歪んでいて、澱んでいて
――嗚呼 またこれだ。
見慣れた街の景色、見慣れた空の色。
でも見慣れない人々の怒りの顔。嘲笑の顔。
誰しもが口々に、責め立てるように、全ての悪の核に向けるように、罵詈雑言を浴びせる。
言葉だけならまだ良い。
中には石や木片を投げつけてくる。
それを受け止めるのは騎士に連れられ、裸足でボロ布にも似た服を着る私。
泣きたくても泣けない、声を出したくともそんな力も無い。
もう全てが限界だ。早く終わらせたい。
いや終わらせてほしい、そう願うほどに。
そして漸く辿り着いた場所。
…私の全てが終わる場所。
そう思うと少しだけ、ほんの少しだけ安堵する自分がいる。
そんな気持ちを抱えていると騎士が私の処刑の準備を進め、遂にその時が来た。
どうやら斬首刑らしい、両腕を背に回され固定され、膝を折り首を差し出す姿になった。
「罪人クレア・カレンティス、最期に言い残す事はあるか?」
最期の慈悲なのだろう。そう問われた私は、力なく掠れた声で答える。
「…いいえ、ございません…。」
本当は心の底に言いたい事など山ほどある。
観衆が私に向ける視線と同じだけの熱量で。
一体 私が何をしたというのか。
この姿、この力を持って生まれた罰か。
私という存在自体が罪なのか。
最早 この場では意味など無いに等しいのだろう。
ただ「悪」と見做したから断罪する、皆がそう叫ぶから同じ様に叫ぶ。
(…何を言ってもダメなのなら、もう)
諦めの感情とともに、来たる終わりを待つ。
そこから見える景色の何とも汚く、薄気味悪いことか。
刑の執行を今か今かと待ち構える群衆。
そして…私を「悪」と断罪した忌まわしき王太子。
その王太子が私に嫌悪を多分に含んだ視線で一瞥したあと、処刑の執行を命じた。
それを最後に意識が消えた―