変わりゆくもの、変わらないもの 1
ユリウスとのお茶会を終え母と帰宅し、今はサロンで母とサイサスと共にゆっくりとハーブティーを飲みながら他愛のない会話を続けている。
母もサイサスも本当はお茶会の話を聞きたいのだろうに、聞き出すことも話題に上げることもなかった。きっと私から言い出すのを待っていてくれているのが分かる。でもまだ切り出すつもりは無かった。
色んな嬉しいことがあって頭の中が整理しきれていない中、話してしまうことはしたくなかったし、父も揃った状態で話したかったのが理由。だから聞かれないことに甘えることにした。
そうこうしている内に従者が父の帰宅を伝えに来た。皆立ち上がり玄関ホールへ行こうか、としていた時。
「ただいま。急いで帰ってきてしまった。」
そう言ったのはサロンの扉の前に立つ、帰宅したばかりの父だった。
おかえりなさい、と皆が言ってから父を見ていたら薄らと額に汗が滲んでいるのが分かった。本当に急いで帰ってきたらしい、余程今日のお茶会が気になっていたのだろうか。
「お父様、そんなに急がなくても逃げはしませんよ?」
何故だか少しだけ可笑しくなって、クスリと笑いながら話しかけた。父は私が冗談を言うとは思っていなかったのか、もしくは言ったのが珍しいと感じたのか、少し目を見開き笑顔になる。そんな風景を母とサイサスも優しく見ていた。
仲直り出来たのはまだ昨日のこと。でもそれがもう昔のようにも思えるくらい自然に会話が出来ている。…こんな風に居られる時間は少ないけれど。
父は皆に夕食まで時間があるから少し話さないか?と提案をし、皆も同意し席へ着く。
これから話すのは雑談なんかじゃないのはここにいる全員が言わずとも理解している。だからなのか、表情や眼差しが真剣さを表していた。
「クレア、今日の茶会はどうだった?楽しかったか?」
始めに投げかけられた質問は当たり障りのない、ごくありふれたものだった。まだ纏まりきっていなかったから有難い。
「はい。いつも有意義な時間を過ごさせていただいてますが、今日は更に良い時間を過ごせたな、と思っています。…殿下に装いも褒めていただけました。」
少し恥ずかしくもあったから、頬を薄く朱に染めたのが自分でも分かる。真っ先に出てくる答えがこれで大丈夫か?とも思うが、何が一番嬉しかっただろうか?と考えていたら今日の装いを褒めてくれたユリウスの顔が浮かんできた。あまり容姿や服装に触れられることが好きではない、だけどユリウスの言葉には嘘が無いように思えて嬉しかった。
「そうか!今日のクレアもこの世界で一番綺麗だからな、殿下も褒めるのは頷ける。どんな風に褒められたのか、聞いても大丈夫か?」
父が珍しくテンションが高い。世界で一番綺麗は言い過ぎだと思うが、喜んでくれているのは分かるので言わずにおく。
褒められた言葉を思い出して、どう伝えたら良いものか迷う。もちろんありのまま話せば良いのだろうが、それを言うには恥ずかしさが邪魔をする。あと何故かユリウスの褒めてくれた言葉は、自分の中でそっと大切にしまっておきたくもある。
だから曖昧に、父が言ったようなことを言ってもらった、と返しておいた。
父は嬉しそうに頷いていたが、横に座っていた母に軽く肘で肋骨辺りを突かれていた。サイサスも何か言いかけたが目の前で両親のやり取りを見て口を噤んだ。母にはこの気持ちが分かるようで安心する。
ごほん、と咳払いを一つして父が改めて問う。
「楽しめたのなら何より。…本題に入るが、今日しっかりと伝えてこれたか?」
何を、とは誰も問うことはない。留学へ向かう決断とそれに至るまでの苦悩を、私の思う全てを。
ただ報告するだけなのに緊張してしまう。この状態じゃ上手く話せない、軽く呼吸を整えてから答える。
「はい…、全てお伝えしてまいりました。留学を決めたこと、それを簡単に決めたわけではないこと、それだけでなく。家族と仲直りをするきっかけを貰えたことの感謝も。」




