変わっていく日常を5
シリーネの表情が怒気を含んでいるのが分かる。そして後悔も。そんな自分を察したのか、紅茶で気持ちを落ち着かせ、話を続ける。
「私はそれに怒りを覚えながらも、何もしなかった。アリアスの表情が日に日に曇っていくのを、ただ眺めているだけだった。…アリアスはそんな学園が嫌になったのね、誰にも何も言わずに去って行ったわ。」
ティーカップを両手で握るように触るシリーネを見て、ずっと悔やんでいたのだと分かった。あの時に母を守れたら、そばにいて話をしていたら、そんな後悔。結末は変わらなかったにせよ、こんな思いは抱えていなかったに違いない。
「それからは噂でしかアリアスのことは知らなかった。こちらに戻ってからも、アルカートからの来訪者にそれとなく尋ねてみたり。二十一歳になった時に、初めてアリアスが結婚をしていて、子供が産まれたことを知ったわ。」
その頃はシリーネも既に陛下と結婚し、ユリウスが誕生していた。故に中々社交の場に出れずに、情報が遅れたそうだ。でも遅れながらも、母が幸せになったのだと知って、心から喜んだ、と言った。
「政略だったはずの二人が仲睦まじく、子宝にも恵まれた。アリアスは誰かを強く想う優しい性格だから、素敵な人に巡り会えたことが嬉しかった。」
そう言葉を切ったシリーネを見れば、目を伏せていた。でも分かった、母の幸せに涙を流すほど嬉しかったのだと。
「時が経って、ユリウスと貴女が出会って。ユリウスから貴女を一緒に連れて戻る、と知った時は驚いたわ。運命みたいなものも感じた。」
確かに運命のようなものだ、と頷く。母は忘れているかもしれない、でもシリーネは母を気にし、そして私とユリウスが出会った。偶然か必然か、決められるようなものではない。だけど強く思っていてくれたからこその出会い、そう思える。
「だから私は、貴女がここに居る間だけでも守ると決めたの。アリアスが愛しい子を預けてくれたのだから、無事に帰すのが役目だと。」
それだけでは足りない、と続ける。
「アリアスが学ぶはずだったことを、自分の意思でここに来た貴女へ。私が持てる全てを渡しておきたいの。…自己満足なのは充分分かっているわ、貴女にあの時のアリアスを投影しているのも。」
でもね、とシリーネはふと目を閉じ、言葉を選びながらゆっくりと告げる。
「私には時間がない、アリアスに会って話すような時間が。」




