強さとは優しさを知ること3
ついにユリウスとのお茶会の日がきた。
朝早く起きて軽く姿を整えていたら扉を叩く音が聞こえる。侍女かしら?と思い、どうぞと答えると。
「お早うクレア!今日は素晴らしい天気になったわ!さぁこの天気に似合う素敵な格好にしましょうね!」
扉が開き入ってきたのは母と侍女だった。まだ日が昇ったばかりだというのにしっかり準備している様子。いつ寝たのかしら、少なくとも日が昇る前に起床して準備したのは分かるけれど、と明後日の方へ思考を飛ばしている場合ではない。
「お早うございますお母様。こんなに早くからどうされたのですか?準備はまだ後でも…。」
「クレア?昨日言ったわよね、とびっきりお洒落をしましょう、と。女の子のお洒落には時間が掛かるものよ。今から始めないと間に合わないわ。」
食い気味で母が答えるが、普通に着替えるのであればそこまで時間は掛からないだろう。湯浴みをして着替えをして、お化粧を軽くすればお終いであるはず。
そんな私を置いてけぼりに母は侍女にドレスを持ってくるよう伝えている。…待ってほしい、今十着近い数を伝えていなかったか?と考えている間に侍女が十着持ってきた。
「さて、どれから試してみましょうか?いつもと違う印象のライムグリーンはどうかしら?でも正統的に紫もありよね。迷ってしまうわ。」
…着るのは私のはずだが母が物凄く楽しんでいる。お母様、迷うことはありません、いつも通りにしましょうと伝えかけるとまたしても食い気味に言われた。
「何を言っているの?今日はクレアにとって特別な日よ。普段通りに、なんていけないわ。」
そう言われると確かに、とも思ってしまう。今日は私が新たな一歩を踏み出す日。
「分かりましたお母様。私はドレスに疎いので…一緒に選んでください。」
そう言うと母は優しく笑い、あれこれとドレスを試した。
漸く決まり、化粧と装飾品を付け鏡を見ればそこにはとても綺麗な令嬢がいた。
ドレスはユリウスの髪の色に似た青。似ているがこちらの方が少し明るめ。その色に映える白のフリルが過度にならぬよう、あくまで青を際立たせるようにある。
髪は普段は後ろへ流すだけだが今日はハーフアップにして髪飾りを付ける。それだけでもかなり印象が変わって見えた。
そして化粧。元々色白だから白粉が必要ないのだが、それだけでは味気ないと頬に薄ピンクの色を乗せた。目元もつり目を活かす仕方と色を。
成る程、こうすれば良いのかと化粧を施してもらってる最中は変わり映えより、メイクの仕方を勉強してしまった。
「…クレア。とても…とっても綺麗よ。」
母の目から見ても良い出来みたいだ。私も鏡を見て驚いた、こんなに変わるものなのだと。
「お母様、ありがとうございます。自信を持って行けます。」
そう微笑むと母は「旦那様達にも見せてあげましょう。もうすぐ朝食だから食堂でね。」と私を連れて行く。
その間すれ違う従者達の目がとても気になった。普段以上に異様なくらいに見られている。
(…やっぱり似合ってないのかしらね…。変に着飾って、なんて思われてるのかしら…)
あれだけ自信が出たのに、徐々に萎んでゆくのを感じる。
俯いて歩いていればいつの間にか食堂まで来ていた。父やサイサスは褒めてくれるだろうか?少なくなった自信が不安を煽ってくる。
従者が食堂の扉を開き母と共に入る。
「旦那様、サイサスお早うございます。二人には食事の前に見てほしい事があります。…クレア、ここにいらっしゃい?」
そう言われてしまえば行くしかない、昨日の父の言葉を思い出して踏み出す。
そうして全身を見せた私を父とサイサスは驚いた表情をしている。
やっぱり似合わなかったのか、と俯きそうになった瞬間に父が口を開いた。
「クレア…!とても綺麗で似合っているな!ドレスの色は…殿下の髪の色を選んだのか。クレアによく似合っている。」
満足そうにうんうんと頷く父を見てホッとする。サイサスはというと…私を見て驚いた表情のまま固まっていた。
「あの…サイサス?良ければ…感想が…ほしいわ?」
父と母はこの上なく褒めてくれたがサイサスはどうだろうか?と柄にもなく聞いてしまった。
私の言葉を聞いて意識が戻ってきたのか、サイサスは慌てて話す。
「ごめんクレア!その…普段も綺麗だけれど、着飾ってるクレアがまた綺麗で!意識がどこか飛んでいってしまってた…。」
頬を少し赤ながら言うものだから私も少し照れてしまった。なんて返したらいいのか迷ってしまい、結局「…ありがとう。」と照れながら言うのが精一杯になってしまった。
二人へのお披露目も済まし朝食を取る。コルセットが大分締め付けてはいるが、どうにか食べ切ることが出来た。
食事を終えてから出発まではまだ時間があるので、最近はずっとしていなかった父の見送りをする。
父は領地経営を主とするが能力の高さを陛下に買われているらしく、たまに陛下から直々の依頼で出掛けることもある。今日はその王からの依頼で一度王宮へ行くとの事だった。
「一緒に行ければよかったのだがな…。陛下はおそらく分かっていながら時間を指定してきたな。」
父は目に見えて肩を落とし残念がっていた。私としてももう少し話したい気持ちではあるが仕方ない。今日の夕食時にでも話せばいいと考えて、昨日まではあれ程憂鬱な夕食を楽しみにし始めた自分に驚いた。
すれ違いが解消されてからまだ一日も経っていないのに、スッと受け入れてしまえるくらいになっていた。
自分の心境の変化に驚いている間に父が準備を済ませ、声をかける。
「では行ってくる。夕食までには戻ってくるから、茶会の話を聞かせてくれ。」
そう言い微笑む父を見て、自然と笑みが溢れた。楽しみにしているのは私だけじゃないのだと。
幸せを感じながら父を送り出した。




