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闇の令嬢、愛を思い出す  作者: 雨音祭
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期待は後悔を越して1

「クレア嬢、待たせた。漸く始められるな。」

そう口火を切ったのは私を見るユリウス。

「殿下の貴重な時間を頂きありがとうございます。」

私も社交辞令の言葉を述べ、侍女が入れてくれたハーブティーを飲む。フワッと香るカモミールの匂いとはちみつの甘さが、ここに来るまでの疲労感と緊張を優しく解いてくれる。

一応疲労感の原因――ヨハネスを視線だけで見るが相変わらず不機嫌な表情をしながら、お茶を飲んでいる。

ユリウスはヨハネスを見やることもなく本題へ入る。

「早速で悪いがまずは聞いておきたいことを済ますとしようか。…手紙で書いたことの返事は決まったか?先日陛下とご両親には説明はしたが聞いただろうか?」

考えるに与えられた期間は一週間、これからを決める重大な選択にしては与えられた時間は短かった。でもあの時の自分にはすぐに答えは出た。周りには私の味方はいないと勝手に思っていたから、簡単に出せてしまった。

今も出した答えは変わっていない。だが気持ちの面では大きく変化している。父と母、サイサスは何があっても私を信じ離れても見守ってくれると信じられる。それはあの日にちゃんと話し合い、すれ違いを解消して愛されていたことを思い出せたから。だからこそ家族に誇れる自分になりたいと強く願う気持ちからの答え。

「…はい。家族とも話し、全ての思いを聞いて出した答えです。」

一旦区切り、深く息を吸う。揺るぐことのない決意を瞳に宿し続ける。

「ユリウス殿下。私は今まで酷い独りよがりを繰り返していました。誰も私を受け入れ、愛してはくれないと。でも家族と話して思い出したのです。…私は家族から深く愛されていたのだと。」

ただ単純に、簡単に出した答えではないことを知ってほしい。私の愚かさを認めた上で二度と繰り返さないためにも。

「私の視野は自分が思うより狭かった…。少し見渡せばすぐ近くにいることにも気付けませんでした。だからこそ…。」

私は…決めたのだ。後悔で可能性と希望を潰さないと。

「だからこそ私はアーデスト王国へ行き、知識だけではなく…。人との繋がりも学んで行きたいと思っております。」

簡単なことではないのは十分理解している。家族とも先日まで分かり合えずにいたのだから、尚更に。だが分かり合えたこの状況に甘えてしまえば、自分はきっと酷く腐っていく気がする。それこそ以前のお茶会でのリリアーナのように、気に入らなければ癇癪を起こして周りを不幸にしてしまうような。

「これが私の答えです。…あとはユリウス殿下の判断に従う所存です。」

話してると思いが溢れて、色んな感情に引っ張られてあれこれ話してしまった。聞いてる側からすれば、とっ散らかり過ぎて確認したいこともあるだろうにユリウスは静かに真剣な眼差しで聞いてくれていた。それが何故か無性に嬉しく感じた。

少しの間が空いたあと、ユリウスが表情を緩める。

「クレア嬢。貴女の思い、しかと受け取った。私の判断は答えを聞いて一層固まった。……アーデストへ一緒に行こう。」

なんとなくだけど返事は分かっていた。きっと全てを伝えずとも変わっていなかったと思う。でもしっかり伝えた上で、より一層思いが固まったと言われて嬉しくないわけがない。喜びは表に現れて表情を柔らかくした。

「ユリウス殿下…、ありがとうございます!この機会を無下にしないよう、精一杯学ばせていただきます!」

私にしては珍しく声が良く出た。その声音を聞いたユリウスも微笑み頷いてくれる。出会った期間は短くともユリウスは私の思いを理解してくれている。それが何故か堪らなく嬉しくて、友達…というには烏滸がましいけれど、そんな存在がいたとしたらこんな感じなのかしら、と思う。

「クレア嬢が喜んでくれたようで何よりだ。時間が許す限り学び尽くすと良い。」

再度ありがとうございます、と告げればユリウスはヨハネスを見遣る。

「さて…ヨハネス。今聞いてもらったのが全てだ。陛下には伝えてもらって構わない。ここからは普通の茶会だ、退出するなら許可するが?」

すっかり忘れてしまっていたけれどヨハネスがいたのだった。ユリウスがヨハネスに言った言葉を聞いて理解する。ユリウスは最初から第三者を立て、互いの思いに相違ないことを確認させるために同席を許可したのだ。

これは単に個人間の話ではないから、国一番の魔力を持つ者が関わる話だから。

「…分かった、戻り次第伝えておこう。どちらの思いも重なった結果をな。詳しい内容は陛下から伺うことにする。茶会は…これ以上は邪魔になるのだろう?退出することにする。」

ヨハネスはそう伝え立ち上がると私を見つめる。何を言うわけでもない、ほんの数秒ただ見つめてきた。視線を返すと少しだけ違和感を感じる。姿形はもちろん、お茶会が始まってからずっと不機嫌な表情も変わっていないし、私がヨハネスに抱く感情も変化はない。なのに何かが違う。

そんな小さな疑問の答えは分からないままにヨハネスは退出していった。

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