ドアがノックされる。どうぞ、と声を掛ければドアが開く。入ってきたのはやはり母だった。侍女は共にいないようだから挨拶をしにきたのだろうか。
「お早うございます、お母様。今日は素敵な空模様ですね。」
と声を掛ければ、母も挨拶を返してくれる。…しかし挨拶をするためだけにきたのだろうか。準備は済んでいるし、着替えはまだ時間に余裕があるから大丈夫なのだが…。
「あの、お母様?王宮へ向かう時間まではまだ余裕がありますが…。」
アルカートを発つのはユリウスと一緒の予定なので、王宮へ行かなければいけないが約束の時間には大分早い。かなりの早起きであったが故にゆっくりしていたのだが…。
母は分かっているわ、と微笑みながら返し、言葉を続ける。
「着替えをしなければいけないでしょう?手伝いをしにきたのよ。クレアが一人で着替えられることは分かっているけれど…。」
そこで言葉を区切った母は何とも悲しげで。でもどうにか笑おうとしていて。表情を見ただけで続けたい言葉が分かってしまった。
「十歳の貴女を見られるのは今日で最後だもの…。私の我儘を許してちょうだい…。」
ああ、だからか。侍女も付けず一人で私の部屋に来てくれたのは。ただ私と二人だけの時間を過ごすために、その為にここにいてくれるのか。それを我儘だなんてとても思えない、だって…私は母が来てくれたのがただ嬉しいから。
「お母様?…私からも我儘を言っても良いですか?」
母は私が急に我儘を、なんて言うから少し困惑しているよう。自分の問いに問いで返ってきたら、誰だって困惑はするだろう。でも安心して、思いは一緒だから。
「私に似合う服を選んで着替えを手伝ってほしいです。…出来れば髪も整えてほしい…。」
やっぱり普段口にしない言葉を言うのは恥ずかしい。尻すぼみしてしまって、頬も若干朱に染まっているのが分かる。だけど思いが一緒の我儘同士なら我儘にならなくて良い。互いに望んだものが同じだったのだから、それはお願い程度のものだろう。
私の我儘に母は一瞬固まってしまっていたが、すぐに理解したようで満面の笑みを浮かべた。楽しそうに、可愛らしいお願いね、と言って取り掛かり始めた。




