予測出来ないのが世界1
父の見送りも済み、母と侍女に最終確認をしてもらっている。それをずっと眺め続けるサイサスが傍らにいる。飽きないのだろうか…。
「よし、最終確認も大丈夫ね。…何度見ても惚れ惚れするわね?サイサス。」
しっかりとバレていたサイサスが慌てる。サイサス、バレているのはお母様だけではないわ、とは言わず心に留めておいた。言わないことが幸せなこともあるはずだ。
丁度タイミングよく馬車の準備も出来たと御者が伝えにきた。時間的には少し余裕があるが気持ちが浮き立っているから落ち着かせたい、と母に伝えればゆっくり王宮へ向かいながら話しましょうか、と提案をしてくれたので頷く。
今日招かれているのは私だけ。母は付き添いとして王宮まで共に向かい、王妃とお茶会をするそうだ。故にサイサスはお留守番となった。
玄関まで皆と行き、母がサイサスに留守番を頼む。
「サイサス、ごめんなさいね。お茶会が終わり次第すぐに帰ってくるわ。お留守番お願いね。」
母の言葉にサイサスは力強く頷く。
「任せてお母様!読みたい書物があったから読んで待ってるよ!」
そう母に告げてから私を見る。
「クレア、自信を持って。今日の君は誰より綺麗だから心配ないよ。」
私を応援してくれる。それだけで更に勇気が湧いてくる。大丈夫だと、不安に思うことはないと。心強い言葉を貰った私は微笑む。
「ありがとうサイサス。しっかりとお話ししてくるわ。…行ってきます。」
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」
サイサスに見送られ母と馬車へ乗り込む。母と向かい合うように座れば御者が出発を告げる。
ここからは一時間程は馬車に揺られながらになる。どうにか浮き足立つ気持ちを落ち着けなければ。
「ねぇクレア?王宮に着くまで時間あるでしょう?短いけれど女子会、というものをしてみないかしら?」
母が急にそんなことを言い出した。女子会、というものは一体なんなのだろうか?ユリウスとのお茶会以外出ることがない私には分からなかった。
「お母様、あの。女子会…?というものはどんなものなのでしょうか?」
素直に疑問を問えば母から答えがくる。
「女子会とは当たり障りのない、楽しいお話しをする会だそうよ。お茶会は腹の探り合いでしょう?そんなことを気にしなくていいらしいわ。」
お茶会はいわばお見合いのようなもの。だから皆がこぞって自分の長所などを主張しながら、他人を蹴落とそうと躍起になる場所。その煩わしさがないのが女子会、という認識だろうか。
字面からしても女性ばかりの会なのだから平和ではあるだろう、多分。
「分かりました。…でも何を話せば良いのでしょう?」
正直言って話の種など微塵も持っていない。ユリウスとの手紙だって既に話しているし、普段の会話なども違う気がする。
「ふふっ。そんなに悩まなくていいのよ。…そうね、話を振ったのは私だし、私と旦那様の出会いでも話そうかしら。」
父と母の出会い…そういえば一度も聞いたことが無かったと思う。どんな出会い方だったのだろう、気になる。
「聞いてみたいです!どんな出会いをされたのですか?」
「嬉しいわ!出会いはね、実は政略結婚だったのよ。当時すでに爵位を継いでらした旦那様が私の実家の領地――伯爵領ね、そこの特産品に興味を持っていらしたの。」
母の実家、メイトル伯爵の領地の特産品…。確か…。
「特産品は林檎ですか?甘くて美味しいと話題になったと書物にあったのを記憶してます。」
記憶の中からどうにか引っ張り出す。前に母の実家から送られてきた林檎を見て気になって調べたのだ。
「正解!よく勉強しているわね!あの頃は特産品なのに卸す場所が見つからなくて…。父…クレアのお祖父様も困っていたの。旦那様も公爵になったばかりだったから、領を更に安定させて栄えるためにも交易に使えるものを探していた。利害が一致して繋がりをしっかりと持とうということで結婚したのよ。」
少しだけ驚いた、なんせ父と母は傍から見て相思相愛。ずっと貴族には珍しい恋愛結婚だと思っていたから。
「結婚するまで一度も旦那様と会ったことがなくて、不安でいっぱいだったわ。伯爵令嬢から急に公爵夫人にもなったから。でもね?」
そう区切った母を見るととても嬉しそうな顔をしている。
「旦那様はとても素敵な人だったの。容姿はもちろんだけれど、それよりも内面が。自分だって領地のことで手一杯のはずなのに、いつも私を気遣ってくれた。不安だらけの私に寄り添って、大丈夫?言ってごらん?って。」
父の優しさは元来持ち合わせたものだったのか。厳しくはあれど、私のことも常に気にかけていてくれた。
「それまでは私なんか…って気持ちがずっと落ち込んでいたの。でも旦那様が支えてくれたから、私はこうして公爵夫人も、クレアとサイサスの母が出来ているの。だからいつも思うの、あぁこの人と結婚出来て幸せだなって。」
母の表情からもその言葉に嘘がないのが分かる。多分だけれど父も同じ気持ちなんじゃないだろうか。普段の二人を見ていると分かる、互いに支え合い、尊敬し愛し合っているのだと。
「お母様、素敵ですね。とても羨ましいです。」
ありきたりな言葉しか出なかったけれど本音ではある。世間では政略結婚というだけで、相手を嫌い続ける人もいる。もちろん人の性格に左右されるが、それでもここまで愛し合える人達はいないんじゃないだろうか。
「ありがとうクレア。だからね…クレアにもこの人となら何があっても大丈夫、って思える人を選んでほしいわ。」
この人となら何があっても大丈夫…。そんな人に巡り会えるだろうか、少なくとも今はいないから想像もつかない。でも分かることはある、父も母も私やサイサスに政略結婚などさせる気はないということ。公爵家で領地が安定しているからだけじゃないと思う。きっと両親はどんな状況であれ選択肢を与えてくれる。
「お母様にとってのお父様のような方を見つけたいです。共に支え合い、思い合えるような。」
私の言葉を聞いて母の笑みは更に深くなる。それからも母と父の話が続いた。




