期待は後悔を越して3
「すまない、長く話してしまったな。クレアと話していると楽しくてな、時間を忘れてしまう。…さぁ、茶会はここまでにしておこうか。」
そう促され時計を見る。今時刻は午後三時ほど、部屋に入ったのが十時過ぎだったはずだから、およそ五時間は話していたことになる。昼食も忘れてしまうほど、二人での空間も会話も楽しく居心地が良かった。母と一緒に来ていたのを忘れてしまうくらいに。
「申し訳ありません。私もあまりにも楽しくて話が弾んでしまいました。殿下は公務もお有りになるのに…。」
ユリウスはアルカートに訪問中も王太子の公務があり、用事が無ければ書類の処理等に時間を回していると聞いていたから申し訳なくなってしまう。
だがユリウスは「気にしなくて良い、私が望んだことだ。」と首を振り気遣ってみせた。
ユリウスが立ち上がり、私の手を取り立ち上がらせてくれる。
その時にふと思い出した。些細なことではあると思うが自分にとっては少し大事なこと。
それは、早朝から母が選び父とサイサスがこの上なく褒めてくれた装いを話で触れられなかったこと。
でもそれを自分から言ってしまうのは違う気がした。言ってしまえばそれはユリウスの思いじゃなく、言わされたから言ったお世辞になってしまいそうで。
(…些細なことよ。殿下は綺麗な方なんて多く見てきているの。言わなくて当然だわ)
微笑みを絶やさずいれば、ユリウスが無言で見つめてくる。
「クレア、一つ言い忘れていたことがある。…今言ってもいいだろうか?」
なんだろうと思いながら頷けば。
「普段の君は美しく儚い印象だが、今日は凛として力強さも感じさせる。とても素敵だ、…言葉じゃ言い表せないほどに。」
どうしたら伝わるのだろうか、とユリウスが言う。
(本当に…この方は私の欲しい言葉を欲しい時にくれる…)
自分の考えていることが伝わっているような、もしくは顔に出ているかと思ってしまうほどに汲み取ってくれる。
「本当は君を見た時から言いたかったんだが…。ヨハネスに君をあまり見せたくなかったから急いてしまった。遅くなってすまなかった。」
先程までの心の曇りが嘘のように晴れ渡る。なんて自分は単純な生き物なのだろうかと自分のことながら思ってしまうほどに。
「謝る必要などございません。お言葉を頂けたこと、感謝いたします。今日の装いは母が選んでくれたので…嬉しいです。」
今日一番の微笑みを向ければ、ユリウスが空いている右手で口元を覆い少し顔を背けた。心なしか顔が少し赤くなっている気がする。体調が悪かったのだろうか、これ以上居ては無理をさせてしまうかもと考える。
「殿下、本日はありがとうございました。そしてこれから宜しくお願いいたします。」
ユリウスはこちらへ顔を向け、準備の再確認をし護衛を呼ぶ。
「クレア、今日は本当にありがとう。私は陛下へ連絡せねばならないから送っていけない、すまないな…。代わりに腕利きの護衛を付ける、どうか無事に帰ってくれ。」
別れの挨拶を済ませドアまで共に歩き、最後にカーテンシーをし待っているであろう母の元へ向かった。




