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闇の令嬢、愛を思い出す  作者: 雨音祭
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変わりたい願い2

少しすると、サロンへ食事を終えた三人が入ってきた。

先に入り、ハーブティを嗜んでいた私を見て、各々席に着く。

出口側の一人用ソファに私、斜め右の二人掛けのソファに母とサイサス、机を挟んで反対側のソファに父が腰掛けた。

侍女達がそれぞれに飲み物を運び、退室をすると父が話を始める。

「クレア。お前も分かってはいるだろうが、ユリウス王太子殿下のことだ。」

そう言う父は、真剣で少し憂鬱が滲む表情をしている。

「今日の朝、急遽陛下に呼ばれてな。大事な話があると言われた。」

陛下から直接の召集、大事な話…あぁ、そういうことかと納得した。ユリウスが陛下に話をしたのだ。

「陛下から、隣国のユリウス王太子殿下からカレンティス家の娘…クレアを、アーデストへと留学させたいとの申し出があった。」

…なるほど、留学か。それは予想をしていなかった理由だった。

(あの文言からすると、もっと過激な事を言ったのかと思ってしまったわ)

心の中で疑ってしまったことを謝りつつ、父の話を聞く。

「王太子殿下はクレアのことを高く買っているようで、『あのような聡明な子だから、自国だけでなく他国で見聞を広げた方が、国にとっても大きな還元がある。』と仰っていた。」

それに、と続ける。

「クレアが留学をすることで、国同士の友好関係を周辺国に示せる、とも。」

確かに他国へ行くということは、互いの信頼関係が無ければ叶わないもの。

ましてや留学ともなれば、旅行に行く期間よりも長く、相手国の歴史、思想を知ることになる。自国の情報を教えるようなものだから、周辺国としても、国の結びつきが強固であると考え、簡単に争いを起こせない。

(国に還元する云々はともかくとしても、メリットはあるわ)

それに…と考える。

(個人的な思いとしてもありがたい。このまま全てを諦めて、腐っていくくらいならば)

諦めたはずの希望がまた光を持ち始めた。

「国として、家としての意思はどうでもいい。ただ…」

そう一区切りをし、父は続けた。

「家族として、親としては行かせたくない。もちろん魔力や知識は心配はない、が他国では何かあったとして私達が介入することが出来ない。」

それはクレアの身を案じる言葉だった。病気になったら?今はなくとも国同士の争いが起きたら?王族は確かに守りはするだろう。

だが生き延びることが出来るのかなんて分かりはしない。

だからこそ不確定な場所ではなく、自分達の届く範囲にいて守りたいのだと。

(…あぁ、なんて優しい両親なのだろう。こんなにも…)

忘れてしまった――、いや心の奥底へと封じ込めていた愛を思い出す。

「ただ…この思いと同時にクレアに新しい世界を見てほしくもある。それはきっとこの国では、…私達のそばに居るのでは知る事の出来ないものだろう。」

父は少し掠れながら、痛みを堪えるように言葉を紡ぐ。全ては私の選択肢を閉ざさない為に。

俯き加減だった父がゆっくりと顔を上げ問う。

「クレア、お前はどうしたい?」

その表情からは悲哀が見て取れた。それでも父は私に問うたのだ。

公爵として、父として命令すれば済むことを。クレアの意思が何よりも優先したいと、短い言葉に詰まっていた。

(お父様…。私は…、あれから随分と心配させてしまっていたのに、選ばせてくださるのですね)

父と母の愛を思い出して泣きそうになる。気付かなかっただけで、いや気付いていたのに知らないふりをしていた。本当はずっと、注いでくれていたのに。

(それでも…。私はこの運命を変えられそうなチャンスを逃したくはない)

一度は押し殺した思いが息を吹き返して、強く羽ばたこうとしている。

どこまでも親不孝な娘だと自分を思う。両親にも言えなかったことで遠ざけておいて。でも両親が誇れる娘になりたい。

「夢」や闇の力なんかで全てを閉ざすような弱い自分じゃなく、それすらも生きる希望に変えられるような。

――答えは決まっている。

「お父様…。他国はこの国より生きづらいかもしれません。ですが私には…お父様やお母様に守られるだけではいたくないのです。誇ってもらえるような、そんな娘でありたいと願うのです。」

もう揺らぐことの無い決意を言葉に変える。

「私はアーデスト王国へ留学をしてまいります。」

強い決意を宿した瞳で、姿勢からも伝わるような思いを告げる。

少しの沈黙の間が出来る。が、答えは分かっていたのだろう、父は息を軽く吐き

「クレア、思う存分学んできなさい。お前の新しい世界を見ておいで。」

と言ってくれた。

「…私達の娘はやはり強い子に育ったな。」

父は物寂しそうに呟いた。それに答えるように母が父に語りかける。

「旦那様、クレアは心優しくて周りを守れるだけの強さを持っているのですよ。なんせ私達の自慢の娘だもの。だからこそユリウス殿下が気にかけてくださったのです。」

母は微笑みながら告げる。

母の言葉は父だけでなく、私にも深く届いた。

留学に行きたい明確な理由を話していないのに、それに気付いてないわけがないのに。

それでも私の意思を思い、信頼してくれている言葉。

(…私は何故この愛を信じられなかったのか)

幼いながらに「夢」を伝えようと思った。でも同時に伝えてどうなるのだ、と思ってしまった。

きっと怖かったのだと思う。信じてもらえなかった時が、父や母から嫌悪されることを。

(愚かね、私…。ずっとお父様もお母様も言ってくれてたじゃない)

『私達の愛し子。心配しなくていい、何かあったら守ってあげるからね。』と。

誰も理解してくれないと勝手に諦めたのは私。だからこそ今度は、今度こそは。

「お父様、お母様。私からもお話があるのです。聞いていただけますか?」

何も恐れることは無い。全てを話そうと決めた。

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