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闇の令嬢、愛を思い出す  作者: 雨音祭
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変わりゆくもの、変わらないもの 2

言えることは言ったつもりだ、もちろん言えなかったこともある。「夢」の話と…ユリウスを名前で呼ぶことは出来なかった。

「夢」は突拍子もない話にしか思えないと言われてしまうのが少し怖かったから。ユリウスを信じてはいるけれど、家族とは違い繋がりなんて希薄なものだと思う。趣味が合っただけ、未来に期待があるだけ、思いつくのはそれくらいしかない。だから話して信じてもらえず、離れていってしまったら。あの時の喜びもそこに至るまでの時間も、無意味なものになってしまう気がした。そしてきっと深く傷付いて、誰かを信じることが出来なくなるのだろう。それが怖かった。

名前を呼べなかったのは…ただ恥ずかしさから、だけ…のはず。ユリウスの名前を呼んだら自分の中で何か変わりそうな気がしてしまったのもあるが。多分深い意味は無いと思う。

「それら全て伝えた上で殿下に判断を委ねました。殿下からは共にアーデストへ行こう、とのお言葉をいただきました。」

皆が気になっていたであろう結末を話す。私の言葉を聞いて皆ホッとしたような、だけどどこか寂しそうな顔をしていた。

「そうか…決まったか。喜ばしいことだな!今までも留学に行った者はいたが、全員が学園にはいってからのことだ。十歳でしかも王太子殿下から直々に、なんて前例のない素晴らしいことだ。クレア、思うままに学んできなさい。」

父はわざと大袈裟に言った。それはきっと家族皆が複雑な思いを抱えているから。だからこれは凄いことなんだと、喜ぶべきことだと言い聞かせているように思えた。

確かに凄いことではあると思う。父が言っていたように、この国では十五歳になると学園に入学する人が多い。大半は貴族出身者だが、国主導の試験に通れば庶民も特待生枠で入学出来る。そこから成績優秀者の上位三名は留学するか否か選択肢を与えられる。私はそれを経ずに十歳で行くのだ、異例である。

それは分かってはいる、ここに居る全員が。だけども成人していない、それに加えて昨日仲直り出来たばかりなのに離れてしまうのが寂しいのも分かる。私も同じ気持ちだから。それでも…。

「はい、お父様。成長した姿をお見せできるよう懸命に取り組んでまいります。」

胸を張り答える。私は変わらなきゃいけない、同じ事を繰り返さないために。学ばなきゃいけない、私が疑問に思い続けていた事を知るために。

私の返事で覚悟を悟ったのか、父は深く頷き母とサイサスも「頑張って。」と言葉をくれた。本当に家族といると温かいものなんだと実感出来る今が嬉しくて泣きそうになる。

でもまだ泣く時じゃない、と堪えていれば静かに聞いていた母が問う。

「クレア、出発はいつかしら?準備の期間はちゃんともらえてる?」

そうだ、それも伝えなければいけなかった。留学をすると決まったことを重要視し過ぎて忘れてしまっていた。

「出発は今日から二週間後の早朝です。その間に旅路に必要な分と持って行きたいものを準備してくれ、と言われました。侍女はアーデストで付けてもらえるとのことです。」

出発の日を聞いて父とサイサスは再び寂しそうな表情をして、母は二週間と聞いて困ったように何かを考えている。確かに二週間なんてあまりにも早すぎる。だがユリウスは元々明後日にはアルカートを離れるつもりだったそうで、急遽滞在を延ばしても二週間が限界だったそうだ。そう思えば準備の期間をもらえただけでもありがたい。

ただ用意するにもアルカートからアーデストまでは隣国といえど、馬車で三週間程掛かる。三週間分の着替えと予備等を見繕っていたら時間的にはギリギリだ。おそらく母はそれを悩んでいるのではないか。着替えと予備だけを考えれば、今あるドレス等で事足りる。舞踏会などに出ると考えなければ、と条件が付くが。その辺りはユリウスが必要に応じて用意する、と言ってくれたので安心して大丈夫だろう。

「お母様?着替えは今手持ちの分で大丈夫かと。成長もしていくだろうから必要に応じて用意してもらえるとのことですし。」

成長、という言葉に軽く反応したように見えた。実際は違うのかもしれないが。自分の寂しさからそう見せただけなのかもしれない。

「…そうね、まだクレアは十歳だもの。着れなくなってしまったら荷物になるだけよね…。分かったわ、ただ舞踏会用のドレスだけは用意しましょう。」

既製品に手を加える程度になるけれど、と付け加える。オーダーメイドは時間的に無理だが、多少の手直しくらいなら間に合うのだろう。母の言葉に頷き、楽しみが出来たなと思う。

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