アルストロメリアを心に飾って1
ユリウスとの茶会を終えてから今日で二週間。もう二週間も経ってしまった。カーテンから差し込む朝日を眺め、明日のこの時間には私はもうこの家にはいないのか、と少し傷心気味になる。出発の準備は終えている。
この二週間の時間の流れは、今までとは比較にならない程本当に早く過ぎ去っていった。
以前の私なら一日が地獄のように長く感じていたのに、今は一日が短すぎて困ってしまう。それだけ家族とやりたいことや話したいことが尽きなかった。それだけ毎日が充実して過ごせていた。
朝目覚めて身支度を整えて、朝食を家族全員で食べ父を送り出し、母とサイサスと勉学や趣味に精を出し、帰宅した父に夕食時に何をしたか話して。
たったそれだけ、でも私がしてこなかったこと全てが楽しくて、何だか輝いているように思えて。出発は明日だし、まだ今日は始まったばかりなのにもう寂しくなってしまった。まだ見ぬ明日を知らないのに、そう感じてしまうのは普通なのだろうか。十歳といえど自他共に認めるほど達観しているから分からない。でもきっと、誰だってそうなのだと思う。だって父も母もサイサスも出発の日が近くなるにつれ、どこか寂しそうな影を見せていたから。…だからこそ。
カーテンと窓を開けて空気を思いっきり吸い込む。朝特有の澄んだ空気で心を切り替える。
私が寂しい顔をしていたら皆も寂しく今日を過ごすだろう。折角の一日をそんな風に過ごして終わりたくない、いつもと同じことでも良い、笑って今日を過ごして明日を迎えたい。
「素敵な一日を過ごすためにも少しお洒落をしようかしら?」
鏡に向かい合って自分に話しかける。私がする表情や仕草と同じことをするだけの鏡の中の自分に。
返事なんてもちろんない、だけど少しだけ、ほんの少しだけ笑いかけたように思えた。それは私の気持ちから見せたものなのか、はたまた本当に笑いかけたのか。いずれにせよ気分は悪くない。だって鏡の中が私であってもそうでなくても、素敵なことだと思っているのが分かるから。
「何を着ようかしら?折角だもの、普段とは違う色合いを試してみたいわ。」
そう言いながら自室の横にある衣装室へ行く。この衣装室に入るのは初めてではない、いつも自分で支度をしていたから当たり前のように入り慣れた部屋。だけどここ数日は少し違った。
服がデザイン、形、色もそれぞれの物が増えた。アーデストに行くから買ったものも多いが、それにしても増えすぎた。選んだのはもちろん母である、きっと前から色々着せたかったのだろう、ここで思いが溢れ出たようであった。
「お母様…私、まだ成長していくのよ…?それにアーデストに留学するのに…。」
苦笑いをしながら呟く。母には絶対に言えない文句であるが、言うほどのものでもないとも感じている。本当は私も楽しんでいるから言わない。最近になって気付いたことだが、その日の気候や予定で服を決めるのではなく、朝起きた時の気分で着たいものを着ると一日が楽しく過ごせる。
お洒落、というものがまだ良くは分からないがもっと試してみたくなっているのが事実。これも母から教えてもらえた大事なことだと思う。
胸が躍るままに選んでいると自然と目がいくものがあった。至って普通のAラインのドレスだが、色は珍しく薄いベージュをしている。しかも一人でも着れるよう着脱のしやすい物になっていた。
「…普段は濃い色が多いもの、試してみたいわ…。」
合うか合わないかの不安は正直ある。それでも今は心の思う方を選んでみたかった。決まればそこからすることは簡単だ、手早く慣れた手つきで着替えを済ませ、髪に櫛を通し身嗜みを整えて準備は万全。時間的にも丁度良く、もうすぐ朝食の時間となる。足早に部屋を出て食堂へと向かうことにした。




