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闇の令嬢、愛を思い出す  作者: 雨音祭
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アルストロメリアを心に飾って3

現在時刻は昼前ほど、もう少ししたらお昼時に差し掛かりそうな頃。あれから母と共に色々と準備をして出発をし、今は家から近い領地の開けた丘へ皆で来ている。ここは木々や花々が生い茂り、小さな湖もある避暑地にも使われる場所とのことで、空気がとても澄んでいて過ごしやすい。生まれてからずっと王都の家にいたものだから、ちょっと王都から離れるだけでこんなにも違うものなのだと驚いた。ここから見える景色は美しく、普段の喧騒と違い、風がそよぐ音さえ聞こえるほど静かで不思議と安らげる。

「素敵な場所でしょう?結婚して旦那様が私を初めて連れてきてくれた場所なの。」

そう言う母は当時を懐かしんでいるような顔をしていた。そうか、ここは父と母にとっての思い出の場所、それを私たちにも共有したかったのだろう。

「お母様、ここはとても美しく素敵な場所ですね。私にとっても大事な場所になりそうです。」

きっと間違いなく大切な場所になる、これは憶測や希望なんかじゃない。普段来ることのない場所へ来たからではない、父と母の思い出の場所だからだけではない。理由はもっと簡単なものーーー。

母と風に揺れる色鮮やかな花を眺めていれば、辺りを散策に出掛けていた父とサイサスが戻ってきた。サイサスも次期公爵といえど、やっぱり十歳の男の子。私達のようにジッとはしていられなかったようで父について行っていた。戻ってきたサイサスは何か興奮しているようで、ずっと父に話しかけていた。そんなサイサスのことが嬉しいのか、父も笑いながらも返していた。

サイサスは私達の近くまで来て漸く気付いたようで手を振りながら走ってきた。そんな弟を見ながら手を振り返す。母の同様に手を振れば、サイサスは嬉しそうに笑みを深め、私達のそばに来た。

「お母様、クレア!森の中も凄かったよ!見たことのない綺麗な鳥がいたんだ、色鮮やかな羽で尾も少し長くて!二人にも見て欲しかったなぁ!」

興奮冷めやらぬ様子で見てきたことを伝えてくれる。微笑ましく話を聞いていれば、父もそばに来ていた。

「待たせたな。サイサスが楽しそうに見ているものだから遅くなってしまった。…サイサス、楽しかったのは同じだがそろそろお昼にしよう。」

父の言葉で空を見上げれば、太陽が一番高い位置まで昇っていた。確かにお昼の頃合いである。サイサスは楽しさで空腹を忘れていたようだったが、父の言葉で思い出したらしい、お昼何かな!と言っている。

私は母と視線で会話をし、素早く荷物を取りに行く。侍女からバスケットを受け取り、敷物の上へ置けば皆が近寄って来る。

父とサイサスは中身が気になるのか、ジッとバスケットを眺めている。でも開けるのはまだ。紅茶の準備があるし、手拭き用のハンカチも用意しないといけない。その辺りは侍女が卒なく揃えてくれた。

お腹を空かせているサイサスを待たせすぎるのも可哀想だと、取り皿を皆に渡し、バスケットの蓋を開ける。中に入っていたのは手軽に食べれるサンドイッチと、おそらく父やサイサスは見たことがないだろう、パンで成形し焼いたお肉や野菜が挟まれたハンバーガーなるものが入っている。ハンバーガーは野菜の水分やソースが溢れやすいので紙に包んであるため、一見しただけでは分からない。

「ん?サンドイッチは分かるが…この紙に包んであるものは一体なんだ?シェフも変わったものを入れたな。」

なんて父が言うものだから思わずクスクスと笑ってしまう。急に笑い出した私を不思議そうに見つめる父と弟に種明かしをする。

「ふふっ。ごめんなさい、お父様。それを作ったのは私とお母様です!最近お料理の本を読んでいて、ピクニックにピッタリだなと思って作ったんです。」

そう、準備の時に思い付いたことはこれ、サンドイッチとハンバーガーを作って皆に食べて欲しかった。母と一緒に作ったものを喜んでほしかった。

母は横でやはり自慢げな顔をしている。味見をした時に美味しいわ、流石私の愛娘ね!なんて褒めてくれたからそれでなのだろう。父とサイサスに食べ方を教え、私も手に取る。

包みから出したハンバーガーを二人はかぶりついていいものなのか、思案しているようだ。確かにマナーとしてはよろしくはない、でもこの食べ物は庶民の中で生まれ流行ったもの。ならばそれに従い食べた方がきっと美味しいに違いない。

迷っている二人の為に率先して食べ始める。そんな私を見て二人も漸く決心ついたのか、食べ始めた。

「!美味しい!サンドウィッチと違って味が濃いめなんだね!量もあるし、最高だよクレア!」

十歳男子の胃袋には合ったようで安心をする。父はというと、こちらも美味しかったのか、美味しいと連呼しながら食べ進めている。

感想を聞くまではやはり不安はあったが、これだけ食べてくれればそんな不安はいらなかったな、と思える。

気付けばあっという間にバスケットの中は空になり、母と喜びを分かち合う。

「クレアはアリアスに似て料理上手だな。…また作って欲しいくらいだ。」

父の不意に出た言葉は少し寂しさを含んだものだった。その思いはきっと、ここにいる皆が一様に思っていることだろう。私だってそうだ、朝目覚めた時から一抹の寂しさを抱えている。だけど…。

「…お父様?私はアーデストで学び尽くしたら必ず帰って来ます。その時の楽しみに取っておいてください。」

私はアーデストへ行って学びたいことがある、知りたいことがある。でもそれもいつか終わる時が来るだろう。いつになるかは分からないけれど、未来の楽しみは持っていたい。それを家族にも持っていて欲しい、どうなろうとも暫くの間の別れなのだ、約束はあった方が良い。

私の言葉を聞き、先程までの愁いは風に運ばれたように笑顔になった皆が約束を、と色々言ってくるものだから嬉しくなって私も気付けば笑顔になっていた。

やっぱり思っていた通り、大切な場所になった。かけがえのない家族と初めて来た大切な場所に。

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