強さとは優しさを知ること1
「……クレア、話してくれ。」
父がゆっくりとこちらへ向き、そう答える。
母を見ると同じようにこちらへ向き、全てで受け止める姿勢を見せてくれた。
「話し始める前に少しだけ。お父様、お母様。今まで心配をかけて申し訳ありませんでした。」
きっと父も母も謝罪など望んでいないのは分かる。それでも自分の中でのけじめであり、前に進むために、一緒に向き合ってもらうために。
「クレア…。謝ることなんて一つも無いのよ?私達は何もしてあげられなかったのだから…。」
母は悲しみを堪えるようにそう言ってくれた。父も同じようで後悔が見て取れる。
そんなことはない、と伝え話を続ける。
「ある頃から私は『夢』を見始めたのです。その夢はもっと歳を重ねた私が…処刑される夢。罪状らしい罪状なんてなく、ただ処刑台に連行され、最中には石を投げられ…王子に処刑を宣告されて…そこでいつも目覚めるのです。」
言葉にすればなんて簡潔で、呆気のないものなのだろうか。それでもあれは現実的すぎた痛みを伴って、絶望を抱かせていた。
「見始めた頃、絵姿しか知らない王子が酷く怖くなりました。同時に周りが私に向ける感情も。分かってはいるのです、そんな夢を見た程度で怖がる必要はないと。でも…。」
そのあとの言葉が出てこない。色んな感情に引っ張られてとっ散らかってしまう。
怖かった、誰かを信じることが、全てを否定されることが。
これ程優しい両親が離れていくかもしれないことが。
行き先を失った感情が頬を伝う。でもなんとか話さなきゃ、と思うクレアを包み込む優しい声が聞こえた。
「…クレア。貴女はずっと独りで戦っていたのね…。分かってあげられなくて…一緒に戦ってあげられなくて、ごめんなさい…。」
母がいつの間にか私に寄り添い、優しく抱きしめてくれた。
それだけで凪いだ感情が安らいでゆく。
「夢だとしても誰だって怖くなる。人を信じることも…。クレア、すまなかった。私達はクレアにちゃんと言わなければいけなかったな…。」
父は気持ちに寄り添ってくれた。理解されないと思っていた事象に。
「クレア、そしてサイサスも。ちゃんと聞いてほしい、そしてどうか忘れないでくれ。」
何だろうかと静かに話を聞いていたサイサスも、母に抱きしめられていた私も父を見つめる。
「お前達は何があろうが私達の子供だ。だからこそ厳しくもする。でもな、二人は私達の愛し子なんだ。何があっても守るし、信じる。他の誰が何と言おうが関係ない。二人は私達の全てなんだ。」
本当にもっと早く話せば良かった、と後悔をした。そのせいで両親には心配をかけ、遠ざけてしまっていた。ずっとずっと、私のそばできっと私より私を信じてくれていた。
信じるに足る明確な理由がないと信じられなかった私を、無条件で愛し信じてくれる両親。だからこそ思う、もっと自分の世界を広げなければと。
「夢」なんて不確定なものに負けないために、闇なんて偏見に負けないために。
何より――大好きな家族のために。
「お父様、お母様。今まで申し訳ありませんでした…。そしてありがとうございます。」
それ以上の言葉が見当たらなかった。でもこれが全てだ。
「サイサス…。ごめんなさい、貴方も慕ってくれていたのに…。手放してしまっていたのね…。」
大切な弟にも伝えたかった。サイサスが距離を取り始めたのは私が「夢」に囚われてからだった。それまで仲良く過ごしていたのに先に離れてしまったのは私。家族全員を巻き込んで不安にさせ、独りよがりを繰り返してばかりだったから。
「ねぇ…?もう一度、貴方の姉にしてくれる…?」
心から出た思いがそのまま口から流れ出る。嘘偽りない気持ちだから。
「…クレア…。クレアはずっと…ずっと僕の姉様だよ。僕こそごめんなさい…。姉様のこと考えずに傷付けることばかり言って…。」
それは違うと首を振るがサイサスはそれでも続ける。
「確かに寂しかった。でもね、双子だからこそ理解出来たこともあると思うんだ…。それをせずに傷付けたのは事実。本当にごめん…!」
双子だからこそ理解出来たこと、それは私にも言える。世界でたった一人の同じ血を持って生まれた弟に何も言えずにいた。理解してもらおうともしなかった。
なんだ、私達は似た者同士だったのね。いえ双子だもの当然かしら?と思う。
「…サイサス。ふふふっ…私達やっぱり双子ね。…ねぇ?姉弟喧嘩はこれでお終いにしましょう?」
双子で姉弟なのだから喧嘩くらいはするだろう。これはたまたま長引いただけの姉弟喧嘩。
「クレア…。ふふっ…漸く仲直り出来るね。もう喧嘩はしたくないな!」
サイサスも笑いながら答えてくれた。それだけで気分は晴れやかだ。
「なら私達とのも喧嘩になるな!親子喧嘩が長引いただけだ。だからクレア…もう気にしなくて良いからな。」
父が私達の仲直りを見届けてからそう告げてくれた。そうか、両親と親子喧嘩をして仲直り出来たんだ。
控えめに頷けば父も母も嬉しそうに笑った。
なんだか子供らしい結末になったけれど。私は二人の子供なのだからそれでいいかと納得する。
「でも…そっか。仲直り出来たのにクレアと離れ離れか…。」
サイサスが悲しそうに呟いた。気持ちは私も同じ、家族と漸く仲直りが出来たがそれでも決めたのだ。いやむしろ決意は更に固くなった。
同じことを繰り返さないために、原因を知る手がかりを得るためには必要なのだ。
でも……旅立つ日までは、空いてしまった思い出を埋めるのに時間を使いたい。準備など色々しなきゃいけないことはあるけれど、向こうへ行っても寂しくないように家族の愛を覚えていたい。
そう思いながらまだ抱きしめてくれる母の温もり、父とサイサスの優しさを感じていた。




