変わっていく日常を6
「!?…っ時間がない、とはどういう…。」
何故時間がないのか、それ程までに公務が忙しいのか、なんてそんな理由じゃないことを分かりながらも、そうであってほしいと願い思う。だってそうでなければ、答えなど簡単に出てしまう。それも答えであって欲しくない、最悪なものが。
シリーネは表情に影を落としたまま、私の問いに答える。聞きたくない、言わないで、と思いながらも、耳はシリーネの言葉をちゃんと拾った。
「…私はある時から魔力の流れが悪くなったのを感じたの。今までは普通に使えていた魔法すら、倍以上の魔力を使わないと出せなくて。」
「それでも使わなきゃいけない時は使ってた。無理をすれば…どうなるかなんてっ…分かっていたのに。」
シリーネは涙をどうにか堪えながら、必死に紡ぐ。
「魔力の詰まりを放置すると、魔素の吸収が出来なくなる…。魔素がないと魔法が使えない…。それだけじゃない…詰まりに気付くのが遅ければ遅いほど、体には常に負荷がかかるの…。」
魔力の詰まり、とは簡単に言えば病気だ。シリーネのように無理をしたり、自分の能力に見合わない力を使おうとすれば起こりやすい。そうして起こった詰まり…腫瘍が流れを滞らせ、蓄積されていく。本来なら過剰に魔力がある場合、自然と外に出され霧散していくのだが、それが出来ない状態。…それが今のシリーネに起きている症状。魔法も使えず、体も蝕まれていくのに、更に厄介なのが治療法が無いこと。魔力は腫瘍のように、目に見えるものではないために取り除けない。それを消すような魔法もないから、なってしまえば最後、極力魔法を使わずにいて、進行を遅らせる他ない。
「…無理をする前にちゃんと知れば良かった、と後悔してるわ…。あの子が…ユリウスが立派な王となる、その時まで見届けられるかも…分からないっ…!」
堪えきれなくなり、嗚咽を零しながら言葉を吐く。きっと色んな思いがある中で、何よりも大切で願うことがユリウスのことなのだろう。シリーネが絶えず流している涙がそれを物語っている。
「私にはっ!時間がないの…!だから、お節介なのも分かってる…。それでも…私が知る全てを…。ユリウスと…クレア、貴女に渡しておきたい!」
いつ終わってしまうかも分からないから大切な子に、過去の後悔から学んだことを未来に向けて。未来を生きる私達に渡したい、と。…そこに自分は決して存在しないことが当たり前のように。
その思いを素直に受け止められるほど、私はまだ大人じゃない。思いの重さより、シリーネがいなくなってしまう恐怖に支配される。言葉を紡ごうとも、声になりきれなかった空気が出てくるだけ。安心させたくとも、その強さが無い故に涙を止めることが出来ない。
互いにそれ以上言葉は出ず、暫くの間沈黙が続いた。実際には数分だろうに何時間にも相当するような、重く悲愴感漂う沈黙が。




